【鬼滅×葛葉ライドウ】デビルサマナー 葛葉ライドウ 対 鬼殺隊岩柱 悲鳴嶼行冥   作:木下望太郎

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第十三章  その闇、全てを喰らうか

 

 クラリオンのその言葉を聞いても、ライドウは構えを崩さず。悲鳴嶼(ひめじま)もまた、鎖を振り回す手を止めはしなかった。

 

 悲鳴嶼が口を開く。

「奴が事実を述べているとして。ならば、手はあるのだろう。――葛葉(くずのは)

 

 ライドウもうなずく。

「ええ、悲鳴嶼さん。――まずは、手前の一体を」

 

 悲鳴嶼が無言で鎖斧を飛ばす。目の前の蛇頭、その首を左から裂き。

 同時、飛び込んだライドウの刀が。斧とすれ違うように右から斬った。

 果たして、つんざくような悲鳴を上げた蛇頭は。その身を黒い灰のように変え、宙へと散っていった。

 

 宙に浮かぶ星命がつぶやく。

「ライドウくんの刀が祓魔(ふつま)の力を持つように、悲鳴嶼って人の武器は日光の力を帯びているのか……確かにそれらを同時に振るえば、両方の力を浴びせられる、しかし――」

 

 その先を受けるようにクラリオンが声を上げる。

「しかし。いつまで続けられるかな」

 その声が終わらぬ間にも、別の蛇頭がライドウを襲う。

 

 古木のような太さを持つそれを、ライドウは胴斬りに裂く。悲鳴嶼がそこへ時機を合わせ、鉄球を振るい打った。

 蛇頭はたちまちに灰の塊となって砕けた、が。

 

 別の蛇頭が鎌首をもたげ、悲鳴嶼へとその牙を剥いた。

「くっ……!」

 鎖斧を引き戻しつつその喉へと打ち込むが、ライドウに合わせて二度も攻撃を放った直後、体勢が崩れ武器に力を乗せ切れていない。

 結果、裂いた端から再生していく敵の体に。半ば飲み込まれるような形で、斧が食い込んでしまっていた。

「しまった……!」

 

 敵が甲高い奇声と共にその身をうねらせ、悲鳴嶼を引きずり倒そうとする。

 悲鳴嶼は両手で鎖を握り、何歩か足を継いでこらえたが。大きく体勢を崩し、武器を振るえる状態ではない。

 そこへ。囲むように三方から、新たな蛇頭が殺到した。

 

「くぅ……!」

 ライドウが手近な一体に跳びかかり、刀を振るう。両断されたそれは端から再びつながり始めるも、とりあえずは動きを止めた。

 だが、あと二体の蛇頭が悲鳴嶼へと向かっている。

 

 畳の上を滑る蛇の、裂けんばかりに開かれた大口が目前へと迫る。細長い炎のようにひらめく舌が悲鳴嶼の鼻先に触れた。

 そのとき。蛇頭の上に、青い巨体が跳んでいた。

「南無三! 【怪力乱神】!」

 ライドウの仲魔、アタバク。大元帥明王(たいげんみょうおう)とも呼ばれるそれが、多腕に携えた武器を打ち振るい。蛇頭の口を地に縫い止めるように貫いた。

 

「……!」

 悲鳴嶼が驚いたように目を向けると、アタバクは破顔した。八本腕の一つが悲鳴嶼の背を――衣に散らした南無阿弥陀仏の文字を――はたく。

「六字の名号を背負うとなれば、仏門の者であろう……捨ておけぬわ」

 刺された蛇頭は身動き取れぬまでも、打ち上げられた魚のように未だ身を震わせている。さらには残る一体の蛇頭が、上空から落ちるように向かってきていた。

 

 だが、もつれるような声が同じく上空から降る。

「悲鳴嶼さん!」

「しゃあっ、【八艘(はっそう)跳び】!」

 玄弥を抱えたヨシツネが、辺りにうねる別の触手を次から次へと踏み台にして跳び来る。

 悲鳴嶼へ向かう蛇頭をその背後、さらに上から追い抜きざまに。ヨシツネの太刀、玄弥の小太刀がその喉を裂く。

 致命打とはなり得なかったが、蛇頭は悲鳴をあげて大きくのたうつ。

 その間に悲鳴嶼らは身を引き、武器を回収しつつ敵の群れから距離を取った。

 

 ライドウ、玄弥や凪らもそちらへと合流した。

 ゴウトが口を開く。

「巨大な敵とはいえ、本来なら幾らでも戦いようはある……ライドウと仲魔に、悲鳴嶼の力までも加われば。だが――」

 

