ストライクウィッチーズ スオムスいらん子中隊はばたく   作:ここの色。

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第六章 CHAPTER6-2 極空を舞う蝶のように

 遠く離れていても、空を飛ぶ機構……いわゆる魔導エンジン独特の発する音は周囲を巻き込んでこだまする。

 それがふたり分なら尚の事だ。

「あれ?」

 たまたま基地の発着所に居たハルカもその音に気付いた。

「あの音、何やってるんですか?」

 そんなハルカの問いにビューリングも口を開ける。

「対決をするのだそうだ」

 いつもの訓練じゃなくて?

 ハルカは疑問に思いつつも、地上から目視できる宙にあるキャサリンとジュゼッピーナらしきふたつの影を目で追った。

「何故ですか?」

「前にジュゼッピーナのトルテをキャサリンが勝手に食べた事があったろう」

「へ?」

「まあ唐突ではあるのだが、要するに理由なんて特にどうでもいいって事さ。 対決するためには目的も作ってしまうってやつだ」

「えっと、あの、両方、銃……持ってませんか? 私は視力が悪いからうっすらぼやけてしか見えませんが」

「あー、アレはね」

 言ってビューリングは懐から何やら幾つか取り出して見せた。

「具合のいいことにちょうど在庫に持っていたんだが……ペイント弾だ。これと同型のものを使うらしい」

 ビューリングはある程度まとまった弾の束を掴んで見せる。

「なるほどです」

 それで納得したのか、ハルカは頭上尚遠く大空をのぞんだ。

 ハルカの視界からだとまるでアリンコみたいに小さく遠く見られる、キャサリンとジュゼッピーナがいる。

「模擬専用の着色弾だから弾切れまで撃ってもいいけど、一発当てたらいいんだよ」

 肩をすくめるビューリングを後目に、ハルカが声援を送った。

「ふたりとも頑張ってくださ~~~い」

 ハルカの耳にはキャサリンの「おうよ」という声が聞こえた気がした。

 やる気は既に十分なようだ。

「気合いだけで終わらないといいんだがな……一応、名目上はただの模擬戦となっている」

「じゃあ安心ですね」

「……そういう訳でもないんだ」

「なぜ?」

 要領を得ない感じでハルカは問う。

「キャサリンは……つまりは『壊し屋』だろう?」

 神妙な面持ちのビューリングはそのまま人差し指を立てる。

「知っての通り、整備班にえらく評判が悪い。使用機体であるワイルドキャットの整備だけでも少なからず悲鳴があがっている」

「あれは扱いにくそうですもんね」

「ああ」

 そんなビューリングとハルカの心配をよそに、飛んでいるふたつの影が揃い、空中で待機に入った。

「智子中尉たちには連絡してないんですか?」

 ハルカは、察しなくてもさして問題ないだろう緊迫感のようなものを抱いていた。

「既に招集をかけてはいる。いずれ遅くても半刻たつくらいには来るだろう……と」

 言いつつビューリングは背後に何か気配を感じて振り向いた。

「いたのか、智子中尉」

「さっきからいたわよ?」

 いつからいたのだろう、智子はキャルン、とすました顔のままそこにあった。

「面白そうなことになってるじゃない。こういう場面はわたしも見逃す訳にはいかないのよ」

 智子がいうかいわないかのうちに。

 急速に、けたたましく飛行脚のエンジン機関独特な振動が調子を上げ、地上まで鳴り響いた。

「始まったわ」

 開始の合図でも決めていたのだろうか、ふたりはある程度間合いをとって相対していた状態から形成を変える。

 先に仕掛けたのはキャサリンだった。

「行っくねー!」

 その愛機(よく壊すので使用頻度はそれほどでもない)であるワイルドキャットが唸りをあげて、体全体にひねりを加えてキャサリンはあっという間に空間をつめる。

 恐らくペイント弾が入っているであろう小銃を速射かつ連射する。

「効きません!」

 ジュゼッピーナは既に読んでいたとばかりにその全てを避けてみせる。

「やるじゃないか!」

