ストライクウィッチーズ スオムスいらん子中隊はばたく   作:ここの色。

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第一章 CHAPTER1 スオムスの夏風

「ん?」

 その流れるように美しい髪の色から転じて“銀狐”というふたつ名を持っているビューリング少尉は、じいっと注がれている視線に気がついた。

「これ飲みたいのか?」

 ビューリングの眼前には、テーブルの上に置かれた黒い液体の入ったカップがあり、ほのかな湯気をたてている。

「なんなんですか? その飲み物?」

 彼女は目をキラつかせ、まじまじと穴が空くほどにビューリングを見つめていた。

 ……ニパである。

「これか? インスタントコーヒーだよ。スオムス風の言葉では“カービィ” っていうんだってな。さっき煎れたんだ」

 「そんなに珍しいものじゃないはずだがな」とビューリングは頬を掻きながら続けた。

「それ、あたしにもください」

 ニパは興味津々な様子だ。

 (確かに、この戦争中では贅沢な嗜好品かもしれない)とビューリングは思った。

「苦いぞ。さらにインスタントだから酸味も強めだ」

 遠い島国ブリタニアの流通から取り寄せた粉を瓶に入れて、調理場に出して置いてあるからお湯を沸かして作ってこい、ビューリングはそんな説明をニパにしてやる。

「わかった! 行ってくるね!」

 いうが早いか、ニパは素早く勢い余って左右にぶれて壁に体をぶつけながら駆けていった。

「あぶなっかしいやつだな……」

 ビューリングは呟く。

 そんな声は特に周囲に聴かせるつもりはなかったのだが……。

「確かに、ね」

 智子がいつのまにかビューリングの座る後ろに構えていた。

 隊の仲間が思っていることだが、“こういう時に気配のしない智子中尉”はたまに神出鬼没を発揮して、まるで扶桑の伝説である存在の“ニンジャ”のようだ、とまことしやかに噂になっている。

