次は...年内に更新できるといいね...バナージ...。
目を開ける。
朝だ。今日もまたこの日が来た。
時計を見る。
私がこの日に起きるのはいつもこの時間。それに例外は無い。
「そろそろ起きろよ~...って、もう起きてたのか。朝飯用意してあるから、着替えて下、降りて来いよ」
彰人が私の部屋をノックもせずに開けて、顔だけ部屋に入れて覗いてくる。
『妹といえど、女性の部屋にノックもせずなんて』と思うのも、もう何度目だろうか。
パジャマを脱いで、毎日カモフラージュの為だけに着ている制服を着て、机の上の鏡を見る。
...ひどい顔だ。
「顔、洗おう」
部屋を出て洗面所に向かいつつ、『これまでの記憶』をもとに、この後のことを考える。
あの時まふゆからの誘いに乗らなかったのは失敗だった。
まさかそのまま、まふゆがニーゴから脱退し、私がその代役を務めることになるなんて。
奏のことだから、連れ戻すことになると思ったのだけれど。
...いや、連れ戻そうとはしていたのか。
次に、私が絵を描くべきじゃない。
これまでの記憶の中で、1回だけ絵名が大スランプに陥ったときに、私が描くことになったけれど、私の絵を見て、絵名はそのままニーゴから抜けていった。
こればっかりは私が悪い。私の体のスペックを把握しきれていなかったせいだ。
気を付けなければいけない点は多い。
ただ厄介なのは、ビビバスとの差異を考えた時、きっと今回も失敗するのだろう、ということ。
ビビバスの時も、すんなり成功したとは思えない。
だが失敗したときの記憶を有していないというのは、きっと成功する時はそれまでの事を覚えていないのだろう。
例えると、セーブデータが2つあって、1番のデータが、リトライしまくるデータ。
私の今いる時間軸だ。
2番のデータは、ミスをしていない、リトライをしていないデータ。
これが今、ビビバスを何とかして、ニーゴのストーリーが始まった段階で止まっている。
どうすればクリアできるのか、1番のデータで試していると考えれば分かりやすいか。
私の行動を誰かが操作しているのかと疑心暗鬼になった時は、まぁ大変だった。
セカイに出入りすることもなかったし、外に出ることもなかった。
結局そのあと、やり直すために行為をしなければいけなかったのだけれど。
〈♪〉
いつも通り家を出た後、私は通学を装ってある程度歩いてからセカイへと入る。
セカイへとやってきた私の顔を見て察したのか、初音ミクは肩を落として苦笑した。
「今回も、ダメそうなんだね」
「...みたい」
時間軸を戻すために私がしていることを知っている初音ミクは、当初の遊んで遊んでという絡み方は全くしない様になり、今では私を心配するような目で見てくる。
「前回は?」
「まふゆに鎖で繋がれて、そのまま意識が飛んだ。衰弱したのかも」
「...最初は自分で、が多かったけど...前回も前々回も、その前も。誰かにって言うのが増えたね」
「...うん」
私が時間軸を戻すためにしていることは、死ぬこと。
それを最初初音ミクから告げられた時は衝撃を受けたし、かなり躊躇したが、今では何の躊躇いもなくビルから飛び降りれるし、リスカだって首吊りだって行ける。
ただここ最近...最近と言っていいか分からないが、私自身でというよりかは、誰かによって戻ってくるようになった。
言うなれば、私の自殺はゲームオーバーを迎えてリトライするまでの時短だったのだが、単純に殺されて普通にゲームオーバーになり始めているという感じだろうか。
「繰り返すうちに、文字通り身に染みたけど、ニーゴってみんな闇が深い」
「...そうだね。特異点であるが故の何かを、まふゆは感じ取っている」
「...異物だからなのかな」
「...瀬名?」
今回はニーゴを何とかしようとしている私だけど、彰人に聞く限りだと、ビビバスも私が関わった時と若干時期が被っている。
だというのに、私が何もしなくてもなんとかなっている様に思えるのはなぜだろうと考えたことがあった。
答えは分からないが、恐らく、誰かが何とかしなきゃいけない時間軸に、私が呼ばれているだけなのだろう。
上を見上げて、星を見る。
「この星が全部光り終わった時、私はどうなるんだろう」
「...」
答えは返ってこない。
私は何も言わずに、セカイから出た。
〈♪〉
さて。
ニーゴは曲をネットに投稿しているグループだ。
つまりは、ビビバスの様に、彰人に会うためにその場所に行って、連れて行ってもらえるなんてことは無理だ。
ニーゴの構成員の誰かに会わなくてはいけないわけだが、ここで問題が発生する。
絵名ではダメだ。
絵名経由でニーゴに関わるためには、奏に曲作りに必要だと思ってもらう必要がある。
じゃあどうしよう、となるのだが、ここでまふゆが壁になる。
絵名に曲を作っていることを問い詰め、それに参加させてほしいことを伝え、奏と通話するまではいい。
だが、その際にまふゆがいたら全てがぱぁ。
何せ、私ができることを提案しても、大抵彼女が『私ができるよ』と返してくる。
うまいこと時間をずらして、まふゆのいない時間帯に奏と話しても、9割は断られる。
何とか奏に認められてニーゴに入ることができても、セカイに入るタイミングが遅すぎる。
