白銀のタルパ   作:賃現地

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第三話 【カイブツ×ト×カイチョウ】

 

 

 

 私が”一応”家族と認められてから、早数週間が経った。

 シルバが約束していた教師との授業は延期となっている。

 

 まあ、あの【ネテロ会長】である。

 正直、予定の延期は覚悟していた。仕方のない話である。

 ゾルディック家の依頼といっても、

 ハンター協会の仕事と私の授業だと、協会の仕事の方が大きいに決まっている。

 

 

 私達は蟻編の出来事や、

 ボールで子供をイジメていたイメージしかない人物ではあるが、

 本来は忙しく世界を飛び回る名誉会長という大役なのだ。

 

 

 

 そんな彼に文句を言うことは、

 あの”ゼノ”や”シルバ”にしても不可能である。

 だから私は、ひたすら暇を耐えることにした。

 

 

 予定が延期する以外に何か変わったことがあったかと言われると、

 正直なところ実感がない。

 

 

 手にあった鉄の枷はもう無いし、

 屋敷内外を自由に歩き回れる。

 

 

 屋敷にある大きな資料館にも行ったし、調理場なんかにも行った。

 どちらも入ったら怒られた、特に調理場はキキョウママが大変に怒った。

 

「タルパちゃん! どうして主人が調理場なんかに行ったのォ!?」

「母上とカルトに美味しい物を食べてもらいたくて見学を……」

「タルパちゃんが料理上手だったら、調理場のシェフが嫉妬しちゃうじゃない!」

 怒りの琴線が意味不明なキキョウママである。

 

 自分の娘の才能を信じるあまりに怒るだなんて、

 通常の母親ではあり得ない反応だった。

 

 

 

 こうして私は調理場や資料室から追い出され、

 何もかもやることもないニートになったのである。

 

 

 だから暇なので、

 その間に兄弟姉妹の部屋を特定。凸して遊んでいた。

(ミルキには鬱陶(うっとう)しがられた、決して泣いてなんかいない)

 

 

 しかし、流石はゾルディック家である。

 ミルキやアルカ、幼いカルト以外はほとんど外出していることが多かった。

 もちろん私のようにニートでは無く、仕事で外出していた。

 

 

 イルミという暗殺を教えてくれる教師が仕事中の今、

 私は絶賛ニートライフを満喫中という訳である。

 

 

「暇だなぁ、会長さんまだ来ないのかな~」

 私はククルーマウンテンの中腹にある広場で空を眺めていた。

 空には人食い鳥が空を飛び、それを狩る巨大な猛禽類がたまに高高度から降下する。

 

 

「タルパ様! こんなところにいたんですか! 探しましたよ!」

 私がククルーマウンテンの中腹でぼーっとしているとお目付役が現れた。

 

 

 彼女の大地を駆ける速度は通常の人間とは比にならない。

 念を使用した移動は、先程の位置から一瞬で私に駆け寄ってきた。

 自分で行うと滑稽な移動だが、達人が行う移動は実に美しい。

 

 

「ふふふ、今日は簡単だったでしょう?」

「勘弁してください! 付き合わされるのは私なんです!」

「そう堅いこと言わないの、アマネなら念で簡単に辿れるでしょう?」

「まあ、そうですが……」

 これが私達の変わらぬ会話であった。

 

 

 今、私と喋っているのは『アマネ』という執事だ。

 女性で私よりも若いが、イルミやミルキと同じ黒色の髪をした女の子である。

 

 

 念を知っている執事の中でも有望なホープの一人であり、

 師にあたるのは、シルバ直属執事のツボネということらしい。

 

 

 孫娘だとか、聞いていたけれど本当に血が繋がっているのだろうか。

 もう少し仲良くなったら聞いてみたいところでもある。

 

 

 そんなアマネだが、私の存在が急遽発生したことによりシルバの直属を離れた。

 そして私の直属、いわゆる【首輪(チェーン)】になったのである。

 すまない、アマネ。私は貴女の運命を大きく変えてしまった。

 

 

 

「で、私の教師のことなのだけれど……」

「念を教えてくれる先生の話ですか? タルパ様も強さにこだわりますね」

「だって、ゾルディック家を守れるようになるのが使命だもの」

「……タルパ様はお優しいのですね」

 優しいというわけではない、彼らを守ることが私の生きる目的だというだけだ。

 

 食事をして生きるということ、

 人が生きるのに必要な当たり前なことに、

 私は”ゾルディック家を守る”ということが含まれる。

 

