【鬼滅×葛葉ライドウ】デビルサマナー 葛葉ライドウ 対 鬼殺隊岩柱 悲鳴嶼行冥   作:木下望太郎

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第十五章  その光、闇を祓(はら)うか

 

「まだだ」

 ライドウは表情を変えず、アスラ王を見上げる。

「阿修羅の王よ。お前のもう一つの姿、『日の神仏(かみ)』の力。それを今、ここに」

 

 アスラ王は再び合掌し、うなずく。

「心得た。されど、(それ)は我に取っても遥か遠き光明、あまりに古き姿……我が意思だけでは顕現(けんげん)させることあたわぬ」

 

 ライドウはうなずく。

「分かっている。自分が()び覚ます、お前の中の神仏(かみ)を――」

 目を閉じ、(いん)を組む――両手を組み、親指と中指のみを真っ直ぐに伸ばした形。人差指は曲げて中指の背に沿わせ、残る二組の指は自然に伸ばす――。

「オン・アボキャ・ベイロシャノウ・マカボダラ・マニ・ハンドマ・ジンバラ・ハラバリタヤ・ウン……至善にして光明と称えられし者よ、かつてその座を追われし非天よ。我が光明真言に応え、その光輝を今一度(ひとたび)(あらわ)したまえ――」

 

 アスラ王もまた目を閉じ、地響きを立ててその場に座した。あたかも金銅造りの大仏像のように。

 

 クラリオンがその目をライドウに向ける。

「ふん、何をする気か知らぬが……見過ごすとでも思ったか」

 無数の蛇頭が首を持ち上げ、舌を赤くひらめかせ。そしてライドウへと殺到した。

 

 しかし。

「【岩の呼吸・()ノ型――流紋岩・速征】」

 悲鳴嶼(ひめじま)が鉄球と斧を同時に放ち、大きく円を描くように振るい。蛇頭の群れを打ち払った。

 鎖を手元に引き戻し、小さく振り回しながら言う。

「貴様こそ思ったのか。我々が見過ごすとでも」

 

 ライドウは詠唱を続ける。

「――阿修羅の王にも幾尊かあれど、(なんじ)の真名はいずれぞや。日と月を呑みし不死身の『ラーフ』か、(いな)。業焔より()で、慈雨を簒奪(さんだつ)せし者『ヴリトラ』か、否。ならば法と裁きの神、水の王『ヴァルナ』か、否――」

 

 クラリオンは表情を変えない。

「思いはしないさ。ただ、どちらにせよ許しはしない……我が(にえ)となる他の、あらゆる行為などな」

 

 不意にクラリオンが、その全体が、震えながら身を縮めた。まるでその中心に力を集めるかのように。

 そしてその体全てが、妖しく紫の燐光を帯び。光はクラリオンの中心、星命を模した体の下、巨大な瞳へと集っていく。

 

 ゴウトが声を上げた。

「あの力は……まさか!」

 

 身を震わせながら、クラリオンは声を上げた。

「おお……おおおおっ! 受けよ我が絶対なる裁き――【神罰光】!!」

 巨大な瞳から放たれた光、あまりに強く輝き、白に近い色をした紫の光は。(くう)を震わせて飛び、撃ち抜いた。座したアスラ王の巨体を。

 

 凪が片手で口元を覆い、(うめ)くように言う。

「そん、な……!」

 

 アスラ王もまた、三面の口をそれぞれに開け、どこか(うつ)ろな(うめ)きを上げた。

「ぉ、おおおぉ、ぉ……」

 その体のうち、片側二本の剛腕と背中が、ごそりと削ぎ取られ。断面は今も黒く(くすぶ)っていた。

 三面の目が虚ろに見開かれ、体が力を失い、ゆっくりと倒れていく。その巨体は今やライドウの上に、のしかかるように崩れ落ちようとしていた。

 

 だが。それでも、ライドウは詠唱を続けていた。変わらず目を閉じたまま、いや。目を見開き、アスラ王を見据えながら。

「――(いな)。否、否、否、否。汝の名そのいずれにも(あら)ず、更には汝何処(いずこ)にも在らず。何時(いつ)にも何処(いずこ)にも在らぬ者、しかして常に(あまね)く在る者よ――」