 星命が後を受ける。

「ああ、祓魔(ふつま)の力と日光の力で同時に攻撃しなければ倒せない、なのに。その敵は無数に押し寄せる。二人が一箇所を攻撃している間に、無数に! なんてことだ……!」

 

 凪が真っ直ぐにライドウを見上げる。

「いえ、一箇所しか攻撃できないわけではないはずです。退魔刀と鬼殺隊の武器、それが必要なセオリーなら――」

 玄弥もうなずく。

「俺と、凪さんでもできる」

 

「だが……危険だ。君たちにそれをさせるわけには――」

 口ごもるライドウに凪が詰め寄ろうとする、そのとき。

 

 悲鳴嶼が口を開いた。

「二つ、確認したい。まず一つ、奴の首はどこにある」

 

 ライドウが視線を向けると、察したように続けて言った。

「我らが鬼を殺すときには、日輪刀――日光の力を帯びた武器――でその首を落とす。日光を浴びせる他は、それが唯一の鬼を殺す手段。奴が鬼を模しているのなら、その点も同じはず」

 

 星命が何度かうなずく。

「なるほど、つまり弱点、もしくは本体を叩く、か」

 

 悲鳴嶼は星命の方に顔を向けた後、ライドウに尋ねる。

「そういえば。聞いていなかったが、この者は」

「……詳しくは、長くなりますが。自分の友、安倍星命……彼を依代(よりしろ)としてあの悪魔、クラリオンが自分たちの世界に現れました。……自分は、それを――」

 学帽を目深に被り直し、ライドウは顔をうつむける。

 

 その肩を叩くように――(アストラル)体の身では触れられもしないが――、星命が手を伸ばす。

 悲鳴嶼に顔を向けた。

「そうして、僕らの世界の帝都は救われた。だが、生き残っていたクラリオンの肉片が再び動き出し。それを感知したらしい、こちらの世界の鬼たちが――偶然か、思惑あってのことか――、クラリオンをこちらの世界に()び寄せた。そのとき奴から剥がれ落ち、ライドウくんにそのことを伝えた、安倍星命の残留思念。それが僕……言っとくけど、彼の霊とかじゃない。同じ記憶と姿を持つ、彼の残した思念に過ぎない」

 

 悲鳴嶼は星命に顔を向ける。

「全て理解できたわけではないが……君は奴から剥がれ落ちた、そう言ったな。ならば、本体がどこか分かるのではないか」

 

 考え込むように星命はあごに手を当てる。

「奴から離れて多少の時間が経っている、変化がなかったとは言い切れないけど。元々、クラリオンの残った肉片はわずかなものだった。拳ほどの大きさかあるかどうか。そしてあなたを騙そうとして、接触してきたときの様子……安部星命を模したあれは他の人間や悪魔を模したものと違い、流暢に喋って明確に思考していた。あれが本体と見ていいだろう。つまり――」

 

 指差す。クラリオンの中心部、星命の上半身を模したもの。その顔に半ば垂れ下がるように剥き出された、巨大な一つの目玉を。

「安倍星命を模した体、特にあの拳ほどもある目。あれが本体である可能性が高い……もちろん、そこから変化させてある可能性も捨て切れないけど」

 

 悲鳴嶼はうなずく。

「なるほど。ではもう一つ、君たちはあのクラリオンと、それが模している蛇頭黄幡(おうはん)神、あれらと戦ったことがあるようだが。そのときは、どのように倒した」

 

 ライドウが口を開こうとしたとき。彼方から声が降った。

「さて。ご歓談のところ済まないが、そろそろいいかな。消え果てるがいい……蠱毒(こどく)の連鎖の只中から」

 

 高く高く、見上げるほどに鎌首をもたげた幾本もの蛇頭が。天から崩れ落ちるかのように、ライドウたちの方へその身を叩きつけた。

 

「!」

 それぞれに跳び退き、無事であることは視線を走らせて確認したが。

 畳を床を砕き、大河のようにうねる蛇の身が、今やライドウたちを散り散りに分断していた。

 

 ライドウの傍らでゴウトが声を上げる。

「しまった……! これでは同時攻撃もままならぬ!」

 

 悲鳴嶼もライドウの方へ向かおうとするが、新たな蛇頭に行く手をさえぎられる。

 さらにはその向こう、凪と玄弥の方へも別の蛇頭が牙を剥いた。

「く……っ!」

 悲鳴嶼はとっさに鎖を振るい、そちらに向かった蛇を打ち払う。

 

