白銀のタルパ   作:賃現地

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【原作開始前】
第一話 【ワタシ×ノ×ケイイ】


 

 

 新たな人生が始まったのは、

 子供部屋のように多くの人形が置かれた部屋であった。

 

 私は死んだはずだ。

 元の世界では、親孝行をした後に死んだはずである。

 それ以外の記憶は産まれた時に存在しなかった。

 

 

 過去を振り返る必要は無い。

 今をどう生きるかということが私にとって大切なのだから。

 

 

 私を囲むのは小さな女の子と生意気そうな男の子だった。

 両方共に口を開け、あんぐりとした表情でこちらを見つめていた。

 

 

「すみません、ここは何処ですか?」

 覚醒して間もない私は、意識を朦朧としながら二人に聞いた。

 

 

「やったね! お兄ちゃん! お姉ちゃんが本当に出来ちゃった!」

 

「あ、ああ、うん……」

 

 女の子は私を見るや否や、抱きつき私の胸に頬ずりしてきた。

 男の子は何とも言えない顔を私に向けるのみであった。

 

 

 そして気がついた。

 いや、私は拒絶していただけなのかもしれない。

 

 

 私の胸には過去に無いはずの豊満な胸が露わになっていた。

 胸の中心にある桜色の綺麗な花びらは私の純血を示している。

 

 

 同時に男性の象徴は無く、

 そこには子を孕むことが出来る女性の象徴が顕在していたのだ。

 

 

「ふわぁ~お母様よりもふわふわだぁ~」

 長い黒髪をした少女は私に甘えながら幸せそうな顔をしていた。

 

 私はとっさに距離を取ろうと思ったが、

 本能は拒否を許さず、むしろ抱き返すように彼女を手で包み頭を撫でた。

 

「良い子ですね、【アルカ(ナニカ)】」

 

 存在しないはずの【母性】が私に宿った瞬間であった。

 

 

 短いやり取りを兄弟とした後、

 部屋が急に騒がしくなった。

 

 

 部屋の外から錠前を開錠するような音がする。

 幾度も響く鉄の音は、本来はゆっくりと開くであろう機構だというのに、

 その忙しさから無理にこじ開けられているようだった。

 

 

 機械の駆動音が止まった瞬間、

 部屋の中に執事服を纏った集団が現れた。

 

 

「どこの者だ、名前は? 所属を名乗れ!!」

「ここから生きて帰れると思っているのか?」

「キルア様、アルカ様から離れろ!!!」

 

 

「待って! 違うんだ! この人はアル……」

 白髪の少年、キルアが弁明する前に私の口は自動的に動いた。

 

 

「不敬です、殺気を抑えなさい。私を誰だと思っているのですか?」

 

 

 過去とは違う物言いと仕草。

 同時に私からの溢れ出るばかりの殺気が、

 執事達の殺気を遙かに超えて部屋に満ちた。

 

 

 いや、違う。

 これは殺気という『生易しい存在』ではない。

 

 この気ともいうべき性質のオーラは、

 これだけで”人を殺せる”のだと直感で理解した。

 

 

 若い執事達は驚愕の表情を露わにしながらも、

 私の周囲にいる自らの主人達を守る為に勇み立っていた。

 

 

 それだけでない、事態を弁明しようとしたキルアという少年。

 

 

 彼が私を見る目は最初の人を見る目ではなく、

 畏怖の対象としてこちらを認識していた。

 

 

「私はタルパ=ゾルディック。この子達の姉です」

 

 

「失礼ですが、ご婦人。貴女のような人は存じて……」

 

 

「だからなんです?」

 私は自らに従わない執事に対して鋭いオーラを送る。

 

 

 彼は私の気を浴びるや否や、

 目と口から吐血し、失神した。

 

 

「二度目はありませんよ、それとツボネとゴトーを呼びな……」

「いえ、必要ありませんね。父上『達』もご覧になっているのでしょう?」

 

 私は口から意識もしていないのに、言葉が出てくる。

 誰かに操られている訳でも無いのに、それが当たり前だと言わんばかりだ。

 

 

「私は決して”家族は殺しません”」

「ですが、家族以外を消すことは容易に行います」

 

 私の言葉を皮切りに無意識に幾つかの人形をオーラにより破壊する。

 人形達の中身は部屋を監視する為に、

 備え付けられていたであろう機械が入っていた。

 

 

 私は部屋の監視が無いことを確認すると、

 執事達に向けて言った。

 

