【鬼滅×葛葉ライドウ】デビルサマナー 葛葉ライドウ 対 鬼殺隊岩柱 悲鳴嶼行冥   作:木下望太郎

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第六章(前編)  鬼喰う少年、異界の淑女と出会うプロセス

 

 ――一方、その少し前。

 荒い息を抑えながら、不死川(しなずがわ) 玄弥(げんや)は一人、鋭い歯を噛み締めていた。

 (ふすま)に背をつけ、身を隠しつつ、身につけた隊士服の隅々までまさぐるが。何度数えても、残る実包――散弾銃の弾丸――は、二つ。

 

 舌打ちの後、銃を手にする。それはいわゆる水平二連の、銃身を切り詰めた散弾銃。

 銃把(グリップ)の上部に位置するレバーを横へずらす。二連の銃身が根元から折れ、装填口から空の実包二つが顔を出した。それを捨て、新たな実包を込める。金属の噛み合う音を立て、銃身を元に戻した。

 

 なんてこった、そう考える。そうだ、なんてこった。共に派遣された隊士らは、次々と殺され喰われていった。先に派遣されていた隊士の振りをした、鬼どもに。

 どうにか生き残った者もいたが、彼らもまた倒されていった――翼を持つ獅子、地獄絵図に見る餓鬼(がき)牛頭鬼(ごずき)馬頭鬼(めずき)。毒キノコの笠を被った、髑髏(どくろ)の顔をした死神――、見たこともない鬼の群れに。そう、まるで『悪魔』のような。

 以前に喰った鬼の生命力を残した、『鬼喰い』の玄弥だけが、かろうじて生き残れていた。

 

 『鬼喰い』それは鬼の体を喰い、その能力、筋力、再生力などを一時的に取り込む異能。玄弥はそれを持っていた。

 そして。だからこそ、この場所の鬼を喰おうとは思わなかった。

 ――あれは『喰らうもの』。俺と同じに、俺より遥かに。全てを喰らい尽くそうとするもの。喰おうとすれば、こちらが喰われる――そう理解できた。

 

 そして今。息を整えながら思う。

 どうすべきか、それはただ一つ。生き延びてここを脱出し、鬼殺隊へこのことを伝える――伝令の鎹烏(かすがいがらす)、あれも軒並み喰われていた。玄弥の烏もはぐれたか、喰われたか――。

 

 もう一度大きく息を吸っては吐き、銃把で自らの額を叩き。片手に銃、片手に日輪刀の小太刀を握り締める。

 

 そうだ、日輪刀といえば。これも妙なことがあった。玄弥たちを襲った鬼、隊士を装ったものもそうでないものも。首を斬らずとも死んでいた。並の生物が息絶える程の傷を、体のいずれかに与えれば――本来、鬼殺隊の狩る『鬼』、それを殺す術はただ二つ。日光を浴びせるか、日光の力を帯びた鉄で造られた、日輪刀などの武器。それらで首を斬り落とすか。そのはずだった――。

 

 とにかく。それも含めて鬼殺隊に伝え、柱――鬼殺隊最強格の隊士ら――を含む増援を募る。それしかない。

 

 そう考え、敵の有無をうかがおうと、襖の陰から顔を出したとき。

 玄弥は文字通り、尻に敷かれていた――正確に言えば、顔を出したとたん目の前の空中に、稲妻のような亀裂のようなものが黒く走り。そこから女が(まろ)び出てきた、白いズボンの尻から先に――。

 

 そして。

「きゃ……!」

 そういう小さな悲鳴を残し、玄弥の顔の上に。女の尻が乗っかっていた。

 

「……~~!!?」

 声にならない声を上げ、玄弥は女の下から這い出る。

 目を瞬かせて女を見る、緩く縦に巻かれた黒髪を顔の両側に垂らした女、玄弥より幾つか上か。西洋人形にも似た顔立ちの、青い目の美人。

 

 敵なのか――そもそも何なのか――、武器を向けるか否か。玄弥が目を瞬かせていたその瞬間に。

 

「ステイ!」

 女が抜いた小太刀――玄弥のものではない、女が持っていた自前だ――が、目の前に突きつけられていた。

 

