【鬼滅×葛葉ライドウ】デビルサマナー 葛葉ライドウ 対 鬼殺隊岩柱 悲鳴嶼行冥   作:木下望太郎

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第六章(後編)

 

「戻りなさい、オルトロス!」

 凪の声が飛ぶと同時、獅子の体は緑の光となって散る。吸い込まれるように、凪の手にした管へと還っていった。

 

 その間にも、玄弥は炎のくすぶる死神に爪を浴びせては引き、振るわれる剣を小太刀で受ける。まだ、決着はつけられそうにない。

 

 凪が声を上げる。

「貴方! ええと――」

 

 敵の攻撃から身をかわしながら、玄弥は一瞬悩んだが。こちらの名前を知らず呼べないのだと、遅れて理解した。

 死神へ斬りつけながら言う。

「何だ! 後にしろ後に!」

 

 後ろから凪は言う。

「心苦しいプロセスですが、もう少しそのまま頑張って下さい!」

「あぁ?」

 

 跳び退きながら横目で見ると。凪は、一本の管を手にしていた。

「わずかだけ時間を稼いでいただければ、強力な仲魔を()べるセオリーです」

 

 よく分からない――そもそもなぜ、血鬼術のような召喚術を凪が使えるのかも分からない――が。とにかく、玄弥は断わらなかった。無言のまま戦闘を続ける。

 

 管を持ったまま目をつむり手を合わせる、凪の声が静かに響く。

南無(なむ)ハチマン大菩薩(ぼさつ)、日の本の神明――」

 

 玄弥は爪と小太刀で十字に斬りかかるが、敵の剣に阻まれた。つばぜり合いに持ち込むが力で押され、舌打ちして身を引く。

 

「――天神地祇(てんじんちぎ)鞍馬(くらま)のビシャモンテン、並びに護法魔王尊――」

 

 続けて振るわれる剣を玄弥は跳び、身をひねり、体ごとのけぞってどうにかかわす――鶏冠(とさか)のように逆立った黒髪が、幾筋か切り払われた――。

 

「――願わくは()の武者を(つか)わしめ、あの妖異をば討たせてたばせ給え」

 目を見開き、凪が声を上げた。

「召喚! 貴殿の名は――英雄『ヨシツネ』!」

 

 緑の光が管から飛び出し、軽快な男の声を上げた。

「ハッハー! 浅草六区(ロック)で祭りだぜぇぇぇ!」

 見る間に光は、赤い鎧をまとった若武者の姿を取る。端整な顔の上、頭には烏帽子をかぶった、身軽そうな細身の武士。その手には抜き身の太刀。

 

「え……」

 敵から距離を取りながら、思わず玄弥はそちらを見る。

 幼い頃、ぐずる弟たちをあやしながら。寝床の上で母が語ってくれた、牛若丸――後の源 義経――と弁慶の昔話。それが、ここに? 

 

 凪は死神を真っ直ぐ指差す。

「ヨシツネ! あの敵を倒し、少年を救うセオリーです!」

 

 整った顔をはっきりと歪め、ヨシツネは舌打ちする。

「このオレに命令たぁ、出世したもんだな小娘……まぁいい。あの程度、名刀『薄緑(うすみどり)』の露にしてくれるわ! 行くぜ、【ヨシツネ見参】!」

 

 言う間にヨシツネは高く跳び。闇の中へ高く跳び――そういえばこの屋敷は異常に大きい、一部屋一部屋が大広間か蔵のように。外から見たときはただの屋敷だったが、これも悪魔とやらのせいか――。そのまま闇に姿を消した。

 

「……ん?」

 玄弥がいぶかしんだとき。

 

「しゃあらああぁ!」

 遥か高くの壁を蹴ったか、矢のような速度で。ヨシツネが敵へと飛びかかる。

 

「ググ……!」

 その一撃は、敵も剣を構えて受けたが。

 大きく体勢を崩したそこへ、着地したヨシツネが連続で太刀を振るう。

「おぉらぁ! これで終いじゃあ!」

 さらに、一直線に駆け抜けながら。胴斬りに振るった刃が、敵を両断した。

 死神の上体がぐらり、と揺れ、音を立てて畳に落ちる。

 

「ふ。決まったな……決まり過ぎたぐらいだぜ」

 太刀を一つ降った後、目を閉じて納刀するヨシツネ。

 

 凪の声が飛ぶ。

「ヨシツネ、後ろ!」

「ん?」

 悠々と振り返ったヨシツネの前に。倒れた死神が最期の力で振るう、剣が迫っていた。

「えっ……」

 

 完全に固まったヨシツネには構わず。玄弥は銃の引き金を引いた。横合いから敵の腕、そして頭へ一発ずつ、最後の銃弾を。

 散らばる弾丸の群れは敵の腕を折り、頭を吹き飛ばし。完全に敵の動きを止めた。

 

 凪が玄弥とヨシツネの方へ駆け寄る。

「感謝です、助かったセオリーです! ヨシツネ、怪我は」

 

「えっ、と……」

 目を瞬かせていたヨシツネだったが。突然玄弥に向かい、顔をしかめた。

「今よーてめえよー、『てつはう』が一発ヒュン、って一発ヒュン、って! オレの顔に当たるとこだったろうがよ、あぁー?」

 頬に何度も、ヒュン、と指を走らせる。

 

「…………」

 玄弥は口を開けていた。

なんだか、思っていたのと違う。この義経は。

 

 一発ぐらい当たっていても良かった、そう思いながら凪に向き直る。視線をうつ向けていった。

「こっちこそ、助けられた。……俺は鬼殺隊、不死川(しなずがわ) 玄弥」

 

 ヨシツネが腕組みして背を反らせる。

「ふんっ、特別に名乗ってやろう。遠からん者は音にも聞け、近くば寄って目にも見よ! 我こそは源――」

 

 目を合わせずに玄弥は言う。

「お前はいい」

「何ぃぃ!」

「知ってる」

「お……おう。そうか。さすがにオレは名高き――」

 

 何か喋っているヨシツネは無視し、凪に言った。

「悪いが、力を貸して欲しい。図々しいかも知れねえが――」

 

 凪は玄弥の手を握る。

「もちろん、こちらこそお願いしたいセオリーです」

 

 と、そのとき。闇の向こうから、何かが這いずるような音がした。

 見れば。さらに現れた、隊士服を着た屍人、着物姿や洋装の屍人。泥に目と口をつけたような魔物。

 

 玄弥は鼻を鳴らし、獣の力を宿す手を握る。

「ふん、早速お出ましかよ。だが――」

 

 さらに現れた。泥の魔物。地獄図に見る餓鬼。牛頭鬼、馬頭鬼。根を軋ませて歩く、人骨を幹で捻り潰した木。炎の尾を持つ虎。翼をはためかす、西洋甲冑をまとう天使の手には剣が光る。

 人魂のように宙に燃える、南瓜をくり抜いた形の(あやかし)。体温の全てを吸い取るような、穴にも似た光ない瞳の、凶悪な牙の雪達磨(だるま)。雷をまとった獣。牛すら喰らうかと思われる、巨大な体躯の蜘蛛の一団は皆、角のある鬼に似た形相をしている。

 それらが溢れかえる向こうには。見上げるような巨大な骸骨が、足音も重く向かってくる。

 

「………………」

 無言のまま。三人の顔が、一様に引きつる。

 

 

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