偽ポチタ「助けてやるから、女のおっぱいを揉め」士道「ふぁっ!?」 作:鳩胸な鴨
「五十路手前で未だに処女っていう焦燥感わかる?息子さんの学費で悩んでる同い年がいるんだよ?ねぇ?悪阻体験したいなー。陣痛体験したいなー。赤ちゃん抱っこしたいなー。学費で悩みたいなー。…ね?」
「目が怖い。怖いです本条先生」
拗ねて部屋に篭ってしまった琴里を令音に任せ、二亜宅に訪れた士道は、迫る二亜にダラダラと冷や汗を流す。
前世がブラックホールだったのか、二亜は光を失った瞳から凄まじい圧を放つ。
罪悪感やらプレッシャーやらに押し潰されそうになりながらも、士道はクソ童貞特有の頑固が極まったヘタレを発揮して彼女と距離を取ろうとした。
と。ばっつん、となにかが切れた音と共に、二亜がにっこりと笑みを浮かべる。
「言ったよね?『女にも性欲はある』って」
「……や、でも、十香にも悪いし、折紙にも悪いし、四糸乃にも悪いし、琴里にも悪いって言うか…」
「どうせその四人が迫っても、おんなじこと言って逃げるんでしょ?」
ぐうの音も出なかった。
のしかかり、ガッチリと体を押さえつける二亜を前に、士道は冷や汗を流す。
こんな形で純潔を失うのは嫌だ。
なにより、受験生になる前に一児の父になるという最悪の事態は避けねばならない。
ぐるぐるとそんな思考を巡らせていると。
かちゃ、と鍵を開け、ドアノブを捻る音が二人の鼓膜を揺らした。
二人がそちらを見ると、ビニール袋を手に提げた真那がこちらの様子を見て固まっているではないか。
フラクシナスから抜け出してきたのだろうか、サイズの合っていない服を纏っていた。
「何やってんでやがりますか。
盛りのついた猿でも、もうちょい大人しいと思いますけど」
「真那!助けて!!」
「どうせ兄様がヘタレたんですよね?」
『再会して間もない妹にまで言われてるぞ、ヘタレスケコマシドスケベ』
日を追うごとにポチタの罵倒が酷くなっている気がする。
そのうち、百文字を超えるんじゃなかろうか、と思いつつ、士道は意識が逸れた二亜の拘束からなんとか逃れた。
「と、とにかく!受験終わるまではやめてください頼むから!
責任取れない!」
「大学に入ったら『卒業まで責任取れない』とか言って逃げそうな気がする」
「うぐっ」
「少年の逃げ道は大体知ってんだからね?」
「ま、真那…。嫌だよな、その歳で甥か姪が出来るなんて…」
「や、別に。好きにしやがれって感じです」
「実妹のゴーサイン出たよ!やったね!」
「琴里が更に拗ねるからやめてくれ!!」
「義妹と結婚する予定、あんの?」
「今の父さんと母さんに恩を仇で返すことになるっての…ってベルトに手をかけるな怖い怖い怖い怖い怖いっ!!」
追い込み漁で追い詰められた魚って、こんな気分なんだな。
月並みな感想を心の中に仕舞い、腰に巻かれたベルトを外し、ズボンをパンツごと引き摺り下ろそうとする二亜に抵抗する士道。
その姿を冷え切った瞳で見やり、真那はため息をついた。
「兄様、もう諦めましょう。
二亜さんが辛ぇだけだと思います」
「無茶言うなよ…。こちとら万年チェリーボーイなんだぞ…」
「一万殺した女を落とそうとするようなプレイボーイのくせして?」
「ふか…」
『不可抗力じゃないぞ。
前に封印するかどうかはお前の自由意志だと言ったろうが』
逃げ道が悉く塞がれた。
士道がどう言い訳したものか、と頭を悩ませていたその時。
びりびりびり、と、凄まじい勢いで生地が裂かれる音が響いた。
拮抗を続けていた自身の下半身に目をやると、ハーフパンツのようになったジーンズが鎮座していた。
「俺のジーパンがぁあああ!?」
「……ムダ毛ないけど、剃ってる?」
「ラタトスクに全身脱毛されたんだよ!!」
「VIOのムダ毛もないなら好都合!
