ストライクウィッチーズ スオムスいらん子中隊はばたく   作:ここの色。

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第十章 CHAPTER10 まっすぐ行けば魔はすぐに

 幸運は往々にして不幸足り得る。

 今日もそれは顕著であった。

 ニパは、物心の付くか付かないかのうちは、自分の運はいいものだと思っていた。

 ……しかし、それが一般における、“運の良さ”とはかけ離れている事を意識しはじめて既にだいぶ経つ。

「機影はいくつ?」

 智子はそんなニパたちにとっての指揮系統、つまりは隊長機をつとめる。

 薄々感じてはいたが、自分には普段足りないものを併せ持っている予感がニパにはあった。

「さあ行くねー!」

 飛んでいる一連の魔女による空中編隊の後方から、キャサリンが動力を吹かしながら追い上げていく。

(むしろ、わたしに近いのは彼女だよね)

 そんなふうにニパは思うことがある。

 ……壊し屋、としての才能。

 そして、たまに味方を巻き込む。

 ニパの持ち前の“運の悪さ”……いわゆる悪運とどっこいである。

「よそ見をしないでニパ! ネウロイの姿は見える?」

 しかられてしまったニパは前を注視した。

「……20機くらい?」

「いえ、あれは一見、2機に見えますが」

 ニパに割って入ったのはウルスラだった。

 信頼のできる程の科学的な分析にたけている一魔女。

「……つまり?」

 もう少し、彼女たちは目を凝らしてみる。

 すると、複数の飛行物体が細い線管のようなもので連結されているのが皆にも見てとれた。

「なるほどね……」

 智子は周りに察せられるくらいに唇を噛んだ。

 こちらが有利であるとは言い難い。

 ……未知の機体。

 ぬらり、とした冷たい汗が、智子の頬をつたう。

 人類の脅威であるところのネウロイと対峙するときはいつもこうだ。

 きっ、と前を見据える智子の表情。

「いつでも前向きに! 倒れるなら前のめり!」

 大音声で気合いを入れる。

「智子中尉は寝てるときもうつ伏せですもんね」

「ちょっとハルカ! どうしてそのこと知ってんのよ」

 そんなおりにもハルカは茶化す。

 ただ、張りつめた緊張はだいぶん晴れた。

 ……だが依然として残る戦闘の匂い。

 魔女たちは既にもうそれに“馴れっこ”ではあったものの、軽薄な油断は禁物ではあった。

 向こうにはウィッチの小隊は既に捕捉されているようだった。

 なぜなら……怪光線が彼女たちのすぐそばで瞬いたからだ。

「ぐおお! 痛い痛い! ……お腹骨折した!」

「腹部には骨はありませんよ……」

 どう見てもあたっていない智子の冗談ともとれる演技に、ウルスラは若干にも冷ややかな眼つきをみせる。

「まあ……でも……」

 きっ、と智子は前を見据える。

「やるしかないわね。……もちろん易々と撤退するなどは心情的にもあり得ないでしょう」

 まず、そこでスオムスの機械化小隊の本領が発揮された。

 つまりは、『当てて待避』をする。

 ブリタニアやリベリオンでいうところのヒットアンドアウェイである。

 速度を生かして、戦闘の優位をとるのだ。

「攻撃させてからその隙に距離をつめるわ!」

 特に智子とニパは早かった。

 それぞれが、決して陳腐ではない最新式の小銃をあびせる。

 敵であるネウロイの金切り声のようなものがあたりに響いた。

「コアだ! コアを探せ!」

 とっさに小隊の後方につけたビューリングのハスキーめいた怒号が通信器具を通してこだまする。

 いわれなくとも皆が把握していることだがネウロイはコアとされる部位が致命的な弱点なのであった。

 そこさえ射程圏に露出されれば、撃破はたやすい。

 だけれど思ったようにはいくはずもなく。

 複数機それぞれのコアの位置を探知する必要があった。

「わたしが出ます」

 こんな時にも冷静そのものであるウルスラがネウロイに近づき、相対的な速度をあわせる。

 ……迎撃に、『最適な』ように。

 照準は既に定まっているようだった。

 そして、耳をつんざくような風切り音。

 があったけれど。

「外した? いや……あたってはいるの?」

 ネウロイを目視した限りは、効いているかどうかの判断に智子は迷う。

 反対にいうならば……その程度の威力だった。

「……全然ダメじゃない!」

 さすがに智子も叱咤のように吠える。

