ここではあんまり知名度は高くないのかな?
「こっちよ。」
「はえ~すっごい…」
Yがトリエルに連れられるまま奥に進むと、内部に明るい紫を基調とした壁と床で出来た、大きな遺跡が現れた。見ると枯葉も落ちている。ここでは日光も届かないにも関わらず植物が育つようだ。
「さあ、あなたは今日からここで暮らすのよ。」
「は??ワイはこんなとこさっさと出たいんやが?ネットも無いし頭がおかしくなりそうや。」
Yは必死に帰りたいという意思表示をするが、トリエルはさらりと受け流す。
「あらまあ、そんなこと言わないで?どちらにせよここから出ることはできないのよ。」
「…は?」
「それじゃあ、この遺跡の仕掛けについて教えておくわね。」
そう言うとトリエルは次々と床のスイッチを踏んでいくが、Yはそれどころではなかった。
「(出れない…ってことは帰れない…?じゃあ、ワイはどうなるんや…?一生なんJもYouTubeもニコニコもできんのか…?)」
「この遺跡には侵入者を撃退する『パズル』がたくさんあるの…って、どうしたの?」
「ワイは…本当に帰れんのか…?」
「…ッ…あなたも…帰りたいの?…ここは良いところよ?」
「…いや、やっぱええわ。次の仕掛けも教えてくれ。(まだ出られんって決まったわけじゃない。そもそもワイはこのヤギモンスターも信用してないんや…)」
「(よかった…)そう、じゃあ行きましょうか?」
その後、あまりにも過保護すぎるパズルにYがキレ散らかす一幕もあったが、トリエルは持ち前の寛大さでそれを諫め、ワイはトリエルから「ケータイ」を渡された。
「これ…!ワイにくれるんか!?」
「ええ。これがあればいつでも私とお話しできるわ。」
「…え?はぁ~今時ガラケーとか…は?ネットも繋がらんやん…化石か?期待して損したわ」
「何か困ったことがあったら私にそれで連絡して頂戴。それじゃあお留守番よろしくね。」
「おいトリエル!スマホはないんか?」
Yの必死の遠吠えもトリエルの耳には入らず、隣の部屋からフロギーが迷惑そうに顔を出した。
「あほくさ…さっさと進むか…」
留守番しておけという数秒前の言いつけを見事に忘れ、Yは遺跡の奥へと進んでいった。
…
「なんや?羽虫にカエル風情が…ワイと戦るつもりか??このキャンディーは全部ワシのじゃ!(パワー)」
数分後、ポケットにありったけキャンディーを詰め込んだYは、その匂いにつられてにじりよってきたナキムシと巻き込まれたフロギーに囲まれていた。
「痛い!やめ…痛い!クソ…!(トリエルは殺すな言うとったけど仕方ない、ワイの命の危機や!スマンやで!)」
とうとうYが繰り出した怒りの鉄拳がフロギーの脳天に直撃し…
「痛いンゴ~~!!!???」
「ケロケロ(哀れ。)」
あまりにも貧弱すぎるYの力ではフロギーにすら歯が立たない。己の敗北を予感したYはキャンディーをまき散らしながら逃走した。
「バーカ!!そんな安物のキャンディーお前らにやるわ!!」
…
プルルルル…
Yが一つ目モンスターのルークスと底辺のレスバを繰り広げていると、懐のケータイに着信が入った。
「なんや?」
「突然で悪いんだけど…シナモンとバタースコッチなら、どっちが好きかしら?」
「えぇ…なんや急に…」
「い、いやね!特に深い意味はないのよ。でもまあ一応聞いておこうと思って…」
「(ははーん、さてはコイツ、ワイになんかくれるんやな?正直どっちも好きじゃないんやが、貰えるもんは貰っとけ)どっちも好きやで」
「!そう…そうなのね!わかったわありがとう。」
「ええんやで」
「ところで…部屋からは出てないわよね?」
「うんち!」ガチャ
Yが電話を強引に終了させ、遺跡を奥へ奥へと進んでいると、通路が狭くなっている広間に出、その通路は一匹のモンスターによって塞がれてしまっていた。
「グーグーグー」
「は?」
「グーグーグー」
「…」
「グーグーグー(まだいるノ…?)グーグーグー」
