ストライクウィッチーズ スオムスいらん子中隊はばたく 作:ここの色。
幸いにも発進自体にそれほど不自由はしなかった。
緊急時のためのストライカーユニットは、ウィッチたちに呼応して甲高い声をあげてくれる。
……なお風は強く。
不安なところがあるとすれば、助走距離が稼げないため離陸時に難があるが、智子曰わく「気合いで補うのよ」ということらしい。
「ハルカ……ついてこられる?」
「はいっ」
いうが時を同じくして、ハルカが地上からあまりに短い滑走路を発進し減速した智子のすぐ後ろにつける。
「そんなことより、やっぱりこれ上手く使えないわね」
普段整備されていない余剰の品である今のストライカーユニットは、じゃじゃ馬で加減速にいくらか難があり、どうみても不安定な制御であった。
「送る! 緊急通信! 現在、ネウロイ数体……化け物共にもうすぐ接触するわ!」
やはりというか慣れないため、不必要に旋回しながら虚空へと舞い上がる智子。
通信にはやや雑音ノイズが乗っている。
その後方でハルカが簡易なハンガーで発つのが智子から見えた。
「ハルカはわたしの後方につけて!」
大振りの腕の動きも併せて軌道をハルカに伝える。
(そんなに時間はかからない……短期決戦になるわね)と智子は大ざっぱに計算した。
「だからといって、この銃が効かないなんてこともあるからっ!」
相手もこちらに向かっているようだった。
こちらも相手を補足したまま飛んでいる。
……つまり相対的に一気に距離は縮む。
「いっけえええええ!」
最初の攻撃は智子だった。
手持ちの機関銃を乱射して首尾良くネウロイに弾幕を重ねる。
叩いた金属音の様な甲高い叫びだろうか、よく通る音の波がふたりを包んだ。
怪異の断末魔?
おそらくそれは……ある意味では正しい。
だが、それだけでは終わらなかった。
銃を受け、地表へと崩れ落ちていく数体のネウロイの特徴ある鋭角の陰から、小型の何かが飛び出した。
「えっ、なに?」
「あれもネウロイですかっ!」
智子はその物体の登場に意表をつかれてしまった。
機会よく、それを僚機のハルカが庇う。
新たにネウロイと仮定した何かから放たれる光線を、ハルカは魔法陣型の壁で強く弾く。
「くっ」
衝撃は障壁ごしに突き抜けてくるほどだった。
それと前後して。
「……すか……き……ます……」
向かうふたりの耳元に備え付けられた通信機に、不安定な音声が入ってきた。
「きこ……すか……聞こえますか?」
今度は、かすかながらもちゃんと聴けた。
「智子中尉! そちらで異常を確認しました!」
伝わるその声はハッキネン少佐のものだった。
「現在、怪異と交戦中! 至急、応援を頼むわ!」
智子は流線形を描くように小銃を乱射して、広範囲に弾幕を張る。
そのうちの数発が丁度当たったのか、小型ネウロイたちが煙を吹く。
「ハルカ! 中心核を狙って!」
「でっ、出来ません!」
既に半分泣いているかのようなハルカの情けない声が洩れる。
「速過ぎます!」
「ハルカ、今は視力は大丈夫なの!?」
「はい、その辺はなんとか……ですが」
ハルカの視力は命中性に難があるくらいのものだった。
空中にて距離の遠くからはよく見えないが、おそらく何らかの方法で今は矯正はしてあるのだろう。
だがそれでも、効果的な攻勢があるとはいえない。
「速い!」
……的は大きいほど、いい。
これは戦いの定石である。
だが、今回のネウロイは小さく錐のように前部に尖って突き出した構造をしており、お世辞にも狙いやすいとはいえなかったのだ。
「援軍はまだっ!?」
汗を握る手で、智子の持つ銃が少しぬめった。
「こちらハッキネン、援軍は……ムリです! まだ皆のストライカーユニットは点検整備中なんです! 一部分解しているものも……! しばらくは間に合いません!」
届いたハッキネンの声にかなりの焦りがみえる。
「くっ……」
智子は弱く唇を噛んだ。
「じゃあ……」
「危ないです!」
智子が背中に衝撃が走ったかと思えば、すれすれで光線が横切る。
ハルカの支援がなければ直撃していたかもしれない。
(? ……囲まれた……?)
智子は少なからず状況に対して悪寒を感じてしまう。
これは……ひとつの危機だ。
ハルカの方も流れから鳥肌状態は必至だというような様子だった。
(ん?)