「いえ、問題ありません」

 そんなそれなりに冷静なウルスラを尻目に、ビューリングが速度をあげてネウロイとの距離を詰めた。

 空の中に飛行した軌跡が残り、一気に当面の敵である怪異の元へ吸い込まれていく。

 近距離戦ならいけるかもしれない。

 ビューリングは交戦の状況下でとっさにそんなふうに思ったのだ。

 だけれど。

「どうやら……油断している隙はないようだな」

 はじかれてしまったビューリングの声と、伴う舌打ちが通信でウィッチたちに聞こえるように流れる。

「まっすぐ行くのが一番早いんだよ!」

 即刻ニパの音声も届いた。

 確かに、今のビューリングは慎重に回り込むように近付いていた。

 ネウロイからすると警戒も間に合うのだろう。

「任せて!」

 ニパは文字通り真っ向から直線を引くように一気にネウロイの群れへと突入していった。

 ……それでも。

「ああ、くっ!」

 瞬時に魔法の障壁を張って防いだものの、ネウロイたちの反撃にあってしまった。

「うわあ、墜ちる! ダメダメ、絶対ダメー!」

 そしてそのままニパは調整を失い、きりもみ状態へと陥り墜落してゆく。

 不運だった。

 広義の実際には不幸だったり、残念だったりするのだけれど。

 少なくとも今確定しているのは明確な不運だった。

「ニパっ!」

「ニパさん!」

 智子とハルカが追撃を阻止すべく立ち回る。

「見た限りは大丈夫ねー! それよりこっちね」

 キャサリンが見据えた先は例の連結ネウロイの姿があった。

 未確認の新型。

 よって弱点など、わかるはずもなく。

「行きますっ」

 通信が入るかのうちにジュゼッピーナが“それ”に連弾を浴びせた。

 特に効いている様子はないが、弾幕をはってさえいれば少なくともこちら側が攻撃されることはない。

 そういう打算はあった。

 ネウロイと呼ばれる怪異にはX-1だのX-9だのある程度系統付けられて分類されているが、連結ネウロイというべきこれは、クルクルとなにかつながっている片方を回転させたかと思うと。

「うわっ!」

 ビューリングは防いだが、体感としては光くらいの速度で熱源を繰り出してきた。

「押されてるわね……」

 智子率いる機械化中隊には珍しくないのだけども、今回も楽には終わらせてくれそうにない。

「……ゅうい、智子中尉!」

「ニパ、無事なの!?」

 先程ウルスラが向かったはずだが、どうやらニパはまだ助かってはいるらしい。

 そういう意味では幸運だったのだろうか。

「見えるよ!」

 ニパが反応している。

「なによ!?」

「コアが!」

 ニパの魔力傾向では遠視のような効果は持ってないはずだったけれど。

 どうやら大きい図体のせいでコア部分もそれなりなのだろうか。

「了解した」

 いつもの戦中の動きとは微妙に異なる感覚で智子はハルカを率いて下から迂回するように近付く。

 すると連結ネウロイを守るように側面から複数が圧迫してきた。

「させないねー!」

 それを、壊し屋であるキャサリンが実際壊しながら退けていく。

 ……後少しで。

 と、思った矢先に。

 光線がネウロイの下の方から瞬いた。

「えっ」

 智子は完全に不意をつかれた形になった。

 間に合わなかった魔力の障壁が渇いた音をたてる。

 ハルカの手が伸びるのが見えた。

「あ……墜ち……」

 飛行脚であるストライカーユニットへの魔力の供給が止まる。

「うあ……っ」

 智子はそのまま地面へと……。

 と、思った矢先。

「受け止めますっ!」

 ウルスラだった。

 一転、両手で智子を受け止めたまま上昇していく。

「助かったわウルスラ……ってあれ……武器は……?」

「こっちだよ!」

 同時か否か、連結ネウロイが突如に爆散した。

 いらん子中隊の面々が驚く中、地面に小さくニパを確認することができた。

 手には、狙いすましたように持ったウルスラのフリーガーハマーがあった。

「まっすぐ行くのが一番早いといったよっ……!」

 ……つまり、まっすぐ撃ったのだ。

 ニパの位置関係から、地面からちょうど真上になるタイミングだったのだろう。

「……あとはお願い! これで弾切れ!」

 ウルスラの発明は破壊力も申し分ない。

 あとは手落ちになったネウロイを殲滅するだけだった。

 ……ある種の幸運でもあった。

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