ストライクウィッチーズ スオムスいらん子中隊はばたく   作:ここの色。

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第五章 CHAPTER5-2 北極に一番近い夏

 魔女たちには『寒さという概念』が欠けている、とはよくいわれる。

 原理は簡単である。

 いやある意味簡単とはいい難いのかもしれないが。

 その身に溢れる魔力で外部の冷気を遮断している構図なのだ。

 これは超高度における酸素量の不足に対しても同様のことだ。

 人間という枠内であってもなお、あらゆる意味でウィッチは『特別』なのだ。

 ここオラーシャへ向かう領空の飛行でもそれは遺憾なく発揮されていた。

 ……そんな折である。

「皆さん……ヴァンパイア、って知ってますか?」

 エルマから部隊のウィッチたちに通信が入った。

 それはともすれば聞こえないかというくらい些細な声であったけれど。

「ヴァンパイア? ってあの活動写真の?」

 ビューリングが気の抜けた返事を返す。

 まだネウロイが確認されたという地点は遠い。

 小話できる余裕もある。

「別にちょっとした小説とかでもいいんですが……」

「なぜそんな話を?」

 空の上、ビューリングはやや後方にいるエルマを見やる。

「いえ、少し小耳に挟んだんですが……」

 続けて、恐縮とした表情でエルマは件の用件に関して雄弁に語る。

「なに……吸血ネウロイだって!?」

 ビューリングの驚きは智子にもよく伝わるものだった。

 それはこういう経緯である。

 オラーシャに『血を吸うネウロイ』が現れ、現地の部隊が敗走したというのだ。

 事の真偽は兎も角として、全く怪奇、面妖な話ではある。

「そんなの、智子中尉からしたらちょちょいのちょいです!」

「ちょちょい……」

 ハルカの他人の力を誇示する形の妙な自信は、尚更ニューリングの不安を煽った。

「……がんばりましょう、ね」

 エルマからの激励の一息もどことなく頼りないのだった。

「どうにせよネウロイなんて一捻りねー!」

「前に出すぎだぞリベリアン。そうやって祖国の名誉に恥を塗らないようにほどほどにな」

「この人類のピンチ、巡ってきた展開に胸を弾ませるのがわたしというウィッチねー!」

 弾むくらい大きな胸を、まるで誇示するように張り

 キャサリンといえはかなりの乗り調子で、ビューリングの“たしなめ”にも動じない。

「今回の作戦は遠征です。そのストライカーユニットを破損しないように注意してください、整備や補修を期待しないように」

「気にすることないね」

「わたしが気にしますっ」

 ……そんな単調なやりとりをしばらく繰り返していると。

 各者が耳に付けた通信機に一斉に音声がこだました。

「どうやらこの辺……みたいですっ」

 心持ち小さく、エルマが反応した。

 侵攻するネウロイが飛行する界隈には独特の空気感があるというウィッチもおり、実際それなりの信憑性はあるような具合だった。

「待ってください」

 今まで会話にとんとして参加していなかったウルスラが口に出す。

「来たようね……」

 智子はゆっくりと備前長船を構える。

 各ウィッチが息をのむのが通信機を通して伝わっていく。

 義勇独立飛行中隊、通称『いらん子中隊』のメンツがそれぞれ空中でその場に静止した。

「わたしは北側を! 各自別の方向を確認して!」

 智子は吼えた。

 基地に居残りとなったジュゼッピーナを除く仲間達。

 ちょっとした部隊員。

 それら全員が、警戒態勢へと移行したのだ。

 怪異であるところのネウロイは神出鬼没である。

 一説には虫のような大きさのものも、あるといわれている。

 真偽は不明だ、が。

 空飛ぶウィッチ達は己の探知力を一杯にして索敵をはかる。

 しばらくした緊張感が辺りを包む。

 それは本当にしばらくの間でしかなかった。

「ん?」

 智子はちょっとした事に気付く。

 しばらく黙っていたはずのニパが、なにやらおかしな様子で悶えていた。

「わわっ、なにこれ!」

 体を仰け反って背中をさすろうとする。

 だ、けれど。

 取れない。

 智子の眼にはその異物らしきモノがなんであるかハッキリとわかった。

 見紛うはずがない。

