【鬼滅×葛葉ライドウ】デビルサマナー 葛葉ライドウ 対 鬼殺隊岩柱 悲鳴嶼行冥   作:木下望太郎

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第十二章  星を喰らうもの、その全貌を露(あら)わにする

 

 悪魔の群れを斬り伏せるライドウは、不意にその目を見開いた。刀を振るう手を止め、跳び退いて敵から距離を取る。

 震えていた、足元の畳が。彼方の壁が、天井が――いや。空間そのものが。

 

 同様に身を引き後方へ顔を向けていた、悲鳴嶼(ひめじま)と同じ方に目をやる。

 小高い丘陵のような、あるいは寄せ来る波のような影が(うごめ)いて見えた。ちょうど、クラリオンを捕縛していた辺りから。

 

「! まさか――」

 つぶやく間にその影は、古木の太さを持った(ひる)の如き触手の群れは。溶岩流のように吹き上がり、床板を柱をへし折り畳を跳ね飛ばし、押し寄せる雪崩(なだれ)のように。一面へと広がった。

 

「! 玄弥!」

「凪君、ゴウト! 星命!」

 悲鳴嶼共々そう叫んだものの、凪たちのいる方向は盛り上がる触手の陰になり、様子はうかがえない。そしてライドウたち自身の方にも触手が押し寄せる。

 

「くっ……!」

 つぶやきと共に跳び退き、しばらく駆けて距離を取る。

 

 傍らで悲鳴嶼が言った。

「どうやら、ひとまずは収まったようだが……」

 

 確かに、触手はある程度までその身を伸ばした後、蠢く他は動きを止めていた。

 だが、凪たちは? 

 

 思ううちに、聞き覚えのある少年の声が響いた。

「悲鳴嶼さん! 無事ですか!」

 玄弥。声の方向に目を向ければ、触手の範囲を大きく迂回して駆けてくる玄弥と凪、ゴウトとヨシツネの姿が見えた。近くには星命とアルラウネも浮かんでいる。

 

 合流の後、ヨシツネが親指で自らを指す。

「ふんっ、またオレの活躍が増えちまったなぁ! 【八艘(はっそう)跳び】でこいつらを救い出す一幕、絵巻物にでもしてもらいてぇぜ!」

 

 凪が頭を下げる。

「感謝します、ヨシツネ。お陰で、オボログルマも管に戻せたプロセスです」

 玄弥は視線をさ迷わせた後、ぎこちなく口を開く。

「あぁ、その……助かった、お前の、お陰で」

 

 ヨシツネは笑い、音を立てて玄弥の肩を叩いた。

「おう、気にすんなよ兄弟!」

 玄弥はやはりぎこちなくだが、ヨシツネの目を見て笑った。

 

 星命が慌てたようにライドウの元に飛びくる。

「それより、それより、だよ。奴が――」

 

 その言葉をさえぎるように、声が響いた。丘のように盛り上がる、触手の中心から。

「そうして弱者同士が馴れ合う……自らが『蠱毒(こどく)の連鎖』の中にいるとも知らずに。そんなものがお前たちの言う『絆』なのか」

 

 そこには。星命がいた、もう一人の星命――ただしその下半身は人の形を模すことをやめ、触手の群れに融けている。その腰があった辺りには、一抱えもあるような巨大な目が見開かれていた。クラリオンたる星命の顔に()き出された大きな目玉、それと同じく不自然に済んだ瞳――。

 

「……」

 ライドウは何も言わず。ただ、刀を構えた。

 傍らで悲鳴嶼が鎖を握り、凪や仲魔たちも各々身構える。

 

 宙に浮かぶ星命がクラリオンを真っ直ぐ指差す。

「そんな力を隠していたのには驚いたけど。事実はさっき言ったとおりさ、『君はこの二人にかなわない』『だからこそ、二人が手を組まないよう引き離そうとした』。これ以上悪あがきはしないことだね」

 

 クラリオンはゆっくりとかぶりを振った。

「その指摘。半分は正しく、半分は間違っている。――確かに、その二人を倒すだけの力はなかった、それ故に同士討ちを目論(もくろ)んだ。だが……悪あがきなどはしていない。していたのは――時間稼ぎ。そして、練習だ」

 

 再びクラリオンの触手が蠢き、伸びる――ただし、ライドウたちに向かってではなく。

 ライドウたちと戦った悪魔の群れ、その残りに向かって。

 

「何……!?」

 ゴウトが声を上げる間にも、触手は悪魔たちへ巻きつき、背骨をへし折り、溶かして吸収する。一方悪魔の群れは声も上げず、進んで触手に向かい、喰われていく。

 

 星命が声を上げる。

「あの悪魔らはクラリオンの一部、か……かつての争乱のうちに喰らった悪魔、それを模してクラリオンが造った。だが、それを吸収してどうしようと――」

 そこまで言って不審げに眉根を寄せた。

「――いや、奴は言った、『時間稼ぎ』『練習』と。『練習』のための、時間稼ぎ……? だとしたら、いったい何の……」

 