 勢い付くビューリングやウィッチたちの通信越しに伝わるジュゼッピーナの息遣いは、まるで楽々な様子すらある。

 そして流れるようにキャサリンの連撃の後半にかけてを己の魔導障壁で防いでいく。

 すると、キャサリンの動きが止まった。

「ちょっとー! バリアはなしねー!」

 腕をブンブン、と回して抗議を始めた。

「えーっ。障壁なしなんですかーっ!」

 うろたえているジュゼッピーナだがムリもなかった。

 ウィッチの魔導による障壁があれば闘いがこじれるのは当然だからだ。

 ……やがてキャサリンは空中に漂う風船に目をつけた。

 見ても見れば10個位の赤や青などの種々な風船が浮いていた。

「本体に当てれば5点、空中の目標風船に当てれば1点なんですよ!」

 ジュゼッピーナは銃を構えると余裕そうにひとつの風船を狙撃してみせた。

 つまり1点である。

「目標の射程の間隔は、対等になるよう意識して調整してあります!」

 見ると、方向を変えて慌てて風船撃破に向かうキャサリンがいた。

「2……3……4!」

 ジュゼッピーナにより次々と風船が弾け飛んでいく。

「次で5! ……全10個だから……これでわたしの勝ちです!」

 勝利の確信を持ってジュゼッピーナは銃を構えた。

 そして着色されて粉砕される黄色い風船。

「え……わたし、まだ撃ってな……え!?」

 激しく混乱するジュゼッピーナ。

 その目の向こうには銃口を向けるキャサリンの姿があった。

「手数の問題……『風船2個が直線上になる瞬間を狙った』のですか!?」

「ふうん……やるわね」

 驚嘆するジュゼッピーナを遠目で見ながら、智子は感心していた。

「この『壊し屋』としての発想をなにかいかせないかしら」

 ……キャサリンが手数の短縮で6個目の風船を落としたころ、ジュゼッピーナは腹を括っていた。

 この状況下で勝つには、ウィッチ本体を叩くしかなくなったのだ。

 そんなおり。

「こちら雪女。ちょ、ちょっとなにしているんですかあなた達。こちら雪女」

 通信が入った。

 隊のウィッチ共用の信音なので一部始終が流れていたのかもしれなかった。

 ハッキネン少佐である。

「わたしたちが密告しました」

 ウルスラの声もあった。

 だが密告というにはいささか堂々としていすぎるのだが。

「く……訓練ですよ!」

 ジュゼッピーナは言い放つ。

「こちらでは訓練の許可はしてません、だってさ」

 どうやらそこにはニパもいるようだった。

「わたしたちに教えないでこんな面白そうな行事やっちゃ……ぐえっ」

「そういう問題ではありません」

 ニパにつっこんだのはハッキネンであろう。

「ウィッチの軍事的演習には、その力の強さ故に前もって幅広い議決が必要だと思われます」

 ウルスラが語ると実に最もらしい言である。

「ち……ちょい待った! このバトルはどうなるねー」

 キャサリンの怒号、とまではいかないものの、かなりの不満感はにじみ出ていた。

「暫定で、引き分けですか」

 つまった声でハッキネンは心なしか冷たく応じる。

「闘いの続き……やらせてください! このままじゃ、負けみたいで」

 そんなジュゼッピーナの願いは「次の訓練を楽しみにしていなさい」という智子の弁で抑えつけられた。

「勝ちのムードだったのに惜しいことしたねー」

 ふたりとも、基地へ帰還したあとでキャサリンは残念そうに呟く。

 長い通路に足音が響く。

 キャサリンは裸足である。

 戦闘開始時に勢いでブーツを履き潰していたのだった。

 『壊し屋』の面目は継続中ということだろう。

「なにか賭けでもしてたんですか?」

 どこから察したのかハルカがつっつく。

 ハルカの勘はこういうときバカにはできない。

「今日の夕食のデザートを。プディングでしたっけ。全くもってお預けですね」

 出し抜かれた悔しさもあったはずなのだが、思わずジュゼッピーナは口元に笑いを含んだ。

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