 立ち上がりながら女は言う。

「ステイ……動かないで欲しいセオリーです。質問します、ここは異世界の……いえ、その――」

 額に手を当て、悩むように目をつむった後で続ける。

「ここは! 悪魔に襲われているプレイス、それで間違いないプロセスですか!」

 

 目を瞬かせた後でようやく、つぶやくように答える。

「あ、ああ……鬼は、出てる。それで来たんだ、俺が、鬼殺隊が」

 

 女の目が、ぱち、ぱちと瞬いて。それから、ぱ、と笑みを浮かべた。花が咲くみたいに、顔中で。

 一つ手を叩いて言う。

「鬼殺……デーモン・スレイヤー! つまりそう、この世界のヤタガラスのようなものですね、申し遅れました――」

 

 濃緑のジャケットの間からのぞく、白いシャツに覆われた胸。慎ましやかな膨らみを見せるそれを音を立てて叩き、女は名乗った。

「――私は悪魔召喚師(デビルサマナー)、亡師たる葛葉四天王が一角・葛葉ゲイリンの弟子、凪!」

 

 強く叩き過ぎたか、けほ、と、むせた後。凪と名乗った女は言った。

「とにかく。こちらにライドウ先輩が来ているはずです、ああその、凄く強い味方が。貴方の仲間はいらっしゃいますか」

 

 聞かれて、さすがに玄弥の視線が下がる。

「……いない。全滅だ、多分、俺一人。どうにかここから――」

 

 聞くと同時。凪と名乗った女は、胸の前でシャツを強く握り締めた。頭を下げる。

「……ソーリィ。配慮が足りなかったプロセスです」

 

 玄弥は目を瞬かせた。訳が分からなかった。なぜこんな、突然出てきた何者かも分からない女が――俺よりも、つらい顔をするのか。悲しむのか、涙さえ目の端に浮かべて。 

 

 涙を拭い、手を一つ叩いて。女は言った、笑顔を作って。

「けど! ここからはノープロブレムです、私が貴方を護ります。とにかく、先輩を探して合流を――」

 

 その言葉の合間に。聞こえてきた、引きずるような足音が。

そして闇から姿を見せた。玄弥を襲った、隊士服を着た死霊のようなものの群れが。宙から聞こえてきた、翼を持った獅子の羽ばたきが。

 

「ヤバい――」

 玄弥が銃を構えるより早く。

 

 女はその胸元から、金属の管を抜いていた。

「焼き尽くして――『オルトロス』!」

 

 見る間に管から緑色の光が溢れ、流星のように一筋となって駆ける。畳の上に討ち当たったそれは、光の粉を散らして。やがて獣の姿を取った。

 黄色い体毛、青いたてがみの双頭の獅子。ただしその尾は青く(さそり)のように強靭な殻を持ち、その目は青く輝いている。

 

「オルトロス、【炎の吐息(ファイアブレス)】です!」

「フン……ケモノ使イノ荒イコトダ!」

 片言の人語で悪態をつきながら、双頭の獅子は息を溜めた。一拍の後、二つの口から放たれる。長く尾を引く【炎の吐息(ファイアブレス)】が。

 

 翼を持った獅子がそれに巻かれ、のたうちながら地に落ちる。そこへ双頭の獅子が跳びかかり、その牙で爪で蹂躙(じゅうりん)する。

 さらに獅子は隊士服の敵の群れへと跳び、尾を振るい牙を剥く。たちまちの内に敵陣は蹴散らされた。

 

 しかし。

「オルトロス! 退いて!」

 凪と名乗った女の声もわずかに遅く。双頭の獅子は、敵の刃に裂かれていた――毒キノコの笠を被った、髑髏(どくろ)の顔をした死神。その振るった直剣に。

 

「ガァ……!」

 唸って倒れる獅子の、血まみれの前脚が飛んで玄弥の前に落ちる。

 

 反射的といえる速さで、玄弥はそれを手に取っていた。

 ――違う、これは違う。鬼ではないかも知れないが、あの『喰らうもの』とは違う。なら、喰ってみるまでだ。この状況を打破できる可能性、それが一つでもあるのなら――。

 

 かぶりつく。血のにおい、鼻孔をつん裂くような。筋張った肉、鉄筋のような骨。それでも、噛み締める。咀嚼(そしゃく)し、呑み込む。

 

