ストライクウィッチーズ スオムスいらん子中隊はばたく   作:ここの色。

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第五章 CHAPTER5 北極に一番近い夏

 エルマたちが哨戒に行っている間だけのつもりで、智子が単純な気まぐれから基地の仮眠室を覗いてみると、そこに隊員が眠っているのを確認することができた。

 智子は、誰だろうかと少し思案した上で音をたてないように近づいてみると、どうやらこの場で寝ているのはウルスラであるようだった。

 彼女は備え付けのベッドの上で膨らんだシーツを寝息で軽く上下させている。

 ウルスラ・ハルトマン。

 本が好きな性格で、その頭の沈む柔らかそうな枕元にもいくつかの書類が散らばっている。

 何かの資料を採っている最中に就寝してしまったのだろう、おそらくは。

 智子はそっと書類の紙束に目を通す。

 ……見慣れない単語の羅列。

 そこに描かれたいくつかの図案。

 頭を捻る智子であったが、しばらくしてようやくそれがイラストでストライカーを表しているのに気付いた。

「ん……これ……新型のストライカーの設計です」

「あれ、ウルスラ起きちゃった?」

 眠たげな眼をこすりつつ、いかにも低血圧気味な人に特有なだるい声をあげるウルスラ。

 ばつの悪そうにしている智子の前でムクリ、とそのまま寝台のへりに腰掛ける。

「おはようございます。……あ、これですか? ジェットストライカーの設計です」

「ジェッ……ト? 何それ」

 疑問に感じる智子を迎えて、ウルスラは気だるそうに答えた。

「ウィッチの駆るストライカーも日進月歩。従来のレシプロ機関に頼らない全く新しいモノが必要なんですよ」

「じゃあ、これって新兵器?」

 だんだんと智子にも飲み込めてきた。

 新型の武装。

 つまりは限られた戦力の増強のために。

 ウルスラは書類をまとめてベッドの上で束を揃えた。

「これウルスラが考えたの?」

 ちょっと信じられない気持ちが智子にはあった。

 だがウルスラは平然としていて。

「……まだ未完成で理論くらいしかできあがっていませんけど。素材の剛性も足りてないですし圧倒的に強度不足です」

「へえ……」

 智子は存外意外に感じていた。

 ウルスラにそんな素養があったなんて、と。

 ただの教科書人間ではなかったのだ。

「……見てみます?」

「い、いやいやっ、わたしはいいわよ。結構」

「扶桑の人はハッキリ『嫌』っていいませんよね。悪いところです。……大丈夫、簡単には見せませんよ。油断してたとはいえ門外不出の機密にあたりますから」

「うう……う」

 ちょっとした気迫に押される智子であったけれど。

「そんな事いわれても、み、見ないわよっ!」

 もはや完全にウルスラの領域である。

「これが完成したら、きっと人類にとっては高い戦力になるはずです」

 ウルスラはいくつか散らばっていた図案を整える。

 ……その時だった。

「緊急の合図!?」

 一種のサイレンとして突如鳴り響いた大音声に、ふたりは反応を示す。

「行くわよ。ウルスラ!」

「はい」

 広い窓が特徴的な臨時の基地司令室には、ビューリング少尉が既に待機していた。

 そしてそこにいるのは、智子たちから見て現状の司令であるハッキネン大尉が深々とした椅子に鎮座している。

 思わずかしこまってしまう智子とウルスラであった。

「聞きましたよね」

 まだ隊員全員は揃っていないが、ハッキネンは口を開いた。

「いえ、まだ何も知りませんが」

 ウルスラはこういう時は正直である。

「わかりました。では率直にいいます……実は、ここより東のオラーシャでネウロイの報告がありました」

「えっ」

 智子に軽い衝撃が走った。

 軍人である智子にとっては、もはやちょっとした想定外な出来事には驚くことも少なくなったけれど、今を持ってしても慣れっこにはなれない。

