東方化物脳 Re:make   作:薬売り

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苦い血液を啜る離脱症状 VI 『愛憎』

 次の日、僕はフランの部屋に訪れる前にレミリアさんの部屋に訪問したい事を昼ご飯を作ってくれた咲夜さんに申し出た。彼女は「承知しました。」と一言添えてその場を去る。

 食堂には僕とお燐と妖精メイドが数名、このだだっ広い空間に漂う寂しい空気にも慣れた。

 

「ねぇ、レミリアさんになんの話をするっていうの?」

「報告だよ。フランのことを考えたんだけど、やっぱり彼女は異常者でも何でもなかった。愛情の求め方を知らないから、積極的に接してあげてほしいことを伝える。」

「そうなんだ。私には話しただけで彼女の抱えるものがどのようなものかとか分からなかったけどね。」

 

 無論、僕だって本当にこの分析が正解かなんて分かる訳では無い。いや、人の心を正解か不正解かで考えている時点で間違っていると言えるだろう。

 しかし、無意識の世界というチート技で彼女の心を考察したのだから、凡そは当たっていると信じたい。正直面倒だから間違っていてほしくない。

 

「それにしても、ここに来てどれぐらい経ったっけ。早くさとり様にナデナデされたい。」

「そういえばお燐ってペットだっだもんね。」

「当たり前でしょうが。この命ある限り、あたいはさとり様にこの身を捧げるわ。」

 

 人型の所為で歪んだ愛ように見えるが、一応猫という生物が元の妖怪だからそれは正しい形とも言えるだろう。しかし、やはり少し引いてしまう。口には出さないが、歪んだ性癖の持ち主と思えてしまう。

 食事中に考えることでは無いなと、体をクネクネさせるお燐を視界から外して食べ続けた。

 

「なんで目を逸らした?」

「いや、なんでも。」

 

 何がなんでも目は合わせない。あんなの、見てはいけません。

 

____________________________________________

 

 食後、僕らは咲夜さんに案内されてレミリアさんの部屋までやってきた。咲夜さんのノックに対してレミリアさんが入室を許可する。

 何故だか、妙に体が力んでしまう。緊張に肩をこらせてしまう。

 

「フランとは順調に話せているのかしら?」

「はい、とても。」

 

 椅子に腰かけ紅茶を飲むレミリアさんは、またも妖しく美しく僕らに微笑む。

 

「それで、どう言った用事なの?」

 

 僕はゆっくりと呼吸をして、不思議と早まる鼓動を抑えようと懸命になる。

 見た目は子どもなのに、まるで何か間違えた発言をすればこの先の人生が絶望に染まってしまうかのように、心臓の居心地が悪かった。

 

「フランと話しをしたり、その様子を見て、彼女の考え方やものの捉え方、そしてその精神性に関して僕なりに分析してみました。」

「ふぅん、どうだった?」

 

 しかし、フランの為にもこれは言わなければならない。フランを仲間にするために、という考えの下で動いていたが、何故だか彼女を放ってはいけない。僕の中にある妖力が弱まる気がする。つまり、西行妖がそうしろというのだ。

 西行妖がそれを強いる理由が分からないが、西行妖に裏切られても困るので、こうしてレミリアの顔色を窺わずに言うことを決意しているのだ。

 

「彼女は先天性若しくは後天性の異常な精神を持っている訳ではなく、どこにでもいる少女と言ってもいい価値観の持ち主でした。」

「…それで?」

「彼女は単純に愛情の求め方が分からないのだと思います。破壊衝動が動機だとするのならば、少しずつ送られてくる玩具などではなく、あの幽閉された部屋を破壊して外に出ればもっと破壊ができる。しかし、それを行わない。僕は彼女に何故かと訊くと、貴女にあの部屋にいるように言われたからだと言うのです。」

 

 もはや、これは全て貴女の所為ですと言っているようなものだった。しかし、僕は口を閉ざさない。

 

「彼女は、異常者だと思われることで貴女の気を引こうとしていた。逆に言えば、それが異常な行動であると彼女は分かっているということです。フランの破壊を止めさせたいのならば、積極的に接してあげる必要があります。咲夜さんを通してではなく、貴女自らが。」

 

 そう言い切る。暫く、沈黙が辺りを占領した。見えなくてもわかる。後ろのお燐はギョッとしたような目をしているだろうし、咲夜さんは僕を睨んでいるだろう。

 しかし、視界の中心にいるレミリアさんの心は、まるで分からなかった。紅茶を飲み干したようだ。

 

「よく、私の妹を見ているわね。流石、あの八雲紫が送ってきたカウンセラーね。」

「え、まぁ…ありがとうございます。」

 

 八雲紫という不純物の所為で感謝しづらい。

 

「きっと、大体は貴方の言う通りなのでしょうね。」

「では、フランと積極的に関わってあげてください。」

「…何故?」

 

 レミリアさんは、本当に疑問そうに首を傾げてきた。僕もそれに戸惑ってしまい、少し焦ってしまう。説明が悪かったのだろうか。

 

「ですから、フランは異常者ではないので、もう幽閉する必要はないんですよ。」

()()()()()()()()()()()()。」

「え…?」

 

 知っている?どういうことだ。レミリアは最初からフランが何か異常性を持った吸血鬼ではないことを分かっていた?

