ストライクウィッチーズ スオムスいらん子中隊はばたく   作:ここの色。

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第三章 CHAPTER3 姉の存在

 智子がそれに気付いたのは昼下がりの頃だった。

 なにやら基地の様子が変なのだ。

 近く東の側にある“ラッパ湖”のあたりを空の上よりしばらく偵察哨戒してから、カウハバ基地に智子が帰ってきたのが大体夕方ごろである。

 幸いにもネウロイの影は見なかったが離着陸場に普段待機している兵士の数が妙に少ない気がした。

 後の方から合流した、いつもなら口煩くしているハルカも深妙な面持ちになっている。

 智子に続いてなにかを悟ったらしい。

「あの、なにかおかしくありませんか?」

「うん」

 智子はハルカに同意すると、そのまま着陸耐性に入る。

 やはりというか出迎えの兵は極端に少なく、正確にはたったふたり程度しかいなかった。

 普段は十人はいるところなのだけれど。

 高々度の空中から流れるように地面に降り立ち、脚に装着していたストライカーユニットをいそいそと脱ぐ智子だったが、疑問を早速中隊仲間に訊いてみることにした。

 ……だけれど、そんな時に限って肝心のメンバーがいない。

「あれー?誰もいませんね」

 ついぞさっきまで僚機だった、のほほんとしているハルカくらいしかいない。

「確かに……妙だわ」

 こうなったら臨時の司令であるハッキネン大尉に詳細を訪ねようと智子は基地内を大股で歩みを進めると、目の前を横切るなにかの姿があった。

「ウルスラ!?」

 そこにはウルスラがいた。

「なにしてるの?」

 しばらく不思議な感覚を伴っていた智子であったが、ウルスラがあるものを持っていることに気付く。

「それ……カメラ?」

「……カメラ」

 智子の反応にウルスラはしばらく呆けたようになっていたが、やがて得意そうにカメラをひけらかしはじめる。

「カメラを記者から、ちょっとだけ借りてる」

「記者?取材とかするあれ?」

「はい」

 ウルスラはすかさずファインダー越しの視線上にハルカの姿をとらえ、小気味よい音を立ててカメラのフィルムに収める。

 合わせてフラッシュが焚かれ、辺りが少し明るくなった。

 そんな光景が展開されていると……。

「ウルスラ!早く智子たちを連れて来いといっただろ!!」

 ビューリングが廊下の向こうの方からやってきた。

 それに合わせてエルマとジュゼッピーナも向かってくるのがわかる。

 ……どうやら機械化航空歩兵の面子はもっと奥の方にいたようだ。

「おっと、智子、ハルカもいたのか」

 ビューリングはウルスラの横にいる智子たちにたった今気付いたらしい。

「どうして基地がこんな雰囲気になっているの?」

 ひとつ智子は尋ねてみることにした。

「実は……」

 その様子にビューリングは頬をポリポリ掻きながらダルそうに応える。

「このカウハバに、遠くから取材が来てるんだ」

「その話はわかったわよ……それよりなんで?」

 ウルスラの反応で智子にも事態は薄々わかってはきていたが、そもそもの原因が掴めていない。

 なぜ、そんなことになっているのか。

「きっと最近のスオムスでの活躍が認められたからですよ、素直に喜びましょう!カメラどこ?カメラ!」

 こういうのは初めての経験なのか、ハルカはかなり乗り気なようだ。

 それを押さえつける手も腕もなく、智子たち一行はエルマとビューリングの案内の元、来客用の部屋へと導かれる。

「ここですよ」

 先導するエルマが立ち止まり、ゆっくりと重量のある扉を開け放つと、いつもとは違う空気が周りを包む。

「わっ」

 智子は思わずも驚いた。

 すぐの横にいたハルカも不意打ちを食らったような顔をしている。

 即座にパシャ、パシャと光を伴うカメラのシャッター音が辺りを照らしたのだ。

 フラッシュを焚いたのは記者だというのは見た目でわかる。

 インタビューのためであろうペンを携えたメモ帳持ちの男や、特にわかりやすいのが普通より大きい業務用のカメラを携行しているからだ。