 

「その失神して倒れている執事ですが”まだ”生きています」

「早く撤退し、治療を行いなさい。私には貴方達を癒やすことは出来ません」

 

 

「なぜ訳のわからぬ者の……」

「お前ら、早く行け」

 執事の言葉を遮るようにしてキルアは急かせた。

 

 

「ですが、キルア様……」

「今ので分かっただろ? お前ら全員でも姉さんには勝てやしないさ」

 

 

「……貴女を信用します」

「早く行きなさい、本当の主人の命令です」

 

 

 彼らは渋々その場を後にすることを決定し、素早く来た道へ消えていった。

 

 

 

「キルア、ごめんなさいね」

 私はオーラを体にしまい込み、彼を受け止める体勢をとった。

 

 

「……本当に俺の姉さんなのか?」

「お兄ちゃん! さっきも言ったでしょ! 私達のお姉ちゃんだよ!」

 妹のアルカは私の胸に相変わらず頬ずりしていた。

 

 

 少し離れてほしいと思いながらも、

 彼女が安心できるならそれでも良いと思った。

 

 

「キルア、私はどうしてここにいるか分かりません」

「ですが、同時に貴方達の姉であるということも分かります」

 矛盾している言葉であったが、今の状況は言い表せなかった。

 

 

「イル兄みたいな、殺気も確かに本物だった……」

「お兄さんですか? イル兄さんとおっしゃるのですね」

「ああ、それに親父、おふくろ、ジッちゃん・・・豚?」

 

 

「ふふふ、お兄様のことを豚と言ってはいけませんよ」

 私は口を押さえながら見えないように笑った。

 

 

「!!……だってさ! 酷いんだぜ! ミルキの奴さぁ――」

「あ~!! またお兄ちゃん、悪口言ってる~!」

「ふふふふふ……」

 

 

 キルアは先ほどの少年の顔に戻り、談笑し始めた。

 

 

 私は自分を殺しに来るであろう主力が、

 この部屋にやって来るまでの間、成長途中の彼らと談笑した。

 

 

 

 それまで行われた会話は彼らが本当に求めている

 『家族の形だったのかもしれない』

 

 

 

 私は会話中にようやく気づいたのだ。

 この世界が【HUNTER×HUNTER】だということを。

 

 

 

 次に私を殺しに来るであろう者達こそが、

 自分の価値を見極める強者であるということも。

 

 

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

「――でさ! 庭にいる犬がすっげぇデカイの!」

「確か『ミケ』というのでしょう?」

「すっごぉい! お姉ちゃんって何でも知ってるんだね!」

「ああ、本当に今まで存在しなかったのか!?」

「ふふふ、それは秘密です」

 私達は飼い犬のミケについて話している最中だった。

 

 

 途端に入り口から冷たい風が入り込んで来たかと思えば、

 悪魔といえる顔が真っ黒に染まり、私と”もう一人”を殺さんばかりだった。

 空間が湾曲するかのように彼の周囲は殺意が滲み出ていた。

 

 

「キルア、言ったよね? アルカの部屋にはあまり遊びに行っちゃいけないって」

「い、イル兄……」

 隣にいたキルアは完全に怯えきっていた。

 アルカも不安そうに私を見ている。

 

 

 

「イルミ、それはあんまりではありませんか?」

「君に発言権は無いよ、それにお前は家族じゃない」

 

 

 

「では今から確かめてみてはいかがです?」

 私はその場を立ち、傍に居た二人をハグする。

 

 

「大丈夫よ、またお家の話をしましょうね?」

 

 

 そうして目の前の化け物に相対した。

 

 

 目の前の化け物は、

 ゾルディック家に所属する長男。

 イルミ=ゾルディック。

 

 

 原作では最強格に属していただろう人物だった。

 

 

 窮地であるはずなのに、私には恐怖など一つも無かった。

 私は彼に対して、憎悪と真逆の愛情しか感じなかったのだ。

 

 

 私は先程と対照のオーラを纏わせる。

 イメージするのは優しく包みこむ、春の穏やかな高原の空気。

 咲き誇る生命が美しく成長する風を。

 

 

 私はイルミに近づいていく。

 彼も同様に私へと近づいた。

 光と闇が対立するように、やがてオーラは接近し激突すると思われた。

 

 

 だが予想とは違い、私のオーラが彼のオーラを包み込んだ。

 

「!? 何をした」

 予想外の結果にイルミは心底驚いている。

 

