ストライクウィッチーズ スオムスいらん子中隊はばたく   作:ここの色。

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第七章 CHAPTER7 飛びっきりの魔女

「静かにお茶を嗜むのよ」

 智子はすっかりくつろいだ様子で言った。

 ……そんな智子中尉は魔女である。

 また戦闘こそ強かれど、まだあどけなさを幾らか残した可憐な少女だ。

 ……たまには扶桑の女らしく、落ち着きたいという理由もあった。

 そこで、故郷から取り寄せた虎の子の茶葉を、湯にくぐらせる事を思いついたのである。

 一服のために。

 基地内で特別に備わった扶桑のような畳敷の落ち着いた部屋の中。

 作法は余り身に付いては居なかったが、昔教わったままの見様見真似で茶を立ててみた。

 なかなか年期の入った茶器を使っている。

 それはおそらく安物であろう、と智子は思っていた。

 だが粗末な様子を味わうのもいわゆる『茶道』としては間違ってはいないのだろう。

 そして、そのままひとりの少女の前に差し出した。

 隅に正座してちょこん、としているハルカである。

「静かにお茶を嗜むのです」

 と口に出して、智子の煎れた茶にその唇を付ける。

 ハルカはこのあたり余り器用ではないらしく、ず、ずっと音が漏れる。

「お手前、味ともに結構でございます」

 ハルカは智子に気をきかせているか、実に簡潔に感想を述べる。

 どこから持って来たのであろう、ハルカはちゃっかりとほんのりとした赤めの扶桑の着物を着ていた。

 (馬子にも衣装、というやつかしら)との印象をさっきから智子は感じていた。

 またその隣でぐびり、と喉の鳴る音がした。

「黙って茶を飲むのだな」

 つい先ほどから、そこにいるのはビューリングである。

 彼女は場違いな感じのする厚手のコートを身に着ていた。

 智子に「落ち着けるから」とそそのかされてその調子で茶会にやってきたのだ。

 黙ってと言いつつ、静かにしているのは性に合わないのだろうか、妙にそわそわしている。

 その横に座っているのが。

「静かに茶を飲むねー」

 キャサリンであった。

 リベリアンの性なのか勢いをつけた豪快な飲みっぷりで周囲は圧倒される。

 ぷはー、とまるで海水に全部が浸かってから、勢いよく顔を出したような大きな息を漏らす。

「わたしが入手した情報によれば、静かにお茶を嗜むのが作法のようです」

 続いてウルスラがこくんこくん、と可愛らしく喉を鳴らす。

 と同時に、どたどた、とやはり扶桑

風であったずらし戸の奥の方からふたり、なだれ込んできた。

「まあまあ、静かにお茶を嗜んでいるのですか」

 片方はジュゼッピーナで。

「みんなでズルいです!わたしにも静粛にお茶を!」

 片方がエルマだった。

「えっと、ニパはどうしたんですか?」

 エルマが訊くと、智子は落ち着いた様子のままかぶりを振った。

「ニパは例のごとく過剰損害といわれて今頃は基地局にたっぷりとシボられているようだわ」

「うっわ、また運が悪いですね」

 心配げなエルマのいうとおりだった。

 良く気が利く反面、過ぎると皮肉になる。

「自損多損、破壊者のことならわたしに任せるねー」

 キャサリンがはしゃいでいる。

 だが、周りの目はビクついていた。

 冗談ではない、というように。

「ちょっとビューリング、何飲んでんのよ」

 智子の視線がビューリングがいつの間にか持っていたカップに入った液体に注がれていた。

「何って、ブリテンの地、ブリタニア人といえば当然これだろう?用意させてもらった」

 どうやら香りと見た目どおりにそれは紅茶であるらしい。

「風情がないわよっ」

 一瞥、智子は突っぱねた。

「こういうのは美味ければいいのだ。……レモンはいるか?」

「あ、わたしはミルクがいいです」

