【鬼滅×葛葉ライドウ】デビルサマナー 葛葉ライドウ 対 鬼殺隊岩柱 悲鳴嶼行冥 作:木下望太郎
ライドウと悲鳴嶼の戦いを、離れた所で遠目に見ながら。
「ひゃー、ヤっバいなぁアレ……」
凪や玄弥は離れた場所で後方を警戒している。
「何がヤバいってさ。あれだけできる人間が二人もいるってことだよ、世界中探して一人いるかどうかってのがさ。いや……案外出会うもんなのかな、なにせ。世界が二つ――それ以上なのかな――あるぐらいだからね」
今度は明らかに、彼の目を見て言った。もう一人の安倍星命、拘束されたクラリオンを。
「……」
表情を変えないクラリオンに星命が言う。
「いや、別に僕の感想を言ってるワケじゃないんだよ。今言ったのは『君から見ての感想』、その予想だ」
「……!」
わずか、表情に険を見せたクラリオンに。
静かに――かすか、ほほ笑みさえ浮かべて――星命が言う。
「分かるよ、僕らは一つだったわけだし――まあ星命の残留思念でしかない僕は? 君がカレーで星命がご飯なら、お皿にくっついたご飯粒みたいなもんですけど? ――いや、それはいいんだ」
表情を消して続ける。
「君がわざわざ出てきて、あのヒメジマって人を騙そうとした理由。普通そんなことしないよね、だって君はかつて帝都一つを、あるいは地球すら喰らおうとした存在。ライドウくんだっていくつもの条件が重なって、やっと倒すことのできた存在。ライドウくんだってあの人だって、まとめてぺろっと食べちゃえばいいじゃない」
いら立ったように歯噛みをし、クラリオンは星命をにらむ。
視線を気にした風もなく、星命はその目を真っ直ぐに見る。
「――できなかったんだね、そんなこと。できるものならそうしたいけれど、できなかった。『今の君は、あの二人を同時には相手にできないほど弱っている』……それを君の行動が物語っている」
眼鏡を押し上げ、続けて言う。
「鉄球の彼がライドウくんほどの実力者である、そう見て取った君は身の危険を感じた。だが幸い二人は異世界の者、互いに知らないことも多い。上手くすれば同士討ちさせられる……そう考えた君は二人の様子をうかがい、機を見てヒメジマの部下のふりをした。しかも、死んだ人間や悪魔を模した、今出してるような出来そこないの分身じゃなく……比較的正確に人間を模すことのできる、君本体が。――つまり」
叩きつけるように続けた。
「『君本体をさらす危険を
表情は変わらぬまま。ぴくり、とクラリオンの肩が震える。
肩をすくめて星命は言う。
「まあ、僕が君から離れてライドウくんを探しに行った時点で、君が弱っているのは分かっていたけど。それからさほど回復もしていないようだし、『喰らったものを模す力』もたいして成功はしていない、そのようだね」
つぶやくようにクラリオンが言う。星命と同じ声、だがわずかに低めたようなその声で。
「……ならば、どうだというんだい」
「え?」
貫くような目で――ある種の鉱石ででもあるかのような、不自然に透き通った目で――星命を見る。
「降伏でもしろというのか。許してくれるとでもいうのか。孤独の
ふ、と息を吐き出し、クラリオンは言う。
「お優しいね。
舐めるような視線を星命の目――あるいはそのさらに奥の何か――に向け、クラリオンは続ける。
「君は言うのか、『卵を呑むのをやめろ』と蛇に。あるいは命ずるのか、『鹿や兎を狩るな』と獅子に。……星々を呑むべく生まれ落ちたこの僕に『星を呑むのをやめろ』と。
「かつて生きた安倍星命よ、お前は願った! 『弱肉強食、不平等、小を殺して大を生かすという、この間違った世界の変革を』と。そのための絶対的な力として我を、クラリオンを受け入れた」
天を向く。
「だがどうだ、その我をして『弱肉強食』、その