今日で絶対膜捨ててやるからね!!」
「お前、そんな下品だっけ!?」
「五年も胸揉まれてんだよ!?
性欲溜まってんのがそっちだけとか思わないでよ!!」
「誠に申し訳ございません。それはそれとして卒業式はまだ待ってください」
ギャーギャーと騒ぐ二人を前に、真那はビニール袋に手を突っ込む。
真那はそこから避妊具の箱を取り出すと、揉み合う士道たちに投げた。
「ほら、早く童貞卒業式しやがれです。
どうせ捨てたところで、このヘタレな性根が変わるわけじゃあるまいし」
「冷たすぎない!?」
「拗ねた琴里さんまで逃げ道のダシに使うような情けねー兄様なんか知りません」
真那の口撃に、士道が押し黙る。
と。その隙を突いた二亜が、士道のシンボルを隠したベールをひん剥いた。
「きゃああああっ!?」
「可愛い声で鳴いちゃって、そんなに期待してんの?」
「い、いや、あの、その…」
笑う二亜を前に、士道が後ずさる。
と。ポチタが呆れたため息を吐いた。
『生娘のような反応をするな、童貞め!
食われるだけの獣でいるつもりか!?思い出せ!毎日のように迸ったあのリビドーを!
お前は獣だ!情欲の奴隷だ!!その衝動のままに抱け!!
さあ!今!!すぐ!!!』
「う、う、ぅう……」
士道の理性は、風前の灯であった。
吹けば消えてしまう最後の堤防で、必死に抵抗していると。
それを悟ったのか、悪魔のように口元に弧を描いた二亜が、両手を士道に向けた。
「来ていいよ」
ブッ、と、何かが切れたような音が、脳裏に響いた。
♦︎♦︎♦︎♦︎
「……妹を慰めることもせずに朝帰りして、よくもノコノコと顔出せたわね」
「…ごめんなさい」
フラクシナス内部、士道の自宅が再現された隔離スペースにて。
不機嫌な琴里を前に、士道は深々と頭を下げる。
結局。あそこまでお膳立てされたものの、士道は卒業できなかった。
興奮のオーバーフローに加え、極度の緊張状態が続いたことにより、その場で気絶してしまったのである。
いくらクソ童貞が極まっているとはいえ、受け入れる姿勢を示した女を前に、気絶することはないだろう。
ここまでくると、クソ童貞という称号すら生やさしい。
言うなれば、クソ童貞の中のクソ童貞。クソ童貞の世界代表、クソ童貞オブザワールドである。
こうなっては意味がないと判断したのか、二亜は事務的に契約分を果たすと、それ以上手を出すことはなかった。
そんな経緯など知らない琴里は、唇を尖らせ、視線を逸らす。
「ふんっ。念願の脱童貞はどんな気分?
