【鬼滅×葛葉ライドウ】デビルサマナー 葛葉ライドウ 対 鬼殺隊岩柱 悲鳴嶼行冥 作:木下望太郎
悪魔の群れを斬り伏せるライドウは、不意にその目を見開いた。刀を振るう手を止め、跳び退いて敵から距離を取る。
震えていた、足元の畳が。彼方の壁が、天井が――いや。空間そのものが。
同様に身を引き後方へ顔を向けていた、
小高い丘陵のような、あるいは寄せ来る波のような影が
「! まさか――」
つぶやく間にその影は、古木の太さを持った
「! 玄弥!」
「凪君、ゴウト! 星命!」
悲鳴嶼共々そう叫んだものの、凪たちのいる方向は盛り上がる触手の陰になり、様子はうかがえない。そしてライドウたち自身の方にも触手が押し寄せる。
「くっ……!」
つぶやきと共に跳び退き、しばらく駆けて距離を取る。
傍らで悲鳴嶼が言った。
「どうやら、ひとまずは収まったようだが……」
確かに、触手はある程度までその身を伸ばした後、蠢く他は動きを止めていた。
だが、凪たちは?
思ううちに、聞き覚えのある少年の声が響いた。
「悲鳴嶼さん! 無事ですか!」
玄弥。声の方向に目を向ければ、触手の範囲を大きく迂回して駆けてくる玄弥と凪、ゴウトとヨシツネの姿が見えた。近くには星命とアルラウネも浮かんでいる。
合流の後、ヨシツネが親指で自らを指す。
「ふんっ、またオレの活躍が増えちまったなぁ! 【
凪が頭を下げる。
「感謝します、ヨシツネ。お陰で、オボログルマも管に戻せたプロセスです」
玄弥は視線をさ迷わせた後、ぎこちなく口を開く。
「あぁ、その……助かった、お前の、お陰で」
ヨシツネは笑い、音を立てて玄弥の肩を叩いた。
「おう、気にすんなよ兄弟!」
玄弥はやはりぎこちなくだが、ヨシツネの目を見て笑った。
星命が慌てたようにライドウの元に飛びくる。
「それより、それより、だよ。奴が――」
その言葉をさえぎるように、声が響いた。丘のように盛り上がる、触手の中心から。
「そうして弱者同士が馴れ合う……自らが『
そこには。星命がいた、もう一人の星命――ただしその下半身は人の形を模すことをやめ、触手の群れに融けている。その腰があった辺りには、一抱えもあるような巨大な目が見開かれていた。クラリオンたる星命の顔に
「……」
ライドウは何も言わず。ただ、刀を構えた。
傍らで悲鳴嶼が鎖を握り、凪や仲魔たちも各々身構える。
宙に浮かぶ星命がクラリオンを真っ直ぐ指差す。
「そんな力を隠していたのには驚いたけど。事実はさっき言ったとおりさ、『君はこの二人にかなわない』『だからこそ、二人が手を組まないよう引き離そうとした』。これ以上悪あがきはしないことだね」
クラリオンはゆっくりとかぶりを振った。
「その指摘。半分は正しく、半分は間違っている。――確かに、その二人を倒すだけの力はなかった、それ故に同士討ちを
再びクラリオンの触手が蠢き、伸びる――ただし、ライドウたちに向かってではなく。
ライドウたちと戦った悪魔の群れ、その残りに向かって。
「何……!?」
ゴウトが声を上げる間にも、触手は悪魔たちへ巻きつき、背骨をへし折り、溶かして吸収する。一方悪魔の群れは声も上げず、進んで触手に向かい、喰われていく。
星命が声を上げる。
「あの悪魔らはクラリオンの一部、か……かつての争乱のうちに喰らった悪魔、それを模してクラリオンが造った。だが、それを吸収してどうしようと――」
そこまで言って不審げに眉根を寄せた。
「――いや、奴は言った、『時間稼ぎ』『練習』と。『練習』のための、時間稼ぎ……? だとしたら、いったい何の……」
クラリオンは――星命の体の、腕を天へ向けて広げ――言う。
「こちらの世界へ渡った後、我が得た力――喰らったことのあるものを模す力。だが、本当に
そのとき。ごぼ、と音を立て。クラリオン――それが模した安倍星命――のそばに、触手が塊となって盛り上がる。
人間一人ほどの大きさになったそれは、やがてある姿を取った。
「星命……我ガ、君ヨ……君ノ、命ズルママニ……」
それはライドウにも見覚えのある姿。切れ長の目をした、いかにも切れ者といった風貌の青年。長身を洋装に包んだその男は。
「倉橋、
秘密結社コドクノマレビト、その首領としての星命の腹心。その後クラリオンの肉片を回収するも、喰われて果てたと語られた男。
それを今、クラリオンが模倣しているのか。
触手が模した
「星命……命令ヲ。俺ニ……何ヲ望ム」
「お前の全てを」
クラリオンの、それが模した星命の声を聞いた、
ただ静かにうなずき、ひれ伏し。触手の群れに――星命の体があったなら、足の辺りに――そっ、と、口づけた。
同時、その姿が融けるように、触手の群れに沈む。
そして。べきべきと、へし折るような音を立てて。クラリオンが――その全体を構成する触手が――姿を変えていった。
全体として変わったわけではない、無数の触手が構成する波打つ丘陵。だが、その触手の先端は。
今や触手ではなかった。それは蛇、あるいは龍。白い外骨格を
ゴウトが声を洩らす。
「『蛇頭
それら蛇頭のうちいくつかがライドウたちに向かって殺到する。
ライドウは刀を、悲鳴嶼は鉄球を振るい、蛇頭の全てを斬り伏せ打ち砕いたが。
鉄球に砕かれたものだけが、その
「何だと……!」
悲鳴嶼が
「奴は
ライドウに目をやり、続ける。
「葛葉一族に授けられし退魔刀、そしてライドウ自身の
ライドウは刀を構え直す。その刃が緑の燐光を帯びる。
だが。クラリオンはいささかも表情を変えない。
そして星命を模した体のそばに、また音を立てて触手が盛り上がる。
幾人かの、人のような姿を取ったそれは。あるいは角を、あるいは牙を鋭い爪を備えていた。
「アアア……」
「無惨、様ァァ……」
「死ニタク、ナイ……ドウカ、オ慈悲ヲヲヲ……」
悲鳴嶼が眉をひそめる。
「これは、鬼……? 何体かの鬼をも喰らった、ということか……」
クラリオンが声を上げる。
「そう、鬼。こちらの世界の。実に興味深い存在だ、己の生存しか頭になく――少なくとも我が喰らった個体はそうだ――、それを象徴したかのように異常な生命力を持つ……日光とそれを帯びた武器以外に対しては」
どぷり、と音を立て、鬼の体を触手の海に呑み込む。
「そう、我が模そうとしたのは人でも悪魔の群れでもない……それらはただの練習に過ぎない。真に模そうとしたのは。『蛇頭
言う間に。ライドウが斬り落としたはずの蛇頭、それらが蠢き、落とされた首の切り口を合わせ。再びつながった。
「何……!」
歯を噛み締めるライドウをよそに、それらは傷跡もなく鎌首をもたげ、牙を剥いてみせる。
クラリオンが声を上げた。
「
星命を模した体で両手を広げ、天へと向ける。抱くように、喰らうように。
「そう、この力を以て。全てを還そう、
不自然に透き通った目がライドウらに向けられる、いや。あるいはその先、この世全てに向けられる。
「今こそ還そう。全てを、一つに」