「(なんやコイツ…グーグー言うてワイをバカにしてんのか?…ガ〇ジかな?)とりあえず退いてくれや…」
Yが半透明のモンスター、ナプスタブルークを無理やりどかそうとすると、ナプスタはメソメソと泣き始めた。
「ごめん…なんかぜんぜんやるきでないヤ…」
「は?調子乗んなや!やる気のなさでワイに勝てると思うなよ…?」
「え?」
「ワイは生まれてこの方友達も彼女も出来たことないんや」
「(そんな…ボクですらメタトンがいるのに…)で、でも、他のモンスターともうまく話せないし、曲を作るくらいしかできないし、カタツムリ育てる仕事しかできないシ…」
「ワイは家族以外の奴とほとんど顔合わせたことないし、学校も中退して特技も趣味も無い。バイトの応募すらしたことないし当然無職や。しかもアラサーや。」
「(ウソ…そんなのがこの世界に存在することを許されていいノ…?」
「後半声漏れてるで」
「ウッ…ご、ごめんネ…」
「やからお前みたいに恵まれとる奴にワイの前で不幸アピールされるとワイはイライラするんや。不幸アピするんは好きにすればええけどワイのおらんとこでやれや」
「!(確かニ…この人に比べればボクは…!)」
「…」
「…」
「いつもネ…誰にも会いたくないカラこの遺跡にいるんだけどネ…今日はいい人に出会っちゃった…」
「なんやそれ皮肉か?殴るぞ」
「フフ…
「不幸自慢かと思ったら今度は煽りか??ええからさっさとどけや!」
「エヘヘ…ごめんネ…じゃあまたどこかで…」
「ワイは会いたくないで」
「(この人が今日もどこかでのうのうと生きていると思ったラ…もうちょっと頑張れるカモ…!)」
ナプスタは陰鬱なオーラがにじみ出ていた顔から少し晴れやかにも見える表情になり、Yに別れを告げると音もなく消えた。
「成仏してクレメンス」
…
その後もYは購入したスパイダードーナツを目の前で酷評してクモたちの顰蹙を買ったり、頑なに野菜を拒否してベジトイドの顰蹙を買ったり、キョロ充のミ=ゴスを論破して周りのモンスターたちの顰蹙を買ったりしながら遺跡を探検していたが、ついにトリエルが居住する「ホーム」まで辿り着いた。
「ほーん、ええやん。家賃なんぼなん?」
Yが初めて見る自宅以上の大きな屋敷に感動しながら入ろうとすると、運悪くトリエルと鉢合わせてしまった。
「まあ!ひとりでここまで来たの?」
「(あかん…!約束破ったから怒られるわ…!)なんや?なんか文句あんのか?」
「ケガはない?」
「ほえ…?」
トリエルからお叱りの言葉をを受けると思って覚悟していたYはかけられた思いがけない言葉に思わずトリエルの顔を見上げた。
「いや…モンスター共にボコられてあちこちがヒリヒリするんやけど…」
「かわいそうに…すぐ回復してあげましょうね。ずっとほったらかしにしてしまって本当にごめんなさい。あなたを驚かせようなんて思っていた私がバカだったわ。」
「いや…その…ワイ…」
「こっちへいらっしゃい。あなたのためにパイを焼いたのよ!」
「あ、うん…(なんや…この気持ち…)」
Yは連れられるままにトリエルに家を案内され、バタースコッチシナモンパイを食べ、部屋のベッドに入り、トリエルに頭を撫でられて眠りにつく…起きたら朝ご飯を食べて、本を読んで過ごし、夕飯を食べてベッドに入り、トリエルに頭を撫でられ…
「なんやこの気持ち…」
その時Yが想起したのは遠い遠い記憶にある母親の姿だった。
「マッマ…」
「これが そうか この掌にあるものが 心か(ウルキオラ)」
「…(合法ニートできるここの暮らしも悪くないと思っとったけど…)」
「…帰らなあかんな」
「…ネットないし」
「でもまあ明日からでええよね…」
どんなことよりも先延ばしが得意なYはそうやって自分を納得させると、ベッドに体を預け意識を手放した。
夢の中
アズゴア「ワイ!頼む目を開けてくれ!キミはモンスターとニンゲンの未来を担うもの…」
ワイ「知らんしそんなん」