ストライクウィッチーズ スオムスいらん子中隊はばたく 作:ここの色。
「演習しますよ!」
いきりたったような声が基地で強く響いた。
何とはなしに気だるげであった智子は、あまりにも突然といった様子でその眼を
白黒させた。
声色から推測してみるに、どうやらエルマが格納庫で召集しているらしい。
近場ではあったのだけれど、通信も少し遅れて入ってきた。
……やはりエルマの声で大体の旨は変わらないようだ。
「えっなに、急に?」
そんな智子の主張もすぐに折れる。
「これは本部の、命令でもあります」
エルマの召集に参じてみれば、キャサリンが既にいるのが確認できた。
「こんな時でもなにかと大変ねー」
昼寝でもしていたのだろうか、どうもそんな様子で髪の毛に若干のクセが残っていた。
ここは機械化兵にとってはいつもの場所で、要はストライカーユニットの発着場である。
ふと、しばらくもしないうちに、のっそりと人影が覗いてきた。
「えっと、……整備は済んでます」
ウルスラ・ハルトマンだった。
隊の中ではニパやキャサリンに次ぐくらいの“危険人物”ではある。
そう思って、智子は自分の隊にブリタニア語でいうところのトラブルメイカーが多い事実に頭を抱えた。
「あれ、なんかイヤな顔してませんか?」
……カールスラントのウィッチは細かいところに鋭い。
「なんでもないわ」
また本音とはとても思われないような反応を智子は返した。
「今回は哨戒も兼ねているなんてムチャな要求はしてないらしいぞ」
不意打ち的に智子の背後からニパが現れる。
「ただし、ウルスラの実験は兼ねているみたいだよ」
「ニパはなにか知ってるの?」
またよからぬ事に巻き込まれるのは智子としてもイヤだった。
ウルスラに関わったウィッチは皆がいう。
実験台。
曰く、研究のため。
彼女の姉妹エーリカ・ハルトマンは、軍備を誇るカールスラントの中でも有数の優秀な撃墜王らしい。
の身内という事もあってか、若干の自由は与えてみているということらしい。
「……で今回、試したいことってなんなの」
少しばかりウンザリした様子で、智子はそのままウルスラに訊いた。
「冷凍弾です」
「れいとうだん?」
「対ネウロイの新型兵器です」
「っていうと?」
「魔女がその魔法力で寒さを抑えているのは常識ですよね」
ウルスラは智子との距離を詰めてくる。
その顔があまりにも迫真めいていたから、智子は思わず反対に吹き出しそうになった。
そして、いかんいかん、と自制する。
「液体の窒素をですね、こちらで製造して……これを作るのがまた難しいですけれどブリタニアあたりから設備は保証して貰えるそうです」
「ふんふん」
あわせてニパは頷いているが、理解しているのかは怪しい様子だ。
「まあとにかくこれを背負って」
エルマが奥からなにかを持ってくる。
「なによこれ?」
それは話に聴いていた……いわゆる“海潜り”に使うとされるようなものに映った。
「この中に圧縮されたものが詰まってます」
ウルスラはそれを丁寧に組み立てると、まずニパに渡す。
続いてキャサリン。
「これで演習するのか?」
装備はビューリングにも渡った。
「これ危険物じゃないでしょうね」
智子は構造を調べながら慎重に背負った。
それはいぶし銀の色で背中を覆う大きいもので、2本でひとまとめであった。
「安全には定評のあるカールスラント製です」
ウルスラはにこやかに微笑する。
「わたし反対に心配になってきたんだけど……」
智子はやんわりと頭痛を感じた。
「なぜウルスラ本人は武装を付けないのだ……」
至極もっともなビューリングの言葉にウルスラが冷静に刺す。
「わたし、データの計測とかまだやることがありますから」
「まるで生け贄みたいで納得するほうがムリねー」
ま、なにかあったら壊すから。
と、キャサリンが小さくつぶやいたのは智子には聞き取れた気がした。
皆が往々に、準備を進める。
そんな中、ジュゼッピーナとハルカも合流してきた。