 ただ、本人曰く、「サムライの方が好きだわ」らしかったのだが。

 そそくさと智子は窓を開け、外から新鮮な空気を部屋いっぱいに広げる。

「智子、あの練習生大丈夫なのか?」

「大丈夫って、なにが?」

「彼女もストライカー(飛行脚)を使うんだろう? 実戦で訓練するのか?」

「ええ」

 顎に指を当てて一見、智子は厳しい顔をしたが、それを補うかのように言い放つ。

「わたしがフォローするわ。ハルカが丁度ふたりになったと思えばいいもの」

「わたしは面倒は御免だからな」

 そういってコーヒーをあおるビューリング。

 ……その瞬間だった。

 ドーン!! と、突然けたたましい大音声が広間を揺すった。

「なっ、なにがっ」

 智子はあまりの大きな響きに驚き、慌てふためきその拍子に後頭部から転びそうになった。

 見るとビューリングも勢いでコーヒーを床にぶちまけていた。

「一体どうしたんだ!?」

 通路への扉を開けると、走ってきたエルマ・レイヴォネン中尉が丁度そばを通りかかったので、流れでビューリングはエルマの胸ぐらを掴んで激しく揺すって状況を問う。

「ビューリング、しょ、少尉、そんなにシェイクしたら! わたし倒れちゃいます! わわわ……調理場でなにがあったみたいですっ!」

 エルマはうろたえて目じりには涙さえ見せている。

 それくらいの衝撃ではあった。

「とにかく、現場に行きましょう」

 こういう時こそ冷静に……わたしは隊長なんだから。

 望まれて隊長になったんだから。

 智子たちは現場へとひた走る。

 こういう場面でもリーダーである智子は、なるべくふたりの前で慎重に落ち着いた空気を作ろうとした。

 調理場には先についたらしいハルカとウルスラ、キャサリンがいた。

 ジュゼッピーナを除けば、スオムスにおける義勇独立飛行中隊の面子が勢揃いだ。

 案の定、そこにはニパがいた。

 あたりに広がるのは爆発があったらしい、焦げ、すえた匂い。

「うわーん! とっ、智子中尉ー!」

 待ってましたとばかりにニパが智子に抱きつく。

 智子に、まだ大人になっていない柔らかい感触の波が襲いかかる。

「ニパ……あなた」

 そこで智子はあることに気がついた。

「あなた……髪が焦げていない?」

 確かに、ニパの髪の先が焦げているようだった。

 注視してみると、台所として調理場のコンロにあたる一角が真っ黒になっている。

 先ほどの破裂音は、どうやらここが発端らしかった。

「ニパがなにかを爆発させたの?」

 智子としては当然の帰結だった。

 今、目の前にいるニッカあるいはニパという少女がやったとしか、思えない。

「ごめんなさいー!!」

 ニパは案の定だった。

 つのる思いを吐きだしはじめるニパ。

「あの、あたしのドジで、コーヒーのお湯が!」

「智子中尉、ここに転がっている黒いのはポットのよう」

 ウルスラがなにやらを拾う。

 確かにその残骸のようなものはポットであるらしかった。

「なんでポットが転がっているんだ?」

 ビューリングがあきれるが智子も同意見であった。

 思うことは一緒のようだ。

「お湯をいれていたんじゃないの?」

 実際この様子じゃあ、もうあきれるしかない。

「あの、あたしドジで……」

 ニパの表情も粛々と、やがて段々ともうしわけなさそうになっていく。

「えっと、わたしわかります! わたしもドジで……ニパさんのように失敗することが」

「ドジと事故は違うぞ」

 ドジな属性を持っているからかいくらか疎通しそうなエルマに対して、ビューリングが冷静に突っ込みを入れる。

「じゃあドジコでいいねー」

 さっきまで遠目にしていたキャサリンが割って入った。

「ドジ子ですか!?」

 その言葉にエルマが微妙に反応した。

「焼けたポットの中にあるコーヒーの粉末らしきモノが完全に炭化しているよう」

 そんなことをしている内に、ぺろっと舌で舐めてウルスラは成分を確かめていた。

「と、とにかくっ」

 このままではなんとなく収集がつかない気がして、隊長として、智子は横槍を入れる。

「ニパ、ここでなにが起きたの?」

「……インスタントコーヒーを煎れたくて……」

 そして語りはじめるニパ。

「それがどうしてこんなことになるんだ?」

「ちょっとビューリング、黙ってて」

 すかさず智子はたしなめる。

「はやくコーヒーを煎れたくて、『じゃあ魔法使ったらいいんじゃない』ってなっちゃって……そしたら丁度銀のポットだったので……ほら銀の弾丸ってあるじゃないですか? オオカミ男によく効くやつ……銀って魔力と相性が良いとか知ってますか?」

「えっそうなの?」

 智子は横を見るがビューリングは頷いていた。

 特にウルスラは「常識」という合図を送った。

「あたし使い魔もまだないし、聞いて! 少ししか魔力使ってないんだよ! ……ごめんなさい……」

 一所懸命ニパが必死に訴えているのが傍目にもわかる。

 深々と頭を下げると、少女は予想以上に小さくなっていた。

「わかったわ……じゃあ、外でも走りこみしてなさい。一応、とりあえずの罰よ」

 この有り様にさすがに智子も急な疲労感を覚えてしまった。

 “くらっと来た”というやつだ。

「調理場はまだつかえるねー、よかったよかったねー」

 なぜだかさっきから妙に楽しげなのがキャサリンだった。

「よくないわよ……誰がこれ片付けるの」

 それを問い正したい智子だったが、相手はただの新入りとなっては隊長の方が折れるしかない。

「不運だー!!」

 声が聞こえたかと思えば、基地の窓から、今に走りこみをしようとする少女の姿があった。

「まったく……先が思いやられるわ」

 智子はため息をつくが。

「ビューリング、誰かになにかついてる?」

 先程からビューリングの様子が変だ。

「ビューリング?」

 どうも細かく唸っているようだが、智子には不思議だったので直接問いてみる。

 ビューリングは神妙な面持ちでいう。

「……なあニパのやつ『使い魔はまだない』っていっていたよな? じゃあアイツ、魔法の使い方、誰からも教わってないんじゃないか……?」

「えっ!?」

 魔法に関しては確かに初心者、のはず。

 智子もそう聴いている。

 の、はず。

「なのに、“魔力を暴発させた”……? じゃああの子の魔力って……!?」

 遠くのほうから不運を嘆く声が風に乗って聞こえた気がした。

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