「あっち方面はガリア圏やカールスラントの領域よりもここから近いので、我々も部隊を派遣しようと思いまして」

「ちょ、ちょっと。じゃあここ、このスオムスのここは誰が守るのよ」

 流石に智子も引っかかるところではある。

「それは……既にアホネン大尉と妹たちがいます。義勇独立飛行中隊は北の地オラーシャでもたついてるネウロイを叩く、という算段です」

「はぁ……」

 ため息とも肯定とも取れる声をあげる智子だった。

 そんなおり。

「……わたしも来たねー!」

 扉が勢いよく開け放たれる。

 この口調は今更説明するまでもなくキャサリンのそれであった。

「ハッキネン大尉、少しいいか……? それを発見したからといって、そんな遠征をするほど重要なモノなのか?」

 ビューリングはやや先時より抱いていたらしい疑問を放つ。

「今回の怪異を見つけたナイトウィッチの索敵能力は一級品です。聞いたところによると銀髪でフリーガーハマーという9連ランチャ-の使い手だっていってました」

 ハッキネンはにへら、と笑みをこぼすが、なんとなく不謹慎だと思われたのかすぐに元の真顔に戻る。

「で、誰が行くの」

 智子の方も疑問があった。

 それは今回の編成に関してだ。

「エルマさんはジュゼッピーナ准尉と哨戒に行ってるままですし、……やっぱり」

 淡々と語るハッキネンはうん、と頷いてみせた。

「やっぱり、智子中尉が適任ですね。あとは僚機でおなじみのハルカさん。ビューリングとウルスラさん、キャサリンさん、ニッカ……ニパさんはストライカーの調子が悪いので待機ですかね」

「あの……」

 多分に何かをいいたいのであるが、智子には適切な言葉が見当たらないようだった。

「わかったねー」

「ものわかりいいなキャサリン少尉」

 ビューリングは呆れた具合でリベリオン合衆国のウィッチを冷ややかな眼で見ている。

「とかいってるビューリングは納得できないのかねー」

「ま、まあ命令なら従うまでだが」

 そんな風に呟くとビューリングは目を伏せてしまった。

 一方で語らないウルスラは窓辺でじっと喋らず資料を読み込んでいる。

 ……そんな流れもあり、しばらく静寂が訪れるが。

 唐突に。

「あの……遅れて……きました」

 扉の方からか細い声がする。

「えっと……ごめんなさい……」

 入り口に開かれたスキマからちょん、とギリギリ見えるかどうかで目線を覗かせているのは……ハルカであった。

「その……もう会議は終わりました?」

「まだ大丈夫ですよ」

 ハッキネンが答えるや否や。

「ほほほんと!? じゃあ聞きますよ、なんなりと!」

 ハルカはすかさずハッキネンに駆け寄り両の手を握る。

「実は……」

 ハッキネンは短くハルカに概要を伝えた。

「大変なミッションねー」

 と、キャサリンが茶化す。

 だけれど。

 確かに、簡単にはいってくれるが、といったところだ。

 口で言うのは早い。

 『オラーシャの怪異を倒せ』。

 ただ、それだけではあるのだが。

 智子は不安を隠せない。

 扶桑には冬将軍という格言がある。

 だがウィッチは低温あるいは真空状態にさえ魔法による耐性がある。

 心配なのはそこじゃない。

 『いらん子』と呼ばれることもある自分たちは、果たして今回の遠征で活躍できるのか。

 幸いにしてスオムスは怪異ネウロイの侵攻が割合手薄なほうである。

 今現在では、という前置きはあるけれども。

「やるしか。ないのね」

 智子は固く握るこぶしの力を強くした。

「ああ」

 ビューリングも強ばった面持ちでそれに答えた。

「お願いしますね」

 ハッキネンは白々しいほど淡々といい放った。

 反対にいえばそれだけ簡単な作戦だと思われている、ということなのかもしれない。

 智子の胸は緊張で熱くなっているようだ。

 ……哨戒中のエルマ達からの気の抜けたな通信が一時の安息を生んだのはそのころであった。

 

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