偽ポチタ「助けてやるから、女のおっぱいを揉め」士道「ふぁっ!?」 作:鳩胸な鴨
続かない。
男は童貞であった。
女の体に大きな憧れと欲望を抱けど、それを前にすれば慌てふためき、まともに言葉を交わすことなど出来やしない。
己の迸るリビドーを満たす恋人は、画面の奥にいる架空の存在のみ。
そのくせ、恋愛相談になると無駄に饒舌になり、有益なのか無価値なのかよくわからないアドバイスをする。
一言で言い表せば、「クソ童貞」であった。
そんな童貞が拗れに拗れた童貞モンスターは、終ぞ女の体の感触を知ることなく。
女への渇望を抱きながら、魔法使いになる直前にこの世を去った。
彼の死を悼むものは多くいた。クソ童貞妄想パワーが火を吹いたことで結ばれたカップルたちが、彼の葬式に多く参列した。
もし死体にその魂がまだ宿っていたとしたら、きっと憤死していたことだろう。
が、しかし。幸いというべきか、不幸というべきか、彼の魂は既に別の世界へと旅立っていた。
地獄である。
そこはさまざまな魑魅魍魎が跋扈し、秩序もなく暴力のかぎりを尽くす地獄であった。
生まれ変わった彼は、臓物をマフラーのように首に巻きつけ、四つの腕と頭に生えた刃で怪物…悪魔を手当たり次第に狩った。
その理由はただ一つ。
八つ当たりだ。
こんな手でおっぱいが揉めるものか。
こんな性器のない体で女が抱けるものか。
そもそもここには、まともな女がいないではないか。
いるとしたら、無駄にサラサラした髪の怪物か、女の形をしたバケモノだけ。
あの美しい肢体を拝めることすら叶わない場所で生きろだなんて耐えられない。
今世でも童貞は確定なのだ。せめて憂さ晴らしくらいはしたっていいだろう。
そんな自分勝手極まりない理由で、童貞モンスターは暴虐の限りを尽くした。
軈て、地獄の悪魔らは彼を恐れ、彼に近づくことすらなくなった。
名実共に地獄最強の悪魔となった彼は、リビドーを満たすことのできない退屈の日々を数万年過ごすこととなる。
日に日に強くなっていく性欲に反して、股ぐらにはいきり勃つモノもない。
性衝動を満たさねば発狂する童貞モンスターにとっては、拷問に等しい日常だった。
そんな日常を過ごしていた彼は、突如として地獄から追い出された。
派手に暴れすぎたのが悪かったのだろうか。
彼は多くの悪魔に寝込みを襲われ、力の大半を封印されてどこか別の世界へと放り出されてしまった。
目を覚ますと、そこには数万年の時を過ごした地獄絵図はなく。
広がっていたのは、記憶よりも少し文明が進んだ故郷に近しい世界。
彼にとっての楽園が、そこにあった。
童貞モンスターからすれば、電光掲示板に映るコマーシャルに出演する女芸人の姿でさえも、ヴィーナス顔負けの美女に見えた。
しかし。またしてもそこに人外の体という大きな壁が立ちはだかる。
あいも変わらず性器は影も形もなく。
おっぱいを揉むための手は、びっくりするほどの短足に変わっていた。
チェンソーを無理矢理に犬のマスコットのようにした怪物。それが今の童貞モンスターであった。
それだけではない。目下の問題は生活面であった。
いくら可愛いと言われど、額に生えたチェンソーの刃のせいで、近づく人間はいない。
ユーラシア大陸に大穴が空いたとか、空間震がどーたらとか、物騒な話題が電光掲示板から聞こえてきたが、ゴミ箱を漁る生活を繰り返していた彼からすれば些細なことである。
渇望した世界で叶わぬ望みに、無為に日々を過ごすこと25年。
彼はとある少年と出会った。
「……お前、一人なのか?」
「ワン?」
中性的な顔つきの少年は、薄汚れた怪物を拾い上げ、自宅へと連れ帰った。
数万年ぶりに感じた湯船の温もりには、さすがの童貞モンスターも思わず涙がこぼれた。
少年…五河士道に拾われた彼は、彼の妹によってポチタと名付けられた。
言語能力も封印され、極力犬っぽく振る舞うのは苦痛だったが、五河家の面々の温もりに触れ、ポチタは数万年ぶりの安らぎを得た。
しかし。それはあっさりと崩れた。
♦︎♦︎♦︎♦︎
「ポチタ、どこに行くんだ!?」
五河家に訪れて、数度目の散歩の途中。
士道と共に慣れてきた散歩コースを歩いていたところ、突如としてマンションの一室のガラスが派手に割れる音が響いた。
ポチタがそちらへと駆け、士道がそれを追うような形でマンションの一室へと突入。
そこで見たのは、漫画資料が舞い散る中で、奇々怪界な装備を身に纏い、部屋の主であろう女性の胸を貫いた女の姿だった。
「グルルル…!」
「……これは、犬…、でしょうか?」
「お、お前…っ!ポチタに近づくな!!」
血に塗れ、倒れた女性を放り、ポチタへと手を伸ばす女。
