-RED- リコリス・リコイル Advent Calendar 2022 12/2参加作品
-RED- リコリス・リコイル Advent Calendar 2022 12/2参加作品
URLはこちら。様々な方々が素敵な作品を投稿されますのでこちらも是非ご覧ください。(REDとGREENの二枚五十人体制でお届けします)
RED
https://adventar.org/calendars/7634
GREEN
https://adventar.org/calendars/7636
十二月三日
冬のよく晴れた日の夜遅く、東京の下町に一人の白い学生服を着た少女が歩いている。彼女の存在自体に不審な点は見られない、部活帰りにしてはやや遅い時間であること、彼女の左耳にヘッドセットのようなものを着けていることを除けば。ただしつけているヘッドセットが流しているのは流行りの音楽やクリスマスソングの類ではない。
『デルタ、対象は二つ先の交差点を左に曲がって200m進んだところにいます』
「デルタ了解、対象と接触後の対応は?」
『排除してください』
「了解」
ヘッドセットから聞こえるオペレータからの指示に対し周りに聞こえないよう小声でしゃべりつつ指示された角を曲がる少女。少し歩くとゴミ捨て場の脇に立つ黒いコートを着た男性の後ろ姿を視認する。それを見た少女は背中の学生鞄の側面からこなれた手つきで拳銃とサプレッサーを取り出し銃口にサプレッサーを取り付ける。
「対象を確認、これより対処…」
『デルタ注意!背後に―――』
オペレータからの警告が届くと同時に横合いから伸びてきた手に拳銃を掴まれる。
「!」
想定外の事態に対処が送れた一瞬の間に拳銃ごと手首を回転させられ関節が悲鳴を上げ、握りが緩んだ隙に銃を取り上げられる。それと同時に腕と逆方向に体を回転させられ、対応する間もなく少女は地面に組み伏せられてしまう。
「応援を―――」
インカムに緊急事態を告げようとしたところで少女は相手の姿を見て言葉を失う。よく見たら夜闇に溶け込む青い学生服を着た少女。
「私は味方ですよ」
「味方…殺し…」
「その呼び名は久々に聞きますね。そんなことよりこの場は火気厳禁です」
明らかに不名誉なあだ名に表情一つ変えることなく青い学生服を着た少女は白い学生服を着た少女にそう告げるのであった。
十一月三十日
「先生、画鋲もう一個頂戴」
「はい、千束」
「ありがとー。あとはこいつをここに刺して…一丁上がり!次!」
本日最後のお客さんを見送った喫茶リコリコ店内では、クリスマスの装飾を店中に飾る作業が女性三人を主体に進められていた。ガチャガチャと装飾を段ボールから取り出す音、ブチブチとセロテープがちぎれる音、カサカサと人工の針葉樹に飾りを括りつける音が店を包み、ウーウーと遠巻きで響く消防車の音がアクセントになっている。
「おーいはやくしろー、暗くなったらSNSのバナーの写真を今日中に更新できないぞー」
「お前も働けや!」
「こっちはこっちでクリスマス用のマーケティングに切り替えるのに忙しいんだよ」
「だったら押し入れでコンピューターとにらめっこしてこい!」
「ミズキさん、だべってないで早くツリーに飾りをつけてください」
「ええ!?ここで私が怒られるの!?」
飾りつけが終わったのは日付が変わるまで一時間を切った頃であった。
「『明日からリコリコはクリスマスモードでやっていきまーす!』送信。これでこっちの準備は完了だ」
「アンタ本当に押し入れから出てこなかったわね…」
「そう言われたしこれがボクの仕事だからな」
ミズキの嫌味にクルミは飄々とした態度を崩さない。さっきまでの喧騒が無くなった店内でミカが全員に告げる。
「今日の仕事は済んだし今日は解散だ。明日から師走だからまた忙しくなるぞ。今日は早めに休んでおくように」
「十二月と言ってもリコリコにクリスマス用のメニューか何かがあるんですか?」
「ふっふっふー。たきなくんはまだ青いねえ。ちゃあんとあるんですよ、『千束スペシャル クリスマス仕様』が!」
「『千束スペシャル』は出させませんからね、原価率が悪いので」
「ちぇー、たきなのけちー」
来月の方針について千束がむくれたところでこの日は解散となり、各自は遠くの消防車のサイレンをBGMにそれぞれの家へと帰っていく。
月が明けた十二月一日と二日はクリスマスモードに変わった喫茶リコリコを見ようとする常連さんたちが集まり特需景気。その喧騒は時折響く緊急車両のサイレンすら差し込む余地を許さない。その忙しさたるや、あの錦木千束が業務終了後真っすぐに隠れ家に帰っていった、と言えば伝わるだろうか。
十二月三日
