【鬼滅×葛葉ライドウ】デビルサマナー 葛葉ライドウ 対 鬼殺隊岩柱 悲鳴嶼行冥 作:木下望太郎
――一方その頃。
じわじわと迫り来る悪魔の群れに玄弥は、凪とヨシツネも、じりじりと歩を後ろへ進めていた。決して背を向けず、しかし血の気を失った顔のまま、無言で。
ぴしゃり、と両頬を叩いてから、ヨシツネが声を張る。
「ええい、
「お前……」
玄弥が口を開けているとヨシツネは言った。
「ふんっ、勘違いするなよ。一番手柄は常にこのオレのもんよ! ……なに、オレは
目を瞬かせ、玄弥は考える。
――いいのかこれで、いやそうか、これでいいんだ凪の召喚術、あれで獅子を呼び戻したように戻せるのか、それに俺が殺られたら誰が鬼殺隊にこのことを――
だが。あの時のことが頭をよぎる。兄にかばわれ、母が死んだあの時の。
唾を吐き、弾丸の切れた銃を捨てて。刀を構えるヨシツネに並び立つ。獣の爪を軋らせ、敵を見据えて言った。
「ぬかせ。てめえ一人にかっこつけさせて――」
背後で凪の声が上がった。
「同時召喚! 乗せて、オボログルマ!」
振り返ると。その手の管から飛び出た緑の光、それが畳の上に落ち。黒い車――まさにタクシー、ただし事故にでもあったように車体を歪ませたそれ――の形を取る。
いびつなドアを開けるやいなや助手席に跳び乗り、凪は声を飛ばす。敵の群れに視線を向けて、青ざめた顔のままで。
「何をしているプロセスですか! 早く乗って下さい!」
「――たまる、か……え?」
玄弥は目を瞬かせる。横でヨシツネも同じ顔。
凪は運転席に身を乗り出し――そこには運転手らしき骸骨が座っている――、何度かクラクションを鳴らした。
「は・や・くっ!」
「は……はいっ!」
男二人で揃って返事し、後ろの席へ駆け入る。
凪が声を上げる。
「オボログルマ! 全速力で逃げて!」
車はその車体を弾ませ、どこからかは分からないが声を上げた。
「うぉまえは白樺派かぁぁぁ!? ドストエフスキーとかキライーとかどっちだぁぁぁぁぁ! ずっどおおぉぉぉぉん!!」
その言葉の意味を玄弥が考え始める前に。車はその場で猛烈に車輪を回転させ、畳表を後ろに散らして。尾を引く排ガスを残し、疾走を始めた。
クッションの固い椅子の上で、尻が跳ねるのを感じながら。玄弥とヨシツネは窓から後ろを見る。悪魔の群れも速度を上げて追ってはきていたが、車は確実に距離を離していっている。
ヨシツネが口笛を吹く。
玄弥も言った。
「やったぜ、これなら! って――」
視線を前に戻した、その瞬間に気づいた。進路の先、畳の上。
「あ、あれ!」
玄弥は前を指差したが。
凪もまた、前を指差していた。
「突っ切って! オボログルマ!」
エンジンをうならせ、車がさらに速度を上げる。
「うぉれは黄色い青だぁぁぁぁ! 大
訳の分からない言葉を叫ぶ、車が襖をはね飛ばし。その破片がフロントガラスを砕く。
「きゃ!」
凪が悲鳴を上げて伏せ、玄弥とヨシツネもそれぞれの顔を手でかばう。
それでもどうにか無事だったらしく、車は走り続けていたが。
ヨシツネが、振るえる指で運転席を指差す。
「そそそそいつどうなってんだ、
見れば。ハンドルを握っていた骸骨、その頭がなくなっていた。襖の破片に弾け飛ばされたのか。
そして。力をなくした腕の骨が、ぱたり、と倒れ。それに合わせてハンドルが切られた。猛烈に。
「きゃあああ!?」
「ぎゃああああああ!!」
「ああああああああ!?」
悲鳴が交錯する中、渦のような回転の後。車は停まった。敵の方へ頭を向けて。
