ストライクウィッチーズ スオムスいらん子中隊はばたく   作:ここの色。

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第九章 CHAPTER9-2 冷たいのは最初だけ

「普通、鳥にあるのは羽根じゃなくて翼ですよね?」

 唐突なハルカの言動だった。

 それは唐突でいきなりでありながら今日に関しても例外ではなく、どことなしにわたわた、としている。

「それがどうかしたの?」

 基地の中、椅子に腰掛けテーブルで紅茶の一揃いを展開させている智子は疑念を抱く。

「……確かに翼があるわね」

 極めたような冷静さを覗かせながら、智子は答えた。

「でも鳥って『羽ばたき』ますよね? 翼じゃなくって羽だっていう! これって変じゃないですか?」

 どうやらハルカは扶桑の独特な言い回しについて引っかかっているようだ。

「うーん、どうなのかな。わたし的には別に特に変という感じでもないし……」

 智子は人差し指で、汗の浮いた部分の頬を軽く掻く。

「絶対変です」

 こういう時は頑固なのだろうか、ハルカはちっとも譲らない。

 そんなもんかなあ、と智子は適当に相づちでその場を濁す。

 このような様子で智子が横目に見つつ。

「あれっ?」

 ……何かに気づいた。

 それは、軽快な伴奏として聞こえ、若干さわさわとした独特な雑音も混じっていた。

「これは……蓄音再生機の音?」

 智子の耳が判断するに、どうやら誰かが近くで円盤に詰められた曲を鳴らしているようだった。

 ほんの少し遅れて、人の声で歌が混じってくる。

 ふと何の旋律なのか気になり、智子が音を確かめようとすると。

「ふんふんふーん」

 聞き覚えのある声がした。

 と、間隔をあけずに調子よく戸が開いた。

 この場所は基地内にしても個人的な部屋ではなかったので、普段から鍵もかからず誰でも簡単に入られるようになっている。

「おっ、智子中尉じゃないか」

「何だ……ニパだったのね」

 ニパはまるでスオムスのいわく付きの妖精のような白い歯を見せて笑ってみせた。

 そしてどうやら、音楽はここに隣接している室内から窓越しに聴こえているようだった。

「また歌っちゃって。楽しそうで何よりだわ……いえ、皮肉ではなくてね」

 軽快な乗りに、思わず智子の口を突く。

「楽しいから歌っているんじゃなくて歌ってるから楽しいんだよ」

 ニパは若干はにかんだ顔で答える。

 こういう何気ない時に智子は彼女を『美人だ』と思うことがある。

 スオムス籍者特有の肌の白さも引き立っていた。

「そんなニワトリが先か卵が先か、みたいな……」

 あまり関係はないのかもしれないけれど、智子はパブロフとかいう世界でも著名な研究者の事を連想してしまった。

「わたしは準備の方が先だと思うよ」

「そんなもんなの?」

 ……そしてニパの発想に呆気にとられた。

 また、『確かに』という気持ちも湧いてきた。

「ところで」

 瞬時に智子の眼前にニパの姿が追いついた。

 唐突なできごとに、智子はそのまま豆粒を浴びせ食らった鳩のように、呆気にとられる。

「妖精って興味あるかな? 智子中尉は」

「……へっ?」

 一瞬凍ってしまったけれど。

 妖精。

 生粋の扶桑の民にはあまり馴染みがないけども、ことスオムスにおいてはそれは著明なものであるようだった。

「妖精。トントの事だよ」

「トント?」

 智子にとっては耳慣れない言葉である。

 一体何なのか整合性をつけようとああだこうだ考えていたのだけども。

「後のことはサウナで話そう、ねっ」

 ニパが続けるものの、結局の詳細は途中で切り上げてしまった。

「なおサウナの準備はできている模様」

「なんだか軽いノリね……」

 智子は少しだけはしゃぐニパに対して呆れを覚えた。

「雨ですよ」

 ……ふと、部屋の外から控え目に響く声があがった。

「ウルスラかな?」

 智子は窓の外を見た。

 その場は複数階の硝子張りである建物の一階なので、すぐにトボトボと歩いてくるウィッチ2人を認められた。

