ストライクウィッチーズ スオムスいらん子中隊はばたく   作:ここの色。

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第七章 CHAPTER7-2 飛びっきりの魔女

「ねえハルカ」

「なんですか?」

「あなたってわたしの僚機なのよね?」

 唐突に切り出したのは智子だった。

 朝方のスオムスの天候は涼しく、声も爽やかに響く。

「それがどうかしました? 変ですよ、中尉」

「変なのよ」

「というと?」

「なにかわたしに変なこと、ない?」

「いつも通りですよ。どうしたんですか? そこまでいわれるとちょっと気になります」

「あの……お願いがあるんだけど」

 智子はねだるような目線をハルカに投げかけた。

「なんですか?」

「……買い物に……付き合ってくれない?」

 意外な、智子がなんでもないような提案をする、という意味で意外な口調だった。

「いいですよ。智子中尉とわたしの仲じゃないですか」

 ハルカは多分に純粋な笑顔を見せる。

「まあ、なら、良かったわ」

 ……そして、智子とハルカのいらん子中隊・扶桑組は軍用の貨物車の支援で市街地へと向かった。

 そこはスオムスにネウロイが攻めてきた事もあり、戦災の跡もまだ大分残っていた。

 ただ、買い物に行くだけだと思っていた。

 少なくとも、ハルカは、である。

 幸運な事にまだ普通に機能している商店で、智子たちは誰が食べるのか大量にパンや補給物資を買い込んだ。

 その、帰り道。

 智子が唐突に左側に曲がるように指示したのだ。

 当然のように、運転手も追従する。

「どこへ行くんですか?」

 基地への帰り道は反対側へ曲がらなければならなかった。

「えっと、追加の、お願いがあるんだけれど」

 智子の神妙な面もちに。

「はい」

 と、そっけなく応えるハルカ。

 先ほどの口調は軽くだが、智子の目は全然笑ってない。

「ええっと、少し約束があるのだけど。……黙っていてくれない?」

「ん、智子中尉、なんですか一体」

「わたしたちが、ウィッチだってこと」

「?」

 思わず、首を傾げるハルカだった。

 その意味をあれこれ思案しているうちに。

「ここよ、止まって!」

 止まったのは、バラックもしくはボロとも呼べそうな簡素な建物の前だった。

 ……その中から、わらわらと多数の子供たちが出て来た。

 食料を配りはじめた智子を後目に、少し時間を置いてハルカには察する事が出来た。

「戦争難民……の子?」

「そ」

 智子は目で応えた。

 なるほど、と。

 確かにそれは一機の軍人であることを隠しておいて間違いはないはずであろう。

「ハルカ、ここはね、怪異の侵攻で親族を亡くした子たちの家なの。とりあえずの家族を形成しているといっていいわ」

 きっとこの中にはウィッチを憎んでいる子供もいるはずである。

 それほど、ウィッチの戦いは荒いのも事実である。

 ハルカはきゅ、と唇を噛んだ。

「わたし……わたしは……」

「深く考えない方がいいわよ」

 いいつつも智子の顔に複雑で神妙な影が浮かぶのをハルカは見逃さなかった。

 子供たちは思い思いに大きなガリア地方風のバゲットなどを千切っては食べ始める。

 中には年端も行かない少女もいた。

「智子中尉、これって……」

「わたしたちのせい、ね。ある意味」

 言について考察するまでもなくハルカは思わず絶句した。

 かつ子供たちの視線の上ではあくまで笑顔で、である。

 ……動揺は悟られてはならない。

 ハルカが見ると、困った時の癖なのか智子はその長い髪を指でクルクル弄っている。

「あの……先のことだけど、さ。わたしも、実際この子たちと会ったのはごく最近なんだけど」

 智子はいいつつハルカだけに聞こえるような位置にまで迫る。

「わたし……変かな? 前みたいに戦える気がしないの」

 不意に、智子の顔が陰った気がした。

 少なくともハルカはそう感じた。

 ハルカは複雑な感情に包まれて、キリキリと両手を握る。

