虹夏好き好き大好き   作:ドラムを継ぐもの

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ギャラクティックエンド9だとキリが悪い

 幸いにしてあまり時差ボケの影響は受けず、翌日は早朝に目が覚めた。相変わらず携帯にはひっきりなしにメールが届く。着信拒否にしてしまってもいいが、うっかり間違えて大切な相手からメールが来なくなっては困る。

 

「……暇だなぁ」

 

 もう一度メキシコに行こうかとも思ったが、ぼっちちゃんさんの初バイトの時に手伝う約束をしてしまっているし。

 

 何かすることがあったか考えてみるか。

 通信制高校の課題……はメキシコに行く前にやらなければならない分は終わってる。

 メールの返信だとかは昨日終わらせたし、虹夏は今頃学校だし。

 

「部屋の片づけ……?」

 

 家で暇をして、けれど何か有意義なことをしたいと思ったら、みんながみんな部屋の片づけを始める気がする。だからあまり面白みがない。

 

 とはいえ、やらなければならないことに変わりはなく、尚且つ事実として有意義とは言えるので、大人しく部屋の片づけをすることにした。

 家事代行とかを呼んだら楽なのだろうけれど、なんとなく抵抗があるし、俺がやるしかない。

 

 

「音楽室から片付けるか……」

 

 

 一時期は近づくことすら嫌だったが、流石にもう大丈夫だ。

 

 防音の厚い扉を開くと、埃の匂い。時々入ることがあったし、目につくところはある程度片づけてある。

 

 そこそこ広い音楽室であっても、グランドピアノの存在感は大きい。全く調律をしていないが、親がいつも頼んでいた調律師がわからないし、だからといって適当な人を探すのも気が引ける。今度ちゃんと探してみることにする。

 

 ためしに鳴らしてみると、僅かに音程が狂っている。

 

 

「やっぱり調律しなきゃ駄目だよなぁ……片付けないとな」

 

 音楽室を使ってない時期は、完全に物置にしていた。今日はそれの整理しておこう。

 

 時計を見ると、まだ朝の八時。昼から虹夏に会いに行くとして、十四時まで集中して片づけをすることに決める。

 

「……なんか当たり前のように虹夏に会いに行くつもりになってるよ……」

 

 もともと依存しないようにと、ちょっと距離を置こうとさえ思っていたのに。やはり日本にいてはだめだ。虹夏に会いたくて壊れる。

 

「まあ、それは今後考えるとして、今日会いに行くのは確定で良いか。明日から、あー……そのうち考えよう」

 

 とにかく、六時間。何が何でも片づけをしよう。

 

「なんか本当に物置として化してるからなぁ……音楽関係って言ったら……」

 

 

 防音室にある物は、適当に俺が放り込んだものばかりで、音楽に関するものの方が少なくなってしまっている気もした。

 大量の楽譜とか、ギターにベースに、ピアノ。

 ピアノの下にはバイオリンが何挺もある。すべて俺のものだ。

 

「……」

 

 ケースをいくつか引っ張り出す。子供の頃に使っていた分数バイオリンと、最後に両親に買ってもらったフルサイズ。分数バイオリンの方は手放してしまってもいいだろう。思い出はあるし、寂しいけれど、ちゃんと使ってくれる人の下にあった方がいい。

 

 ここ数か月はバイオリンに触れていなかったので、折角だから少し弾いておくことにする。

 

 虹夏に救われてから、それでもしばらくはバイオリンに触れなかった。中学を卒業する前に虹夏に告白した時、ようやく触れるようになった。

 

 少しずれているからチューニングをする。しっかりとした演奏がしたいわけではないから、大雑把に合わせ、弓に松脂をつけ、一曲だけ演奏することにした。

 

 

 

 

 一曲だけのつもりだったのだが、一曲では終わらなかった。

 

 次で最後……次がファイナル、ファイナルジエンド、ジエンドオブ未来、カタストロフィエンドオブエンド、と弾き続け。

 

「まあ、ギャラクティックエンド9だとキリが悪いし、つ、次こそ最後……まだ二時間くらいしかたってないだろうし、あと四時間は掃除が――」

 

 そこで初めて時計を見ると、なぜだか既に十四時になっていた。

 

 

 

 ☆

 

 

 

「みたいなことがあってね」

「別のことに気を取られるのは確かにあるけど、流石に取られすぎだよ!」

 

 下北沢高校の前に遊びに行った時にはすでに放課後になっていた。もう帰ってしまった可能性もあるかと考えていたタイミングで、ちょうど虹夏とリョウさんが出てきたので声をかけ、先ほどまでの話をした。

 

「……でも、アキラ君がまたバイオリン弾いてるのは嬉しいな」

 

 にっこりと笑いながらそんな風に言う虹夏。

 

 天使のような笑顔をこんな至近距離で向けられると、天使パワーで蒸発しそう。

 死なないためには顔を反らす必要があるが、それをしては虹夏の笑顔が見られない。なんだこのジレンマ。

 

 とはいえ本当に駄目になってしまう前に話を変えることにした。

 

「虹夏こそ、バンド組めてよかったね」

「うん……一時はどうなる事かと思ったけど……ギターの子どこ行っちゃったんだろ?」

「写真があるなら人に探させるけど?」

「いや、何か事情があったんだろうし。それよりも、ギターボーカル、アキラ君やらない?」

 

 前々から虹夏にギターとして誘われることはあったけれど、

 

「遠慮しとくよ。三人女の子なら女の子で合わせな。もしメジャーデビューした時とか、色々ネット上で言われそうだし」

 

 そもそもロックにはそんなに詳しくない俺が、虹夏がいるからとかいう理由だけでバンドに入るのはちょっとどうかとも思うし。

 

「まあ、ライブ当日にギタリストが見つかるくらいなんだから、そのうち見つかるでしょう」

 

 

 

 その日はSTARRYでずっとバンドを見た。

 そんな風に過ごしているとリョウさんにソフトドリンクをたかられる。いつもの事なのだが、どうせ貢ぐなら虹夏に貢ぎたい。

 というか、リョウさんに何かを奢ったときに、久々だなぁと感慨深くなってしまった自分を殴りたい。

 

 

 家に帰ってから、有意義に暇をつぶすつもりで片づけをしようとしていたのにそれが出来ていなかったことを思い出して憂鬱になったこと以外は、平和な一日だった。

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