「雨いっぱい降ってきたねー」

 ウルスラと所を同じくして、側を歩いているキャサリンがぽつりとこぼす。

 で、あるのだが結構ハッキリと会話をしているらしく、敏感な智子の耳にも話の内容がとれた。

 そして実際、ぽつり、ぽつりと同調するように天気の具合が雨足に向かってきた。

 ……と、そんなおりに。

 耳をつんざくような“声”が聴こえた。

「カウハバ基地に駐留する中隊の面々に告げます! ……ネウロイの強襲です! 推定するに、かなり多数の怪異の影が!」

 エルマの声だと思われるその通知は、事態の深刻さを表現する非常に切迫したものであった。

 いうや、中隊の面々はすぐさまに発進の準備にかかる。

 そして基地の発着場でそれぞれは自分たちにあてがわれた兵器、ストライカーユニットを確認した。

「整備は……されているみたいね」

 智子は己の相棒とも呼ぶべき機体を調整しようとした。

 ……が、ほとんどその必要すらなさそうである。

「雨足が……だけどっ! このままビューリング、出る!」

 傍目に既に段取りを済ませたビューリングが発着するのが見えた。

「弾薬は?」

 流れで智子はいつもの愛用である銃器に触れ、特に見逃しはないか確認した。

「さっそくの補給が入りましたからね! 準備は充分です!」

 聴いていたのか、エルマの通信が皆に伝わる。

「よし! では行くわね!」

 智子は咄嗟にストライカーの中へするり、と両脚を滑り込ませる。

「ハルカはわたしの護衛をお願い!」

 用意を済ませた智子はわりあい心持ち長めに助走をとる。

 ふわり、とその身体が確実に浮いたかと思えば、あとの動作は早かった。

 そのまま滑走路にあたる領域で加速していく。

 空の方向へ上昇しつつ外へと開かれた基地を出ると、智子は後続するハルカの姿を確認できた。

 続いてキャサリンも同様に発進していく。

 ジュゼッピーナまで出てくると、太陽のまだ残っている元で、いつもの隊列を組み滑空していく。

 スオムスにおけるウィッチたちの中隊としての用意と訓練のたまものであり、普段の演習の体現である。

 と、智子はあるものに気がつく。

「何それ?」

 智子はウルスラの方に気を取られてしまった。

「おそらく、智子中尉はわたしの武装のことをいってるんだと解釈しますが」

「これは新武器です」と、ウルスラは続けた。

 一見ものすごくかさばっている、巨大な砲。

「フリーガーハマー二号君と呼んでいます」

 それは単に汎用の銃器を、複数の砲身に変えそのまま拡大したような安易さも見てとれた。

「その物騒な砲が二号……って、じゃあ一号もあったの?」

 もっともらしい智子の意見だった。

「一号は今は一号改として倉庫で眠ってます」

 本当に造っている上に既に改造済みらしい。

 こういうところはウルスラは“したたか”なのだ。

「雨で滑らない? 武器はしっかり保持してね!」

 いいつつ智子は前を見据えた。

「目標の詳細確認! ネウロイ中型です! でも……速い! 高速で移動してるようです!」

 エルマがいうには普段とは少し変わった手合いのようだった。

「どんな怪異ですら……この二号君の一撃があたれば勝てます」

「あたれば……ね」

 ウルスラは妙に自信ありげだったが、智子には軽いジョークのような感触を覚えた。

 実際、あまりにウルスラの砲は大きすぎるのだ。

 こんなもので大丈夫なのかと、智子は軽く悪寒を覚えた。

「新兵器で、やっちゃいましょう!」

 意外に通信の向こうのエルマは結構飲み込んでいるようだ。

「って、仕方ないわね……中隊、仲間は特にウルスラの支援を! ビューリングは速度をつけて囮をお願い! ニパは魔力壁で意識してウルスラを防衛して! ハルカはわたしについてきてね! あとは演習どおりに頼むわ!」

 智子がいうが早いか隊列を組み速度を上げた機械化中隊は、激しく複数のネウロイの塊へとぶつかった。

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