私はゾルディック
アマネと申します。
いきなりですが、
私と主人を紹介させてください。
タルパ=ゾルディック。
彼女は私が敬愛する主人です。
出会いは突然でした。
私はシルバ=ゾルディック、
しかし、それは私の”祖母”の口添えあってこそです。
私の祖母は、『ツボネ』と申します。
ゾルディック
マハ様・ゼノ様・シルバ様……と歴代の執事を担当しているのが祖母です。
ツボネは執事達のヒエラルキーでも最上位であり、
彼女の肉親である私は他の者から、色眼鏡で見られておりました。
私はそれでも必死に自身の力を研鑽し、
【シルバ=ゾルディック】の名に恥じぬよう生きておりました。
だからこそでしょうか、私はいつも不満を抱えていました。
私がどれだけ研鑽し、訓練し、周囲に力を見せても祖母の二番煎じである。
誰も私という価値を見てくださることはありませんでした。
比較は執事達だけでなく、お仕えする主人達の対応も一緒でした。
何かあればツボネの
当家の【執事】という存在が、
『消耗品』だということも、それに拍車をかけているのです。
主人のために死ぬのは当たり前。いつも死と隣り合わせなのです。
ゾルディック
生きて勤め続けることが出来れば、退職も可能です。
その代わりに死亡率が高く、そのほとんどの者が職場で死亡します。
無事に生き残り、勤め上げた場合。
結婚相手から退職後の資産まで全てを、ゾルディック
我が祖母『ツボネ』も”一度”は生き残り引退しました。
家族を育み、私の親を育て上げたのです。
しかし、
前当主のゼノ=ゾルディック様、直々の指名で一線に復帰したのです。
話が逸れました。
表面上は従順な私ですが、いつも辞めたいと思っていました。
いつも主人の命を守るために自己を犠牲にする。
この家で私を必要とするのは『
決して『
あと何年すれば、辞められるだろうか。
そんなことを考えている中、ある怪物がゾルディック
『タルパ=ゾルディック』
私の主人です、彼女は突然生まれました。
経緯は明かされておりませんが、
通常の生を受けた身では無いことは確かです。
私達のように念を訓練した者達は、
お生まれになられた時、戦々恐々としたものです。
いきなりアルカ様の隔離房から、
凄まじい念を皆、感じたからです。
その念に対して先導隊が向かいましたが、
見事に圧倒され一人は軽傷を負って帰ってきました。
彼らは
そこらの雑兵に負けるような者達ではありませんでした。
その者達を怯え、震えさせたのです。
執事の館に集まった者達は結果に戦慄しておりました。
そして当主達がアルカ、キルア様の元に向かうとおっしゃい、
我々は本当に事態が只事でないことを理解したのです。
執事長であるゴトー様は、
不甲斐なさに自刃する覚悟を持ったほどです。
待機命令が出された後、
動けるようになったのは数刻後でした。
我々に下された指令は、
”大広間の女を交代で監視せよ”
それだけだったのです。
私達はその者が、騒動を引き起こした者であると確信していました。
最初に向かった執事達以降、
彼らは口々に語り始めます。
「絶世の美女だった」
「彼女から溢れるオーラは通常ではない」
「曾祖母様によく似ておられた」
……etc。
噂は瞬く間に広がり、
どんな人物だろうと私は興味を持ちました。
「アマネ」
「おばあちゃん、どうしたの?」
「噂は信用しちゃいけないよ、自分で確かめてみな」
現実主義である祖母らしい発言でした。
「はい、勿論そのつもりです」
「なら行ってきな、きっと気に入るだろうさ」
私はどうせ”他の
大広間のソファーに彼女はいました。
ゾルディック
ジャポンの伝承にある怪物、『雪女』のようでした。
「(……綺麗)」
私はその美貌に驚いて挨拶すら忘れていました。
後に聞くところによると黙って監視だけで良かったそうですが、
私は客人対応をしてしまったのです。
初歩的なミスですが、これをきっかけに私達の距離は縮まります。
「貴女が次の執事さんね?」
「はい、アマネと申します」
「まあ、ツボネが話していたわ」
「祖……ツボネ様がでしょうか?」
私は祖母と話したことがあるということで、
驚きのあまり素の自分が喉元まで出かけていたのです。
「隠さなくていいわ、『アマネ』」
「貴女がツボネの孫娘だということもね」
「……」
彼女が呼ぶ”私の名前”で、
なぜか昔を思い出したのです。
私が純粋だったあの頃、
両親と祖母に名前を呼ばれ愛された時代。
両親・祖母は私に対して、
優しい目で私の名前を呼んでいました。
『愛』を知っている者が、他人を慈しむ目。
彼女が私の名前を言う時に感じたのは懐かしい視線でした。
なんて魅力的な人物だ、
私は
「だったらそれが全てよ」
「あら、どうして?」
「私はツボネ様の孫娘、ただ”それだけ”」
「……ふふふ」
私は主人でない彼女に対して正直でした。
今思えば初めて会った人物に言うことではなかった。
この時から彼女の魅力に私はあてられていたのかもしれません。
「不思議ね。どうしてこの館の執事は皆、目が死んでいるの?」
