【鬼滅×葛葉ライドウ】デビルサマナー 葛葉ライドウ 対 鬼殺隊岩柱 悲鳴嶼行冥   作:木下望太郎

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第八章  弟子らと若武者、或いは深層を垣間《かいま》見せる

 

 ――一方その頃。

 じわじわと迫り来る悪魔の群れに玄弥は、凪とヨシツネも、じりじりと歩を後ろへ進めていた。決して背を向けず、しかし血の気を失った顔のまま、無言で。

 

 ぴしゃり、と両頬を叩いてから、ヨシツネが声を張る。

「ええい、殿(しんがり)はこのオレがやる! 小僧、小娘を連れて逃げろ!」

 

「お前……」

 玄弥が口を開けているとヨシツネは言った。

「ふんっ、勘違いするなよ。一番手柄は常にこのオレのもんよ! ……なに、オレは弁慶(武蔵坊)ほど律義者じゃねぇ……適当なとこでずらかってやるさ」

 

 目を瞬かせ、玄弥は考える。

 ――いいのかこれで、いやそうか、これでいいんだ凪の召喚術、あれで獅子を呼び戻したように戻せるのか、それに俺が殺られたら誰が鬼殺隊にこのことを――

 

 だが。あの時のことが頭をよぎる。兄にかばわれ、母が死んだあの時の。

 

 唾を吐き、弾丸の切れた銃を捨てて。刀を構えるヨシツネに並び立つ。獣の爪を軋らせ、敵を見据えて言った。

「ぬかせ。てめえ一人にかっこつけさせて――」

 

 背後で凪の声が上がった。

「同時召喚! 乗せて、オボログルマ!」

 振り返ると。その手の管から飛び出た緑の光、それが畳の上に落ち。黒い車――まさにタクシー、ただし事故にでもあったように車体を歪ませたそれ――の形を取る。

 

 いびつなドアを開けるやいなや助手席に跳び乗り、凪は声を飛ばす。敵の群れに視線を向けて、青ざめた顔のままで。

「何をしているプロセスですか! 早く乗って下さい!」

 

「――たまる、か……え?」

 玄弥は目を瞬かせる。横でヨシツネも同じ顔。

 

 凪は運転席に身を乗り出し――そこには運転手らしき骸骨が座っている――、何度かクラクションを鳴らした。

「は・や・くっ!」

 

「は……はいっ!」

 男二人で揃って返事し、後ろの席へ駆け入る。

 

 凪が声を上げる。

「オボログルマ! 全速力で逃げて!」

 車はその車体を弾ませ、どこからかは分からないが声を上げた。

「うぉまえは白樺派かぁぁぁ!? ドストエフスキーとかキライーとかどっちだぁぁぁぁぁ! ずっどおおぉぉぉぉん!!」

 

 その言葉の意味を玄弥が考え始める前に。車はその場で猛烈に車輪を回転させ、畳表を後ろに散らして。尾を引く排ガスを残し、疾走を始めた。

 

 クッションの固い椅子の上で、尻が跳ねるのを感じながら。玄弥とヨシツネは窓から後ろを見る。悪魔の群れも速度を上げて追ってはきていたが、車は確実に距離を離していっている。

 

 ヨシツネが口笛を吹く。

 玄弥も言った。

「やったぜ、これなら! って――」

 

 視線を前に戻した、その瞬間に気づいた。進路の先、畳の上。(ふすま)が視界一面に、前方をさえぎっていた。

 

「あ、あれ!」

 玄弥は前を指差したが。

 凪もまた、前を指差していた。

「突っ切って! オボログルマ!」

 

 エンジンをうならせ、車がさらに速度を上げる。

「うぉれは黄色い青だぁぁぁぁ! 大(アリ)名古屋は城で持つ、青い信号は止まらねぇぇぇぇぇ!」

 訳の分からない言葉を叫ぶ、車が襖をはね飛ばし。その破片がフロントガラスを砕く。

 

「きゃ!」

 凪が悲鳴を上げて伏せ、玄弥とヨシツネもそれぞれの顔を手でかばう。

 それでもどうにか無事だったらしく、車は走り続けていたが。

 

 ヨシツネが、振るえる指で運転席を指差す。

「そそそそいつどうなってんだ、御者(ぎょしゃ)、首、首ぃぃ!」

 