 

「何か勘違いしているようね。私は貴方に最初会った時に言ったはずよ、『私達は何も問題ない』とね。」

 

 言葉を失った。本当に最初から彼女は分かっていたのだ。その上でフランを幽閉していた。理解が難しい。

 

「では何故、フランを幽閉していたのですか?」

「そうね…まぁ、私の妹のことをそこまで理解してくれたのだから、ご褒美に教えましょう。」

 

 レミリアさんは咲夜さんにもう二つ椅子と紅茶を用意するように言った。すると咲夜さんは僕の後ろにいる咲夜さんは、どこから出したのか紅茶をテーブルの上に置き、椅子を引いて僕らの方を見た。

 僕はお燐に目を向ける。お燐も驚愕したような表情をしていた。僕は目で訴えかけ、そして咲夜さんが引いてくれた椅子に座る。お燐も、続いて隣に座った。

 

「とは言っても、とてもシンプルなものよ。複雑な事情があるわけではないわ。」

 

 レミリアさんは追加された紅茶の香りを楽しんでいた。

 

「あの子はとても優秀よ。力も、能力も、頭脳も、吸血鬼という種族史上の逸材と言っても良い。」

 

 レミリアさんは紅茶を口に含む。アールグレイの落ち着いた香りが、余計に目の前の吸血鬼を恐ろしい存在に感じさせる。

 

「…邪魔なのよ。」

「邪魔?」

「親も、私よりも彼女を愛したわ。私がこの吸血鬼という世界を生きるには、不利益な状況に陥ることは避けたかった。だから親は殺し、フランは幽閉した。彼女を親と一緒に殺さなかった理由は分かるでしょう?あの子は私より優秀なのよ。」

 

 さも当たり前かのように話す。その時のレミリアさんの瞳は、まるで常闇のように深く、底なしの恐怖が身を震わせる。

 

「妹の心を理解したのだから、私の言うことも分かるでしょう?」

 

 レミリアさんはテーブルに肘をつき、組んだ手の甲に顎を乗せた。そして、気持ち悪いほど美しく笑う。頭がクラクラしてきた。その瞳に吸い込まれる感覚か僕の脳を破壊する。

 狂気的な、凶器的な、猟奇的な、好意的な視線で僕は合理的な思考ができなくなっていく。

 彼女という存在だけしか見えなくなって───

 

「直人!」

「え?」

 

 横から肩を掴まれる。お燐が何やら焦った様子で僕の顔を見つめていた。僕は何をしていたのだろう。

 

「…貴方も愛されているわね。」

 

 レミリアさんの凍えるような声色が、神経に直接伝わる。浅い溜息を吐き、彼女は立った。

 

「さて、もう終わりにしましょうか。フランに異常はなかった。ならばあなたの役目はもうないでしょう?咲夜、客人が帰られるわ、お見送りをして。」

「承知しました。」

「ちょっと待ってください!」

「喧しい。」

 

 僕のすぐ横で何かが高速で飛んできた。後ろの壁が破壊される音が、鼓膜どころか僕の身体を大きく揺らす。

 レミリアさんは今までに感じたことの無い冷ややかな目線を僕の心臓に突き刺した。

 

「勘違いするなよ?お前は私と対等な立場だと思うな。私に指図できる存在では無い。そもそも、こちらはいつカウンセリングを頼んだ?下らない茶番に付き合ってやったんだ。黙って消えろ。お前のような若造に私たちの何がわかるというのだ。」

 

 八雲紫からも西行妖からも感じたことの無い憎悪、そして殺気。気を抜いたらそれだけで死んでしまいそうなほど心臓が苦しい。しかし、西行妖は僕をそれでも許してくれない。未だ、僕にフランを救わねばならないと語りかけてくるのだ。

 それに、僕自身もそれに賛成してしまっているのだ。理由は、本当は分かっていた。フランは、かつての僕のようだからだ。

 

「貴女は、親に愛されたフランを恨んでいるんじゃないですか!?人に愛されなかったから、親に愛されなかったから、自分に愛されなかったから!!」

「黙れ!!!」

 

 レミリアさんは恐らく僕を殺そうとするだろう。つまり、僕の予想は正しかったということだ。

 

「こいしさん!!」

 

 そして、酷い頭痛と共にレミリアさんから発せられていた視線のナイフは引き抜かれた。

 気が付くと目の前には、フランさんと同様に体育座りをして小さく震えている少女が一人、すすり泣いていた。

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