【鬼滅×葛葉ライドウ】デビルサマナー 葛葉ライドウ 対 鬼殺隊岩柱 悲鳴嶼行冥 作:木下望太郎
畳を踏む音も高く、悪魔の群れが迫りくる中。
頬を引きつらせて星命がつぶやく。
「ど、どうするんだい、あれ」
特に返答はせず――答えは決まっている、とでもいうように――、ライドウは凪に声をかける。
「下がっていてくれ」
鎖で縛り上げたもう一人の星命を示して、悲鳴嶼はライドウに言う。
「頼みがある。先程のつるのようなもので、この者を束縛しておいてくれないか。鎖を使いたい」
ライドウがうなずくと、傍らでアルラウネが手を伸ばす。音もなく荊が伸び、鎖の部分をよけてもう一人の星命、クラリオンに巻きついた。
悲鳴嶼は鎖をほどき、構え直す。そして、じっ、と、敵の群れに耳を向けた。
ライドウの視線の気配に気づいたのか、悲鳴嶼は言った。
「いや、何。鬼というものは複数でいることが少ない、それが奴らの習性のようだ。故、今回のことは新鮮でな。悪魔というものはこれ程に群れを作るのか?」
「複数でいることはよくありますが。これほどの数を見たことは、二、三の例しか」
悲鳴嶼はライドウに顔を向け、薄くほほ笑んだ。
「その割には冷静でいるようだ」
ライドウも、同じ顔で悲鳴嶼を見る。
「あなたこそ」
だが、と悲鳴嶼は首をかしげる。
「妙だ。このようなものが群れでいるのなら、何故悪魔とやらが鬼殺隊の
信じてもらえないかもしれないが、と前置きしてライドウは言う。
「自分たちは別の世界から来ました。……あなたたちの言う『鬼』ではなく、『悪魔』のいる別の帝都。……こちらの『鬼』に呼ばれた『悪魔』を追って、自分たちはこの世界を訪れた」
悲鳴嶼は目を瞬かせる。
「……どういうことだ」
そのとき、玄弥が駆け寄ってくる。
「悲鳴嶼さん、俺も――」
「下がっていろ」
「ですが……」
悲鳴嶼は玄弥に背を向ける。
「下がっていろ。私の言いたいことが分かるか」
悪魔の群れに顔を向けたまま続ける。
「背後の護りを任せる。――頼むぞ」
「……はい!」
強く返事をし、凪たちの方へ駆けていった。
ライドウは口元でほほ笑む。
「仲が良いようだ」
悲鳴嶼は小さくかぶりを振る。
「お恥ずかしい。……玄弥はよくやっているが、私の方が。人に信を置くことが苦手なのだろう……弱いことだ」
気持ちを入れ替えるようにまたかぶりを振り、悲鳴嶼は言った。
「さて。私の方から先に一手、出させてもらってよろしいか」
ライドウが視線を向けると、察したように続けて言った。
「悪魔とやら、それにこの数。不慣れ故、先に試させて欲しい」
ライドウはうなずく。
「頼みました」
悲鳴嶼の鉄球が宙に持ち上げられたかと思うと、鎖が孤を描き、空を裂いて回転を始める。空を裂くその音がいよいよ重くかつ速くなったそのとき。
声もなく悲鳴嶼はそれを横殴りに放ち。
同じく声もなく、雪玉を岩に投げつけた如く。鉄球の当たる範囲にいた悪魔が、
その手前、鎖の届く範囲にいた悪魔は。引き裂かれるような断末魔をそれぞれに残し、鎖にその身を引きちぎられて宙を舞い。それからようやく、霧のようになって消えた。
そうしてさらに反対側から繰り出す、鎖斧の一撃が。その光景を再現してみせた。
ライドウの傍ら、ゴウトが声を上げる。
「なんと……!」
斧を手元に引き寄せ、血を振るい払った後、悲鳴嶼は言う。
「ふむ……悪魔とやら、首を落とさなくても死ぬようだな。ならば、やり易い」
そのとき、宙を舞う南瓜をくり抜いた形の
「【岩の呼吸 参ノ型――
表情一つ変えず、悲鳴嶼は鉄球を振り回す。繰り出す手の位置を変えつつ、周りの空間ごと自らを覆うかのように、半球状の軌跡を描いて繰り出すその鉄球は。周囲の空気すら巻き込み、気流を生み、渦となし。
放たれていた全ての炎と氷雪を、その内にかき消した。
それどころか。空気の渦はそれら悪魔の体すら、ずるずると引き寄せ。悲鳴嶼自身も鉄球を振り回したまま、悪魔へとにじり寄り。
結果、数瞬後に悪魔の群れは、南瓜の破片と散らばった雪塊と化した。
わずかに頬を引きつらせ、ライドウは言う。
「……本当に。敵でなくて良かった、あなたが」
悲鳴嶼はやがて手を緩め、鉄球を手元に引き寄せる。