特需景気は一過性である。十二月三日になるとさすがに客足は落ち着いて、いつもよりは忙しいという程度になった。そのはずなのだが、店長であるミカが緊急の町内会に呼ばれ、また多忙ゆえに一日二日にできなかったお得意さんへの配達をまとめて行わなければならなかったこともあって、喫茶リコリコの忙しさは実質的にはあまり変わらなかった。カランコロンと最後のお客さんが扉を閉めたことをしめすベルの音が店内に響き渡る。
「あーりがとーございましたー」
「ふー、ようやくひと段落ぅ」
「今日はお客さんの数自体は多くはなかったはずなんですが…」
「昨日今日とたまってた配達が相当なことになっていたからな」
「だからアンタも働きなさいよ!しかしあのオッサンが午後からいなかったせいで余計に手間がかかったわねぇ。この時間まで一体何を…」
カランコロン
「あ、店長」
「今帰ったよ」
「おー先生おかえりー、あ、町内会だっけ。お疲れさまー」
「ただいま、今回
「今度はあのいかがわしいラ…カラオケボックスじゃないでしょうね」
ミズキが訝しげな顔を、ミカがバツの悪い顔を、たきなが赤い顔をする様を千束はにやけた顔で見る。
「
そう言ってミカが出したのは、三十センチほどの角材二本を白い縄で繋いだモノ。
「お祭りで使っている拍子木?先生、なんでまたこれを?」
「ああ。そいつが急な町内会が開かれた理由とつながっているんだ。最近この辺では火事が増えてきていてな」
「そういえばここ数日消防車のサイレンをよく聞きますね」
「それで町内への注意喚起を目的として町内で手分けして夜回りをすることになった。こいつを使ってな」
「『火の用心』ってやつ?でもなんでまた忙しいウチに話が回ってくるのよ」
「…じゃんけんで負けたんだ」
疲れもあってあまり乗り気ではなさそうなミズキの表情にミカは申し訳ない顔をするばかり。
「ああ先生、可哀そうに。私が町内会の場にいなかったばっかりに…」
「千束が行ったらじゃんけん勝負が成り立たないでしょうに…」
「たきな、こいつは今日の喫茶店の忙しさから抜け出したかっただけだぞ。それで誰が行くんだ?ボクはどのみち出られないしミカは足が悪いぞ」
「さも当然のように自分を例外扱いしやがってこのリス…」
「私とたきなでいいんじゃない?万一のことがあっても私達ならどうとできるし」
「そうですね。夜の治安維持はリコリスの使命ですからね」
「そう意味じゃなくってさあ…まあいいや。たきな、制服に着替えてさっさと出かけよう」
自分の相棒の反応に若干呆れつつ千束は更衣室へ向かう。
「火の用心 マッチ一本火事の元」
夜の下町を練り歩く赤と青の学生服。拍子木をカチカチと鳴らしながら千束が小声でつぶやく。
「一度こいつを鳴らして見たかったんだよねえ」
「はあ」
千束の本音に表情を崩さないたきな。ただし千束も表情はいつものくだけたものではない。声量を変えずに真面目な口調で千束は続ける。
「たきな、気づいてる?」
「はい、リコリスですね。ここ数日出退勤の時に見かけていましたが」
「うん。配達の時もあちこちにいたよね。ということは偶然じゃない」
「それと店長の話を絡めて考えると…連続放火犯でしょうか」
「そんなところかねえ…」
千束がたきなの予想に首肯したところで足を止める。たきなも同様にその場で止まる。
「千束」
「たきな」
二人の目の前を横切った外套を着た男。この寒い時期に外套を着ていることは不思議ではない。しかしその男から
後をつけること十五分、男の足が止まる。男の目の前にはゴミ捨て場がありすでにゴミが捨てられている。本来は防犯上の都合もあって前日の晩から出すのは禁止になっているが、このあたりは収集車の巡回時間が朝五時と早いのでこういったことは珍しくない。そのゴミの上に男は股のやや上あたりから液体をかけている。しかし臭いは小水のそれではなく…。
「千束、あの男…」
「たきな、もっとヤバいのがあっちに」
そう言って千束が指をさした先にはサードリコリスが一人。インカムで司令部とやり取りしているように見える。
「たきな、あっちは任せた」
「はい」
千束は男に、たきなはサードリコリスに向かって音を出さずに駆け寄る。たきなは難なくサードリコリスの拳銃を取り上げると同時に組み伏せる。
「私は味方ですよ」
「味方…殺し…」
「その呼び名は久々に聞きますね。そんなことよりこの場は火気厳禁です。ガソリンの臭いが分かりませんか?」
サードリコリスは組み伏せられたままスンスンと鼻を動かす。
「そう…いえば…」
「今撃ったらあの男が撒いたガソリンに引火して火事になります。そうなれば大騒ぎです。ここは千束に任せてください」
そう言うとたきなはサードリコリスを自由にする。しかし銃は渡さない。いてて…という声を上げながら立ち上がる少女と共にたきなが男のほうを見てみると、火の用心!と言いながら拍子木を振るう千束にボコボコにされている。角で頭を殴られ額から血を流したたらを踏み、そこへとどめとばかりに胴体の急所へ小さな角材を突き立てられ、男は完全に支えを失って倒れこむ。相変わらず殺しはしないが容赦もない。男を完膚なきまでに叩きのめした千束は何食わぬ顔でたきなにむかって手を振ってくる。