 それが私の【制約】であり、【誓約】であるのだけのこと。

 

 

「アマネも私の家族にならない?」

「!? とんでもありません、私はただの執事です」

「恋愛禁止、結婚禁止だっけ? 執事も大変ね」

「そ、そうですか? 私は名誉だけでも……」

「でも知ってた? 女の子同士ってノーカンらしいわよ?」

「ファッ///」

 私はそっと顔を近づけて、ニヤニヤしながらアマネの後ろをとった。

 彼女は完全に顔をフニャけており、隙だらけだった。

 

「ちょ、はや」

「ふふふ、瞬発力なら私の勝ちかも?」

 彼女を後ろから抱き寄せて、髪を()くように鼈甲(べっこう)(くし)を取り出した。

 

 

 私はそのまま彼女を無言で膝枕し、寝転がらせる。

 最初の数日は抵抗されたが、今ではもう虜になっている。

 櫛をとり、彼女のオニキスのように透き通る髪を()かしていった。

 

 

「……あの」

「ふふふ、どうしたの?」

「こんな姿を見られたらお婆ちゃんに怒られちゃう……」

「大丈夫、ツボネは私に甘いから」

「そうじゃありません、私が叱られてしまいます」

 それでも離れない限り、膝枕の魔力に勝てないのだろう。

 

 

 こうして私達の日常は過ぎていく。

 毎日が家族や家族同然の者を愛でるだけの日々が過ぎていけばいい。

 今日もそうなるはずだったのだが――。

 

 

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 太陽がちょうど上に昇る頃。

 時刻はお昼ちょうどを指していた。

 

 

 私達は一度屋敷に帰り、昼食を食べようかなんて相談をしている最中だった。

 その時に事件が起きたのである。

 

 

 

「はい、こちらアマネ。えぇ!? 空から侵入者? はい、分かりました」

 彼女の胸に付いていた無線から突然、呼び出しが入った。

 

 音の種類は『緊急事態(エマージェンシー)』つまりは戦闘準備をせよ。

 敵が侵入したという警報のようなものだ。

 

 

 私は敵という言葉に凄く興奮を覚えていた。

 後に語るアマネ曰く、いつもと様子が全然違っていたと話している。

 まるで長男の”イルミ=ゾルディック様”にそっくりだったと。

 

 

「アマネ、敵ですか?」

「は、はい。未確認の飛行船が……」

「行ってくるわ、アマネは執事の館まで戻って」

「は!? でも、空ですよ!!??」

 私は自分のオーラを穴から全力で噴き出した。

 私でも思うが、おかしいほどの念の質力だ。

 

 

「アマネ行ってくるわ」

「ダメです、私も同行します」

「最悪の場合、死ぬわよ?」

「主人の為に死ぬのは執事(我々)の名誉です」

 ……気に食わない考え方だ。他の主人(ゾルディック)に対してならいいのだけれど。

 

 

「じゃあ力を貸して」

 私はそこらにあった植物の種を二つ、手に取った。

 

 

 

 ”一.育ちきれば種子を弾丸のように飛ばし種を蒔くもの”

 ”二.種が発芽した時、大きな綿毛で空中に舞うもの”

 

 

 『飛行船をたたき落とし、脱出する』

 

 

 この”目的”だけならば充分に足りていた。

 

 

 

 

  悪  魔  生  誕(エビルバース)  

 

 

 

 

 私は能力の一つを上記のように名付けた。

 

 

 

 私の特質系の力はどうやら、

 生物に効果があるらしく、実験で一番効果が良かった。

 念の使用禁止? 監視がない場所ならやりたい放題である。

 お爺さまへの負い目が三日目に消えていたのは、ここだけの話だ。

 

 

 

 持っていた『一』の種に念を加える。

 土に手を突っ込み、種本来の念が増えるように後押しする。

 

 

 あらそうすると、本来の植物よりも遙か大きく成長するではありませんか。

 更にその成長速度は異次元的な加速で増えていく。

 

 

 植物は成体になり、準備は整った。

 

 

「ごめんね、植物さん。そして”あの飛行船に斉射せよ”」

 私は植物に謝罪する。

 この能力の最大の欠点は利用した相手を破壊し尽くす点にある。

 

 私の技量不足だとは思うが、

 その生物の細胞は最終的に”塵”となって消える。

 

 

 この点は私が未熟なのか、

 私の能力そのものが該当するのか、検証が足りなかった。

 

 

 

「アマネ、私に捕まって」

「その後どうすれば?」

「アマネは祖母の操作が上手だそうね?