 見れば。ハンドルを握っていた骸骨、その頭がなくなっていた。襖の破片に弾け飛ばされたのか。

 そして。力をなくした腕の骨が、ぱたり、と倒れ。それに合わせてハンドルが切られた。猛烈に。

 

「きゃあああ!?」

「ぎゃああああああ!!」

「ああああああああ!?」

 悲鳴が交錯する中、渦のような回転の後。車は停まった。敵の方へ頭を向けて。

 そうするうちにも悪魔の群れは、足音も高く距離を縮めている。

 

「く……!」

 かぶりを振り、外傷のないことを確認した後。玄弥はドアに手をかけた。

「ここまでか……俺が足止めする、お前たちは――」

「待て、オレも――」

 

 その間に凪は運転席に移り、散らばる骨を拾い集めて。

そ、と助手席に置いた。頭を下げる。

「ありがとう、運転手の方……無事に帰ったら、きっと修復するセオリーです」

 

 そして、おもむろにハンドルとシフトレバーを握る。アクセルを踏んだ。

「さて。確か……こう!」

 エンジンがかかったままだったオボログルマは急発進した。敵の方に向かったままで。

 

「ずっどぉぉぉぉん! うぉれはうぉまえでうぉまえはうぉれで! オッス、オラ三杯酢!」

 車がご機嫌な声を上げる中、男二人は加速で背もたれに叩きつけられる。

 

「ごっはぁ……!」

 打ち所の悪かったヨシツネが倒れる中、座席にしがみついて玄弥は言う。

「ちょ、ちょっと待ってどこ行くんだあああ!」

 

 凪の表情は変わらない。

「確かブレーキは……こう!」

 急角度で切るハンドル、突然踏まれたブレーキ。それらは車体の向きを半回転する程に変えつつ、車体後部を振って大きく滑らせ。それが、向かってきていた悪魔を十数体、巻き込んで()き肉に変えた。

 

「ぎゃああああああああ!?」

 もはや自分のものか誰のものか分からぬ悲鳴を聞きつつ、玄弥は運転席の背にしがみつく。

「ちょ、おおおい凪さん! 免許、あんた免許とか持ってんのか!?」

 

 緩く巻かれた黒髪を、ふわ、と凪はなで上げる。

「たしなみ程度のプロセスですが。台天目(だいてんもく)までなら免状を」

「そうか凄いな多分茶道だろそれ! そうじゃねえ――」

「敵が来ます――行きます!」

 

 あああああああああああああ、と、玄弥の叫びだけを置き去りにして車は駆ける。またしても謎の制動で、悪魔をまとめて肉塊に変え。それを連続で繰り出しながら。

 

 オボログルマが声を上げる。

「こ……この動きはああああ! 車型怪異に伝わる暗黒のヤング伝説奥義【爆裂五連ドリフト】じゃねえかあああああ! すっげええええええ!」

 

 凪は前を――他の何でもなく前だけを――青い目で見据え、唇を舐める。

「なるほど……分かってきたプロセスです。もはや何びとたりとも、私の前は走らせません! 私が一番、オボログルマを上手く動かせるセオリーです!」

 

 床に転がるヨシツネは、頭を抱えて泣き叫ぶ。

「いやあああああもうダメだ助けて兄上ええええええ! 武蔵坊早く来て、早く来てえええええええええ!?」

 

 片や、加速で窓に頬を押しつけられながら。玄弥は、にこ、と笑っていた。穏やかに。

 ――ありがとう炭治郎、本当にありがとう。こんな俺だけどお前の言葉で、少しだけど素直になれた気がするんだ――。

 ――ありがとうございます悲鳴嶼さん、こんな俺を拾って鍛えてくれて。力になれず申し訳ありません、最期にもう一度お会いしたかったです――。

 ――兄ちゃん、本当にごめん。大好きだ――。

 ――母ちゃん、就也、弘、こと、貞子、寿美。俺も今そっちに行くよ。ただしクソ親父、てめーはダメだ地獄に落ちろ――。

 

 玄弥がまたも、にこ、と笑う中。

 オボログルマがご機嫌な声を上げた。

「ずっどおおぉぉぉぉん! 行くぜ凪ぃぃ! うぉれとうぉまえの合体パワーは! 百万ジゴワットの熱い……何? ほらアレ……なんだっけ……なんかすごくすごい……い……いちごタンメンだああああぁぁぁ! イスタンブール行きてえええええぇぇ!!」

 

 そのまま畳の上を駆ける。どこへ行くかは分からぬまま。

 

 

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