そうするうちにも悪魔の群れは、足音も高く距離を縮めている。
「く……!」
かぶりを振り、外傷のないことを確認した後。玄弥はドアに手をかけた。
「ここまでか……俺が足止めする、お前たちは――」
「待て、オレも――」
その間に凪は運転席に移り、散らばる骨を拾い集めて。
そ、と助手席に置いた。頭を下げる。
「ありがとう、運転手の方……無事に帰ったら、きっと修復するセオリーです」
そして、おもむろにハンドルとシフトレバーを握る。アクセルを踏んだ。
「さて。確か……こう!」
エンジンがかかったままだったオボログルマは急発進した。敵の方に向かったままで。
「ずっどぉぉぉぉん! うぉれはうぉまえでうぉまえはうぉれで! オッス、オラ三杯酢!」
車がご機嫌な声を上げる中、男二人は加速で背もたれに叩きつけられる。
「ごっはぁ……!」
打ち所の悪かったヨシツネが倒れる中、座席にしがみついて玄弥は言う。
「ちょ、ちょっと待ってどこ行くんだあああ!」
凪の表情は変わらない。
「確かブレーキは……こう!」
急角度で切るハンドル、突然踏まれたブレーキ。それらは車体の向きを半回転する程に変えつつ、車体後部を振って大きく滑らせ。それが、向かってきていた悪魔を十数体、巻き込んで
「ぎゃああああああああ!?」
もはや自分のものか誰のものか分からぬ悲鳴を聞きつつ、玄弥は運転席の背にしがみつく。
「ちょ、おおおい凪さん! 免許、あんた免許とか持ってんのか!?」
緩く巻かれた黒髪を、ふわ、と凪はなで上げる。
「たしなみ程度のプロセスですが。
「そうか凄いな多分茶道だろそれ! そうじゃねえ――」
「敵が来ます――行きます!」
あああああああああああああ、と、玄弥の叫びだけを置き去りにして車は駆ける。またしても謎の制動で、悪魔をまとめて肉塊に変え。それを連続で繰り出しながら。
オボログルマが声を上げる。
「こ……この動きはああああ! 車型怪異に伝わる暗黒のヤング伝説奥義【爆裂五連ドリフト】じゃねえかあああああ! すっげええええええ!」
凪は前を――他の何でもなく前だけを――青い目で見据え、唇を舐める。
「なるほど……分かってきたプロセスです。もはや何びとたりとも、私の前は走らせません! 私が一番、オボログルマを上手く動かせるセオリーです!」
床に転がるヨシツネは、頭を抱えて泣き叫ぶ。
「いやあああああもうダメだ助けて兄上ええええええ! 武蔵坊早く来て、早く来てえええええええええ!?」
片や、加速で窓に頬を押しつけられながら。玄弥は、にこ、と笑っていた。穏やかに。
――ありがとう炭治郎、本当にありがとう。こんな俺だけどお前の言葉で、少しだけど素直になれた気がするんだ――。
――ありがとうございます悲鳴嶼さん、こんな俺を拾って鍛えてくれて。力になれず申し訳ありません、最期にもう一度お会いしたかったです――。
――兄ちゃん、本当にごめん。大好きだ――。
――母ちゃん、就也、弘、こと、貞子、寿美。俺も今そっちに行くよ。ただしクソ親父、てめーはダメだ地獄に落ちろ――。
玄弥がまたも、にこ、と笑う中。
オボログルマがご機嫌な声を上げた。
「ずっどおおぉぉぉぉん! 行くぜ凪ぃぃ! うぉれとうぉまえの合体パワーは! 百万ジゴワットの熱い……何? ほらアレ……なんだっけ……なんかすごくすごい……い……いちごタンメンだああああぁぁぁ! イスタンブール行きてえええええぇぇ!!」
そのまま畳の上を駆ける。どこへ行くかは分からぬまま。