 なら種を飛行船のコックピットまで持っていきなさい」

「! 承知しました」

 その言葉の後、種を発射する爆発が起こる。

 

 

 種のほぼ全てが”飛行船”に飛び立った。

 その勢いは通常の植物であれば、風が運んでも数メートルが限界だった。

 

 

 だが念が込められた巨大種子は数メートルなど生易しいものではなく、

 遙か彼方に飛ぶ『生きた砲弾(ミサイル)』となって、飛行船に降り注いだのである。

 

 

 私は念によって風圧に負けぬように、風除けとなり耐える。

 その後ろでは種を完璧にコントロールしているアマネがいた。

 

 

 途中にアマネがバランスを崩しそうになったのを支えて、

 私達は目的の飛行船に先行して直撃する種達を見ていた。

 

 

 

 だが全ての種が叩き落とされるとは、

 私でさえ予想が出来なかった。

 

 

 

 飛行船の前半甲板が光ったと思うと、

 それを遙かに超える観音様(『百式観音』)が空中に飛んでいた。

 

 

 ああ、終わった。

 侵入者()ってあのネテロ会長か……

 

 

 私はせめて”アマネだけ”でも守る為に、自身の念を増幅させた。

 思えばこれが初めての”(レン)”だった。

 

 

 私はそれまでの念を遙かに超える質力を自身から生み出した。

 

 

 今のままでは確実に死ぬ。

 だがそれは”私だけ”でいい。

 

 

 『アマネならいい』

 『この娘を誓約に加えよう』

 

 

 心の私は独りでに呟いた。

 ”家族は血”ではない。

 私を信頼してくれる者が家族だ。

 

 

「じゃあね、アマネ。必ず生き残ってね」

「タルパ……様?」

 私は次の瞬間、彼女の心臓に向けて念を送り込み、

 念を込めた『二』の種(パラシュート)をポケットに入れ、思いきり蹴飛ばした。

 

 

 これで彼女は何があっても助かるだろう。

 

 

 次に先行していた種達が、

 全て消し飛ばされた。

 あの種は対物ロケット程度の威力はあったはずである。

 だが、紙クズ同然に破壊された。

 

 

 文字通り、種は弾き返された訳ではない。

 その全てが見えぬ光速を越えた速さの掌(壱乃掌(いちのて))で消し飛ばされたのだ。

 

 

 今更ながら、後悔してしまう。

 (ギョウ)を独学で習得していれば、回避出来ていた。

 いや、種を多く持ってきていればよかった……。

 

 だが全ては目の前の現実には無意味であった。

 残った私の乗った種だけが、勝てぬ敵へと飛翔する。

 

 

 そして次の瞬間、

 光速を越えているはずの黄金の掌がこちらへゆっくりと向かってきた。

 

 

 ああ、これは……

 走馬灯という奴だ。さようならゾルディック家、アマネ。

 

 

 私は掌に体が当たる前に、自ら全ての念を体に纏わせた。

 だがそれも無意味であるかのように、

 私はククルーマウンテンの山頂へ音を置き去りにして叩き込まれた。

 

 

 

 最後に誰かが泣いているような。

 そんな気を感じなら私は意識を失った。

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 

 私は、ビーンズといいます。

 今日は私が体験した衝撃的な出来事を、あなただけにお話しいたします。

 ここだけの話ですよ? いいですね?

 

 

 

 あれは私が会長に連れられて、

 ククルーマウンテンの屋敷に向かうところでした。

 

 

 ええ、そうです。

 かの有名なゾルディック家のお屋敷があるところです。

 

 

 ネテロ会長は、ゾルディック家に依頼を頼まれていたのです。

 会長自身が、ある人物の念能力を鍛えてやってほしいとの依頼でした。

 

 

 信じられますか?

 あの会長を直々に指名してのお話です。

 

 

 先代様との知り合いということもあり、

 会長は快く受けておりました。

 

 

 ですが、ハンター協会の会長です。

 緊急依頼や急なブッキングがあり、予定は先延ばしになっていました。

 

 

 そして約束から一ヶ月後、

 私達はついにククルーマウンテンへと向かうことが出来たのです。

 

 

 

「会長、久々に訪れるんじゃないですか?」

「そうじゃのう、ずいぶんとこの辺りには近寄ってなかったわい」

 会長はどこか嬉しそうに空を眺めておりました。

 

 ゾルディック家の飛行場を目指していたのです。

 

 

 ですが、

 通信手の手違いにより、ゾルディック家との通信をせずに侵入することになったのです。

 

 

 本来は『試しの門』より手前で通信を行い、

 入港許可を得る手はずだったのですが、我々は侵入者として扱われました。

 

 

 その時の通信手ですか?