セカイに入った時にはまふゆは既に消えることを決意している時間軸が多いのだ。
「...いた」
時間の目安は大体13時頃。
このあたりの時間帯でコンビニに行くと、高確率で奏がコンビニを出た後死にそうな顔で歩いているのが目に入る。
私は今から、嘘まみれの善意で、彼女の気持ちを踏みにじろうとしている。
記憶が無ければ、こんな思いはしないで済んだのに、と思うと同時に、記憶がないと何が間違っているのか分からないとも思う。
本当に嫌だ。
〈♪〉
何とかニーゴに加入することに成功した私は、自己紹介を夜中に終えた次の日、まふゆからの誘いに乗って店へと向かっていた。
既に今回のセカイにも入ることに成功している。いい調子ではあるのだが、失敗が確定しているという何とも言えない感覚。
若干ブルーな気持ちになっていると、まふゆに指定されたファミレスについていた。
店内に入ると、そう遠くない席にまふゆの姿が見えた。
店員に連れがいると伝え、まふゆの方へとまっすぐ歩いていく。
「お待たせしました」
「いえ、私も今来たところですから。...まだ客がいないタイミングで良かったですね。お互い迷う必要もありませんでしたから」
「まったくです」
お互い笑みを顔に張り付けて、机越しに対面する。
このまふゆの仮面も何度も見てきた。相変わらず、隙の無い仮面だ。
「じゃあ、自己紹介しよっか。朝比奈まふゆです」
「...東雲瀬名」
まふゆが名乗った後に私も続けると、まふゆは笑みを深めて、私の隣の席を指した。
「隣、座ってもいいかな?」
「...別にいいけど」
ここで何故隣に座るのか、と言うのは考えても無駄だ。
このシチュエーションになった時、まふゆは必ず隣に移動してもいいかを聞いてくる。
何故と聞いても笑ったまま答えてくれないので、何度もループする中で無駄だと悟った。
私の隣に移動してきたまふゆは、メニュー表を手に取って、広げた。
「何頼もうか?」
「...ポテト」
「ここ、来たことあるの?」
「...何回も来たことある」
ふうん、と納得したような声を出しながら、メニュー表を見るまふゆ。
私をそれを横目で見つつ、どうせ頼むのは変わらないのだろうと思っていた。
「じゃあ、これにしようかな」
まふゆはそういうと、店員呼び出しボタンを押し、すぐにやってきた店員に注文をした。
「ポテトのSと、このパンケーキを1つ、お願いします」
「かしこまりました」
まふゆの注文を受けた店員は一礼し、奥へと戻っていった。
違和感を感じる。
でも、その違和感が何なのかはわからない。
何が原因でゲームオーバーになるのかわからないのだから、せめてこれまでとは別のゲームオーバーにならなければ、この時間に意味が無くなってしまう。
〈♪〉
そこから、私は注意深くまふゆと会話していたのだが、特に気になるような部分は無く、頼んだものを食べ終わり、今日はありがとうとまふゆに言われて解散となった。
まふゆと別れて、私はすぐ公衆トイレに駆け込む。
「う...ぷ」
何とか便器に顔を突っ込むことに間に合った私は、最早我慢をする必要もないので、口から全て出し切っていく。
何度も同じ時間を繰り返して、その度に死ぬということを繰り返した私は、味が分からなくなっていた。
戻ったその日に死ぬことになる、なんてことを繰り返していたうちに、気づいたら味覚が死んでいた。徐々に分からなくなっていたわけでもなかったからなのか、味が無いことに慣れていない私は、何かを口にするたびにこうして出している。
まふゆも、同じ感覚だったのだろうか。
「...はぁ」
胃の中の物を出し切った、と思える時にはもう、だいぶ私は疲れ切っていた。
ポテトなど、ただもそもそしているだけの何かだ。
目を閉じていては、何を食べているのかよくわからない。匂いで判断するしかない。
失敗を繰り返しているうちに、五感全てを失っていくのだろうか。
それとも、成功した瞬間、全てが帳消しになるのだろうか。
何とも憂鬱な未来を想像して、外に出て水飲み場で口をゆすぐ。
冷たい。それだけの液体で口内をさっぱりさせた私は、口元を拭ってベンチに座った。
急いでどこか吐き出せる場所を探していたので気づかなかったが、ここはどうやら公園らしい。
まだ生まれたばかりの赤ちゃんをベビーカーに乗せて、女性たちが話をしている。
...スマホをとりだして、2つの『Untitled』を見る。
どっちが私のセカイなのかは、何となくわかる。本能と言えばいいのだろうか。
ただ、まだ彰人たちは本当の想いを見つけて曲にしていないのに、私のスマホの中に『Ready steady』が入っているのは違和感しかない。
もしかしたら、私が『Ready steady』を再生したとして、あのストリートのセカイに行くのだろうけど、そのセカイにいるミクたちは、もしかしたら私が関わった時のミクなのかもしれない。
スマホの中にある、全部で3つのセカイへの切符。
しかしそれぞれが、違う時間軸に存在しているセカイに思えてしょうがない。
「...頭痛い」
ただでさえ精神が参っているのだ。
難しいことばかり考えさせないで欲しいものだ。
私はスマホをポケットにしまい込み、私は重たく感じる瞼を閉じた。
聞いたことがあります。
かわいそうはかわいい。