 独特のハニカム模様の光沢。

 ネウロイである。

「と、誰か取ってよ!!」

 ニパは慌てた様子でそれを振り切ろうとする。

 ……こんなに近くにネウロイがいたなんて。

「こんなに近くにネウロイがいたなんて! わからなかったわ! 待ってて、すぐ……」

 焦りに焦った智子は刀をつがえてニパの元へ駆け寄る。

 他のウィッチも同様だった。

「叩っ斬ってやるわ!」

「ちょ、待って! 待って! ……こんな小さなネウロイだとわたしまで……!」

「じゃ、どうすりゃいいのよ?」

「兎に角……」

 それは思っていたより遙かに小さいモノだった。

 大きさにして、大型の虫一匹分程度。

「外してみるよ」

 ニパはかゆい背中を掻くような耐性で後手を伸ばした。

 だが。

 取れない。

「気を付けてください、……それはそんなナリでもネウロイです」

 ウルスラがいつものように淡々と冷静に喋る。

「わかってるよ! わっわっ」

 変な体勢を維持したまま、ニパはとうとう回転し始めた。

 しかし。

 取れない。

 うかつに手を出すわけにもいかず、中隊隊員達はしばし様子を見ていた。

 そして。

「!?」

 ニパに異変が起きた。

 背中にネウロイを背負ったまま、真っ逆さまに降下して行き始めたのだ。

「ニパさん!」

 ハルカが叫ぶ前に智子は動いていた。

 下から抱き上げる形でニパを支える形。

「間に合ったようね」

「ごめんなさい……急に力がなくなって……」

 不自然に消耗したニパに対し智子が微笑む。

 と、同時に。

「おい! ネウロイが!!」

 ビューリングから強い口調の通信が各自に入る。

 皆が見ると空中に佇んだネウロイの影があった。

 だが、なにかが変わっている。

 ……さっきよりも大きくなっている……?

 智子は少し気になって、ニパのネウロイがくっついた箇所を見やる。

 そこはハッキリと血が浮かび滲んでいた。

 そして、貧血のような顔面蒼白なニパが居た。

「あれ……なんだかおかしいな……フラフラする」

 ニパの様子も異常だ。

「ニパ、ここで待ってて」

 智子はストライカーを吹かせ、ふたたび空へと舞い上がった。

 予想……予想ではあるけれど。

 皆が思っていた。

 これが。噂による吸血ネウロイ……。

 智子の憶測ではあるが。

 ……しかもウィッチの力を吸っている。

 先程触れていた手負いのニパの魔力は、その大部分を感じられなくなっていた。

 そして今目の前に居るネウロイからはさっきと段違いの圧力を感じる。

 先に仕掛けたのはビューリングだった。

 流石は銀狐、持ち前の銃弾の手は獲物を的確に捉え、爆砕した。

 ……かに見えた。

「な……っ」

 破壊されたかに見えたネウロイが、渾然と復活したのだ。

「注意、光線来ます」

 自らが招いた隙を埋めたのはウルスラの通信だった。

 「ヴン!」と放たれた咄嗟の閃光にビューリングはギリギリ数センチくらいの距離でかわした。

「ニパの回復の力を吸っただと……」

 そのおぞましい家弟にビューリングは戦慄する。

「いきます」

 ビューリングを尻目に、ウルスラが銃を構える。

 愛用のMG151、十五ミリ機関砲。

 それが放つ弾幕の軌跡が吸い込まれるようにネウロイにぶち当たる。

 鈍い音をたて。ネオロイが叫ぶ。

 おおよそ生物のモノとも思えない、張り詰めた音。

「……効いてる……? おい、ウルスラ、おまえなにをしたんだ」

「不思議ねー?」

 ビューリングとキャサリンは狐に摘ままれたような声をあげる。

「もしかして、ウルスラがいってた『銀の弾』ってそれのこと?」

 と、いうハルカの弁に頷いて表すウルスラ。

 小さな頷きは周りからは見えないと思われるが。

「ちょっと、説明しなさいよ! あっ、待って! 怪異を倒してから!!」

 智子はもはやちりぢりの欠片となったネウロイに榴弾を投げつけながら問うた。

 ウルスラは淡々と答える。

「銀は聖なる金属といわれています。昔、毒があると銀の食器の色が変わる事が由来ともいわれていますが、これを使用した銀の弾丸ならヴァンパイアも黙るかと」

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