 

「ぐぅ……!」

 アスラ王が歯を食いしばり、残った腕の片側二本で身を支える。

 歯を剥いたまま、わずかに笑んでみせる。

「ふん……貴様が我を信ずる時に、我だけが伏すわけにはいかぬわ」

 残る一組の手で、再び強く合掌する。

「貴様が我を信ずるように。我もまた帰依(きえ)しよう、貴様に」

 

 ライドウもまた、うなずく。

 

 クラリオンは、星命を模したその体は今、引きつけを起こしたかのように震えていた。その全体もまた同様に。その身の力を光として放った反動のように。

 頬を引きつらせ、噛み締める歯の下から(うな)る。

「おのれ……それでもまだ屈さぬか! それが絆の力とでもいうのか! ならば今一度、我が裁きを下すのみ……!!」

 

 再び、震える。握り締めた、星命を模した体の拳が。巨大な瞳を持つ、触手の集合体が。

そして蛇頭の一つ一つが天を仰ぎ、遠吠えのような叫びを上げる。

 (うごめ)く巨体が再び、紫の燐光を帯びて輝き出し。

 震える、大気が。

 

 宙に浮かんだ星命が悲鳴のような声を上げる。

「やばい、やばいよ! あんなのが来たら、今度こそ――」

 

 悲鳴嶼は無言で鎖を握り、クラリオンの中心部へ向けて駆け出した。

 

 ゴウトが声を上げる。

「無茶だ! いかにお主とて、あれほどの力を前にしては……!」

 

 振り返らずに悲鳴嶼は答える。

「他に手はあるまい。わずかでも時間を稼ぐ」

 

 玄弥は震える手を握り締め、その背を見ていた。まなじりの裂ける程に目を見開いて。

 傍らに倒れたヨシツネが荒い息の下から言う。

「駄目だ、無理だ……行くなよ、兄弟」

 咳き込みながら血を吐いた後、続けた。

「いや、逃げろ……! 兄弟、お前は逃げてくれ……! オレはいい、小娘とライドウを引きずって――」

 

「――それだ」

 不意に、さらに目を見開き、(ほう)けたような顔で玄弥はつぶやいた。

 ヨシツネの元にかがみ込んだ。その目を真っ直ぐに見る。

「なあ、ヨシツネ。出会ったばっかりだけどよ……俺とお前は生死を共にした兄弟、そうだよな」

 

 苦しげに顔を歪ませたままヨシツネはほほ笑む。

「あたぼうよ! 血を分けた者でこそねぇが、オレたちは最高の兄弟――」

 

 真顔のまま玄弥が、ずい、と身を寄せる。

「いや。血は分けてくれ、今」

 玄弥の左肩、未だ残っている獅子の頭部――鬼喰いにより現れたオルトロスの頭――が。牙の並ぶ大口を開けた。

 

「――え」

 ヨシツネが顔を引きつらせている間に、魔獣の口から長い舌が伸び。血を滴らせ続けている、ヨシツネの背をなめ回した。

 

「いぃっだあああぁぁザラッとするううぅぅ!?」

 ヨシツネが悲鳴を上げていた、そのとき。

 

 紫に染まる巨体を震わせ、クラリオンが叫んだ。

「さらばだライドウ、そして異世界の強者ヒメジマよ……! 受けよ、【神罰光】!!」

 

 放たれる。見開かれた巨大な目から、紫色を帯びた熾烈(しれつ)な光条が。

 放たれる、武器を構えながらも未だ鎖を届かせられない距離にいた悲鳴嶼目がけ。

 放たれる、未だ詠唱を続けているライドウを飲み込むように。

 放たれる、凪やヨシツネらも巻き込むように。

 

 だが。その男は跳んでいた、雄叫びを上げながら。

「ぅおおおおおおっっ! 【八艘(はっそう)跳び】ぃ!!」

 その男、玄弥の左半身は黄色い獣毛と青いたてがみ、甲殻に覆われた尾を得た、魔獣の体のまま。右半身は赤い武者鎧に身を包んだ姿に変わっていた。

 