 ――体が、燃える。

 

「おお……おおおっ!」

 玄弥の全身を炎が包み、それが消えたとき。変わっていた。縦に割ったように玄弥の左半身が、獣に。

黄色の固い体毛、青のたてがみ。鋭い牙、爪。腰の後ろから伸びる、青い甲殻に覆われた尾。そしてその左肩には、肩当て鎧のような格好で、獅子の片方の頭。

 

 巡る、鼓動が。熱い炎のような血が、全身を。妙なことではあったが、獣と化していない右半身にも同じ血の巡りを、力を感じた。

 

「おおお……うおおおおぉっ!」

 未だ手負いの獅子と向き合っている死神へと跳ぶ。少し力を入れただけで玄弥の両脚は、畳を踏み削る程の力を発揮し。弾かれたように弦弥を空中、死神の顔の前へと飛ばした。

 

「そぉらああ!」

 振るう、左手から伸びる爪。続けざまに振るう右手の小太刀も、同じく獣の力がこもる。

 

「ガアア!?」

 不意を突かれた死神が顔を裂かれてのたうつ。だが、致命傷には程遠い。

 

 背後から女、凪の声が飛ぶ。

「貴方の……その能力は」

 

 振り向かないまま玄弥は答える。

「……『鬼喰い』、喰った鬼の力を一時的に得る……そういう体質だ」

 前を向いたまま視線をうつむける。

「……すまねえ、驚かせた。それにあいつ喰って……ごめん」

 

 何か言おうとしたのか、女が息を飲んだのが聞こえた、そのときに。

 死神はまるで、風に吹かれる植物のように。有り得ない角度で身を倒し、手を伸ばし。直剣を玄弥へ振るっていた。

 

「しまっ――」

 視線を下へ向けていた弦弥の反応が遅れる、目の前に刃が迫る――駄目だ、何をやってる間抜けか俺は、この体でも今さらかわせない、耐えられるかどうか――。

 

 が。刃は当たらなかった。

突然後ろから引き倒された。女の細い腕で。女はそのまま自分の体ごと、玄弥をかばうように倒れ込む。

 

「な……」

 玄弥はすぐに身を起こした。追撃に備えるべく無理やりに女を引きずり、大きく敵から距離を取る。

 そのときに気づいた、女の肩口が先程の攻撃で、浅く斬られていることに。

 

 がば、と身を起こすなり女は言う。

「貴方、無事なプロセスですか!」

 

 玄弥は目を瞬かせていた。口を開けて。

 ――何だ、こいつ――そう思った。――傷ついているのは自分の方なのに。それよりも先に俺のことを――

 

 玄弥はつぶやく。

「――、たねぇ」

「え?」

 

 同じだ、これじゃあ――そう玄弥は思っていた。

 ――同じだ。母ちゃんが鬼になってしまったあのときと。

 ――同じだ。兄ちゃんが俺をかばって、一人で母ちゃんを殺したあのときと。

 ――何も変わってない。何もできなくて、なのに兄ちゃんに恨み言を、それだけをぶつけてしまった、あのときと。

 ――変わっていない。多くの隊士が死んで自分だけが生き残り、見知らぬ女にまでかばわれた今が。

 

 牙を、奥歯を噛み鳴らし、玄弥は言葉を吐き出した。

「――やる方ねぇ、やる方ねぇよこんなんじゃよぉ……憤懣(ふんまん)やる方ねぇ……!」

 そうだ、憤懣やる方ない。何も変わっていない、弱い自分が。

 

 握る拳に爪が鳴る。再び脚に力を込める。跳んだ。

「おあああぁぁっ!」

 死神の顔が目前に迫る。だがその前には、構えられた鋭い剣。

 

 玄弥は敵へと向けた。己の左肩、獣の方の半身を。

「絞り出せ……【炎の呼吸(ファイアブレス)】!」

 

「グアアア!?」

 玄弥の肩についた、獅子の口から吹き出した炎に全身を巻かれ。敵はその身をねじるようにのた打ち回る。

 

 手負いの獅子が横で言った。

「パクリダ! ソノ技、オレサマノ!」

 

 

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