「それだけは星命には伝えなかった、奴の望みが奴の望む形で叶えられるときなぞ、未来永劫来ぬことを! 我らもまた『
そうして、荒い呼吸の後、長い息を一つ吐いて。
「……その伝えなかったことだけがせめてもの、星命への手向け……クラリオンたる、この我からの」
うつむいて、長くそのままでいて。やがて小さくかぶりを振った。
「……故に。『許す』などという欺瞞はよせ。自分たちだけが『
「……そう」
静かにそう言って、
しばらくそうしていた後、不意に畳の上に手を伸ばした。
「よっ、と、ほっ……あれ?」
が。何度手を伸ばしても、
星命は宙に浮いたまま頭を抱える。
「ああっ! その辺の木切れとか拾って引っぱたいてやりたいのに! やりたいのに! できない!」
「………………」
クラリオンが目を瞬かせる中。
身を起こした星命がその目の前に指を差す。
「ええい、もういい! 口で言ってやるからな口で! 君の言いたいことも、色々分かるけどさ。……もし彼が――安倍星命が――もし生きてたなら」
顔を隠すように額に手を当てて言う。
「……まあ君の干渉がなくなって、逆にこんなおつむ空っぽになるかもだけど……それでも。君に言われなくたってきっと同じことに気づいて、同じことに絶望して、きっと――」
上を向いて続けた。小さく笑って。
「――それでも生きていくよ。ライドウくんのような、友と一緒にね」
かーっ、と、大きく息を吐き、腕を伸ばしてから言った。
「ま、僕は安倍星命自身じゃないんですけどね……君が安倍星命自身じゃないように。それでも、これだけは言っておくよ」
真顔でクラリオンに向き直る。
深く、頭を下げた。
「ありがとう。
顔を上げ、また深く頭を下げた。
「そしてごめん。君のやっていることは止める、つまりは君を殺す。けれど――」
顔を上げ、真っ直ぐにその目を見る。
「――君を許すよ。君の存在は許可できない、全てを喰らい尽くしてしまう。けれど、なんていうか。君が存在したことまで、呪いたくない。……いや、変なこと言ってるとは思う、君の言ったこととも矛盾するのは分かるんだけど……でも、僕はそう言いたいんだ。……ちょっとでも伝わると、嬉しい」
表情をなくしたクラリオンが、ぽつりとつぶやく。
「…………それも、ライドウが言った『絆という力』とやら、そういうことか」
今さら隠れるように両頬を押さえ、視線をそらす星命。
「そ、そーなのかな? よく分かんないけど――」
顔をうつむけ、クラリオンはつぶやく。
「なるほど。…………ならば、許そう。我も」
「え」
星命がそうつぶやき、笑顔になりかけた。
その瞬間、へし折るような音がした。小枝のようなものではない、まるで立ち木か人間の骨でもへし折るような重い音が。クラリオンの足下から。
「へ……?」
見れば。クラリオンの足、それはすでに星命を模すことをやめていた。膝から下はすでに人間の輪郭を失い、幾重にも分かれた触手と化していた。暗い色をした巨大な蛭のような、あるいは千年を経た巨木の根のような。
それは畳を食い破り床板をへし折り、重い音を立てて柱をも千切り捨てながら。雲が湧き立つように波が押し寄せるように、その根を当たり一面へと広げた。
「なっ……!」
星命が叫ぶ間にも触手は膨れ、クラリオンの体を――星命の姿を模しているのは上半身だけとなっていた――押し上げる。幾筋もの触手がアルラウネの荊に取りつき、たちまちのうちに引き千切る。
星命を見下ろし、クラリオンは語る。
「許そう、我も。お前たちの矛盾もその傲慢も――全てを喰らった後で、いくらでもな」
ずぅ、とぬらついた音を立て。星命を模した顔の片目から、その顔の半分ほどもある、澄んだ目玉がこぼれ落ち。触手でその身を縫い止めるように、首を傾げたその顔に張りついた。