【鬼滅×葛葉ライドウ】デビルサマナー 葛葉ライドウ 対 鬼殺隊岩柱 悲鳴嶼行冥 作:木下望太郎
――その一刻ほど前。
帝都郊外、人の気配のない
少女、凪は手にした小太刀程の短い木刀を、体の前に片手で構え。大きく踏み込むと同時、ライドウへと真っ直ぐに突き出す。
「はっ!」
ライドウは片手に木刀を提げたまま、無言で小さく身をかわす。
そこへ凪は、矢継ぎ早に木刀を繰り出す。突き、
ライドウは構えることなく、わずかな動きで身をかわし続ける。だがやがて木刀を上げ、凪の突きを片手で横から弾いた。
かと思うと。凪の木刀を、自らの木刀の中ほどで押さえたまま身を寄せる。そのまま、空いた左手を自らの切先に添わせて、凪の喉を横からかき斬る――その手前でぴたり、と止めた。
「……!」
びくり、と動きを止めた凪から、ゆっくりと身を離す。木刀を下ろした。
「……甘い。突くよりもむしろ、引きを意識するべきだ。さもなくば、こうなる」
木刀を弾かれたままの姿勢で固まっていた凪は、そこで大きく息をついた。木刀を下ろし、深く頭を下げた。
「恐縮する、プロセスです」
表情を変えずライドウは言う。
「だが、良くなってきた。続けよう」
凪は、ぱ、と青い目を見開き、表情を緩めた。額の汗を、濃緑のジャケットの袖で拭おうとして。思い直したように、ズボンから出したハンカチで拭く。
ライドウは片手で木刀を握り、構えてみせる。
「それと片手剣、威力が劣るのは仕方がないが。重心の移動で体重を乗せることができれば違ってくるだろう。正中線を意識して、腰を――」
「そうそう、腰だよ腰! 剣は腰! うどんと同じだね」
言ったのは凪ではない、離れた場所に座るゴウトでも。
白くか細い光をまとって宙に浮かぶ亡霊の如き姿。
それは友。悪魔とそれを悪用するものの手から、この国を護る『超国家機関・ヤタガラス』の仲間だった少年。
先頃『秘密結社・コドクノマレビト』との戦いで、ライドウ自身がその手にかけた、それは敵。
口を開けていた、ライドウは。
「…………、っ……!」
それでも、奥歯を噛み締めて。手にした木刀を振るった――明らかに重心の乱れた、力まかせの剣を。
星命は身をのけ反らせて宙を滑る。
「うわあああ危なっ! ……すまない、ライドウくん。先に言っておくよ」
表情を消して――いや、どこか申し訳なさげに眉を下げ――星命は言う。
「僕は安倍星命じゃない、彼の霊でも魂でもない。彼は死んで、この世に無い。……彼の残した思念、それが彼の姿でここにいる。そう理解して欲しい」
「……」
身じろぎもせず、ライドウは構えたままでいる。
傍らで凪が息を呑んだ。
「安倍、星命……コドクノマレビトの首領……!」
弾かれたように跳びすさり、木刀を捨てて。近くに置いた自らの小太刀とライドウの刀を拾う。
「先輩!」
凪から放られた刀をつかもうとして、明らかに動作が遅れ。刀は不様に足下に落ちた。
刀を拾い、剣帯に挿すライドウを見やってから。星命は目を伏せた。
「……すまない、急に。けれど、
表情を消し、強くライドウの目を見て続けた。
「けど、僕も旧交を温めに――
いわく。安倍星命を
星命の腹心、倉橋
「ただ、
ゴウトが口を挟む。
「ならば、取りあえずは猶予があるということか。ヤタガラスに手配し、組織的対処を――」
星命は首を横に振る。
「それがとんでもないことになってね。いや……ある意味では、放置しても影響はないんだけど。この世界には、ね」
「……どういうことだ」
ライドウに促され、星命は続ける。
「
いわく。極限まで飢えたクラリオンは、不可能なものすら喰おうとしたと。世界をを隔てる次元の壁、存在すら知覚できるはずのないものを。
無論不可能だった、そのまま果てるはずだった、が。壁の反対側から、同じく呼ばう者がいた、と。
「並行世界の帝都付近――向こうは大正一
いわく。故意か偶然かはともかく、その者がクラリオンの存在に気づき。鬼の組織の長の
長く息をついた後に星命は言う。
「だから、まあね。クラリオンが移動した後の、次元の裂け目はそのうち消える。放っておいても問題はない……こちらの世界にはね」
長く黙っていた後、ゴウトが口を開く。
「……我らもかつて、並行世界を垣間見たことはある。そこにはそこの
星命は首を横に振る。
「並行世界にも色々あるらしくてね。その世界にどうやら、ヤタガラスは存在しない……あるいは僕らが知る、悪魔も。つまり――」
凪がつぶやく。
「
星命は額に手をやり、目をつむる。かぶりを振った。
「……言いたくない、言いたくないんだこんなことは。放っておけばいい、他の世界がどうなろうと、君をまた――」
ライドウが口を開いた。
「どこだ」
目を瞬かせる星命に、続けて言う。
「案内してくれ、その次元の裂け目に。――そのために、来たのだろう」
目を瞬かせ、視線を伏せて星命は言う。
「それは、うん、すぐ案内できる、遠くはないし、封印の場所から大きくはみ出て裂け目は広がってる。問題なく向こうに行ける、そこを通って向こうの世界から来たんだ、僕――クラリオンの欠片から剥がれた、星命の残留思念――は。けど……」
ライドウは無言でマントの下、刀、管、銃を確かめる。
「行くぞ」
目を伏せたまま星命は言う。
「……思わない? 普通さ、罠だって。嘘か、仮にクラリオンが生きてたって、君をおびき寄せようしてるとか――」
視線を動かさずライドウは言う。
「真実だったなら。別の帝都が、世界が滅びかねない……
小さく、奥歯を噛む。
「……我慢がならない」
凪が駆け寄る。
「先輩。ご一緒させていただくプロセスを希望し――」
ライドウは手で制する。
「すぐにヤタガラスへ連絡を。その後は追ってくる必要はない、こちらに残っていて欲しい。もしものことがあれば、後を頼ん――」
そこで言葉を止め、表情を変えないまま言った。
「――いや。必ず、帰ってくるセオリーだ」
そして星命に視線を向け、うなずいて。共に駆け出した。