東方化物脳 Re:make   作:薬売り

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苦い血液を啜る離脱症状 Ⅴ 『愛情』

 毎晩、僕とお燐はフランの所へ通っては彼女のお話に耳を傾ける。それが五日間続いて、気がついたことが数点ある。

 まず一つは、フランは何か異常な精神性を持った子ではないということ。別に専門家でもない只の元高校生の素人目線の考えだが、知能的に遅れがあるようにも見えず、また物の考え方は平凡代表の僕と大差ない視点の持ち主だった。

 二つ目は、時折見せる異常者のような発言は演技っぽいこと。無論、自分の観察眼を信じたらの話であって、本当に心からそのような発言をしているかもしれないが、どうもそう思えない。

 三つ目は、レミリアさんの姿はここ三百年以上見ていないということ。レミリアさんからの言葉は全て咲夜さんを通して聴いているのだという。

 他にも色々あるのだが、とりあえずこれらが大きな発見と言えるだろう。

 今日も、僕はフランのベッドに腰掛けている。お燐は椅子に座って寝ているのが腹立つが。

 

「直人はさ。」

 

 脳内でまとめているとフランがベッドに寝転がりながら声をかけてきた。僕はそれに反応すると、彼女は欠伸をしながら続ける。

 

「私に対して普通に接するよね。」

「そうだね。」

「なんで?」

 

 なんて難しい質問をしてくるのだろう。仕事だからと素直に答えるわけにもいかない。かと言って、彼女が望む答えをするのも少し違う気がする。

 

「それは、なんでだろうね。」

「え?」

 

 咄嗟に出た言葉がこれだ。何とかそれっぽく続けるしかない。

 

「特に考えていないよ。僕はシンプルにフランとの会話を楽しんでいるだけだから。」

 

 嘘は言っていない。

 

「…えっと、私と話をして楽しいの?」

「もちろんだ。フランはフランという個人たらしめる魅力があるんだ。僕はそれを会話というコミュニケーションから楽しんでいるだけだよ。これはフランも同じだと思っていたけど?」

「うん、そうだね。」

 

 何とかそれっぽくなった。全くカウンセラーというもののセオリーを知らない僕からすれば彼女との会話はいつだってドキドキで飽きない。

 

「でも、それならなんで…」

「………?」

 

 黙ってしまった。それに続く言葉を待っていたが、どうやら心の中に仕舞ったようだ。しかし、是非ともその言葉を聴きたい。そこに、フランの無意識すら気付かなかった何かがあるように思えたから。

 

「こいしさん、お願いします。」

 

 すると頭痛が僕に襲いかかるが、慣れたものだ、目を閉じずに痛がる素振りも見せずに唐突に現れたこいしさんに軽い挨拶をする。

 

「なんかナオくん慣れてきてない?」

「痛いことには変わりませんけどね。」

 

 何故が不服そうなこいしさんに苦笑いをして、僕はフランの方に体を向けた。

 無意識のフランは現実と同じようにベッドに寝転がっている。

 

「直人は私に魅力があるって言った…でも、じゃあなんで…」

 

 そのフランも、何か考え込んでいる様子だった。

 

「直人、お姉様はなんで私を閉じ込めたのかな。」

「俺には分からないな。」

 

 本当のことだった。ここに来た当初は危険な能力と幼い精神性から幽閉されていると聞かされていたが、拍子抜けするほど彼女は普通の女の子だった。たとえ能力が危険だとはいえ、現に僕は一切の傷を負っておらず、つまり彼女は能力を制御出来ていることを意味していた。

 ならば、何故レミリアさんがフランを幽閉し続けているのか。それは分からない。全ては予想の域を越えないものになるだけだ。

 

「私は異常者だって思っていたから、だからお姉様は私を閉じ込めたんだって、そう思い込もうとしたのに。閉じ込められても手のかかる妹なら、私を見ざるを得ないと思っていたのに、いくら時間が進んでも会えるのは咲夜だけ。」

 

 つまり、彼女は誰にも見向きをされないから異常者と判断されたかった?そうすれば、必ずレミリアさんが見てくれると、そう信じて。

 なんて哀れな存在なのか。目の前の少女は、未だ憂鬱に寝転がったまま。

 

「私はお母様もお父様も見たことがない。でも、お姉様だけは数回だけ見たことがある。私の、家族だって。」

 

 彼女は笑っている。笑っているのに、どこか寂しそうにしていた。

 

「君は、ここから出ようと思ったら出られるんじゃないか?門なんて、君の能力で一捻り出来たはずだ。でも、それをしなかった。」

「…だって、お姉様がここに居るように言っていたのだもの。」

 

 何となく見えてきた気がする。彼女は、本当に只の女の子なのだ。彼女は愛情を知らないということを除けば。

 これについて、レミリアさんはどう思っているのだろうか。いや、知らないと考えた方がいいだろう。危険だと思っていた妹は、本当は純粋な子どもだったのだと。

 

「わかった。話してくれてありがとう。」

「うん…」

 

 僕はこいしさんに目配せをすると、こいしさんは何かを呟く。そして、頭痛は嘘のように消え去った。

 現実に戻った合図だ。

 

「…なんだか、直人と一緒にいると心が少し落ち着くのよね。」

「嬉しい限りだな。」

「だから、お燐も貴方に懐いているのね。」

「お燐が?」

 

 僕はそれに目を向ける。鼻ちょうちんを膨らませるそいつに懐かれているとは到底思えない。気の置けない仲にはなれている気がするのは確かだが。

 

「懐いている訳では無いよ。」

「でも、私が直人のことを奪ったら、きっと怒るわよ。」

「あー…どうだろうな。」

「心当たりあるじゃん。」

 

 そう言って可愛らしく笑った。妖夢との呼び捨てに面白くないと思っていたことは知っているから、フランの言葉には真実を帯びている。

 しかし、それを懐いていると表現していいのかは些か疑問だ。

 

「っと、そろそろ時間だな。今日はこれで終わるとするか。」

「そっか…うん、ありがとう。」

「こちらこそ。」

 

 僕は立ち上がり、船を漕いでいるお燐の頭を小突いた。するとお燐は驚き、椅子から落下するほど体を跳ねさせた。尻もちを着いたお燐は僕のことを恨めしそうに睨む。

 これのどこが懐いているというのだろうか。

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