……本日は快晴だった。
本当の意味での北国とはいえ、寒さには季節の落差というものがある。
大気が澄んでいて、遠くまで見渡せるため実験には最適なように感じられた。
寒さは、特に意識されてない。
ウィッチの特性。
高高度では基本寒さが激しく、飛行機のたぐいに乗る場合は注視すべきことのひとつではあるのだけれど。
それも魔女のチカラというヤツで、魔法力によって緩和されているのだ。
中には固有魔法として熱を操るウィッチもいるようで、面目躍如、否、適材適所という呼び方がふさわしいかもしれない。
つまりは、冷気を人類の武器としてモノにすれば、ウィッチの運用にも幅が出るということのようだ。
ネウロイを出し抜きリードする必要もあった。
日々進化しているネウロイに対して、必要な研究でもある。
「おーい」
ニパが仲間の編隊の前に躍り出た。
もちろん飛行するストライカーユニットを装備した状態の空中での言動だ。
「これ結構かさばるし邪魔になるよ」
通信でニパの吐息が智子にも伝わってきた。
「ですね。わたしも智子中尉に追いつくのがやっと……です」
もう見るからにハルカはつらそうだった。
そんなに重くはないはずだけど、と智子はひとりごちる。
「ウエイト盛ったらダイエットはなりそうねー」
いつも気楽なキャサリンが列の後ろのほうでなにやら言を漏らす。
今は『飛行試験』の段階らしい。
ウィッチには温度の差など気にはならないものの、気圧の影響が心配されるという理由があるからだそうだ。
「でもなんで中隊を揃えて……まあ基地にはウルスラやエルマがいるけど」
実際皆問題なく飛べている。
まわりに“いらん子”とは呼ばれるものの、場数は結構つんでいるからかもしれなかった。
と、智子が思っているかいないかのうちに。
「えっ、おお、あれれ」
異変が発生しているのはすぐにわかった。
不運の権化、ニパ。
彼女が履いているユニットパーツからなにやら煙が尾を引いて発生していた。
「ちょっと、ニパ、どうしたんですか?」
ハルカがいつになく心配している。
「あいつ、まさか今日のためのストライカーユニットの整備してなかったんじゃあ……」
ビューリングはどうやらあんぐりとしているようだ。
「わわっ」
「なにするねー!」
ニパは急に方向転換して、近くを飛翔していたキャサリンを巻き込んだかと思うと、きりもみ状に回転しながら急降下していった。
「大丈夫ですか!? ここで落ちたら大変ですよ」
幸いにも海の上ではないものの、木が茂る土地の上空ではあった。
「整備……忘れてたみたいです。整備班との連携が取れなくて」
ウルスラが残念そうに吐いた。
笑いごと、ではない。
壊し屋キャサリンと不運のニパの合体技。
少なくとも、それはいえるかもしれない。
武装脚からもうもう、と煙が吹き上がり、地上の森の中へと消えていった。
……墜落。
完全に降下しただ。
「まったく。通信は? ニパ、キャサリン……助けに向かうわ」
智子もさすがに異変に気付き、煙を頼りに空中から2機を探しはじめる。
「どこへ行ったんですか! こちらが見えます!?」
ハルカも後へと続いた。
「まったく、と、わたしもいわせてもらうがトラブルは自己責任じゃないのか」
捜索に参加しはじめたものの、ビューリングが言葉の棘を隠そうともしない。
……しばらく通信を頼りに墜ちた2機を探していたけれど、依然見つからず。
「今そっちが見えているから……そちらの見える位置へ行くね! ちょっと怪我したけどわたしは治癒があるから平気平気」
どうやら懸念された衝撃は、問題ないらしい。
「ちょっとやってみてほしいことがあるんですが」
一部始終を聴いていたウルスラが反応する。
「液体窒素の管をあけてもらえますか? 機体が吹き出す方向を下にして」
つまりは。
「たぶん噴射があって位置がすぐわかると思います」
……案の定、容器が不安定ながらも空中に浮き跳ね、ニパとキャサリンはなにごともなく回収されたのだった。