【鬼滅×葛葉ライドウ】デビルサマナー 葛葉ライドウ 対 鬼殺隊岩柱 悲鳴嶼行冥 作:木下望太郎
――一方、その少し前。
荒い息を抑えながら、
舌打ちの後、銃を手にする。それはいわゆる水平二連の、銃身を切り詰めた散弾銃。
なんてこった、そう考える。そうだ、なんてこった。共に派遣された隊士らは、次々と殺され喰われていった。先に派遣されていた隊士の振りをした、鬼どもに。
どうにか生き残った者もいたが、彼らもまた倒されていった――翼を持つ獅子、地獄絵図に見る
以前に喰った鬼の生命力を残した、『鬼喰い』の玄弥だけが、かろうじて生き残れていた。
『鬼喰い』それは鬼の体を喰い、その能力、筋力、再生力などを一時的に取り込む異能。玄弥はそれを持っていた。
そして。だからこそ、この場所の鬼を喰おうとは思わなかった。
――あれは『喰らうもの』。俺と同じに、俺より遥かに。全てを喰らい尽くそうとするもの。喰おうとすれば、こちらが喰われる――そう理解できた。
そして今。息を整えながら思う。
どうすべきか、それはただ一つ。生き延びてここを脱出し、鬼殺隊へこのことを伝える――伝令の
もう一度大きく息を吸っては吐き、銃把で自らの額を叩き。片手に銃、片手に日輪刀の小太刀を握り締める。
そうだ、日輪刀といえば。これも妙なことがあった。玄弥たちを襲った鬼、隊士を装ったものもそうでないものも。首を斬らずとも死んでいた。並の生物が息絶える程の傷を、体のいずれかに与えれば――本来、鬼殺隊の狩る『鬼』、それを殺す術はただ二つ。日光を浴びせるか、日光の力を帯びた鉄で造られた、日輪刀などの武器。それらで首を斬り落とすか。そのはずだった――。
とにかく。それも含めて鬼殺隊に伝え、柱――鬼殺隊最強格の隊士ら――を含む増援を募る。それしかない。
そう考え、敵の有無をうかがおうと、襖の陰から顔を出したとき。
玄弥は文字通り、尻に敷かれていた――正確に言えば、顔を出したとたん目の前の空中に、稲妻のような亀裂のようなものが黒く走り。そこから女が
そして。
「きゃ……!」
そういう小さな悲鳴を残し、玄弥の顔の上に。女の尻が乗っかっていた。
「……~~!!?」
声にならない声を上げ、玄弥は女の下から這い出る。
目を瞬かせて女を見る、緩く縦に巻かれた黒髪を顔の両側に垂らした女、玄弥より幾つか上か。西洋人形にも似た顔立ちの、青い目の美人。
敵なのか――そもそも何なのか――、武器を向けるか否か。玄弥が目を瞬かせていたその瞬間に。
「ステイ!」
女が抜いた小太刀――玄弥のものではない、女が持っていた自前だ――が、目の前に突きつけられていた。
立ち上がりながら女は言う。
「ステイ……動かないで欲しいセオリーです。質問します、ここは異世界の……いえ、その――」
額に手を当て、悩むように目をつむった後で続ける。
「ここは! 悪魔に襲われているプレイス、それで間違いないプロセスですか!」
目を瞬かせた後でようやく、つぶやくように答える。
「あ、ああ……鬼は、出てる。それで来たんだ、俺が、鬼殺隊が」
女の目が、ぱち、ぱちと瞬いて。それから、ぱ、と笑みを浮かべた。花が咲くみたいに、顔中で。
一つ手を叩いて言う。
「鬼殺……デーモン・スレイヤー! つまりそう、この世界のヤタガラスのようなものですね、申し遅れました――」
濃緑のジャケットの間からのぞく、白いシャツに覆われた胸。慎ましやかな膨らみを見せるそれを音を立てて叩き、女は名乗った。
「――私は
強く叩き過ぎたか、けほ、と、むせた後。凪と名乗った女は言った。
「とにかく。こちらにライドウ先輩が来ているはずです、ああその、凄く強い味方が。貴方の仲間はいらっしゃいますか」
聞かれて、さすがに玄弥の視線が下がる。
「……いない。全滅だ、多分、俺一人。どうにかここから――」
聞くと同時。凪と名乗った女は、胸の前でシャツを強く握り締めた。頭を下げる。
「……ソーリィ。配慮が足りなかったプロセスです」
玄弥は目を瞬かせた。訳が分からなかった。なぜこんな、突然出てきた何者かも分からない女が――俺よりも、つらい顔をするのか。悲しむのか、涙さえ目の端に浮かべて。
涙を拭い、手を一つ叩いて。女は言った、笑顔を作って。
「けど! ここからはノープロブレムです、私が貴方を護ります。とにかく、先輩を探して合流を――」
その言葉の合間に。聞こえてきた、引きずるような足音が。
そして闇から姿を見せた。玄弥を襲った、隊士服を着た死霊のようなものの群れが。宙から聞こえてきた、翼を持った獅子の羽ばたきが。
「ヤバい――」
玄弥が銃を構えるより早く。
女はその胸元から、金属の管を抜いていた。
