ストライクウィッチーズ スオムスいらん子中隊はばたく   作:ここの色。

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第三章 CHAPTER3-2 姉の存在

「敵はどこっ!?」

 智子は吠えていた。

 ここは上空の切れ目。

 智子の両足に装着された飛行脚「ストライカーユニット」が自身の魔法力を注がれて鋭いうなりをあげている。

 このユニットによって智子たちウィッチは空を比較的自由に飛べるのだ。

「どこなのよっ!」

 智子は二度叫ぶ。

 ……今をもって、つかの間の平和は去ってしまった。

 近頃は、ウィッチたちは気持ちも緩んで多少日和っていて、怪異「ネウロイ」と戦争中である事を一時的とはいえ忘れてしまっていたくらいだった。

 その人類の仇である驚異が来ないなら、来ないでそれも悪くはない。

 だけれども。

 微妙なバランスであったが、いとも簡単に破られてしまった。

「こちら『雪女』、聞こえますか智子中尉」

 通信機を通して智子に『雪女』こと基地司令のハッキネン少佐から呼びかけが入った。

「聞こえるわ!」

「了解……今いるところより南の方です。まだやや遠い」

 智子は体を翻すと、そのまま空中でスピードを緩め速度を静止に近づけた。

 あたりの状況を確かめると、遠方にウルスラがいるのが見えた。

 通信はウルスラの方にも入っているはずである。

 そのまま南の側に向けウルスラはぐんぐん速度をあげていく。

 やがてウルスラのシルエットが砂粒くらいになったと思うか否かの時、智子は遠方の爆発光を確認した。

 ……交戦が始まったのだ。

 破裂は細かい火の粉をあげて、噴煙は宙を舞う。

「ウルスラ!」

 智子はウルスラをフォローするため、持ち前の魔力を解放して速度を上げる。

 そんなおり、そこでハルカから通信が入った。

「ちょっ、待ってください中尉ーっ!わたしは中尉の僚機じゃないですかー!友軍機を置いていくなんてー!」

「ハルカ!急ぐわよ!」

 あまりに焦っているのか少しノイズ混じりの交信だ。

 一方。

「待たせたな」

 通信に割り込んできたのはスピットファイアMk5のストライカーを駆るビューリングだった。

 智子より早くウルスラの元にたどり着きそうだ。

「えへへ……わたしもこうしてやってきたのかなーってさ……」

 エルマもそれに続けとばかりに大空で加速している。

「飛んでいくねー!」

 ついでキャサリンも乗り気だ。

 その機体であるワイルドキャットも軽やかな音をたてている。

 ウィッチたちの進軍である。

 ……ところが。

「あれ?」

 智子はそこで疑問に思った。

 何か様子がおかしい。

「新入りのあの子は?どこにいったのよ」

 気になったのはニパの存在である。

 彼女がいないのだ。

「確か、ニパさんは実戦経験はなかったんですよね」

 心配げにエルマがいうが、確かにその通り、ニパはまだストライカーを操る技量の怪しい新人のはずである。

「ニパ!どこなの!!」

 智子は油断はすまいと索敵を緩めないまま、その範囲を広げついでにニパの姿を探す。

 だが幸いにも近くにはネウロイの影は見当たらない。

 確認はとっていないもののニパにもストライカーユニットが準備されていたと思われる。

 だから、まさかという事も有りうる。

 (ひょっとして、ストライカーを上手く操縦できずに墜落したんじゃない?)と、智子が思いかけているところに、ノイズ混じりの通信が入った。

「……うい……もこ………ちゅうい」

 聞き覚えのある声だった。

「……何? ニパなの? どこにいるのよ!?」

 智子は通信機をあれこれ調整してみたが、あまりに雑音が酷すぎる。

「こちら『雪女』、部隊長、中尉には聞こえてますか?」

「いったいニパはどうしたの!?」

「智子中尉、ニパさんは誰よりも早く出撃して……体制を崩して墜落してしまいましたっ!!」

「ええっ!?」

 ……ちょっとした衝撃だった。

 そして再度、智子は通信を試みる。

 半ばやけくそ気味で当てずっぽうに触ったのが上手くいったのか、今度は智子にも聞き取れた。

「中尉……わたし、墜ちちゃった!!今、周りにはネウロイがいっぱいで……!救援には来ないで!ふ……不運だー!!」

 それは『早く来て』と同義の言葉だった。

 少なくとも智子はそんなふうにとらえた。

 儀式のように胸を撫で、思い切った智子はストライカーに喝を入れる。

 智子の使い魔であるキツネがそれに呼応して反応する。

 ……いつもの事だ。

 ネウロイを倒す……その事だけに集中すればいい。

 ささいなトラブルは慣れっこである。

「行くわよ!ハルカはわたしの後方へ」

「はいっ」

 ハルカは銃を構えなおすと、ぴったりと空中で器用に智子の下部につける。