 懲戒処分がありましたが、復帰後は元気に過ごしているはずでした。

 ですが、とある時に致死毒を飲んで自害したようです。

 事の重大さに耐えられなかったのかもしれません。

 

 

 それはさておき、

 本来は気球などで勧告に執事達が訪れるはずでしたが、

 その時は明らかな敵対行動をとられたのです。

 

 

「……ビーンズ君」

「はい、会長。どうかなさいましたか?」

「今ここにいるスタッフ全員を後ろの甲板に集めなさい」

「え、しかし」

「頼む」

 

 

 私は会長の若い時代を見たことはありません。

 ですが、目の前のネテロ会長はいつもの優しい人ではありませんでした。

 

 

 私は直ぐさまアナウンスを行い、スタッフは全員待避したのです。

 それと同時くらいでしょうか、地上から凄まじい爆発音が聞こえました。

 

 

 後ろの甲板から見ていた私達は驚愕しました。

 ミサイルのようなものがこちらに複数体、迫ってきたのです。

 

 後で記憶の良い者に確認を取ったところ、

 約二百発のミサイルであったと記憶していました。

 地獄のような光景で、小国のミサイル爆撃の規模です。

 

 

 我々は空の密室でただ殺されるだけの状況に恐怖しました。

 更に驚いたのは後方のミサイルに、凄まじい念を感じたからです。

 

 

 私も一応、ハンターライセンス持ちです。

 勿論、念への理解もあります。

 ですがその念の大きさは尋常ではなく、達人のそれを遙かに超えていました。

 

 

 会長が『百式観音』を発動したのもこの時です。

 私は後にジン=フリークスさんから能力を説明されるまで、

 それが何なのかも分からなかったものです。

 

 

 観音様は、

 二百発程のミサイルを一つ残して消し去りました。

 ですが、掌で打ち消して尚、その威力の爆風と破裂音がこちらに響いてくるほどです。

 

 

 我々はホッとしましたが、

 念に理解ある者は、最後の一発に込められた念を見ずにはいられなかったのです。

 

 

 禍々しく恐ろしい念は”(テン)”と”(レン)”を用いた”(シュウ)”であると、

 後にネテロ会長はおっしゃっておりました。

 

 

 只でさえ大きかった念の渦が、

 更に増大化し、形を具現化して種を付けた実のようなカタチで飛んできたのです。

 

 

 あの念のカケラに触れさえしても、死ぬと私は実感するほどでした。

 

 

 悪意ある念を浴びせるだけで一般人は殺せるとは言いますが、

 念を習得している者を見ただけで殺す勢いがあるものは初めてでした。

 実際に念を理解していない者は、その光景を見て気絶しておりました。

 

 

 結果は、

 観世音菩薩……いえ、ネテロ会長がそれを止めてくださいました。

 

 今まで一つ一つの掌底で弾いていたものを、

 全ての掌を用いて、ククルーマウンテンに弾き飛ばしたのです。

 

 

 あの時の行動は何と言うのですか?

 と会長に伺ったことがあります。

 

 

「会長、『百式観音』ですが……」

「なんじゃ? まだ何か知りたいんかいのう?」

「いえ、あの玉を飛ばした型はなんというんですか?」

「あれは……そうじゃな、『九十九張手(ツクモハリテ)』と呼んでくれい」

 

 

 なぜ全ての手を利用したのかは分かりません。

 ですが、我々が前方の甲板に辿り着いた時、会長は汗をかいておられました。

 

 

 会長は一言、

「……とりあえずゾルディック家へ通信を繋げよ、このままでは戦争になりかねん」

 と大声で命令され、我々は事なきを得たのです。

 

 

 ですが、私は聞いてしまいました。

 会長が小さな声で呟いた一言を。

 

 

「嬉しいのう……この歳まで生きてきた甲斐があったもんじゃわい」

 会長の手の平は、血に濡れていたのです。

 

 

 そうです、

 これが最後の愛弟子となる

 『白銀の怪物:タルパ=ゾルディック(白銀のタルパ)』と会長の出会いでした。

 

 

 

 後の話ですか?

 まあ待ってください。業務が押していますから次回にしましょう。

 

 大丈夫ですよ。

 貴方には最後まで怪物と会長の話を聞いて貰うつもりですから。

 

 

 

 




タルパちゃん生きてるかな(小声)
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