どーせ妹に構う気すら失せるくらいいい体験だったんでしょうねー」
「まだ童貞だぞ、このヘタレ大魔王。緊張で気絶したからな」
『ぽ、ポチタぁぁあああっ!?』
意識を入れ替えたポチタの暴露に、士道の叫びが響く。
それを聞いた琴里は思わずポチタを見やり、目を丸くした。
「…………マジで?」
「マジだ。気絶したせいで処理も事務的だったぞ、クソッタレ」
「っしゃあ…!」
悔しさに顔を歪めるポチタを前に、琴里は小さくガッツポーズをかます。
その姿に、ポチタはため息を吐き、意識を入れ替えた。
『この恩知らずめ。拾ってもらった家の娘を落とすヤツがどこにいる』
本来ならば、倫理観もクソもないはずの悪魔に説教されてしまった。
反論しようのない指摘に、士道は妙な汗がシャツの背に染みるのを感じながら、琴里の前に座った。
「……その、琴里。本当にごめん。
お前をあそこまで追い詰めるつもりなんて、全くなくて…」
「士道が私たちを信用してないことくらい、とっくに知ってるわ」
「っ……」
「わかりやすいのよ、アンタ」
士道がつらつらと言い訳を並べるのに対し、琴里はばっさりとそれを切り伏せた。
正直なところ、ラタトスクに対する不信は拭えない。
それが知らず知らずのうちに行動に滲み出た結果、琴里までもが「信用されていない」と思ってしまったのだろう。
後悔先に立たず。
琴里との間に、どうしようもないほどの隔たりが生まれてしまったような気がした。
「……信用できないって気持ちはわかるわ。
私だって、ラタトスクを完全には信用してないもの」
「一枚岩じゃないってことか?」
「ええ。…その殆どは、精霊の力を目当てに協力しているに過ぎない。
私…、識別名〈イフリート〉も含めて、ね」
想像できた現実に、士道が息を吐く。
と。急に意識を入れ替えたポチタが、冷たい表情を浮かべる琴里に迫った。
「それが制御できなければ、私諸共シドーを殺すつもりなんだろう?」
『なっ……!?』
「………そこまでわかってんのね」
琴里は降参と言わんばかりに両手を上げ、士道たちでは用途を推測できない機械の塊を机の上に置く。
ASTが駆使する顕現装置に酷似しているソレを見つめていると、琴里が口を開いた。
「私にはあなたを殺す権限…〈ダインスレイヴ〉が与えられてるわ。
もっとも、これを使うときは、士道が『精霊として暴走したとき』のみだけど」
幼い頃から愛を注いだ妹の手に、自分を殺すための刃が握られている。
その事実を前に士道が絶句していると。
ポチタは琴里が握る機械を、鼓動する自身の心臓へと押し当てた。
「な、なにしてんのよ!?」
「なら、早めに殺したほうがいいぞ。
五河士道はとうの昔に、人間からも、精霊からも乖離し始めている」
「はぁ…?そりゃアンタが…」
「私を抜きにしても、だ。
二亜を早々に封印したせいで、私の力すらも一部模倣してしまった」
「な、何を、言って…?」
話が見えない。
震える瞳で見つめる琴里に、ポチタは残酷な真実を告げた。
────今の五河士道の真名は『精霊の悪魔』だ。
ひゅっ、と、琴里の喉が鳴った。
精霊の悪魔。
本来ならば地獄で生まれるはずの概念の名が、最愛の兄を指している。
その事実を前にわなわなと震える琴里。
一方で、士道は薄々自覚していたのか、一切の狼狽を見せなかった。
「悪魔としての権能である契約に、精霊数人分の霊力。
この二つが揃ったのがまずかった。
契約に反応し、封じられた霊力が悪魔の力として変換され、シドーの存在を作り替えた。
この際だから全部言ってやろう。
封印を繰り返すほど、五河士道という人間は『精霊の悪魔』として完成していくのだ。
そして、それを選んだのはシドー自身だ」
琴里の腕を握る手に、力が込められた。
まるで、今すぐ殺すことを勧めているかのように。
「『精霊の悪魔』は《チェンソーマン》…、この私と同一の存在として定義されてしまっている。
その上、精霊の力を使えるんだ。
世界中のあらゆる兵器をかき集めたとしても、地獄に集うあらゆる悪魔をかき集めたとしても、『精霊の悪魔』を殺すことは叶わんだろうな。
さぁ、殺すならさっさと殺せ。今なら『世界の危機を未然に防いだ英雄』という称号のおまけ付きだぞ?」
ごくり、と琴里が唾を飲み込む。
こんな話を上層部が聞けばどうなるか。
悪魔の力が判明していなかった時点で、士道を殺す凶器を渡すくらいだ。今すぐにでも刺客を送り込み、五河士道という人間を屠ろうとするだろう。
怒りが冷えた琴里がなんとか言葉を紡ごうと、ポチタの顔を見やると。
そこには、申し訳なさそうに眉を八の字にして笑みを浮かべる、最愛の兄の顔があった。
「ごめんな。こういう生き方してないと、自分に納得出来ないんだ。
ポチタを助けたことも、二亜を助けたことも、十香を助けたことも、四糸乃を助けたことも、狂三を封印しようとしたことも、俺は何一つ後悔してない」
「………」
ひゅぅ、ひゅぅ、と浅い呼吸だけが琴里の喉奥から漏れる。
受け入れ難い真実に絶望し、放心した琴里の手が、士道の心臓から力無く離れた。
かっ、と床に落ちた機械を拾うこともなく、俯いてただ虚空を見つめる琴里。
様子を見ていた副艦長…神無月恭平が冷や汗を流した、その時だった。
「…あのさ、琴里!
