ストライクウィッチーズ スオムスいらん子中隊はばたく   作:ここの色。

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プロローグ PROLOGUE

「どんな子が来るのかな」

 緯度の高い、ここ北欧スオムスは夏と言っても涼しく、はるか東の扶桑の出身である穴拭智子中尉にとっては快適でさえあった。

 智子は椅子に腰掛け、自慢の前だけ眉の辺りで切り揃えられた特徴的な長い黒髪を、指でくるくると弄んでいる。

 故郷でよく“巴御前”に例えられる通り、どこか女らしくないほどの凛とした鋭さがあるその目を、宙にきょろきょろと泳がせていた。

 それでいて、まだ食卓に残るすっかり冷めたスープの前で、椅子に座ったり立ち上がったりを繰り返す。

「……まだ待ってるんですか?」

 智子と同じく扶桑の国から出征している迫水ハルカ一等飛行兵曹があきれたように声をあげる。

 ハルカはまだ初々しさの残る女学生のような格好をしていた。

 また、そのままぱっと見でも実年齢より下の、まるで子供みたいな雰囲気を残している。

 何をしているのかといえば、食事を展開しているテーブルの上に中身の入った花瓶を添え付けていた。

 ハルカの活けているものは可憐な鈴蘭の花だった。

「そりゃ気になるわよ、わたしたちにとっての新人なんだから」

 今や中規模部隊の隊長を任される智子にしてみれば、かなり気になる、ちょっとした出来事である。

 そんな智子にハルカは口を続ける。

「わたしたちも、まだまだそんなに長くありませんけどね……。知ってました?鈴蘭ってスオムスの国花なんですよ。別名が“谷間のユリ”なんです」

「初耳だわ」

 初めて聞く話だと智子は思った。

「百合、いいですよねー」

 うふふん、と楽しそうに鼻を鳴らしながらハルカは花瓶に水をさす。

「ちょっ、ちょっと待ちなさいよ!……わたしは断じてレズ趣味はないんですからね!」

 興奮した顔で智子は吠えた。

 ただでさえ、同性愛者を噂される智子なのだが、その原因は少なからずハルカにあるのだ。

 彼女はいわゆる百合趣味を隠そうとはしない。

 別の部隊の通称「ミカ・アホネンおねえさま」によるハルカ指導の賜物だった。

 そして。

「憧れの智子中尉はわたしのものです。ハルカさん、抜け駆けは許しませんよ」

 叩き上げの准尉であるジュゼッピーナ・チュインニが、彼女の特徴のひとつである眠たそうな顔で食卓テーブルのあるこの部屋に入ってきた。

 ジュゼッピーナはその故郷ロマーニャの香水でもつけているのか、次第に周囲に甘い香りをふりまきはじめる。

 この兵舎の人間に限らず、戦うためのウィッチの部隊は存分に多国籍なのが常である。

「あ、あんたまで何言っているの……」

 智子は深くため息をついた。

 このところ、いつもこんな感じである。

 ある意味では平穏ではあるのだが……。

 そんな智子を尻目にハルカは、とても興奮している。

「それとも智子中尉は“中嶋飛行脚の例の彼女”の事を忘れられないのですか?」

「なっ」

 動きの止まる智子。

 中嶋飛行脚とは、智子の兵装である飛行脚(ストライカー)を開発している扶桑の製造社の名だ。

 智子は途中まで正体が女だと知らずに、そこの技師といい関係にまでなりかけた事がある。

 今となっては苦い思い出だろうか。

 自身の顔がしだいに赤く染まっていくのを智子は感じた。

「あれは……たとえるなら事故なの! とにかく、事故だったのっ! なんでもないわ!!」

「どうだか……? とっても怪しいですね」

 ハルカは穴が開くほどの疑念の視線で智子を刺す。

 つ、冷たい。

 そして痛い。

 智子は部下からひしひしと送られる念により、思わず、頬を汗が流れ落ちるようなそんな感覚を覚えていた。

「わたしは、性に関しては至って普通なの!」

 それを、悟られないようにあわてて誤魔化しにかかる。

 と、そんな時。

「召集の合図!?」

 部屋の扉を開けてきた基地の関係者が、臨時空軍基地司令であるハッキネン少佐からの伝令を持ってきた。

 ……義勇独立飛行中隊、通称“いらん子中隊”所属のウィッチはすぐに会議室に来られたし。

「ネウロイでも来たんですか?」

 ハルカは不思議そうな顔をしている。

 ネウロイ、つまるところの怪異であり異形。

 人間からするとあまりにも未知な存在、そして人類の当面の仇である。

 それがなんなのか、未だ誰も知らない。

 謎多きネウロイを相手に、智子たち“ウィッチ”も身を削る思いで戦ってきたのだ。

 ウィッチとは、こんにちでは対ネウロイの兵士であるように指す事も多い。

 魔女たちは箒の代わりに銃を手に取ったのだった。

「あ! 基地司令です!」

 ハルカが言うか否かの時に、智子もハッキネンが会議室の前で待っているのに気がつく。

 義勇独立飛行中隊の他の仲間も見えた。

 伝令があってから、もたついたというほどではない時間しか経っていないけれど、当のハッキネンにとっては長かったのだろうか……その様子に智子たちは申し訳なさそうにする。

