ストライクウィッチーズ スオムスいらん子中隊はばたく   作:ここの色。

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第八章 CHAPTER8-2 辺境の防衛戦

「これで全部! 片してやったわ」

 智子の放つ砲弾がネウロイを捉え、一気に収束した。

「やったな!」

 この空中戦の勝利、これにはビューリングたちの加勢のおかげもあった。

 なんだかんだで非常に頼れる智子の仲間である。

「やっちゃいました!」

 ハルカは勝利の踊りとばかりに旋回する。

 そして一同は歓喜の空気に包まれた。

「では、一同帰還してください」

 てきめんに調子よくハッキネンの特徴のある声が通信される。

 目が覚めるようなくっきりハッキリとした音程だった。

「了解! これより帰投します!」

 智子は華麗に身を翻し現在出動中の皆の先頭に出る。

 この場は空中なので“足取り”とはいわないが、そのくせ別段に軽やかではあった。

 背後の空には、沈みはじめた太陽の残光が反射して、プリズム的な実に綺麗な夕焼け模様をみせていた。

 

 

 

 ……そして。

 ゆっくりと出撃組一同は基地の発着所に降り立ち、余った整備兵たちがそれを迎えるかたちになる。

 (そろそろ夕食の時間だな)と智子は心の中で呟いた。

 料理の匂いがする。

 (これは扶桑の肉じゃが……と見せかけてビーフシチューかな?)