「ウルスラ、そこ、乗らない!」

 自分の配分でことを進める隊員の様子に智子が牙をむく。

「世の中には味付けの差で烏龍茶やチャイというものもあるそうです、この本によれば。共通するのは名前が『チャ』に似ているものだとか」

「ウルスラ、そんな本どこから用意したのよ」

「予習をさせて頂きました」

「いいから、しまいなさい!」

 露骨にやれやれ、といった動作でウルスラは本を後ろ側へ置いた。

「……足が痺れないですか?」

 ジュゼッピーナが唐突に声をあげた。

「足が麻痺しそうねー」

 この部屋でみんながやっているのは、いわゆる扶桑式の正座である。

「これは……ご・う・も・んですかぁ~」

 エルマも悲鳴の一歩手前、みたいに言を放つ。

「なぜ声を溜める……」

 我慢して座っているのであろうビューリングは、少なからず呆れてしまったようだ。

「あヒがヒびれたですー」

「あの、エルマ、声までは痺れないわ」

 呂律の怪しいエルマに、ピシャリと声で刺す智子。

「……しかし、不思議だな。草の絨毯というやつは。特に熱くもなく冷たくもない」

 ビューリングが感心しているのは、なお平然と床に敷いてある扶桑の『畳』というやつである。

「いい匂いですよね」

 ……やんわりとハルカは自分に出された分を飲み干す。

「結構なお手前で」

 流れでハルカは世辞をいった。

 室内が急に静かになる。

 数刻であっただろうか。

「……わたしにもお願い、ハルカ。熱々のやつをね」

 智子をよそに、ハルカは慣れた手つきで茶器を扱いはじめた。

 と、思われていたのだが。

「……ハルカ?」

 動作の途中で固まっている。

「茶葉が……茶葉の残りがありませんっ!」

「えっ」

 瞬間、智子は軽い絶望を覚えた。

「紅茶ならまだあるぞ」

 ビューリングの発言はあまりフォローになってはいなかった。

「また今度飲めばいいねー」

「キャサリン、悪いけど」

 智子は「今がいい」、といおうとして言葉につまる。

 すかさず。

「わたしも暇じゃないのよ。これが暇に見える?」

 言葉を変えてみたが、失敗だったのかもしれない。

『見える』

『見えます』

「見えるねー」

 その場全体にツッコまれた。

「あの……わたしちっぽけな悪意でも自信なくすんだけど」

 多少は衝撃を食らった形になり。

 智子は頬を人差し指で数回掻いた。

 どうしようか思案を重ねる。

 その時だった。

「……ルい……ルい」

 ……どこか遠くで叫ぶ声がする。

「何?」

 耳のいいエルマがこれに反応する。

「ズルい……ズルい」

 今度は智子にも聞こえた。

「ズルいよぉ!わたしも混ぜて~!」

 ハッキリと、ニパの声だった。

 声の主が側まで来ると、勢いよく戸が開け放たれた。

 ……と同時に、戸の隙間に指を挟んだ。

「痛!」

 彼女は日常的に運が悪い。

 しかも、ドジ属性も兼ね備えてある。

「ニパ、その手に持っているのは何?」

 怪訝そうな表情で智子は尋ねる。

「何って、お茶だよ。一番いいやつを」

「それは……!」

 ニパの所持しているものを見て智子が唸る。

 『最高級』と扶桑の文字で書いてあった。

 ハルカもそれに反応する。

「それ、凄いじゃないですかー!」

「お手柄ですね」

 そしてエルマも事態に気がつく。

「早速、煎れるねー」

 キャサリンは乗り気である。

 その調子で立ち上がりつつニパの両手を掴み、数度縦に振った。

「わた、わたしをほ、褒めて」

 ニパもそんな調子であった。

「……じゃあやり直して、ね」

 すましたニパは智子の横にちょこん、と座った。

「んっ」

 まんざらでもない智子がいた。

「じゃあハルカ、熱いのを頼むわ。とびっきりのやつを、ね」

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