 クラリオンは――星命の体の、腕を天へ向けて広げ――言う。

「こちらの世界へ渡った後、我が得た力――喰らったことのあるものを模す力。だが、本当に模倣(もほう)したかったのはこんな者らではない。模したかったのはただ二つ――」

 

 そのとき。ごぼ、と音を立て。クラリオン――それが模した安倍星命――のそばに、触手が塊となって盛り上がる。

 人間一人ほどの大きさになったそれは、やがてある姿を取った。

「星命……我ガ、君ヨ……君ノ、命ズルママニ……」

 

 それはライドウにも見覚えのある姿。切れ長の目をした、いかにも切れ者といった風貌の青年。長身を洋装に包んだその男は。

「倉橋、黄幡(おうはん)……」

 

 秘密結社コドクノマレビト、その首領としての星命の腹心。その後クラリオンの肉片を回収するも、喰われて果てたと語られた男。

 それを今、クラリオンが模倣しているのか。

 

 触手が模した黄幡(おうはん)は歪んだ声を上げる。

「星命……命令ヲ。俺ニ……何ヲ望ム」

 

「お前の全てを」

 クラリオンの、それが模した星命の声を聞いた、黄幡(おうはん)を模したものは。

 ただ静かにうなずき、ひれ伏し。触手の群れに――星命の体があったなら、足の辺りに――そっ、と、口づけた。

 

 同時、その姿が融けるように、触手の群れに沈む。

 そして。べきべきと、へし折るような音を立てて。クラリオンが――その全体を構成する触手が――姿を変えていった。

 

 全体として変わったわけではない、無数の触手が構成する波打つ丘陵。だが、その触手の先端は。

 今や触手ではなかった。それは蛇、あるいは龍。白い外骨格を禍々(まがまが)しく剥き出した無数の蛇頭。その眼差しには黒い炎が宿る。

 

 ゴウトが声を洩らす。

「『蛇頭黄幡(おうはん)神』……かつて倉橋黄幡(おうはん)が変化した悪魔か……!」

 

それら蛇頭のうちいくつかがライドウたちに向かって殺到する。

 ライドウは刀を、悲鳴嶼は鉄球を振るい、蛇頭の全てを斬り伏せ打ち砕いたが。

 鉄球に砕かれたものだけが、その頭蓋(ずがい)脳漿(のうしょう)を、時を巻き戻したかのように再生し。再びその太い鎌首をもたげた。

 

「何だと……!」

 悲鳴嶼が(うめ)く中、ゴウトが言う。

「奴は蠱毒(こどく)の連鎖、その呪詛を象徴する存在……故に殺意を向けた攻撃は利かず、奴の力を増すのみ。だが――」

 ライドウに目をやり、続ける。

「葛葉一族に授けられし退魔刀、そしてライドウ自身の祓魔(ふつま)の力。それがあれば、奴に致命傷を与えられるはず」

 ライドウは刀を構え直す。その刃が緑の燐光を帯びる。

 

 だが。クラリオンはいささかも表情を変えない。

 そして星命を模した体のそばに、また音を立てて触手が盛り上がる。

 幾人かの、人のような姿を取ったそれは。あるいは角を、あるいは牙を鋭い爪を備えていた。

「アアア……」

「無惨、様ァァ……」

「死ニタク、ナイ……ドウカ、オ慈悲ヲヲヲ……」

 

 悲鳴嶼が眉をひそめる。

「これは、鬼……? 何体かの鬼をも喰らった、ということか……」

 

 クラリオンが声を上げる。

「そう、鬼。こちらの世界の。実に興味深い存在だ、己の生存しか頭になく――少なくとも我が喰らった個体はそうだ――、それを象徴したかのように異常な生命力を持つ……日光とそれを帯びた武器以外に対しては」

 

 どぷり、と音を立て、鬼の体を触手の海に呑み込む。

「そう、我が模そうとしたのは人でも悪魔の群れでもない……それらはただの練習に過ぎない。真に模そうとしたのは。『蛇頭黄幡(おうはん)神』、そして『鬼』」

 

 言う間に。ライドウが斬り落としたはずの蛇頭、それらが蠢き、落とされた首の切り口を合わせ。再びつながった。

「何……!」

 歯を噛み締めるライドウをよそに、それらは傷跡もなく鎌首をもたげ、牙を剥いてみせる。

 

 クラリオンが声を上げた。

祓魔(ふつま)の力あれど日光なくば我を倒せず。日光あれど祓魔(ふつま)の力なくば我を倒せぬ」

 星命を模した体で両手を広げ、天へと向ける。抱くように、喰らうように。

「そう、この力を以て。全てを還そう、蠱毒(こどく)の連鎖を終わらせるため――」

 

 不自然に透き通った目がライドウらに向けられる、いや。あるいはその先、この世全てに向けられる。

「今こそ還そう。全てを、一つに」

 

 

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