「イルミ……私は”家族”です」

「貴方のことが家族の中で一番好きなのですよ?」

 イルミは進んでいる足を止め、ただ困惑した状態で立っていた。

 

 

「ね、念が、針が出せない・・・?」

「家族への攻撃は不要、そうは思いませんか?」

「お前はボクの家族じゃ……」

 

 

「キルアが大切なのも分かります」

「……気に障る」

 私は遂にイルミの前に来た。どう行動するかは分かっていた。

 

 

「イルミ……私を認めてはくれませんか?」

「認めなかったらどうするんだ」

「こうします」

 

 

 

 私はイルミを抱き寄せてその唇を奪った。

 初めての接吻は死と土の味がした。

 

 

 

「!?」

「……」

 彼は驚いたようだが、私のオーラの中では拒否できないようだ。

 

 

 同時に彼の顔は黒く見えなかった靄が晴れ、

 彼の無表情な可愛らしい母親似の目が現れる。

 その顔は私が愛おしく思う彼の顔そのものだった。

 

 

 心臓の鼓動は早くなる。

 しかし私だけではなく、彼の心臓の音もまた同じであった。

 

 

 歪んだ愛情を抱く男に本当の愛情を。

 彼にはきっとそれが必要なのだと私は思ったのかもしれない。

 それともこの体が彼を求めていたのだろうか。

 

 

 少し時間が経ち、私は彼から口を離した。

 彼は毒気が抜け落ちぽかんと立っているだけになった。

 

 

 

「おいおい、親父。こりゃどういうことなんだ?」

「ワシでも分からんよ。シルバ、おぬし浮気した?」

「あるわけないだろ、俺はキキョウ一筋だ。あったとしたら親父だな」

「暗殺家業は生涯現役じゃけど、そっちはとっくに引退しとるわ」

 

 

 その様子を暗い道の奥から二人の男が見ていた。

 一人は『一日一殺』と書かれた服装をしている奇妙な老人。

 ゼノ=ゾルディック。

 

 そして現当主である誰よりも大きい人物。

 シルバ=ゾルディック、その人だった。

 

 

「まあまあまあ!!! なんてことかしら!!」

 その奥からハスキーボイスが特徴の女性がこちらに向かっていた。

 

「どうしましょう!? あなた! イルミちゃんにもついに恋人が!?」

「落ち着け、キキョウ。あれはまだ何者かも分かってないんだぞ」

「式はパドキア式、ジャポン式、カキン式?? どうしましょう……」

 キキョウと呼ばれた女性は、目のモノアイをグルグル回している。

 

 

「こりゃダメだな……」

「シルバ、とりあえず回収して様子見じゃろ」

「そうだな、それに本当に姉妹かどうかも気になる」

 

 

 そうして接吻後にどうしたものかと思っていた私のところへ

 彼らはやって来たのだ。

 

 

「双方ともオーラを沈めろ」

「ここで殺ったら修繕費が馬鹿にならんわい……」

「イルミちゃん!! なんで最初にお母様に紹介しなかったの!」

 流石はゾルディック家、三者三様に主張が違っていた。

 

 

 どの答えを答えようか迷っていたら、

 私やイルミでも無く、答えたのはキルアだった。

 

「みんなごめん、俺の責任なんだ」

「どういうことだキル? 説明してくれ」

「私のせいなの……ごめんなさい」

 小さな声で続いてアルカが謝った。

 

 

 こうして一部を除く、家族会議が始まった。

 

 

 

 話は長く続いたが、要はこうである。

 

 

 

【『ナニカ』にお姉ちゃんが欲しいと頼んだ】

 

 

 

 ただそれだけであった。

 これにはゾルディック家一同も一瞬言葉を失った。

 

 

 その説明が終わったと同時に、

 イルミは嫌そうな顔でこちらを覗いてきた。

 

 

「つまりボクは血の繋がった姉妹とキスしたってこと?」

「結婚は出来ますよ? 『はとこ』ですから」

 私は知らないことを口にする。どういうことだ?

