【鬼滅×葛葉ライドウ】デビルサマナー 葛葉ライドウ 対 鬼殺隊岩柱 悲鳴嶼行冥   作:木下望太郎

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第十八章  鬼舞辻無惨、慄(おのの)き喚(わめ)く

 

 叩き壊した、目の前の琵琶を。鬼舞辻(きぶつじ) 無惨(むざん)はその拳で。

 無限を思わせて広がる畳の上、闇の中。たった一人()いつくばって、震えながら。自らの肩を抱いても止まらぬ震えに、骨すら(きし)むのを感じながら。

 

 そう、一人。琵琶の持ち主は(すで)に亡い。目の前で死んだ、つい今しがた。無惨が殺した訳ではなく、日の神仏(カミ)によって。

 その血鬼術を以て異界の鬼、クラリオンを観ていた鳴女(なきめ)は――その場にいるかのように観ていた鳴女(なきめ)は。日の神仏(カミ)の光を浴びて死んだ。消え果てた、煙となって。許されたように、笑みさえ浮かべて。

 

 

 

 

 鬼の首魁(しゅかい)にして根源たる無惨は。かつて琵琶の持ち主たる鬼、鳴女(なきめ)に命じ、鬼殺隊士らの位置を探らせていた――鳴女はその血鬼術を以て空間を操り、また、離れた空間の様子を察知できた――。

 その折、鳴女が異様な気配を察知した。いわく、この世ならぬ場所からこの世に出ようとする何かがいると。

 無惨は興味半分戯れ半分に、その存在をこの世へ引き上げさせた。そして現れたのが、クラリオン。しなびかけた、拳程の目玉の化け物。

 その脆弱な様に不快の念を(もよお)した無惨だったが、それでも戯れに自らの血を与え、それが現れた場所――廃墟となっていた屋敷――に放置した。

 

 それが、気がつけば。クラリオンは無惨の血を喰らい返したかのように、鬼とはならず――だが血鬼術らしき能力、喰らったものを模す力を身につけ――、調査のために向かわせた数体の鬼をも喰らい。付近の人間をも喰らい。我が物顔でのさばっていた。調査・討伐に訪れた、複数の鬼殺隊士すら喰らって。

 そして、無惨がいよいよ不快の念を(つの)らせつつ、鳴女の力で監視させていたとき。

 現れた、クラリオンの前に。鬼殺隊最強の隊士と、異界より来た悪魔召喚師(デビルサマナー)が。

 

 

 

 

 今、無惨は身を折り曲げ、額を畳に擦りつけながら。叫んでいた、頭を抱え、掻きむしって。

「ああァァあ……ああああァァァッッ!」

 

 無惨は己の血を分け与えた者の思考を読み取ることができる、その者が近くにいればいる程鮮明に。

 先程まで、無惨は。目の前にいた鳴女の思考を読み取っていた。その観ているもの、感覚さえ鮮明に感じるほど自らの意識を同調させて。監視対象であるクラリオン、そして現れた異界の者らの動向を、正確に観察するために。

 

 そして、つい今しがた。悪魔召喚師(デビルサマナー)は日の神仏(カミ)()んだ。

 その者が現れた時から、辺りに放たれる光を感知した鬼の細胞は焦げ、白く煙を放ち出し。鳴女は悲鳴と共に身をよじらせた。無惨自身の体も薄く煙を上げ始めたが、それでも観察を続けた――危険はあったが、日光を操る者を放置することもまた危険だった――。

 そして程なく、日の神仏(カミ)が声を上げる――『降魔調伏(ごうまちょうぶく)除闇遍明(じょあんへんみょう)。我が【後光の導き】にて三毒、執着、一切罪業。因果の果てまで――解きほぐされよ』――。

 同時に、そして瞬時に。辺りに満ちた光が、無惨と鳴女を包んだ。

それは(いだ)くように優しく、(くる)むように深く。責めることなく(あば)くことなく、ただそこに在って。(あまね)く照らした、全てを。

 

 全身から雲のように白く煙を上げ、鳴女はその身を溶かし焦がし、消え果てながら。つぶやくように、だが確かに言った。

「おお……あり、がたや、ありがたや……申し訳、ございません――」

 無惨に対して、ではなかった。消えゆく瞬間、鳴女の顔は無惨に向けられてはいなかった。その目は天へと向いていた。昇る日を仰ぎ見るように。

 そして。感覚を深く同調させていた無惨には分かった。消え果てるまさにそのとき、鳴女は。感謝していた、自らを滅ぼす仏に。謝っていた、人であった頃と鬼となってから、自らが殺した者たちに。

 全身が煙となって散りゆく中、最後まで残っていた鳴女の唇が動くのが見えた。

 なむあみだぶつ、と。

 

「あああ……うわぁぁあああああああァァァ!!」

 叫んだ、無惨は。自らの頭を抱え、爪がめり込む程に抱えて。まるで自らの脳髄を、()き出してしまいたいといった風に。

 深く同調していた無惨にも伝わっていた、日の光に焼かれる感覚が。許すようなその暖かさが。自らの――鳴女の意識の――内に欠片ほど残っていた罪悪感、良心、それが導かれるように、まるで錠を外されたように鎖の(いまし)めを解かれたように、広がっていくのが。

 滅せられることを受け入れ、光に自らを(ゆだ)ねる、その気持ちが。

 

「がアアァァ、あああああああああ!!」

 白く煙を上げ続ける体をきつく抱き締め、無惨は何度も畳に頭を打ちつけた。やがて畳はえぐれ、(わら)くずとなって飛び散り、それでも頭を打ちつけた。

ぼぎり、と音を立てて首の骨が折れ、だらりと頭がぶら下がる――たちまちのうちに周囲の肉から幾本もの筋が飛び出し、頭を支え首に同化し、再生する――。また、頭を打ちつける。

 

 辺りから鬼たちが駆け寄る。

「無惨様!」

「ご無事ですか!」

「無惨様、どうなされ――」

 

 無惨は身を()いつくばらせたまま、腹立ち(まぎ)れに腕を振るう。一瞬にして伸びたそれが、数体の鬼の頭を果物のように潰した。

 他の鬼から悲鳴の上がる中、血の出る程に頭を顔をかきむしって無惨が言う。

「遅い! 何をしていた、何をしている!! 私を守れ、この私を早く守れぇぇぇ!!」

 

 肩を抱いて震えながら無惨は思う――不愉快不快不愉快不快不愉快不快極まりなしあああああああ嫌だごめんなさいいや違う、何を何に詫びている違う、詫びる必要など何処(どこ)にも無し詫びるならば神仏が私にだ私だけこの私だけ何故このような目にこのような境遇にあの弱い体に生まれてきたああああ不愉快不快あああああああ誰か、誰か守ってくれ守って下さいこの弱い私を、なみあみだぶつなむあみ――

 

 そこまで思考した瞬間。殴った、己の顔を。

 穴の開いたように陥没した顔、外れかけてぶら下がる下(あご)のまま、この意味を持った絶叫を上げた。

 

 ――今すぐ私を守れ、全ての鬼よ。今すぐに、今すぐにだ! 

 

 

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