 皆の通信機に「不運だー」とニパの萎縮した声が響く。

 確かにニパは不運なのかもしれない。

 というかこんな展開は歴戦の智子にあってもはじめての事だ。

 雲の切れ間、空を縫うように前進しながら聞こえたのが「ひょっとするとトラブルメイカーの素質があるんじゃないかな」とのビューリングからの声だった。

 なんにせよ、助けねば。

 助けて、殲滅する。

 ただそれだけの事である。

 一番最後に起ったジュゼッピーナの駆るG50の離陸動作を確認すると、先行するウィッチの元へとそれぞれが急ぐ。

「待っていてね、ウルスラ! ニパ!」

 智子たちは現場へと急ぐ。

 ……怪異がはびこる空域には多数の噴煙が上がっていた。

「遅い」

 ウルスラが既にいくらかの戦果をあげているようだ。

 不思議と、かすり傷すら負っていない。

 そのまま軽やかに自身のユニットであるFw190A-0の操縦をこなしている。

 放つ火気の弾筋はネウロイに吸い込まれるように飛んでいき、破壊によりむき出しとなった結晶状の核……つまりコアに命中していく。

 甲高い音をたてて、ネウロイが沈んでゆく。

「先にある程度活躍しておきました」

「よくやったわ、ウルスラ」

 「やったよ」の手動作をするウルスラ。

「たいしたもんねー、帰ったら皆でパーティね」

 キャサリンの感嘆も決して不当ではない。

 そしてそんな中でも決して油断はしてはならなかった。

「残りネウロイは……小型が十機!大型二機です!」

 唐突にエルマの索敵情報が飛んできた。

「さっさと終わらせよう」

 ビューリングは己の二十ミリ機銃「ヒスパノ・スイザ」の連射をネウロイに叩き込む。

「あと十一!」

 狼煙のようにあがった爆煙が智子の視界を半分ふさぐ。

「いくわよ、ハルカ」

 智子は姿勢を正すと、僚機であるハルカの動きを庇いながら、ふたりで勢いをつけて降下する。

 目標は、大型のネウロイだ。

 銃撃をくらい鈍い音をたてて、たった今まで驚異だったネウロイが見事には崩れ落ちる。

「あと十機です!!」

 エルマがいうかいわないかの時に。

「ちょっと待ってください!」

 ハルカが異変に気付いた。

「ネウロイの群れが……急に地上の方に集まってます」

 その異変に智子も気がついた。

 なんて事のない陸上、確かあのあたりは……。

「こちら『雪女』、ネウロイが……ニパを狙ってます!!」

 ……やられた。

 これではニパを人質に取られてしまっているも同然だ。

「ニパ!聞こえる?なんとか逃げて!」

「聞こえてますよ-! どうやら囲まれてます! どうしてこうなっちゃったんだー! 運がないよー!」

「ニパ、ストライカーをはやく使うねー」

 キャサリンが心配そうに声を送る。

「見てなかったんですか! ストライカーは墜落で壊れちゃいました! 全損ものです! これでよく生きてた……」

「早くその場を離れて! こちらも善処するわ!」

 智子は自慢の刀『備前長船』をがっちり構えると、仲間と一緒に高度を下げていく。

「間に合え!」

 と同時に、ウルスラが何かを振りまきはじめたのが見えた。

「え?」

 すると、ネウロイの動きがどこかおかしくなった。

 今までニパの落ちたらしき点へと集中していたのが、散り散りになっていく。

 どこか慌てたような反応。

 何かあったのか。

 智子は疑問に思うよりも仇敵の撃墜を急ぐ。

 金属が切断されるかのような衝撃が繰り返される。

 智子の刀がネウロイらの中心に斬れ刺さり、そのコア部が割れる。

 キャサリンやビューリングたちも、めいめいがネウロイを打破していく。

 辺りを見回し、ネウロイの数が二、三ほどになったところで一息つく智子だった。

 気になるのは、ウルスラが何をしたか、だ。

「ウルスラ?」

「上空でアルミを蒔いた」

「なんですか? アルミって?」

 好奇心旺盛なハルカの言が智子とウルスラのそれに割って入った。

「チャフと呼ばれている技術」

「チャフ?」

「ネウロイの索敵反応を狂わせたの。それに魔法力を付加した特製のモノ……敵には巨大な戦闘機が急に現れたように『見えた』」

「ウルスラのアイデアなの?」

「本で見た事があるから。わたし、姉に負けてばっかりで……今度は、負けられないから」

 画期的な戦法だったと智子はウルスラに感嘆した。

 そして、まだ多少いるものの、ほぼ手負いのものだけになったネウロイの残存体を倒すなど造作もない事だろう。

 終わった。

 間違いなく、中隊の勝利である。

 ……勝ったのだ。

 智子は朗報と併せて通信を入れた。

「えー、ニパ。今から助けに向かいます、どうぞ」

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