「あっあのっ、わたしとっ、あた、あたた!」

「……なに、新手の拳法でもやってるの? 似合わないわよ」

 智子の冷静な突っ込みである。

 だけども、そんなことは意に介さず。

「わたしと暖まりませんか! 智子中尉!」

 と、言い切った。

「えっと」

 状況は飲み込める。

 ハルカは励ましてくれているのだ。

「今度ネウロイを倒した次の機会にでも!」

 特に迷いらしい迷いもない。

「で、どうするの」

「ササササウナをっ! スオムス名物の!」

 ハルカが腹の中からひねり出した激励である。

 まっすぐな瞳に、いわれた側は少し照れくさくなってしまった。

「あーわかった、わかったわ」

 流石の智子も気圧される。

「良かった……です」

「……ふふっ」

 ハルカが少しうろたえて狼狽しているのを見て、智子としては思わず笑みがこぼれる。

 彼女は、本気なのだ。

 本気で、智子の志気を案じている。

 それだけで、気持ちとしては十分ではあった。

 ……そんな折だった。

「ネ、ネウロイだ! ネウロイが来たぞー!」

 急に、突如として張り詰めた空気が襲った。

 遠くの方でいうが早いか、街中に独特の警報のような音が響いた。

 否。

 急な特殊状況下で時を待たずしてわかったことだが、それは……まさしく警報だった。

「総員、戦闘準備!」

 特徴的な服装から生身の兵士(ウィッチではない)である男たちが慌ただしく駆けまわっている。

 まだ遠くだが砲の炸裂音も聞こえた。

 智子はアイコンタクトを取り、ハルカは頷いた。

「みんな! 避難してください!」

 緊張が走る。

 ……そんな中で。

「え、えっと」

 子供たちの中から唐突に声がした。

「あのっ」

 ふと見れば女の子が花々をぎゅっ、と握りしめている。

「わたしたちは大丈夫、よ。気に病むことはないわ。それよりも早く避難しなさい。ここだっていつまで持つか……」

 智子はその綺麗な色をした花弁の束を受け取る形になった。

「でもっでもっ」

「わたしたちは民間人を護るためにいるの」

 智子は女の子の頭を撫でながらいった。

「うん……」

 子供が頷いて避難しはじめたのを確かめるようにして。

「行くわよハルカ」

「はい!」

 今まで余り気にすることもなかったのであるが、今回の襲撃でひとつ奥の手があった。

 いや特に奥でもないので、手がある、というべきであろう。

「トラック車型の簡易ストライカーユニット発進機構の許可を!」

「さしあたって今回は調整に支障はないわ! ハルカ! 予備のストライカーも2人くらいなら残っているはずよ」

「でも、まだ試験不足の未完成ですっ!」

「試験は是非とも実戦を兼ねるべきだわ」

「そんな……き、危険です! ここは一旦基地に……」

「こう考えたらどう? わたしたちはむしろ危険になるべき、ともいえるわ。悲しいけれどね」

「智子中尉……」

 その時ハルカは瞳に迷いの陰りをみせたが、やがて意を決するように。

「わかりました、現場の判断としては緊急時なので最速性から予備の備品を使わせていただきます!」

「行くわよ! ハルカ」

 少しあって智子たちの前に丁度の間隔で軍用車両が止まった。

 ブリタニアの方やリベリオン式にいえば、おそらく特殊車両の『トレーラー』である。

 幌の付いた後ろ半分の部分が丁度解放されており、その床部は所謂カタパルトになっているのが遠目でもわかる。

「お先!」

 智子は持てる全力の速度でもうユニットに履き替えていた。

 準備は万端である。

「今回も飛びきってみせるわ……しがないわたしでも、ね」

 ……瞬間、衝撃をあたりに伴いながら瞬いた。

 智子の『使い魔』であるところのキツネの尾と獣の耳が生える。

 傍目に綺麗な真っ直ぐの白い線を引きながら、ふたりのウィッチは強大な怪異を倒すため大空へ舞い上がったのだった。

 

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