 【鬼喰い】によって『ヨシツネ』の跳躍力、そして『オルトロス』の剛力を得て。光に呑まれるより早く悲鳴嶼に追いつくと同時、右手に抱えて跳び。ライドウとゴウトの元に戻り、左手に抱えて跳び。凪のジャケットの奥襟(おくえり)を自分の歯でくわえ、無理やり抱え上げて跳び。ヨシツネは魔獣の体の尾で巻きつけて連れてきていた。

 

「オレの扱いーー!?」

 ヨシツネの声が響く中、クラリオンの放った光が通り過ぎ、消えた後。玄弥は着地し、全員を畳の上に降ろす。

 

 クラリオンが息を切らしたようにその身を荒く上下させ、巨大な目を瞬かせた。

「何……だと……! あのような、あのような者に我が力が……!」

 

 その間にもライドウの詠唱は続いている。

「――汝が御手より取りこぼせし、その大いなる名を我が()ぼう。大神呪(しんしゅ)たるその名を。大明呪(みょうしゅ)たるその名を。無上なるその名を、並ぶもの無きその名を。汝こそは『(あまね)く照らす者』、我が求めし偉大なる日の神仏(かみ)――」

 

 先程の【神罰光】に巻き込まれたアスラ王は、その身をくすぶり焦がしていたが。地につかんばかりにその身を(かし)がせながらも、残った二本の腕で合掌していた。

 

 ライドウが声を張り上げる。その手は何かを包むように空間を空けて合掌した形、そして左手の人差指を伸ばし、右手で握り込むような(いん)に組み替えられた。

「――ノウマク・サマンダボダナン・アビラウンケン……オン・バザラ・ダド・バン!  アスラ王よ、(あらわ)したまえその真なる姿! ――『ヴィローシャナ』!」

 

 アスラ王が顔を上げ、声を空間に響かせた。

「お……お、お……う――」

 が。その声が次第に空虚な響きを帯び。アスラ王の巨体は、辺りを揺らして地に伏した。

 

「な……」

 ライドウが(うめ)きを洩らす横で、ゴウトが声を上げた。

「しまった……! あの巨体、【神罰光】から身をかわす(すべ)は無い……アスラ王の方が、力尽きてしまうとは……!」

 

 凪が声を震わせる。

「そんな……でしたら、いったいどうすれば……!」

 ライドウはうつむき、歯を噛み締める。

 

 不意に悲鳴嶼が声を上げた。

「待て。あの者は」

 

 その顔が向けられた先。いつの間にか、倒れ伏したアスラ王の前に。宙に浮かんだ安倍星命がいた。

 その片手をアスラ王の顔に添わせ、声を上げる。語りかけるように優しく。

乾兌離震巽坎艮坤(けんだりしんそんかんごんこん)乾兌離震巽坎艮坤(けんだりしんそんかんごんこん)。我、八卦陰陽(はっけおんみょう)(ことわり)を知る者にて、我が(めい)律令の如く急々に果たされるべし。臨・兵・闘・者・皆・陣・列・在・前――」

 

 その片手が人差指と中指を伸ばし、十文字を描くように九度空を切る。最後、それらを全て斬り払うように、斜め上から大きく指を払う。

「――道満(どうまん)九字を十字が斬って、今(ことわり)は乱された。相剋(そうこく)(ことわり)を順逆に、我が(しょう)の気を死にゆく者に。(もく)より()の生ずる如く、(なんじ)我が(しょう)の気を以て、再び……生じよ!」

 

 アスラ王に添わせた手から暖かな光が溢れ、地に伏した巨体に染み込んでゆく。

 アスラ王の背が、息を吹き返したように動いた。白く、太陽に似た輝きを放ちながら。

 

 振り返り、星命が叫ぶ。アスラ王の身に宿る輝きの中、溶け込むようにその身を揺らめかせながら。

「ライドウくん、今だ!」

 

 ライドウは目を見開き、星命へ向けて口を開きかけたが。

 歯を食いしばり、再び印を結び。叫んだ。

「ノウマク・サマンダボダナン・アビラウンケン……オン・バザラ・ダド・バン! 今こそ(あらわ)したまえその真なる姿! 大日如来――『ヴィローシャナ』!」

 

 

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