それに対し士道が噛み付くと、女性は心底鬱陶しそうに彼を一瞥した。
「目撃者ですか…。面倒な。
恨むなら、己の不運を恨みなさい」
「ぇ……、ごふっ」
次の瞬間には、士道の胸は貫かれていた。
肺から空気が抜け、体から熱が抜けていく。
血の塊が呼吸を阻害し、ぼたぼたと床を濡らす。
こんなところで、訳もわからないまま死ぬのだろうか。
そんな不安感が、熱が抜けていくと共に強くなる。
霞む視界の中で、何かを決意したような、はたまた歓喜するようなポチタの顔が見えた。
「まだ死ぬなよ、シドー。
私はお前を気に入っている」
「………は?」
ひどく理知的な言葉が、ワンとしか鳴けなかったはずのポチタの口から放たれる。
ポチタはそのつぶらな瞳を士道の眼前へと近づけ、笑みを浮かべた。
「私がお前の心臓になってやる。
だから、お前は私の体として生きろ」
「……な、何を、言って…?」
「これは契約だ。お前は私の体として、女の胸を毎日揉め。性衝動は都度解消しろ。女を抱け。私のお眼鏡に適うような極上の女だ」
「は、は…ぁっ…!?」
流石はしたくもない禁欲生活を数万年送り、童貞が拗れに拗れたクソ童貞である。
童貞の願望欲張りセットな契約内容を前に、士道は目を白黒させる。
しかし、このままでは確実に死ぬ。
士道は意識を手放しそうになりながらも、ポチタに向け、頷いた。
「わ、わかった…!」
「契約成立だな。よろしく頼む、シドー」
悪魔の笑みと共に、その体が傷口から同化していく。
どくん、どくん、とポチタの体が波打ち、士道の血液を循環させる。
その光景に目を白黒させている女の形をした悪魔を見上げ、士道の口元が弧を描いた。
「40点」
ポチタの体が士道の体に消えると共に、胸から垂れた紐を千切らんばかりに引く。
瞬間。その額からチェンソーの刃が放たれ、ブォンと唸った。
軈てその顔が異形のモノへと変貌とすると、女に向けて、怪物が嘲笑を浮かべた。
「顔、胸はいいが、芯が細すぎる。尻も小さい。
変な力頼りで体力もない。
挙句の果てには相当な若づくり。
抱き潰す前に死ぬな。大幅減点だ」
ドルルル、と額と両腕から伸びるチェンソーの刃が駆動する。
剥き出しの牙から放たれる品のない言葉に、女性は顔を顰め、武器を構えた。
「……品のない怪物ですね」
目にも止まらぬ速度で、怪物と化した士道の胸へと剣を振るう女。
常人であれば、認識することすら叶わず、絶命は免れぬ一撃。
しかし、怪物は右腕を一振りをするだけで、光で構築された刃を砕いた。
「は……?」
「帰れ。50点以下の女に興味はない」
彼は鬱陶しそうに言うと、血溜まりに倒れ伏した女性へと目を向ける。
まじまじとその肢体を見つめると、彼は「ほぅ」と声を漏らした。
「80点。不摂生気味なのが気になるが、顔も胸も尻も気に入った。
体力もありそうだ」
「あなた、何者で…」
「シドー。私はコイツを抱きたい」
女の言葉を遮り、ひゅー、ひゅー、とかすかに息を漏らす女性に手を伸ばそうとする。
今なら隙がある。
女は替えの武器を抜き、無防備な背中へと襲いかかった。
「聞こえなかったか、年増。
私は『帰れ』と言ったんだ」
刃がその背の肉を裂こうとした瞬間。女の背後から、ふしゅう、と蒸気のように空気が漏れる音が響いた。
咄嗟に女がそちらを向くと、その頬に赤い筋が走る。
痛む頬を押さえることもせず、女性は眼前へと迫った怪物へと己が力を発揮する。
顕現装置。ざっくりと言ってしまえば、あるはずのない「魔法」を叶える装置。
世界を殺す災厄さえも滅する力が、怪物の体を襲う。
が。怪物は爆炎を突っ切り、その喉元目がけて刃を振りかぶった。
「ギャハハハハハ!!」
品のない笑い声と共に、チェンソーが唸る。
女性はすんでのところで緑色の薄い膜を顕現させ、その刃をなんとか受け止めた。
ギギギギ、と金属が削れていくような甲高い音が部屋に響く。
ゆっくりと亀裂が走る膜を前に、女性は生唾を飲み込んだ。
「嗚呼、嗚呼!久方ぶりだ!
興奮と共にこの性器が解放されることを求める圧迫感!!
そうだ!忘れていた!!これが勃起だ!!
この感覚は私のものだ!!
もう二度と、誰にも奪わせるものか!!」
口に出すのも憚られるほどに下品な言葉を臆面もなくツラツラと並べ、膜を切り刻む怪物。
数万年の禁欲生活で頭のネジが根こそぎ吹き飛んだ童貞モンスターの暴走に、最強の魔術師は顔を顰めた。
「何なんですか、コイツは…!?」
その問いと共に、膜が砕け散る。
破片舞い散る中で、欲望のままに動く彼は、ゲラゲラと笑いながら、声高々にその名を告げた。
────■■■■■■■!