「焼き尽くして――『オルトロス』!」
見る間に管から緑色の光が溢れ、流星のように一筋となって駆ける。畳の上に討ち当たったそれは、光の粉を散らして。やがて獣の姿を取った。
黄色い体毛、青いたてがみの双頭の獅子。ただしその尾は青く
「オルトロス、【
「フン……ケモノ使イノ荒イコトダ!」
片言の人語で悪態をつきながら、双頭の獅子は息を溜めた。一拍の後、二つの口から放たれる。長く尾を引く【
翼を持った獅子がそれに巻かれ、のたうちながら地に落ちる。そこへ双頭の獅子が跳びかかり、その牙で爪で
さらに獅子は隊士服の敵の群れへと跳び、尾を振るい牙を剥く。たちまちの内に敵陣は蹴散らされた。
しかし。
「オルトロス! 退いて!」
凪と名乗った女の声もわずかに遅く。双頭の獅子は、敵の刃に裂かれていた――毒キノコの笠を被った、
「ガァ……!」
唸って倒れる獅子の、血まみれの前脚が飛んで玄弥の前に落ちる。
反射的といえる速さで、玄弥はそれを手に取っていた。
――違う、これは違う。鬼ではないかも知れないが、あの『喰らうもの』とは違う。なら、喰ってみるまでだ。この状況を打破できる可能性、それが一つでもあるのなら――。
かぶりつく。血のにおい、鼻孔をつん裂くような。筋張った肉、鉄筋のような骨。それでも、噛み締める。
――体が、燃える。
「おお……おおおっ!」
玄弥の全身を炎が包み、それが消えたとき。変わっていた。縦に割ったように玄弥の左半身が、獣に。
黄色の固い体毛、青のたてがみ。鋭い牙、爪。腰の後ろから伸びる、青い甲殻に覆われた尾。そしてその左肩には、肩当て鎧のような格好で、獅子の片方の頭。
巡る、鼓動が。熱い炎のような血が、全身を。妙なことではあったが、獣と化していない右半身にも同じ血の巡りを、力を感じた。
「おおお……うおおおおぉっ!」
未だ手負いの獅子と向き合っている死神へと跳ぶ。少し力を入れただけで玄弥の両脚は、畳を踏み削る程の力を発揮し。弾かれたように弦弥を空中、死神の顔の前へと飛ばした。
「そぉらああ!」
振るう、左手から伸びる爪。続けざまに振るう右手の小太刀も、同じく獣の力がこもる。
「ガアア!?」
不意を突かれた死神が顔を裂かれてのたうつ。だが、致命傷には程遠い。
背後から女、凪の声が飛ぶ。
「貴方の……その能力は」
振り向かないまま玄弥は答える。
「……『鬼喰い』、喰った鬼の力を一時的に得る……そういう体質だ」
前を向いたまま視線をうつむける。
「……すまねえ、驚かせた。それにあいつ喰って……ごめん」
何か言おうとしたのか、女が息を飲んだのが聞こえた、そのときに。
死神はまるで、風に吹かれる植物のように。有り得ない角度で身を倒し、手を伸ばし。直剣を玄弥へ振るっていた。
「しまっ――」
視線を下へ向けていた弦弥の反応が遅れる、目の前に刃が迫る――駄目だ、何をやってる間抜けか俺は、この体でも今さらかわせない、耐えられるかどうか――。
が。刃は当たらなかった。
突然後ろから引き倒された。女の細い腕で。女はそのまま自分の体ごと、玄弥をかばうように倒れ込む。
「な……」
玄弥はすぐに身を起こした。追撃に備えるべく無理やりに女を引きずり、大きく敵から距離を取る。
そのときに気づいた、女の肩口が先程の攻撃で、浅く斬られていることに。
がば、と身を起こすなり女は言う。
「貴方、無事なプロセスですか!」
玄弥は目を瞬かせていた。口を開けて。
――何だ、こいつ――そう思った。――傷ついているのは自分の方なのに。それよりも先に俺のことを――
玄弥はつぶやく。
「――、たねぇ」
「え?」
同じだ、これじゃあ――そう玄弥は思っていた。
――同じだ。母ちゃんが鬼になってしまったあのときと。
――同じだ。兄ちゃんが俺をかばって、一人で母ちゃんを殺したあのときと。
――何も変わってない。何もできなくて、なのに兄ちゃんに恨み言を、それだけをぶつけてしまった、あのときと。
――変わっていない。多くの隊士が死んで自分だけが生き残り、見知らぬ女にまでかばわれた今が。
牙を、奥歯を噛み鳴らし、玄弥は言葉を吐き出した。
「――やる方ねぇ、やる方ねぇよこんなんじゃよぉ……
そうだ、憤懣やる方ない。何も変わっていない、弱い自分が。
握る拳に爪が鳴る。再び脚に力を込める。跳んだ。
「おあああぁぁっ!」
死神の顔が目前に迫る。だがその前には、構えられた鋭い剣。
玄弥は敵へと向けた。己の左肩、獣の方の半身を。
「絞り出せ……【
「グアアア!?」
玄弥の肩についた、獅子の口から吹き出した炎に全身を巻かれ。敵はその身をねじるようにのた打ち回る。
手負いの獅子が横で言った。
「パクリダ! ソノ技、オレサマノ!」