飯テロ息抜き小説です。頭を空っぽにしながら読んでください。細かいレシピや分量は気が向いたら載せます。
あと、この作品に関しましては、ネタバレもクソも無いどころか早々にネタが切れそうなので、感想に頻繁に返信をしていこうと考えております。
日本ウマ娘トレーニングセンター学園。
国民的スポーツであり、一大エンターテインメントである「トゥインクル・シリーズ」を目ざす将来有望な2000人弱のウマ娘を育てる教育機関である。
唯一抜きん出て並ぶ者無しを掲げるこの学校では、日夜日本全国――否、世界各地から集められた才媛達が日々努力を重ねているのである。
しかし、忘れてはいないだろうか。
いくら、トレーニング設備が優れていて、トレーナーのレベルが高かったとしても。トレセン学園は
***
四月某日
トレセン学園の特別教室にて。
「センセー!!!!」
バタバタと忙しなく教室に入り込んでくるウマ娘。
名前はタイキシャトル。マイルの女王という二つ名を持ち、G1レースで素晴らしい戦績を残す優秀なウマ娘だ。
ただ、アスリートとして輝かしい成績を誇る彼女であるが、反面勉強は得意ではなく特に海外生まれの彼女は日本史と国語はいつも赤点スレスレなのである。
「またお前かタイキシャトル。・・・・・・で、今回は何のテストが赤点なんだ」
「エーッと
「文系全滅じゃねぇかオイ!?」
あまりにも酷いテスト結果に”センセー”と呼ばれた青年は驚きの声を上げる。
「助けてくだサイ~」
「あーもー仕方ねぇなぁ・・・」
レース中の彼女が見せない覇気の無い姿に当てられたのか、センセーと呼ばれた青年は立ち上がり乱雑に置かれた本の中から二冊の参考書を探し出した。
「
「ありがとうございマス!!・・・・・・アレ?でもこれだけだと」
渡された二冊の英語で書かれた参考書を見て笑みを浮かべるタイキシャトル。しかし、手渡されたのは日本史と国語の参考書だけで、家庭科の参考書は無い。
「ああ、
青年は不安そうに自分を見つめるタイキシャトルを安心させるようにそう告げる。
「ワァオ!!センセーのご飯、楽しみデス!!」
「いや、朝晩作ってるだろ」
「それでも、ワタシの為に作ってくれてるのがウレシイんデス!」
「そう言うもんかね」
天真爛漫な笑みを浮かべながら、参考書を抱きしめるタイキシャトルを見て青年は困ったように笑った。
***
日本ウマ娘トレーニング学園。
2000人弱のウマ娘が通うこの学校には、色々な生徒がいる。地方のトレセン学園からスカウトされた者、中途入学した者、飛び級した者ーーそして、海外から来た者もごく少数ながら存在する。
そう言った海外から来たウマ娘が、異国の地でも万全に実力を発揮できるようにと設立されたのが国際教養クラスという特別学級である。
また、国際教養クラスは未だ試験運用中の特別学級であるが、学園側が海外からウマ娘を招くという形であるため、かなり設備面は優遇されている。
その優遇された設備の最たるものが、この国際教養クラスのウマ娘専用の学生寮。
この渚寮は他の二つの寮と異なった点がいくつもある。
特に異なる点は、寮の管理者たる寮長が生徒ではなく国際教養クラスの担任教師であるというところだ。
***
それぞれのチームでの練習が終わり、国際教養クラスのウマ娘たちが渚寮に戻ってきたころ。
タイキシャトルとその担任教師は色違いの揃いのエプロンをして、キッチンに立っていた。
「さて、早速補習を始めよう。タイキシャトル、ここにある食材から作ることができるメニューを予測してみろ」
センセーは調理台に並べられたいくつかの食材を示す。
「What!?イキナリデスカ!?え、えーっと、ビーフにオニオン、アップルにワイン・・・・・・ダメデース!わかりませーん!!」
「おや、じゃあ早速作っていくとしようか」
そう言ってセンセーが台所下の棚から取り出したのは、いくつかのハーブと岩塩、そしてニンニクだった。
「まずは下ごしらえ。この料理は素材の味と下ごしらえで殆ど決まる繊細な品だから、ここは丁寧にやるぞ」
取り出したニンニクを潰し、岩塩と共に牛ヒレ肉によくすり込む。ちなみに、この牛ヒレ肉は冷蔵庫から取り出したばかりのものでは無く、一~二時間ほど冷蔵庫から出して常温に戻したモノを使う。
「――よし、コレでOK」
「え、コレでもう食べれるんデスカ!?」
「無理だ。この状態で食べたらウマ娘と言っても確実に腹を壊すからやめろよ、冗談じゃねぇから」
タイキシャトルと冗談を交わしながら、センセーは肉にきつめにラップを巻く*1、この時に一緒にハーブを巻き込むのも忘れない。これで、そのまま十五分~三十分放置する。
