3月16日。セバスティアーノの他にもう1人のスカウト生である冨樫慶司のちょっとしたアクシデントはあったものの、ユース新期生のスケジュールは問題なく進んでいた。入団式後、昼食を挟み、午後は初練習。
しかしその内容は、練習と言うほど硬いものではなく、新入団生のみでの紅白戦と福田の口から提案された。
それぞれがアップを進めていく中、紅白戦のメンバー表が張り出される。
黒チーム
GK:弁禅
DF:冨樫 島
MF:セヴァン 黒田
FW:青井 本木
赤チーム
GK:明神
DK:朝利 増子 竹島
MF:大友
FW:橘 ロアン
「紅白戦はハーフコート、7対7のミニゲーム。試合時間は30分。参加するのは君達新入団生のみだ」
集まった新入団生を前に、ヘッドコーチであり、Bチームを率いる伊達望がルールの詳細を発表する。この紅白戦は伊達の管理下にあり、双方のチームには、伊達の考えた戦術が原則として課せられている。
この紅白戦で良い結果を残したものはAチームへと即昇格。紅白戦前の福田の発言により、この場にいる全員が色めき立っている。
各々が自チームのビブスを着用し、コートに入って行く中、伊達はセバスティアーノを呼び止める。
「君の話は福田から聞いている。君には私が課した戦術の他に、福田から特別に課題を預かっている。この試合、チームメイトの特徴を掴むまでは君が攻撃のスイッチを入れることを禁止する。いいな?」
「分かりました」
セバスティアーノはそう答え、自身のポジションにつく。ピィィィィという笛の音と共に、黒チームのキックオフで試合が開始された。
「うおおおっ! ボール! ボールくれ! 遊馬くれー!! ボールくれっ!!」
キックオフと同時に、青井がボールを要求する一方で、ボールをゆっくりと運ぶ本木に橘が激しいプレスをかける。
「遊馬! 僕にくれ! ボールを戻せ!」
「駄目だっ! 俺だー!!」
黒田、青井がそれぞれボールを要求する中、本木は黒田に下げる事を選択する。そして黒田がボールをトラップしようとした時、何者かによって黒田の体勢が崩れる。
──!!
その正体はなんと味方である筈の冨樫であり、インターセプトをする様に黒田を押しのけ、ボールを収める。そして左足を踏み込んだ刹那、右足が力強く振り抜かれる。
「オ……」
勢い良く放たれたボールは轟音と共に風を切る。反応の遅れた明神の手に触れる事無く、ゴールに吸い込まれるかと思われたボールは、惜しくもクロスバーに直撃する。
「あああぁあ! 惜しい! もう5cm落ちてたら入ってたー!!」
ボールがゴールラインを割り、頭を抱える冨樫の元に、青井が近づく。
「何やってんだ冨樫。すげーシュートやったけどお前……味方の黒田どついてどうすんだ!? ちょーし狂うような事するなよ! サッカーやってんだぞ今!」
「30分ハーフコートのミニゲームでアピールなんざ、点に絡む以外にやり方ねーからな。DFだろうとどんどん狙っていかねーと」
青井の言葉など気にも止めることなく、冨樫はニコリと笑う。
「……もうやるなよ。あとDFなんだから守備に徹してくれ」
冨樫に対する新入団生の親達の反応はまちまちだ。入団式の登場の仕方も相まって、味方を倒した事を問題視する者がいる反面、あの距離からのシュートの強烈さ、正確さといった事を評価する者もいる。
──点だ!
──点を取る!
──ボールを前に運ぶ。点に絡む!
──俺の邪魔をするな!!
「……」
多くの者が点を取る、点に絡む事に焦りを覚える中、セバスティアーノは静かに選手達を見渡していた。
個人戦術の欠如。これが伊達が青井にくだした烙印であった。
この試合、青井は点を決めた。青井だけが点を決めた。ゴール前で突如として歩く事で、守備陣の思考の裏をかき、DFラインに淀みを生じさせた。
しかしそんな素晴らしいプレーも、自分の事でありながら青井は1つとしてきちんと振り返って説明が出来ない。考える力がないプレーヤーはこの先通用しない。
現にプレーは刻々と切り替わっている。青井が1対1で勝てない事を察知し、黒チームは選手間の距離を詰め、細かいパス回しで崩す事に切り替えた。それを瞬時に見抜いた赤チームは、中央で守備を固めるよう守備の形を変えてきている。
青井が点を決めるまでは、スカウト組の冨樫とセレクション組の青井が目立っていたが、今では自発的な思考で変わるゲームの流れに、セバスティアーノを除いて、昇格組以外はついて行くのがやっとという展開。青井に関しては、プレーが切り替わった事にすら気づいていない。
ラスト5分。誰も青井にパスを出さなくなった。唯一パスを出していたセバスティアーノすらも。
「さて、青井はもういい。見るべき選手は他にも沢山いる。月島、目に付いている選手はいるか?」
「勿論! 今年の新入団生は個性に富んでていいね!」
月島そう言うと、それぞれの評価を話し始める。
大友は周りが良く見えている。昇格組の動きにいち早く合わせれたのが大友だ。橘は順応しきれてはいないが、技術は昇格組にも引けを取らない。
昇格組では、黒田、竹島、朝利が頭1つ抜け出している。ただ1人、中でもレベルが抜け出ているのが、本木。青井のゴールの瞬間も、指示も何も無い青井の動きに合わせる事が出来た人間。
「……セバスティアーノはどうだ?」
「とても落ち着いていると思うよ。唯一、昇格組の動きに最初からついていけてる。そしてなんといってもパスの精度。このコートで軍を抜いて上手い」
それはコートの中の選手達も感じていた。
(すげーパスじゃ。毎回トラップしやすい完璧な位置にパスがくる)
時間的にもラストワンプレー。本木にパスを出したセバスティアーノは、フゥと小さく息を吐く。
「よし。ようやく分かってきた」
そう呟いたセバスティアーノは、パンパンと手を叩き、自身に注目を集める。この試合が始まって初めてチームへ意見を発する。
「みんな自分のゴール、アシストに固執しすぎだ。いや、それは良いんだが、囚われすぎは良くない」
ボールを島へと戻したセバスティアーノはチラリと冨樫の方を見る。
「冨樫、君の意見には同意するが、あの方法である必要はない。その位置にこだわりすぎるべきじゃない」
「あぁ?」
セバスティアーノの言葉に文句を言おうとしたや先、セバスティアーノの動きを見てある事に気づく。
──!!