 “察し”がいい方、だと智子はよくいわれる。

 今回もずばり、と思索は当たっているようだ。

 そこへ、若干はにかみながらニパがやってきた。

「わたしさあ……今回の料理楽しみにしてたんだよね」

 そのままニパはクルクル、と表情を変える。

 (何がいいたいのだろう)と智子は素の面で思ったが。

「……大盛を注文してみたら?」

 智子はニパに向かってそんなふうに告げてみた。

「い……いやっ、そんなっ」

 ニパは軽く拒絶している。

 あたふたと腕を振っていた。

 魔女とはいえ、ニパも年頃の娘なのだ、やはり“食べたい”と直接いうには恥ずかしいのだと智子は何とはなしに想った。

 そんなふうなやり取りをいくらか軽く交わして、つくられた料理がテーブルの上に展開して次々と並んでいく。

 歩きながら食事を運ぶビューリングの手にはまだ多数の皿が羅列されている。

「まだまだあるからな! お代わりは自由だぞ。 まあ料理は歩いて逃げないけどな!」

 気前のよい反応をしながらビューリングはそのままのっそり、と食事台に着いた。

「おっと」

 ビューリングは勢いがついていたのか手にしたビールをその場へ派手にこぼした。

「あ、テーブル拭きますね」

 ちょうどいい取っ掛かりの、絶妙な機会でジュゼッピーナが布巾でその惨状を拭う。

「……すまないな」

 鼻筋を人差し指で掻いて少し照れくさそうにビューリングは応える。

「ところで」

 智子は先ほどから抱いていた疑問をぶつけてみることにした。

「ニパ……あなた、さっきからなにを飲んでいるの?」

「ん……これ?」

 軽く反応するニパだったが、唐突ではあったが疑問が浮かぶのも当然ではあった。

「コーヒーだよ」

 流れでニパは応える。

「代用コーヒーっていうのかな。知っての通りに物資が不足しがちなんで贅沢は難しいんだ。それで……この」

「この?」

 智子はあらためて発生した疑念をニパの眼前でつく。

「タンポポの根っこのお茶だよ、これ。わたしも最近知ったんだけど代用コーヒーとして一番有名なやつ」

「ああ!」

 そういえば智子も聴いたことがあった。

 タンポポはそんなふうにも使える、と。

「スオムスの言葉で『ヴォイクッカ(voikukka)』っていうんだ。『ヴォイ』はバターで『クッカ』は花ってさ。バターの花。ミルクではないけどね」

 スオムスの地方出身である彼女にとっては当然だったのかも知れないが、智子にしてみればなにかと初耳なことも多かった。

 ウィッチたちには気温の妙など全く関係ないとはいえ、ここは北極圏にも達する極寒の地である。

 なので咲く花の種類も決して多い方ではないのが、智子にとっては残念ですらあった。

「わたしは知ってましたけどね」

「うわっ、ウルスラ、どこにいたのよっ」

 突然、ひょっこりと金髪で小柄な身なりが目に付く少女が現れた。

 食卓テーブルの下から、である。

 人が入れる広さがあることにも意外だったが、ウルスラの言動にはしばし驚かされることがある。

 案の定智子はウルスラの気配に気付かなかった。

 ……見ると、ウルスラは手に書類の束を持っている。

「あんた……また勉強でもしてるの?」

 それが智子としては抱いて当然の疑問だった。

「……新兵器の試作に口をはさむ権利を貰ったので。ちょっと試行してみているのです」

「へえ」

 気の抜けた智子の声である。

 とりあえず、研究開発の面で『いつものこと』ではあるのだ。

 ウルスラはそういう意味合いで『天才肌』である。

 戦闘の軟弱さを補ってあり余るほどの技術に対する硬派な真摯さ、が持ち味であった。

 そして彼女の姉も優秀な才能を持っているという件は、隊の仲間にとっていうまでもないものだ。

「そっかー……大変だね」

 あまり大変そうに聞こえないくらいの、間の抜けた感のあるニパの言。

 そんな脇で智子は代用コーヒーを自分の器に入れてすすってみていた。

「うわ……これ結構まず……独特の味ね」

 遅くも、智子は口に出してから発言次第で場が凍りそうな気配を察した。

 が、わりとそうはならなかった。

「うんうん」

 線の細い顎を小刻みに動かしてニパは頷いている。

 やはり皆も思っていたのだろうか。

「やっぱり甘すぎるよね……砂糖は入れないほうがいいよねえ」

 「え、そっちか!?」と智子は強く突っ込みたい気持ちに駆られてしまった。

 ウルスラはまるで悟ったような顔付きで容器に代用のコーヒーをいれている。

「あまり美味しくないんですよねえ」

 そのままの表情でウルスラは『まずいといわれた液体』を淡々と口に運んでいた。

 ……併せてニパはしばらく固まってからむせていた。

「う……げほっげほっ!」

 どうやら飲んだ液体が気管に直に入ったらしい。

 ともあれ運の悪い魔女である。

「まあわたしはタンポポなぞ飲まないよ。ブリタニアの通はコーヒーじゃなくてお茶派だからな。とりあえず飲むときは飲むが……代用などとは流石に自我が許さんのだ」

 ビューリングは何故か腕組みして飲用容器とにらめっこしている。

 いつもならブリタニアのウィッチには気をきかせて紅茶を用意しているものなのであるけれど。

 今回は補給でも不備があったのか、そんなものの差し入れはないのだった。

「ところでワトソン君」

 唐突にビューリングは口調を変えてニパに視線をあわせつつ、そちらへ向って話をふった。

 いつも冷静な感のあるビューリングだったが今日は調子が違っていた。

「ワト……えっ」

 ニパはあたふたと答えにくそうに声を出す。

「ウィッチ探偵だよ。ワトソン君。あなたは何故ここにお茶がないのかわかるかね」

「わ……わからないな……食料補給の問題じゃあ?」

「違う、な」

 「えっ」とニパは話に食いつく。

「ブリタニアで流行っているという小説にそんなものが確か、あったような気がするわね」

 ブリタニアのウィッチであるビューリングの文句は智子にも引っかかったようだ。

「それだよ。逆にいえばブリタニアのウィッチがいない時には紅茶なぞなくてもいいのだろう」

「なるほど」

 その様子にウルスラは合点したようだが智子としてはあまりピン、と来ない。

「わたしはいつもなら哨戒している時間だ。そこを今はエルマとキャサリンに代役をさせているからだな」

 「聴いてみれば簡単な話ね」と智子は独り言ちたがその通りではあった。

「だから補給の入った倉庫にはまだ紅茶が残っている可能性が非常に高いのだ。ニパかウルスラにいいたいのだが、運ぶのを是非手伝ってくれ。飲めるとはいえ代用コーヒーなんて別に好きではないだろう?」

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