「あの……すみません」

「遅いですよ」

 待ちぼうけのハッキネンはしばらくムスっとしていたけれども。

 急に、堅い表情から一転、彼女の顔が明るくなった。

 そして淡々と喋りだす。

「まあ会議室に入りなさい。そして……新人を紹介します。所属はとりあえずあなたたちの中隊ですよ」

 ハッキネンの話は中隊においては既知のものだった。

 とっさに智子はこたえる。

「もう知ってたわ」

「なら話は早いです」

 ハッキネンは淡々とした趣のまま、立ち上がり、智子たちが入ってきたのと反対側の出入り口へと向かった。

 会議室の豪華だけれど、ずしりと軋む重い感触の扉が開け放たれると、奥にはちょこん、とすまして立つ若い少女が居た。

 様子からしても、まだ年端のいかない若い娘だった。

 ……いや、どうも若すぎる。

 智子たちは暖かそうなスオムス風の装束に包まれた少女をそんな印象で見ていた。

 そんなおり、ハッキネンはくすくす微笑みながら言う。

「紹介します。彼女はニッカ・エドワーディン・カタヤイネン。まだ十歳ですって。愛称は……」

「ニパです」

 自分をニパと称した少女は、中隊のメンバーそれぞれにゆっくりと頭を下げていった。

 智子たちは硬直してあっけにとられている。

 ハッキネンはそんな光景に笑みを隠し切れない。

「ニッカさんはここ、スオムスの現地の養成学校から来たんですよ。研修ですね。まあ修行させると思って鍛えてあげて下さい。魔女として魔力の才能は保証します」

 言って背の低いニパの頭をぽん、と手のひらで軽く叩くハッキネン。

「え、えっと……」

 智子はなんとか頭の中で言葉を選んでそれに反論しょうとした。

 だけれど上手く言えない。

 すると。

「ハッキネン少佐も人が悪いねー。こんな新兵を“いらん子中隊”に送るだなんて」

 唐突に横からずい、と出てきたのはキャサリン・オヘアだ。

 キャサリンは生粋のリベリアン(リベリオンの民)であるが、自由を信条とするリベリオンの地においても、こんなに若くして新兵になろうとする者はめったにいないであろう。

「……とにかく、こんな若い兵隊いらない!わたしはこんな娘の面倒なんか見れないわ!!」

「と、私たちの智子中尉も言ってますよ」

 否定するように強めの口調になった智子に、ハルカも同調する。

「えっと、既にこの部隊にいるわたしも十歳なのですが」

 奥の方からおずおずと出てきたのはウルスラ・ハルトマンだった。

 彼女は、かの第501統合航空戦闘団のエーリカ・ハルトマンの双子の妹である。

 性格といえば、本人曰く姉妹なのにあまり似ていないらしい。

「別にいいんじゃない。曰く、能力も高いようだし」

 その似ていないと称するウルスラの落ち着いた声が、少女ニパの中隊参加を軽く煽った。

「じゃあ話は早いですね。手続きは済ませてあるからこの基地を案内してあげてください」

 足を進めたハッキネンが智子の肩にそっと触れたかと思えば、何やらを指で摘んでいる。

 どうやら、糸クズのようだ。

「ニッカさんの力を引き出せるかは中隊次第ですよ。まあ、期待していますね。……あなた達がチリやクズの類じゃない事くらいわたしは知っていますから」

 「ではお開き」とばかりに、ハッキネンは部屋を後にする。

「中隊長さん、よろしくだね」

 戦力として確かにこの世界に必要な魔女のはしくれとはいえ、これから鉄の味の血生臭いはずの軍隊に入るというのにも関わらず……先程からニパはニコニコと笑っていた。

「なにやら不思議な子ですね」

「……うん」

 考える事は一緒なのか、ハルカの発言に智子も頷く。

 こうして、“いらん子中隊”にひとりの新入りが加わったのだった。




マイペースでボチボチ頑張ります。
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