「行きましょう。放火犯は無力化されたようです」
「は、はい…」
たきなはサードリコリスと共に千束の下に向かう。彼女の足元にはボロ雑巾にされた放火犯だったものが転がっている。きついガソリンの臭いにほんのりとした血の匂いがアクセントになっている。
「やあやあこんばんは。たきな、そっちは?」
「発砲直前に抑えました。ああ、そういえば返していませんでしたね」
そう言うとたきなは滑らかな手つきで先ほど取り上げた拳銃を差し出す。サードリコリスは申し訳なさそうな表情で拳銃を受け取り鞄の中へしまう。
「申し訳ありません。一介の放火犯に『英雄』のお手間を掛けさせてしまって…」
「あはは。ただの通りすがりだよ。むしろあそこで銃撃ってたらこのゴミ捨て場に火がついて騒ぎになってたからこれでよし。ところで君」
「は、はいっ!」
千束に指名されたサードリコリスの額には冷汗が浮いている。
「ここの後始末、お願いできるかな?本当はDAに頼むのは気が進まないんだけど…今の私達は『町内会の見回り』だからあまり大っぴらに動けなくてね」
「わっ分かりました!対象確保にご協力いただきましたので、現場の後処理はお任せください!」
「ただの通りすがりに肩肘張らなくていいって。それじゃあとは任せたよ。じゃあたきな、見回りの続きだ」
「ありがとうございました!」
サードリコリスが司令部とやり取りする声を背中で聞きながら千束とたきなは夜の下町へ歩みを進める。火の用心、と声を上げながら拍子木をうつことも忘れない。
「よかったんですか?DAに引き渡したら…」
「わかってるよ。でもこれは本来私達の仕事じゃない。そこはちゃんと線引きするつもり」
たきなの疑問に答える千束の表情は全く変わらない。
十二月四日
翌朝、開店前の店内で昨日の顛末を共有する二人。
「放火か。ボクのほうで昨日少しばかり調べてみたら火事が錦糸町から本所に集中していたからもしやと思ってはいたが」
「DAもたるんでるわねえ。少し前なら
「延空木の一件がいまだに尾を引いているんだろうな」
「仕組み上ラジアータとリコリスはその場での衝動的な犯行を完全には抑えられない。『起こってしまったこと』を『事故』とみなして処理しつつ『再犯』を防いでいるのが現実だ。今回は『再犯』を何度も許してしまったことになるから、今回もDAは荒れるぞ。今回は誰が飛ばされてくることやら」
「ちょっとやめてよ、またたきなみたいなのが来たらどうするのよ」
「私の相棒を『みたいな』ってどういうこと?」
「まあまあ千束、わたしはここに来れてよかったと思っているんですから、落ち着いてください。」
「落ち着いたといえば、千束たちが放火犯を捕まえたのよね?火事はもう起きないだろうし夜回りはもう必要ないんじゃないかしら?」
「あーミズキ、その件なんだが、向こう二日は千束に夜回りをやってもらう」
そう言ったミカは若干の非難をこめた目線を千束に向ける。向けられた千束の表情はどこ吹く風である。
「そっか、放火犯はDAに捕まったから町内は知るはずがないよね」
「それもあるが本題はこっちだ」
ミカが拍子木をテーブルに出すと、千束の表情が一変する。
「あっ…」
「千束、お前また派手にやらかしたなあ。角に放火犯の血がついてるぞ」
「別の角は明らかに欠けてますし」
「こっち側の木には半分ほどのところまでヒビが入っているわね」
「この有様で町内会に返すわけにもいかん。そんなわけでDAがレプリカを作るまで罰も兼ねて千束にはこの拍子木で夜回りをしてもらう。明後日の昼にこっちに持ってくるそうだ」
「う~、た、たきなあ~」
「一人で頑張ってください。
縋る表情でなんとか相棒だけでも道連れにしようとする千束。しかしたきなは心を鬼にして自分の相棒をにべもなく突き放した。
その日の夜。今日はサイレンの音はお休みのようである。静寂に包まれた錦糸町に一人の女の声がこだまする。
―――戸締り用心 火の用心 マッチ一本火事の元 カチカチ
閲覧ありがとうございます。アドベントカレンダー用SSではありますが「クリスマス」というよりは「冬の始まり」ネタに相成りました。
本作品が投稿された時点ではアドベントカレンダーはまだ二日目となります。今後も二五日まで素敵な作品が投稿されますのでそちらもお楽しみいただければと思います。
最後になりますが
素敵な機会を提供していただいたはせがわ氏( https://twitter.com/hs_biy )
および本企画に賛同し作品を提供いただけるクリエイターの皆様
両名に対しこの場を借りて感謝の意を申し上げます。
二〇二二年一二月二日 フェデラルジオグラフィック