「んじゃ、この間にこの間の復習だ。タイキシャトル、米の洗い方は覚えてるな?」
「イエス!!洗剤は使いマセン!!」
「それがわかれば上出来だ。早速、二升*2の米を洗ってくれ」
「お安いご用デス!」
軽くガッツポーズしたタイキシャトルはそのままタライに入った米をパワフルにガッシャガッシャと洗いだす。
「強くやり過ぎると米が砕けて美味しくなくなるからな。力は入れすぎるなよ?」
「
元気よく米を洗うタイキシャトルを横目に、センセーは包丁を研ぎ始める。
「(この料理は厚切りで食べても良いんだが、俺はどっちかって言うと薄切り派なんでね)」
三十分後。
「よし、仕上げをしていこうか」
「ハイ!!」
熱したフライパンにオリーブオイルを引き、弱火で肉にすり込んだニンニクを炒め、香りを出す。十分香りが出始めたら、ニンニクを取り出し、強火で肉の四面を数分*3ずつ焼いてしっかりと焼き目をつける。
四面に焼き目がついたら、フライパンに蓋をして火を止め、余熱で数分火を通す。肉をひっくり返し、再び蓋をして弱火で数分加熱。その加熱の後、鉄串を肉の中心まで突き刺し、数秒後に引き抜く。コレは肉の内部に熱が通っているかの確認のための作業なので、あまり早く抜きすぎないようにする。
「――よし、火は通ってるな」
下唇に当てて串が温かく感じれば火が通っている証。なお、間違っても口に含まないように。火が通っていない場合、おなかを壊す可能性がある。
「最後に、BP・・・じゃなくてブラックペッパーを強めに振る。さて、タイキシャトル。このタイミングで胡椒を振る理由はわかるか?」
「エッ!?エッと・・・・・・焼くと辛くなるからデスカ?」
「お、惜しい。焼くってのは合ってるぞ。胡椒は焦げると雑味が出るから、最後に振りかけるんだ。あくまで胡椒らスパイスは香り付けのモノだからな。雑味が出るとすぐに風味が淀むから注意だぞ」
「ワカリマシタ!!イイ匂いデスネ~、焼きたて美味しそうデス!!」
「そして、この焼き終わった肉をラップとアルミホイル、新聞紙で包んだら・・・また、放置だ」
その後、ラップ等で包んだ肉を三〇分ほど放置する。肉はゆっくりと冷ました方がしっとりとジューシーに仕上がるので、特に寒い季節は熱が逃げないように多めの新聞紙で包む。あと、なにげに肉から肉汁が出てくるので、ラップとアルミホイルは厳重に巻いた方が良い。
「――ッ!?今、食べれないんデスカ!?」
「・・・・・・確かに焼きたての肉の塊は美味しそうだけども。今食ったら確実に腹壊すぞ」
「う~センセーは意地悪デス」
「ふふふ」
「?急に笑ってどうしたんデスカ?」
「いや、これから後三つ同じことをやるから、タイキシャトルはまだまだ我慢しなきゃだなと思ってな」
「センセ~~~~~!!!」
「ハハハ!!」
パタパタと地団駄を踏むタイキシャトルを横目に、センセーは二つ目の肉塊をフライパンの上に載せる。この時、一つ目の肉を焼いたときに出た肉汁を別皿に移すのを忘れないようにすること。
「よし、今日の補習は終了。――俺が呼ぶまで部屋にいて良し」
「ありがとうございマシタ!!――――あ」
「ん?どうした?」
「ソノ、料理ができるまでここにいて良いデスカ?」
「いいけど、暇だぞ?」
「良いんデス!――ワタシが見ていたいんデスカラ!!」
天真爛漫に微笑むタイキシャトルを不思議に思いながら、センセーはフライパンとトングを動かすのだった。
***
「さて、肉の処理が終わったところで、ソース作りだ。・・・・・・その前に、眠り姫に毛布でも持ってくるかな」
四つの肉塊の処理が終わった頃、予想通りキッチンカウンターで眠っているタイキシャトルに毛布でも持ってこようと、センセーは手を洗う。
「――いい匂いですね。玄関にも良い香りが漂っていましたよセンセー。今日の夕飯は何ですか?」
「う~ん、この香り。食欲をそそるよ~」
その時、二人の女子生徒がトレーニングを終えて玄関からダイニングキッチンに入ってきた。
艶やかな黒髪と几帳面な性格が特徴のドイツウマ娘――エイシンフラッシュ、庶民文化に興味津々なアイルランドウマ娘――ファインモーション。彼女らは今期の国際教養クラスに所属するウマ娘であり、全員が十七歳。クラシック級で活躍するエリートウマ娘だ。
ちなみにエイシンフラッシュは中・長距離を主戦場とする差しウマ娘、ファインモーションはマイル・中距離を主戦場とする先行ウマ娘だ。
「お、良いところに来てくれたな。――そろそろ夕飯だから、風呂に入ったら上に行くときにタイキシャトルを起こして部屋まで連れて行ってくれ」
「了解しました。私が連れて行きますね」
「あ、じゃあ私が食器とか並べるよ」