そのとき、地面が――辺り一面の畳が――揺れた。
「む……!?」
つぶやく悲鳴嶼が顔を向けた先には。
草をかき分け歩くかのように、悪魔の群れを巨大な足で押し退け。まさに巨人のような骸骨――ガシャドクロ――が、畳を揺らしてこちらへと向かってきた。
「ここは自分が」
言ってライドウは前へ出る。管を握った手は独特の印――両手の指を、互いの掌の内に差し込むように組んだ形。そこから両の中指のみを立てて合わせる――を結んでいた。
幸い、周辺の悪魔は悲鳴嶼がほぼ薙ぎ倒している。ガシャドクロが向かってくるには間があった。
「ノウボウ・タリツ・ボリツ・ハラボリツ・シャキンメイ・シャキンメイ・タラサンダン・オエンビ・ソワカ。
その間にも、響く足音は大きくなる。はっきりと膝が揺れるほどに。
それでも、ライドウの詠唱が響きを変えることはない。
「――汝に我が心乱すことあたわず、我が心臓裂くことを得ず。誠実・自制・施与・忍耐、その徳目を以て我に従え。神をも乱す汝が怪力、世の安寧の為今こそ振るえ。召喚――
その管から放たれた光は激しくうねり、やがて一つの姿を形造った。
隆々たる肉体に青い皮膚を備えた鬼神。その威容は四面
それぞれが別の生き物のように動く逞しい腕のうち六本には、三又の
ガシャドクロはまさに目前へと迫り、腕を撃ち下ろすべく振り上げていたが。
自らの背丈を大きく越えるアタバクに、ライドウは声をかける。
「往け、あの敵を
「承知
まさに寸前、アタバクへと打ち当たろうとしていたガシャドクロの爪に、手に腕にひびが走る。それは見る間に、アタバクを打ち抜こうとするその間に、端から端から砕けていく。手、腕にとどまらず肩、胸。そして
「オ オ オ オ ォ……」
それすらも風にさらわれたかのような、空虚な断末魔を残し。ガシャドクロの全身は、破砕されて弾け散った。
悲鳴嶼が
「『明王』……だと! 君が
ライドウは静かに言う。
「それが例えば、あなたが知るものと同じ名だとして。同じものであるという証はどこにもない。自分はただ、悪魔を……仲魔を
未だ半数ほどが残る悪魔の群れ、その先頭に。自動車のような姿が並んでいた。
「ズッ……ドォォオォン……」
「ウォレ……ノ、趣味ハ……読書ダァァァ……」
「イチゴタンメンハ……畑ノ肉ダァァ……イヤイヤ、マジデ……」
先程、凪が扱ったものと同種。オボログルマが六台、横並びでそこにいた。
それらが、カッ、とライトを点灯させると同時。
爆音と共に、横並びのまま二人へと向かってくる。
悲鳴嶼は即座に構え直す。
「左の三台は仕留める。右を頼めるか」
「承知」
ライドウの返答が終わるより早く、悲鳴嶼は前へ出ていた。唸りを上げて回転させた、鉄球を横殴りに放つ。オボログルマの突進を真正面から打ち返すように。
果たして、真正面から鉄球に捉えられた一台が。重い響きを残しつつ、高々と宙を舞った。やがてそれは遠く、後続の悪魔の群れに飛び込み、爆音を上げて燃え上がる。
その一台の脇、鉄球の端に引っかけられたもう一台は。亀のように逆さに返されたまま畳を滑り、後続の群れを曳き潰した。
左側一台残ったそれも、間髪入れず。天から降るような鎖斧の一撃に、その車体を貫かれ。半ば切断されながら、床板へと縫い止められていた。
「おおおおっ! 【外敵粉砕】!」
アタバクが再び振るう多腕の武器、そこから巻き起こる衝撃波に。
右のうち二台のオボログルマが、走りながらその車体を軋ませ。ボンネット、ガラス、天井、ドア、タイヤ。次々と弾け飛び、車体すら砕け。中にいた骸骨がハンドルを握っているものだけが残り。それもすぐに砕け、風の中に流されていった。
右側残り一台を前に、ライドウは刀を構える。
「魔を
オボログルマと交錯する一瞬。緑の燐光を幾筋も、数え切れぬ程の軌跡として残し。ライドウは刀を振るった。
その一瞬後。ライドウのいた場所を通り過ぎたオボログルマは、その中央から二つに分かれ。四つ、八つそしてさらに裂かれ。爆音を残し、炎を上げてその場に散った。
舞い散る火の粉を、マントを振るい上げて払い。葛葉ライドウはつぶやいた。
「残りの、仕上げといこう」
傍らで明王が手を合わせ、悲鳴嶼が鉄球を再び振るい出す。