悪寒の鳥肌もそのままに。
智子はひとつの“ある気配”を察知していた。
「……さっきまでそこにいたネウロイが見あたらない!?」
自身の向きを、北、西、南と。
隙を見せるようであまり智子としては気は乗らなかったが、やむを得ず軽く哨戒してみる。
……東。
太陽がある方。
そして。
照射される太陽光に目を細めた時。
ようやく、見えた。
「んんっ!」
ネウロイは太陽を背にして智子たちを追ってきていたのだ。
空中圏戦闘の定石、“太陽に隠れる”である。
智子は細目にしたまま銃をまっすぐそちらへと構える。
ぱすっぱすっ、と気の抜けた音が放たれる。
だが、威力としては充分。
今の弾丸により右側が大きく破損したネウロイはなおも智子を追ってくる。
だが。
「えいっ!」
側面からの一撃に、ネウロイはヨロヨロと墜ちていった。
こういうときのための、“僚機”という存在である。
「ハルカ!」
「えへへっ、中尉、後でたくさん誉めてくださいね」
「油断しないで!」
「えっ」、というひょうげた声をあげるハルカ。
とっさのハルカの魔法の障壁も簡単に吹き飛び
、光の線の一撃がその脇を掠めていく。
余りに速いが、視界で見る限りネウロイの勢はまだこの空域に数体が残っているようだ。
まるで戦士の陣形のように、重なり合ったり離れたりで攻撃を組み合わせてくる。
「大丈夫?」
智子はハルカに手を差し伸べた。
まだまだ危険だったが、それくらいはしたかった。
「行けます!」
やはり、こちらの数が向こうよりも少ないのが致命的である。
智子はかつて大幅な武功をあげたウィッチである。
その経験が物語っていた。
『こちら不利につき、撤退を要請する』という調子だ。
その場から逃げても良かった。
けれど。
「……ハルカ、わたしは速攻をかけるわ。何かあったらすぐにでも逃げて!」
「ちゅ、中尉!」
だとしても、ハルカは智子に付いて来るだろう。
智子もそれはわかってはいたが。
超速度で右に左に展開するネウロイに、今は策がなかったとしても。
智子の頭にはすぐそばの街の住人の姿が浮かんでいた。
自分たちだけ、逃げる訳にはいかない。
特別にネウロイに立ち向かえる力を持った魔女だからこそ……の。
ある種のゆるやかな選民思想。
だが、人類は魔女にすがるしかなかった。
「……時間稼ぎでしかなくともっ!」
智子の愛用する刀は基地に置いたままであった。
そして、とっさに抜いたそれは……ただの汎用短刀(ナイフ)一本。
だけれども、ないよりは幾分マシであった。
「いっけえええええ!」
短刀に持ち前の魔力を込める。
それはもはや光の剣であった。
このように剣は仮想的に長くした方が間合いを利用しやすい。
智子はありったけの気合いを入れてまず一体のネウロイに詰め寄った。
あまり慣れていないストライカーユニットのせいで上下にブレる。
そのまま、光の剣はバターのようにネウロイを切り放つ。
「はあっはあっ」
思った以上に魔力の消費が激しい。
「中尉、危ない!」
智子はハルカによる防壁の反動と激声で我に返った。
力の消耗。
不利な状況。
唐突に目がかすむ。
……このままでは。
ハルカは少しだけ覚悟を決めた。
「でも、負け……ない!」
……その時だった。
全方位で数体、予測で8体ほどいたはずのネウロイの半分が消えていた。
……唐突に。
智子があっけにとられていると。
聞き慣れた音がした。
「……どういうことですか?」
ハルカは恐らく状況が読めてないのであろう。
「援軍です」
智子たちにハッキネンから通信がはいる。
「助太刀する!」
見れば、ビューリングの姿だった。
増援。
心強く、頼もしい。
「わたしたち、基地から最速で来ました」
ウルスラがひょっこり、と現れた。
「つまり、どういうことですか、と言っているんです、ストライカーユニットが使えなかったんじゃあ?」
ハルカは怪訝な顔をしている。
「それはですね……智子中尉が」
ウルスラは淡々としている。
「皆のストライカーは使えないかもしれないけど……わたしたちのは使えられるでしょう?」
「あっ」
智子のネタばらし。
ハルカも察しがついたようだ。
「あっちのウルスラの履いているのがハルカの、こっちのビューリング少尉がわたしのユニットのはずよ」
智子はウルスラの運んできた弾薬で補給し、依然と構えた銃をしぼる。
「じゃあ処理して行きましょう。もちろん劣勢なのはあちら側よ」
……その日の智子の夕飯は動いた分だけ存分に美味しいものとなった。