「今です!」

 動きを止めた蛇頭に凪と玄弥が跳びかかり、刃を突き立てるが。二人の腕と、小太刀の刃渡りでは仕留め切れなかったか、蛇はその身を震わせて退いていくのみだった。

 

 思う間に、ライドウへも二体の蛇が左右から襲いくる。

 咬み合わされる牙から身をかわし、斬り伏せつつ跳びすさる。当然、敵の動きをわずかに止めたのみで、しかも悲鳴嶼からさらに遠ざけられている。

 

 近くに浮かぶ星命が頭をかきむしる。

「これじゃ、らちがあかない……!」

 

 その声を聞きながらライドウは考えていた。先程悲鳴嶼が言った、二つ目の問い――以前に戦ったとき、どうやって倒したのか。蛇頭黄幡(おうはん)神、そしてクラリオンを――。

 そう、その問いに対する答えが、この状況を打破する鍵になるのではないか。

 

 ――かつて、最終的にクラリオンを倒した方法だが――、これを再現することは不可能。

 串蛇(くしなだ)――有事に備え、その身に莫大な生体マグネタイトの力を蓄えさせられた存在、『供倶璃(くくり)(ひめ)』。ライドウが護るべき存在――が、自らを犠牲として。顕現(けんげん)させた神の力、そして仲魔たちの力を束ね、ようやく倒すことができたのだった。

 

「……っ」

 護るべきだった、護り切ることのできなかった串蛇(くしなだ)を思い、ライドウは歯を噛み締め。再び、学帽を目深にかぶった。

 

 ――そしてクラリオンと戦う直前、蛇頭黄幡(おうはん)神を倒したときは。

 仲魔であるスサノオ――ヤマタノオロチ退治で知られる、強大な破壊神――の力を借り、ライドウの持つ祓魔(ふつま)の力へと変換し。それを以て、一帯を覆う蛇頭の群れを殲滅した。

 

「【天命滅門(てんめいめつもん)】……」

 その技の名をつぶやいた、ライドウの声を聞き。ゴウトが顔を上げた。

「清浄なる光を一帯に放ち、全てを破り魔を打ち祓う最大の奥義……確かに以前はそれで倒した、しかし――」

 

 しかし。その先はライドウも分かっていた。

 まず、祓魔(ふつま)の力を持つ光とはいえ、日光というわけではない。この技だけで今の敵を倒すことは不可能。

 そして、この奥義は大規模過ぎる、辺り一帯を巻き込む。故に、悲鳴嶼との――彼が巻き込まれない位置からの――同時攻撃は不可能。

 

 ライドウは言う。

「……方法としては。【天命滅門】で蛇頭の群れへまとめて打撃を与え、その隙を突いて本体へと向かう。そして敵が再生する前に、自分と悲鳴嶼さんによる同時攻撃で討つ……それしかない」

 

 ゴウトが声を上げた。

「無茶を! あのような大技を放った後だぞ、いかに(うぬ)でも間髪入れず攻撃に移るなど不可能だ!」

 

 横から星命が言う。

「じゃあその、凪ちゃんに頑張ってもらうとか……難しいか、じゃあヨシツネ、ヨシツネにあの跳躍力で運んでもらって凪ちゃんが斬る、とか……」

 

 (うめ)くようにゴウトは言う。

「現状ではそれが最善か……だが、凪の力でどこまでやれるかは何とも言えぬ。さらには【天命滅門】ほどの奥義、二度撃つことはまず不可能……機を外したなら、次は無い」

 

 星命は頭を抱えて天を仰ぐ。

「ああっ、どうしたら――」

 が。不意にその動きを止め、じっと上を見た。

 そこを――本来なら天井があるであろう、先の見えない闇を――指差す。

「これだよ! その技で天井を破るんだ、異界化された空間ごと! そうすれば日光が降り注いで、祓魔(ふつま)の力と同時に――」

 

 ゴウトは目を見開いたが、すぐ首を横に振った。

「名案ではあるが。こちらの世界に来た時点の、空の様子からして未だ深夜のはず……夜明けまで耐え切れるなら、それで倒すことも出来ようが……」

 

 だが。ライドウもまた、目を見開いていた。

「日光……祓魔(ふつま)の力と同時に――そうか」

 

 星命、そしてゴウトの目を見て言う。

「手はある。祓魔(ふつま)、すなわち降魔(ごうま)の力を持つ者。『日の神仏(かみ)』を――()ぶ」

 

 

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