♦︎♦︎♦︎♦︎
あれから5年後。
高校生となった五河士道は、人生で何度目かもわからぬ窮地に立たされていた。
球状にくり抜かれたアスファルトにビル。
その中心に立つ、絶世の美少女。
それを眼前にした『心臓』が、うるさく喚き立てる。
「だから、段取りってものがあるだろ!
『契約』の条件に協力してくれてる二亜に悪いとは思わないのか!?
…は?『ない』!?お前、節操無しにも程があるだろ!!」
ギャーギャーと一人で騒ぎ立てる士道を前に、「名がない」と彼に告げた少女は顔を顰め、剣を振るう。
士道は飛んできた斬撃を咄嗟に避け、心臓に向けて文句を垂れる。
「そーだったな!『悪魔』だもんなお前!
人間の道徳倫理すっぽ抜けてるもんな!!」
「さっきから何を訳の分からないことを…」
少女が呆れと共に剣を振るおうとすると、ふと、空を見上げる。
士道が同じようにそちらを見上げると、5年前の忌まわしい記憶が蘇った。
無骨かつ奇怪な装備に、ピッチリと肌に張り付いたスーツ。
あの時、自らの心臓を貫いたあの女とよく似た装備に身を包んだ集団が空を舞う。
集団は少女に向けて、躊躇いもなくミサイルや弾丸の雨を放った。
「……こんなもの…」
少女が手を前に突き出そうとした、まさにその時。
ブォン、と、何かが唸るような音が響いた。
「ギャハハハハハ!!」
品のない笑い声が、唸り声と混ざり合う。
瞬間。少女が展開した壁を、爆炎が撫でた。
否。それだけではない。何かが弾けるような音も微かに聞こえた。
一体、何が煙の中で暴れているのだろうか。
少女の疑問は、すぐに晴れることとなる。
「な、なんなの…、あれ…?」
誰が漏らした声だっただろうか。
チェンソーの仮面に、腕から突き出た刃。
そこからはとめどなく血が溢れ出し、アスファルトを濡らす。
仮面の奥にある瞳は、真っ直ぐに少女を見つめていた。
「おい。女」
「…私のことか?」
「お前以外に誰がいる」
剥き出しの牙が弧を描く。
その醜悪な笑みに身構えた少女に、怪物は弾丸を引き裂きながら告げた。
「助けてやる。だから、抱かせろ」
「………は?」
最低な欲求を少女に押し付け、高く飛び上がる怪物。
ゲラゲラと笑い声をあげるソレに対し、隊長格であろう女性が声を張り上げた。
────識別名《チェンソーマン》、発見!
その名は奇しくも、別世界の悪魔と全く同じ名前であった。
偽ポチタ…クソ童貞。チキンだったので風俗にも行かなかった結果、性欲を溜め込みすぎたストレスで死んだ。その後、ポチタ(チェンソーマン)に転生。数万年の禁欲生活を余儀なくされ、頭のネジが軒並み吹っ飛び、好き勝手に暴れまくった。その結果、悪魔全員が珍しく結託し、力のほとんどを封印してこのクソ童貞モンスターを別世界に放り出すことに成功。弱体化し辿り着いた先で、小学生の士道と出会う。口調はポチタ風に自動変換されている。頭のネジが落ちた結果、士道が胸を貫かれた際、「あ、コイツの体もーらお」と即決するし、女に点数つけるくらいにはクソ野郎。尚、士道に「いつとは言われてない」と屁理屈を言われ、未だに童貞。そのくせ女の好みが面倒臭いパーフェクトクソ童貞。
五河士道…最大の被害者。偶然なのか、はたまた偽ポチタの企みなのか、〈シスター〉が捕獲された現場に居合わせ、心臓を貫かれる。その際、ポチタがここぞとばかりにクソみたいな契約を迫り、あろうことかソレを了承。結果、一日中クソ童貞の「女を抱け」という催促に悩まされることとなる。クソ童貞の万年禁欲した性欲がそのまま反映されてるので、365日いつでもムラムラしており、どこかに篭る回数、時間が年々増えてる。童貞気質なので屁理屈捏ねてクソ童貞を童貞のままにしてる。助けた漫画家からの誘惑に負けそうになりながら、鋼のメンタルで何とか耐えてる。多分、前世に悟りを開いた仏教徒がいる。
もやしっこー部長…チェンソーマン(クソ童貞モンスター)にこっ酷くやられた人。なんとか逃亡に成功。しばらくの間、肉をつけるために食生活やらを改めたところ、全然効果がなかった。
〈シスター〉…なんか知らんうちに助けられた漫画家。天使でもチェンソーマンのことがわからなかったため、士道に興味を持つ。何日かを士道と共に過ごした結果、普通に陥落し、封印されることに。士道が契約を履行するために、毎日おっぱいを揉まれてる。最近は頼まれてもないのにわざわざ服を捲り、下着を外すようになった。どうやら満更でもないらしい。