冨樫だけではない、青井を除いた黒チームの全員がそれに気づく。攻撃をはじめる合図。セバスティアーノが出した攻撃のスイッチに。
「島!」
セバスティアーノが橘を引き連れる様に動いた事で出来た橘とロアンのゲート。それを理解した黒田が、そのゲートの中央で受けれる位置に動き、ボールを島から要求する。そのパスが出た瞬間、黒チームの雰囲気が変わる。
(チッ! そういう事かよ!!)
攻撃のスイッチが入った瞬間、冨樫はサイドを駆け上がる。それはまるで、SBのオーバーラップ。それを見た黒田が、冨樫にパスを出す。
その位置にこだわりすぎるべきじゃない。先程のセバスティアーノの言葉。それは、DFとして中央の低い位置にこだわりすぎるべきではないと言う事。
元々冨樫はSB、SHの選手。サイドでのプレーには慣れている。そもそもこんな狭いコートでポジションに囚われ、DFだから守備、FWだから攻撃という考えはナンセンス。勿論役割は重要だが、パスを繋いで崩すのであれば、それぞれがカバーしあい、可変していくべきだ。
サイドでボールを貰った冨樫に増子がプレスをかけに行く。そうするとどうなるか、増子がサイドに引っ張り出され、増子と朝利の間にスペースが出来る。
「冨樫!」
そしてその位置にセバスティアーノが入り込む。セバスティアーノは典型的なチャンスメーカー。周りの為にパスコースを作り、周りが作ったパスコースを使う。
セバスティアーノがDFラインを抜け出すタイミングで、冨樫がパスを出す。
青井が中にいる事で、朝利は無闇にプレスに行けない。ゴールラインでボールを受けたセバスティアーノに大友がプレスに行く。
しかし、スペインのストリートで学び、リオンに磨き上げられたセバスティアーノのドリブルを、セレクション上がりでDFの選手ですらない大友が止める事など不可能に等しい。
ボールを多く触るのではなく、重心移動での駆け引きで相手を抜くアルゼンチン人に多く見られるドリブルスタイル。ブラジル人に多く見られるボールを多く触り手数で相手をぬくドリブルと違い、守備は足を出しにくい。
ゴールラインキワキワでのダブルタッチ。大友を抜いたセバスティアーノの目には1人の選手が映る。これまでのプレーを見て、最後はこの選手に出そうと決めていた。
(やっぱり。最高の位置に最高のタイミングで入ってきた)
本木遊馬。攻撃のスイッチが入り一気に仕掛けた事により、誰もが加速していく中で、あえてテンポを上げず遅れて入ってきた。マイナスのパスが出せるコースにフリー。
完璧なタイミングで入ってきた本木に完璧な位置に出さるたパスは、本木の右足が振り抜かれ、ゴールネットを揺らした。
「よおおおし!!」
ガッツポーズをし、セバスティアーノの方に走り込んで来る本木に、セバスティアーノは両手を広げ、受け止める。
この2名がこの試合でAチーム行きを決めたのであった。
わたくしはメッシ大好きなので基本的に日本よりもアルゼンチンを応援しています。
さてそんなアルゼンチンですが、次のポーランドに勝てれば1位通過できます。しかし今のビルドアップでは中々に難しそうです。メキシコから取った2点も個人技ですし、後半アルゼンチンらしいプレーが出来たのも、メッシが0を1にし、手を取ってくれたおかげです。メキシコが点を取りに行かなければいけなくなった為、選手間が広がり、アルゼンチンが攻めるスペースを確保できるようになりましたしね。
とにかく1点目をどのようにして決めるか。私はYouTubeなどでサッカーを解説している人ほど戦術等に詳しくない為、解説策は分かりませんが、とにかく応援しています。絶対に優勝してほしい!