虹夏好き好き大好き 作:ドラムを継ぐもの
道端でアコースティックギターをかき鳴らす。コードを抑え、リズミカルにストロークして、歌う。
外国人の子供がニコニコとしていたので笑いかける。立ち止まっている人たちは俺の歌っている内容なんてわからないだろうに、それでも聞いてくれるのは嬉しい。
しばらく続けていると、警察が来たのですぐさま退散する。ギターをケースにしまっていると、何人かが俺に紙幣を渡してきた。警察はそれを面白くなさそうに見てきたが、何かを言ってくることはなかった。黙認してくれるらしい。
「はぁ……やっぱり褒められてからじゃなきゃねれねぇや」
ベッドに倒れ込んだら、そのまま意識もすぐに飛んでしまった。
目を覚ました時、辺りは暗かった。早く寝たので随分と早く目を覚ましてしまったのかもしれないと携帯で時間を確認すると、まだ真夜中。嫌な時間で目を覚ましてしまった。
ポケットWi-Fiをオンにして、携帯の機内モードを解除すると、いくつものメールと不在着信が入ってきた。無視するべきものと、返信するべきものとに分けていると、ほんの十分前に虹夏から電話がかかっていることに気が付く。
少し悩んでから、虹夏に電話をかけた。
『あ! もしもしアキラ君!? 今時間あるかな? 大丈夫なんだけど困ってて……』
声色からして本当に困っていることは察するが、俺にそれを解決できるかはかなり怪しい。
「あー……通話で解決する事ならいくらでも協力できるけれど」
『ええ!? で、できればこっちに来て欲しいかなぁ……なんて』
「えぇー? むりぃ」
『ちょっとSTARRYまで来てくれるだけでいいから!』
「……あー、ビデオ通話にできる?」
『え? なんで?』
「いいから」
言いながら、部屋の窓際に行ってカーテンを開ける。
携帯画面を見てみれば、既に虹夏はビデオ通話にしていて、制服を着た虹夏の姿が映っている。なぜだか外にいるらしくて、案の定というべきか、本当に困り切った表情をしていた。普段なら溌溂としていて、可愛らしい虹夏がそんな表情をしているのは似合わない。できれば何とかしたいのだが。
「ここどこだ?」
言って、俺もビデオ通話を開始する。画面に、俺の顔が映り、背景にはホテルから外の景色が映っている。意外というと失礼かもしれないが、日本と遜色なく明るい夜景。ビルの高さはそれほどではないけれど、人が外で活動しているから、道が光に溢れていた。
俺が取ったホテルの部屋は高層階だけれど、低い位置ならば騒がしくて眠れていないのではないかとも思う。
『え? ……アキラ君、今どこにいるの?』
「メキシコ。前から言ってたじゃん。一か月メキシコで路上ライブして生きていくって」
『えええ!? あれ嘘じゃなかったの!? リョウみたいなこと言いだしただけかと……』
「ま、そういうわけで助けたくてもなぁ。明後日くらいまで待ってくれるのなら明日の飛行機で帰ってもいいけれど」
『う、それは申し訳ないし……そもそも間に合わないし……』
「一応聞くだけ聞かせてよ。何があったんだ?」
俺が聞いてみると、虹夏はぽつぽつと話してくれる。
今日ついにライブをするはずだったというのに、ギターが逃げてていない。
端的に言えばそういうことみたいだったが、確かにそれは困りものだ。
「……うーん」
最悪俺がオンライン参加するというのも一瞬だけ考えたが、音質も悪いし、遅延も大きいし。
「音流すっていうのが最悪の場合、手段としてあるけれど」
『う、ん……でも、もうちょっと頑張ってみる。ごめんね。ありがとう』
「いや、感謝されるようなこと何もないんだけれど」
『ううん。そんなことないよ。アキラ君の声を聞いたら少しだけ落ち着けたかも』
「そ、そう? な、ならよかったけど」
そう言われれば悪い気はしない。
なんかやっぱり心配だし、虹夏に会いたくもなってきたし、予定を切り上げて明日帰ろう。
「じゃあ、また日本で。虹夏のライブを見れる時、楽しみにしてるから」
『うん! えっと、たぶんそっち夜だったんだよね? こんな時間にごめんね。おやすみなさい!』
通話を切ってから改めて、やっぱり明日の朝一で日本に帰ろうと決めた。
荷物をまとめて、コンシェルジュに明日の朝の飛行機を取ってもらうように連絡した辺りで、虹夏からメッセージが届いていることに気が付いた。
『虹夏:ギター見つかった!(段ボールの画像)』
やばい。虹夏が壊れた。
続くかは知らん。