 さぞや立派な記者たちによる折角のお迎えであったが、あまりに唐突な刺激に智子は目を閉じてしまった。

 きっと、これらのフィルムには眠れる森の美女として写っていることだろう。

 智子がそんなことをあれこれ思っている内に。

「ウルスラさんが来たぞ!!」

「ウルスラさん!もっと前に!」

「ウルスラさん!」

 と、面々がまくし立てる。

 が。

 しかし、すこぶる記者たちの様子がおかしい。

 どうも……さっきからウルスラに重点を置いているような。

「ウルスラさん!なにかひとこと!!」

 気のせいではない。

 記者たちはウルスラにインタビューを求めている。

「なんでですか?わたしたちは?」

 ハルカが怪訝な顔をして、傍目に顎が痛そうなほどにあんぐりとしている。

 そこに、エルマが指を立てて説明をはじめた。

「えっとですね。実は……」

「実は?」

 智子は思わず聞き返すが、気が早すぎたためにエルマが『落ち着いて』を表しているらしい手によるジェスチャーを振った。

「実は……ウルスラさんの姉さんって知ってます?」

「ウルスラの姉さん?……ハルトマン家の?」

 眉毛を曲げる智子だった。

「確か、エーリカというお姉さんがいるんでしたよね?」

 ハルカも反応する。

 ウルスラの姉とは、エーリカ=ハルトマン。

 否が応でも血のつながるウルスラの双子の姉のことである。

 外見は瓜ふたつでも性格は教科書主義のウルスラとは似ていないと聞いたことがある。

「そのエーリカさんが戦果をあげてカールスラントから表彰されてですね……」

 ああなるほど、と智子は納得した。

 要するに。

 取材とは……ウルスラ目当てなのだ。

 ウルスラから情報を得るために。

 このたびエースとして名を上げたと思われるエーリカ=ハルトマンの詳細を訊く。

 そのために。

 義勇独立飛行中隊へと記者が大挙してやってきたのだ。

「だからわたし、逃げてきたの」

 開いた扉の向こうからひょっこり顔を覗かせたウルスラが、バツの悪そうに応えた。

「じゃあなに、わたしたちってぬか喜びしたってことですか!?」

 まるで取材班の登場を喜んでいたような口調でハルカが唸った。

「そんなことないですよ。ついでにスオムスの機械化航空歩兵に密着する予定で……」

 カメラを構えたひとりが、智子たちをなだめようとしていたようだけれど。

「逃避する」

「あっ、ウルスラさんが逃げたぞ!」

「ウルスラさん!カメラ返してください!!」

 走りだすウルスラ、追従する記者。

 どうやら追いかけっこが始まったようだ。

 ドタドタと基地全体が慌ただしく騒ぐ。

「全く、とんだ茶番みたいな話ね」

 智子は深々とため息をついた。

 いつもなにかと冷めているビューリングも「やれやれだ」と肩をすくめてみせる。

 エルマは少し引きつったまま硬直した顔で器用に笑っていた。

 ……その時だった。

 カウハバ基地全体に、サイレンの轟音が鳴り響いたのである。

「警報っ!?」

 こういう時は智子は速い。

 仲間のそれを見ずにすぐさま自室に戻り、壁に掛かっている扶桑にいた頃から愛用の扶桑刀“備前長船”を掴み、携え、発着所へと急ぐ。

 まだ人が少なかったものの、智子はストライカーユニットの使用に障害はないと捉えた。

 そこには逃げてきたらしきウルスラが既にいた。

 智子の隣である。

「わたしは、いつもお姉ちゃんと比べられる……」

 ウルスラは顔を伏せて震えていた。

「ウルスラ……

 それがいわゆる“武者震い”の類なのかは智子にはわからなかった。

「でも、わたし、軽率だと言われても行く。全部……皆を守るために。それだけは、その感情だけは、誰とも比べられない」

「……ええ、行きましょう!わたしたちの、信念のために!!」

 そしてネウロイが街よりまだ遠いことを確かめる。

 今回はウルスラに先に行かせるために、智子は機体の制御を多少遅らせることにした。

 急を要する中での智子のわがままだった。

 

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