「ああ、頼むよファインモーション。でも、その前に二人は早く風呂に行ってきな。身体が冷えるぞ」
「はい」
「はーい」
生徒達に食卓の支度を任せた後、センセーは手早くソースを作り始める。
必要なのは、肉塊を焼いたときに出た肉汁と玉葱、リンゴのすりおろし、水、赤ワイン・・・あとみりんを加えて煮詰める。赤ワインは食用の不味い奴でも大丈夫だが、できれば飲んでも美味しい奴が好ましい。
フライパンにこびり付いた肉や焦げ目をヘラでこすり取りながら、ゆっくりと赤ワインのアルコールを飛ばしていく。一分ほどするとアルコールが完全に飛ぶので、醤油とワインビネガーを加えて更に煮詰める。味を見て醤油で調整をしたら、最後にバターを入れてコクと風味、照りを出してソースの完成。
「(・・・・・・一応、ニンニク醤油のソースも作れなく無いが、うら若き乙女にニンニクを食わせすぎるのもアレだからやめとこう)」
多めに作ったソースを人数分のソースポッドに注ぎ入れる。
「最後は付け合わせ・・・なんだが、これはもう今朝仕込んであるんだよなぁ」
冷たい肉に冷たい付け合わせは身体を冷やすから、付け合わせは温かいものがいい。かつ、タンパク質と炭水化物は取れているので、ビタミン・食物繊維を取れるもの。
「となると、シンプルにこれ一択だよなぁ」
時間をかければかけるほど旨くなる。春野菜のポトフ。旬の春キャベツにウマ娘の大好物であるニンジンは多めかつ大きめに。他はジャガイモ、カブ、玉葱。肉類は入れずにシンプルにコンソメのみの味付けだ。
「――さて、仕上げといこう」
しっかりと休ませた肉塊は丁寧に研いだ包丁で薄切りに。薄切りにされたヒレ肉――ローストビーフは鮮やかなピンク色が目に眩しい。この美しいピンク色を生かしてバラの花びらのように並べることもできるが、ウマ娘の胃の前には無意味な抵抗なので、見苦しく無い程度に並べていく。手早い作業で五分もしないうちに三つの深めの大皿と浅い大皿に四キロ分のヒレ肉が整列する。
「ついでに、こいつもね」
冷蔵庫から取り出したある物をおろし金ですりおろし、小さな器に落とす。
ピーッとやかんが水蒸気を吹き出す。
「おしおし、ちょうど良いタイミングだ」
お湯を陶器の器に注ぎ、器を温める。小さな工夫だが、この小さな温度が味に大きな違いを出すので、できればこだわりたい。
器が十分に温まったら、電源を切った電気圧力鍋と器、業務用炊飯器を往復してダイニングに運ぶ。
「食器良し、米良し、メイン良し。うん、できたぞー!!」
パンと手を叩き、上にいる寮生を呼び出す。
「待ってました」
「待ってました~」
「マッテマシタ!!!!!!!!」
健啖家のタイキシャトルもそうだが、トレーニングを終えたエイシンフラッシュ、ファインモーションも緩んだ顔でキッチンを見つめる。ウマ娘たちの手元には山盛りのご飯と、ラーメンどんぶりサイズの器になみなみと盛られたポトフ。
「さあ、食べよう。今日のローストビーフは自信作だ」
「「「「いただきます」」」」
センセーの音頭で食事が始まると、ウマ娘たちは一斉にローストビーフに箸を伸ばす。
「おいしい!!」
「美味しいです」
「ン~~~~~ソウ、ヤミ―デス!!」
「ん、よかった。じゃあ、もっと喜んでもらおうかな」
三人のウマ娘の喜ぶ顔を見て、センセーはニヤリと不敵に笑う。
「「「?」」」
「少し、ローストビーフにこれをつけてみな」
センセーが三人の前に出したのは先ほどすりおろした本わさびだ。醤油ベースの赤ワインソースとの相性は最高だ。
「おいし〜」
「ええ、先ほどまでのソースも味に深みがあって美味しかったのですが、ワサビを少しつけると爽やかでよりご飯が進みますね」
ファインモーションのわかりやすい反応とエイシンフラッシュの細かな食レポ。
「ン〜〜〜〜!!!!!」
そして、タイキシャトルはいつも通り。目をキラキラとさせながら口一杯にローストビーフを頬張っている。
「ポトフも美味しいね!!」
「はい、野菜も大きく食べ応えもありますし、何より野菜の甘みがすばらしいですね」
「ン〜〜〜〜!!!!!」
再び始まる三人娘の三者三様のリアクション。それを見てセンセーは微笑んだ。
「――ほんと、君らは食べさせがいがあるよ」
背負うモノ、目指すモノ、追い求めるモノとトレセン学園に来た理由は様々だ。だが、せめてここにいる間くらいは年相応の少女として、美味しい食事に胸を高鳴らせて欲しい。
それがセンセーと呼ばれる家庭科教師の願いだった。
そう、これは三人のウマ娘と共同生活を送る家庭科教師のおいしい三年間の話。
どうでしたでしょうか。私としては弾け切れなかったところがあるので、次話からどんどん弾けていきたいと考えている所存であります。