「な……! 私達を馬鹿にしているの!?」
「例外もいるわ、ツボネやゴトーのようにね」
彼女の指摘は的確であった。
この館に勤めているものは、
全員死人のような顔であることが多い。
料理人でさえ、主人への訓練で毒を混ぜる。
教師でさえ幼い主人を鍛える為に半殺しにする覚悟を持っている。
そんな正気でない業務を日頃行えば、
誰だって生気を失っていくだろう。
私はお前のような人物に私達の何が分かるのだと、そう言いかけた。
でも私が発言する前に彼女が口火を切ったのです。
「でも、貴女の眼は生きてるの」
「は?」
「勘だけれど、アマネは何かを認めていないのね」
「……」
「そう、その眼。誰かに認めて貰いたいという欲求」
「――っ」
「アマネを本当に認めてくれる誰かに出会えるといいわね」
たったの数分間、話しただけで私の欲求を看破された。
私は目の前にいる人物が、
”自分の主人”であるならばどれほど良かっただろうと思った。
彼女の眼は、私を『消耗品』と見ていない。
【
「私は執事です」
「でも人間よ?」
「個人の感情を主人達は必要としていません」
「私なら必要だけどなー」
「貴女は主人じゃありませんから」
「ふふふ、それもそうかしらね」
私は途中からムキになっていました。
私達は以降、言葉を交わさなくなりました。
タルパ様はほとんどを寝て過ごし、たまに外を見ておりました。
担当する監視時間が経過し、
私は部屋の外にいる待機した執事と交代しようとしました。
「ねえ、アマネ」
「……」
私は返事をしませんでした。
自分を知られることは嬉しいはずなのに、
なぜか意地悪をしてしまったのです。
「また会えるかしら?」
「……私は今回以降来ませんよ」
「そう、ならこれが今生の別れかもね」
「え……」
「早く行きなさい、交代の時間でしょう?」
私は彼女の言葉に違和感を覚えながら部屋を出ました。
後に思い返せば当たり前の話です。
突然現れた女が身内でない場合、ゾルディック
”抹殺する”
それが当然だったからです。
彼女の振る舞いが一般人と同じで、
彼らが”
ゾルディック
タルパ様がシルバ=ゾルディックに呼び出された日のことです。
私は後悔しました。
あの時にもう少し会話していれば……
私を理解しようとした人を一人にはしなかっただろうと。
「アマネ」
「……おばあちゃん」
「あらあら、随分と落ち込んでいる顔だね」
「私は失礼なことをしたのかもしれません」
「あの子にかい? 何も気にしてるようには見えなかったけどねぇ」
そんなはずはない、死ぬ可能性がある人物にかける言葉ではなかった。
「アマネ。あの子、いや……タルパ様を舐めないほうがいい」
「……?」
「あの子は”覚悟”している。愛することが命懸けだということもね」
「何を言って――」
「今に分かるさね、さてこれからお部屋にご案内しないと……」
祖母の言葉から察するにタルパ様は家族として認められたようだった。
他の執事がタルパ様を案内している時、
私はシルバ=ゾルディックに呼び出されていた。
間違いなくタルパ=ゾルディック関係だと直感で理解した。
殺されるかもしれない、彼女が何かを密告したのだろうか。
不安と動揺が暗い廊下を進む中、心の中を駆け巡っていた。
だが、シルバ様からの指令は異なっていた。
「アマネ」
「はい、シルバ様」
「お前を”タルパ=ゾルディック”の専属として変更する」
「……私には出来ません」
私は失礼を覚悟で反論した。
「それは何故だ? この変更は”タルパ”本人からの依頼だ」
「……私は彼女に失礼なことをしました」
「それでも変わってもらう、本人の希望だからな」
私の意見は通るはずがなく、この了承は強制的に決められた。
私は就任の日、
タルパ様の部屋に入るや否や頭を下げ続けた。
「本日から要望通り、専属となりましたアマネと申します」
「よろしくね、アマネ。待っていたわ」
「先日は誠に申し訳ございません、失礼な対応を……」
「ねえ、アマネ。私が言ったことを覚えてる?」
私は思い返し、”ある言葉”であると感じた。
「個人の感情……でしょうか?」
「そう、よく思いついたわね。私に仕えるからには意識してね」
「ですが、タルパ様も私を……」
「それは貴女次第よ、アマネ」
私は彼女の言葉が分からなかった。
この時の私には気づかなかった。
祖母の言っていた、タルパ様の覚悟も。
自らが、人に認めてもらうために必要な覚悟も。
「分かりました。とりあえず正直であればいいのですね」
「……まあ及第点ってところかしら。とりあえずトランプしましょ」
「いきなりですね……まあいいですけど」
私はそう言うと彼女のベットの上でババ抜きを始めた。
全敗した、ちなみに罰ゲームは膝枕をされることだった。
それからは毎日が充実した日々であった。
今までのゾルディック
私が過ごせなかった青春を主人と歩んでいるかのようだった。
他の主人のように指令することは一切無く、
突然消えれば、捜索に追われる。