今度の休み、俺とデートしよう!」
「………ふぇっ!?」
士道が何の脈絡もなく、デートの誘いをしたのは。
あまりの温度差に、琴里は素っ頓狂な声を放つとともに、顔を上げた。
顔を赤く染めた琴里に、士道は手を握ったまま迫る。
「最近構ってやれなかったからな。
どこがいい?何が食べたい?したいこと、なんでも付き合ってやる。
いっぱい迷惑かけた上に、あそこまで怒らせちゃったんだ。全力で我儘言ってくれ」
先程の空気を霧散させるように、士道のバカ笑いが隔離室に響く。
とうとう童貞が拗れに拗れて頭がイカれてしまったのだろうか。
遠慮のない罵倒が口を突いて出そうになるも、歓喜やら羞恥やらで思考が流れていく。
しかし、何か言ってやらないと気が済まなかった。
「ふ、ふんっ。どうせ再封印が…」
「ンなもん知るか!
俺は今さっき、琴里とデートしたい気分になったんだ!」
「はえ、え、ぇえ…、ええっ…!?」
『…慌て方が似ているな』
血は繋がらなくとも、流石は兄妹。
あたふたと慌てる琴里の姿は、士道のものとよく似ていた。
「ほ、本当…?」
「ああ、本当だ!」
「なんでも、聞いてくれるの…?」
「なんでも聞く!!」
「……その、妹とデートなんて…」
「十香や四糸乃、二亜にも負けないくらい甘やかしてやる!みんなが羨ましいって思うくらい、たくさん楽しい思い出残してやる!!
だから、琴里!俺とデートしてくれ!!」
「………っ!!」
ぴょこん、と、神経が通っているわけでもないのに、黒いリボンが立つ。
琴里はにやけヅラを隠すようにそっぽを向き、ふふん、と鼻を鳴らした。
「そ、そんなに言うんだったら、しょーがないわよね。
付き合ってもらおうじゃないの、うん」
『……本番直前に気絶して恥を晒すようなヘタレ大魔神のクセに、口説き文句だけは一丁前だよな、お前』
上機嫌に頷く琴里に見えないように、士道は心臓あたりを軽く叩いた。
五河琴里…反転寸前だったものの、士道の口説き文句に落ちる。流石は初っ端好感度マックスなブラコン艦長。反転を阻止する方法も割とチョロかった。尚、このチョロさは士道のみに発揮される模様。士道の童貞がアラフィフに奪われなかった上にデートに誘われたので、めちゃくちゃ上機嫌。
五河士道/精霊の悪魔/クソ童貞オブザワールド…R-18を期待したか?このクソ童貞にそんなことできるわけねぇだろうが!!童貞の悪魔ではなかったものの、より酷い称号が付いた。口説き文句だけは一丁前だが、決して忘れてはいけない。この男、クソ童貞の世界代表…クソ童貞オブザワールドなのである。大事なことなのでもう一度言おう。クソ童貞オブザワールドなのである!!
本条二亜…本番前に気絶されてご立腹。契約だから、と一回は気絶している間に処理したものの、それ以降はふて寝した。
偽ポチタ…士道のヘタレ具合がここまで突き抜けてるとは思わなかったため、かなりご立腹。万年物の童貞を捨てる日はいつになるやら…。