 

 

「はとこ? つまりはマハの血を継いでるってことか?」

「ジジイの血を受け継いでるとはやっかいじゃのう……」

「まあ、ゾルディックの!? 素晴らしいわ!!」

「本当にお姉ちゃんだったんだ!」

「マハってジッちゃんのお父さん?」

 なんというか面白い一家だ。

 

 

「証拠はあるのか? まあその身なりでは無さそうだが……」

 一家の主人であるシルバが私に対して疑問を投げかける。

 

 

「血が証拠です、分析にかけてもらえませんか?」

「もし違ったら?」

「殺してもらって構いませんわ、それだけの覚悟は出来ています」

 ここに関しては勝手に喋る口と同じ意見であった。

 

 

 今更、言っていることが違って生き恥を晒すことはない。

 それに二度目の人生なのだから、何を迷うことがあるだろうか。

 

 

 シルバの鋭い瞳は私を見つめるが、

 何かを悟ったように後ろを振り返った。

 

 

「いいだろう、ツボネはいるか?」

「はい、ここにおりますよ」

 後ろの暗い通路から髪型が特徴的な老婆が現れた。

 

 

 老婆は私に向けて一瞥すると、

 驚いて固まってしまった。

 

 

「ツボネ、どうした」

 珍しく固まったツボネにシルバは聞いた。

 

 

「シルバ様、私は夢を見ているのでしょうか?」

「何を言っている?」

「この方の外見は曾祖母様の若い頃によく似ております……」

 ツボネという女性は私を見て、

 モノクルを掛けていない片目から涙を流していました。

 

 

「ツボネ、私は貴女の知っている曾祖母ではない。ごめんなさいね」

「いいえ、構いません。それでもまたこのお姿を見られたことに私は嬉しく思います」

「さあ、血を抜いて分析にかけなさい」

「かしこまりました、お嬢様」

 そうして何処からか取り出した注射器から私の血を抜き取った。

 

 

「シルバ様、わたくしは貴方様が意見しようと、お嬢様はこの家の子だと思います」

「その判断に命を賭けるか?」

「間違いございません、風格と共に間違いなくゾルディック家の者です」

 ツボネの瞳に宿る強い確信ともいえる覚悟をシルバは見ていた。

 

 

「それでも分析にかけろ、万が一ということがある」

「分かりました、シルバ様」

 そうして老婆は音も無く闇に消えていった。

 

 

「さて、とりあえずは我が家の大広間に来て貰う」

「ええ、もちろんですわ。父上」

 私は笑みを浮かべながら、付いていこうとする。

 

 

「お姉ちゃん待って、置いていかないで」

 不安そうに私の後ろ足にアルカが抱きついていた。

 

 

 そうだ私よりも一番不安なのは、アルカなのである。

 私は忘れていた自分に心の中で反省しながら屈んで答えた。

 

 

「何度も離れてごめんね、でも必ずまた戻ってくるわ」

「うん! 絶対だからね! 約束だよ!」

 そうして立ち上がる、ゼノの横にいた執事に鉄の手錠をはめられた。

 

 

「ゼノ様、これで宜しかったでしょうか?」

「うん、一応な」

「お爺様、ご冗談ですか?」

 わたしは不思議と問いかけていた。

 

 

「お嬢ちゃん、どういうことかな?」

「これで私を捕らえているつもりですの?」

「お嬢ちゃん、それは違う。これは枷じゃよ」

「?」

 

 

 

「これを外した瞬間、ゾルディック家は敵となる。ということじゃ」

 

 

 

 つまりは形に見える抑制装置であった。

 

 

「……不服ですわ」

「いきなり現れてまだ殺されてないだけ、マシだと思うべきじゃろ」

「まあそうなんですけれどね」

「はぁ……本当に肝が据わっとる女じゃの」

 ゼノはため息をつきながら、それでも感心しているようだった。

 

 

 アルカの隔離房から私は裸で大広間に案内された。

 しかし、女の裸なんだから普通は囚人にもバスタオルぐらい持ってくるだろ。

 やはりゾルディック家はどこかイカれている。

 

 と思っていたら、大広間には下着と着物が置かれており、サイズはピッタリであった。

 先ほどの発言は修正しようと思った。この家の執事達は優秀すぎる……

 

 先程のツボネという執事が着付けを手伝ってくれた。

 着付けの間も私をジッと懐かしむように観察していた。

 

 そこまで曾祖母に似ているのだろうか?

 私も過去の世界において、曾祖母の外見を見たことがない。

 

 待っている間、暇なので広間にあるスタンドミラーで自分の姿を見た。

 

 

 正直、過去の時代のどの女性よりも美しかった。

 そんな自分の顔を広間で後1週間も監禁され見続けることになるとは、

 この時の私は思っていなかったのである。

 

 

 

 こうして私はこの世界に生を受けた。

 その後の話はまた違う時に語るとしましょう。

 

 

 




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