【鬼滅×葛葉ライドウ】デビルサマナー 葛葉ライドウ 対 鬼殺隊岩柱 悲鳴嶼行冥 作:木下望太郎
――そして今。
「南無阿弥陀仏、南無阿弥陀仏……」
悲鳴嶼は変わらず念仏を唱え、鉄球を振り回す。己が武器に遠心力を乗せつつ、いつでも攻防に使える体勢。
敵は先ほど出現させた、手下の鬼に帰還を命じた。同時、その傍らに立っていたはずの、先程電撃を放っていた
そしてそれらがいた位置から、敵に向かって何かが流れる――音の跳ね返りは柔い、むしろ、ゆるり、と透過するような。実体ではなく水の流れや、揺らめく炎のような何か――。その流れは敵の手にした、筒のような器物に収まった。
そして敵は刀を下ろし――鞘に納めはせず――声を発した。
「待て。敵対するつもりはない、当方は対話を希望する」
「南無阿弥陀仏、南無阿弥陀仏……」
管か何か、小さな物に手下を封じておき、自在に呼び出しては血鬼術を使わせる、それが奴の血鬼術。そう悲鳴嶼は判断した。
そして、そう判断した以上。対話に応じる必要も意味も無い。血鬼術を使える人間などなく――呼吸術による力はあくまで物理的な力、火や水を放つような神通力ではない――、人間に味方する鬼も――わずか二、三の例外を除いて――ない。
何より奴は斬った、悲鳴嶼の前で隊士を。
そして悲鳴嶼は、返答を口にした。
「【岩の呼吸・
斧と鉄球、鎖につながった翼の如く左右へ広げつつ、前へと挟み討つように放つ。
それはあたかも、たった一人の人間が完全に再現した
「くっ……!」
相手は素早く飛び退き、挟み討ちの射程から逃れた。
それでいい、と悲鳴嶼は思った。
孫子の兵法書にもある――悲鳴嶼はかつてそれを、御館様から読んで聞かされた記憶があった――、敵を完全包囲するのは愚策、と。
もしそうすれば敵は死兵と化し、命を顧みず抵抗する――この敵程の
そうならないよう手を緩めておいた、逃げ道をただ一つ空けるように。敵が後ろへ逃げられるように。悲鳴嶼が狙ったそこへ、上手く誘い込めるように。
斧を手元へ引き寄せつつ、鉄球を敵へと大きく振るう。
だがそれは、大技を放った隙を埋めるための攻撃に過ぎない、速度も力も乗ってはいない――そう、敵は感じただろう。
そこへ。
「【岩の呼吸・
鉄球を振るう鎖を踏み締めた、畳にめり込む程の力を以て。
緩く放物線を描いていた鉄球は突如その半径を縮め、遥かに速度を上げ。鋭く、敵へと
「ライドウ!」
「ライドウくん!」
敵から離れた位置にいた、その仲間らしき者――小動物と、宙に浮かんだ炎か風の流れのような、ゆらめく何者か――が声を上げる。
同時、古畳と床板の粉砕された轟音、辺りに舞い散る
「南無阿弥陀仏、南無阿弥陀仏……」
せめてそれだけ念仏を唱え、鉄球を引き戻そうとして。
気づいた。
床下まで打ち抜いたはずの鉄球が。畳の上ほどの位置に留まっていることを。
「おお……おおおぉっ!」
燃えるような叫びと共に、敵は鉄球を振り落とし。床下から跳び上がった。
「何……!」
血のにおいがする、決して無傷ではない。それでも敵は、振り払うように空間へ刀を振った。
それと同時に、辺りに何か多数の、いや無数の物が倒れる音。
「これは……剣……?」
いったいどこから現れたというのか、これも敵の血鬼術か。周囲の畳に深々と突き立った無数の直剣。それが敵を護るように
そのほとんどを折り取られながらも、剣の群れは砲撃の如き鉄球から護り抜いた。敵を――葛葉ライドウと名乗るその男を。
剣の破片が、これも炎や風の流れのようなものへと姿を変え、かき消える中。ライドウの仲間、小動物の姿をした者がつぶやく。
「かつてその刀に宿した剣神『フツヌシ』……その残した思念と力がライドウを護った、か……」
血を流しながらもライドウは、背筋を伸ばして立ち。刀を納めた。
そして声を放つ。
「敵対するつもりはない。当方は、対話を希望する」
「…………」
悲鳴嶼は鎖を手放しはしなかった。
ただ、忘れていた。それを振り回すことも、経を読むことも。