捜索しても普通のことをしていたり、
ボーッと空を眺めているだけだった。
たまに念を使った実験をしていたようだけれど、
それも子供がするいたずらの範疇を超えていないものばかりだ。
私もいつしか主人に手懐けられ、
膝枕をされることを当たり前のように思っているほどだ。
不敬であるはずの行動が、
彼女にとっては最適解であったのだ。
こうして時間は過ぎていく。
あの事件の日まで。
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いつもと変わらぬ日常だった。
私はいつも通りタルパ様を見つける為、ククルーマウンテン周辺を奔走する。
行く時間や場所を指定する他の主人と違って面倒くさいが、
自身の念や体力向上に役立っていた。
それにご褒美が待っている。
膝枕をされて、日がな一日を終えるのが私の幸せな日常だ。
そうすると、
ククルーマウンテンの中腹で彼女を見つける。
私は”
早く移動できれば彼女のもとへ最短で向かうことが出来るからだ。
タルパ様はいつも通りの笑顔で私と向かい合ってくれる。
それが嬉しくて、しかしどこか怖かった。
その恐怖の源泉が、
”愛する人を失う”という気持ちから発生しているのを
私はその時、まだ知らなかった。
侵入者が現れ、報告した時。
タルパ様の様子がいつもとは違っていた。
この世の憎悪をこれでもかと詰め込んだような念。
私を回避して漏れ出している敵意と殺意。
彼女からこんな念が出るとは思わなかった。
私はその為に判断が遅れたと言わざる終えない。
もしこの時にタルパ様を押さえ込めていれば、
あのような出来事は起きなかったのだ。
私達は、
報告に向かうなら遅すぎると判断し、
独自に撃退する道を進んだ。
タルパ様の応用力と、
念の使い方は”未だ独学”とは思えぬ才能だった。
彼女は”念”を体の一部のように使う。
理屈や理論は考えていないのに作用させていく。
人はこれを天賦の才というのだろうか、
私は彼女の補助を務めるだけでギリギリだった。
結果的に私達の行動は全てが間違っていた。
相手が悪すぎたのである。
私は死を覚悟した。
そして、今まで導くことの出来なかった考えに至る。
”主人の消耗品”として死ぬ。
これが今までの考え方だった。
しかし、
タルパ=ゾルディックと一緒に居る今は違っていた。
”愛する主人のために”死ぬ。
約一ヶ月の間に私は違う考え方を導き出していた。
畏敬ではなく、
愛を持って主人に仕えて死ぬ。
私は死を目の前にしているのに、
穏やかで幸せだった。
愛している
主人と共に死ぬのなら、
主人のために死ねるのなら幸せであった。
私がそう覚悟した瞬間、
タルパ=ゾルディックという主人は私を一線から離脱させた。
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
「タルパ……様?」
私は彼女の信じられぬ温かい念を心臓に貰い、
体が宙に投げ出されていた。
主人の姿が重力を感じると共に遠ざかる。
愛した主人が、
敵へ果敢に挑んでいるのに、彼女は私に「
「どうして!? 一緒に死なせてはくれぬのですか……」
私はあまりの出来事に宙を舞いながらどうすることも出来なかった。
途端に主人の乗っていた種はオーラに包まれ、巨大な玉となり玉砕する。
一瞬だけ見えた無数の掌が、
渾身の一撃を防ぎ、ククルーマウンテンに弾き飛ばす姿が見えた。
掌が受け止めきれぬ爆風によって、私は更に吹き飛ばされた。
私も死ぬのだろう、助かるはずはない。
だが思惑は外れ、
胸から生えた巨大な線毛によって地上にぶつかることは無かった。
それでも、爆風の余波が激しく動けなかった。
吹き飛ばされた主人の安否を探しに行けないことを悔やみ、
静かにただ不甲斐ない自分に泣き続けていた。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
「タルパ様」
私は医療ベットの上で静かに眠る”
彼女は奇跡的に助かった。
だが、数ヶ月眠ったままである。
全てが【正常】に動いているのに、意識が戻らなかった。
「カルト様が歩いたんですよ……お姉様に会いたがっておられます」
「キルア様も【
「イルミ様は……分かりません。ですが、たまに来られているようです」
私はゾルディック
「……」
私は自然と涙が溢れていた。
こんなに悲しいのなら、
待つことが苦しいのなら愛など必要なかった。
かの人形が、
人として意識を取り戻すにはもう少し時間が必要であった。
「タルパ様……」
「私は貴女を愛しております」
握った手に涙を乗せて私は祈り続ける。
彼女が無事に目を覚ますようにと。
握った手が少し動いたような気がした。
私を見る優しい瞳が開いた時、私は彼女に抱きついた。
「ただいま、アマネ」
「た、タリュパ様……」
涙と鼻水が混じった私は言葉がうまく言えなかった。
また嬉しくて大泣きしたのは、
子供の頃以来だった。
後に監視していた祖母に叱られたのはまた別の話である。