偽ポチタ「助けてやるから、女のおっぱいを揉め」士道「ふぁっ!?」 作:鳩胸な鴨
「少年さぁ、あの場面で気絶かましといてよくも私に相談できるね」
「誠に申し訳ございませんでした」
契約更新のために訪れた二亜の自宅にて、家主の放つ絶対零度の視線が、士道の小さくなった背に突き刺さる。
二亜はため息を吐くと、土下座する士道に躊躇いなく腰掛けた。
「重いとか言ったら逆レね」
「むしろ心配になるくらい軽いんだが…」
「少年が気絶したせいでストレスマッハだったのよ?ん?」
「本当にすみません」
どう足掻いても勝てない。
体重と共にのしかかる圧が、数倍に上がったような気がする。
ぽた、ぽた、と冷や汗が床を濡らすのを見ながら、士道がどうしたものかと思考を巡らせていると。
二亜が薄く笑ったような気がした。
「琴里ちゃんの対処が終わった後でいいから抱いて。
次気絶したら、水ぶっかけて起こすから」
「うぇっ!?」
「い・い・よ・ね?」
「………はいっ。クソ童貞、腹括りました」
「よろしい。焦らしに焦らした分、覚悟してもらうからね?」
もし逆らえば、ただでさえお猪口くらいしかない男としての威厳が、瞬く間に消えたことだろう。
ポチタのクソ童貞歓喜の雄叫びが意識を埋め尽くさんばかりに轟く中、士道はなんとも言えない表情を浮かべた。
「…で。デートの相談ってわけじゃないよね、プレイボーイくん?」
二亜は士道の背から立ち上がると、「もういいよ」と土下座をやめるよう促す。
士道は恐る恐る顔を上げ、頷いた。
「問題はラタトスクの方なんだよ。
俺を殺す算段まで立ててたらしくって」
「なんで当の本人が、今の今までその可能性に気づかなかったの?」
「そんなに深く考えてなかった。
二亜もそうだけど、十香のこととか、四糸乃のこととかに気が行ってたし」
はぁ、と長いため息が二亜の口から漏れた。
五河士道の在り方に、今までは文句を言ってこなかった。
だが、このまま放っておけば、いつか絶対に取り返しのつかない事態になる。
そう判断した二亜は、なんとか言葉を捻り出し、士道に語りかけた。
「少年は自分を軽く見過ぎ。
美点だし、私もそこに惚れたフシあるけどさ、過ぎると欠点だよ?」
「一回は死んでるからな」
『おい、バカッ!!』
ポチタの制止も遅く、次の瞬間。
士道の視界がぶれ、勢いのままにその場に倒れ込んでしまった。
ひりひりと痛む頬を抑え、視線を戻すと。
泣きそうな顔で自分を見下ろす二亜が、手を振り切った状態で立っていた。
「………ごめん。俺、最低だった」
五年前、五河士道が殺されたことに、二亜がなんの責任も感じていないわけがないのだ。
士道は腫れ上がった頬から手を離し、二亜に歩み寄った。
「デリカシーないし、女誑しだし、自分勝手だし、ヘタレだし、直前で気絶するし…。
本当に、最低な男でごめん」
「………」
自分で言っていて悲しくなってきた。
こんな最低な男に口説き落とされた精霊たちにも、ひどく申し訳なくなってくる。
士道が自己嫌悪に陥っていると。
それを否定するように、二亜が涙を拭い、首を横に振った。
「知ってる。知ってるよ、そんなこと。
最低なとこ、たくさん見てるけどさ。
それでも、私は五河士道のことが大好きだよ」
そんな口説き文句と共に、二亜は士道の顔を捉え、唇を押し当てる。
こうやって二亜とキスをしたのは、いつぶりだろうか。
安物の香水の匂いに包まれ、二人して息を止めること、数秒。
離れた二亜は息継ぎすると、いつものように締まりのない顔になった。
「さ。ラタトスクへの対策、考えよっか」
♦︎♦︎♦︎♦︎
『本当に行くのか?
あのイカれポンチのところに?』
翌日。自衛隊病院の廊下にて。
ポチタの嫌気たっぷりな声音に、士道は足音に消えるよう、小さく呆れを吐き出す。
「お前、折紙の何が嫌なんだよ?」
『あの強引さと狂気の方向性がイカれポンチに似ているのが嫌なんだ。
アレよかマシだが、理想をシドーに押し付けているのも気に食わない。
本人に自覚はないだろうがな』
「そんなことないだろ。
ちょっと押しが強いだけだって」
先日の一件で検査入院しているという折紙の見舞いに来たはいいものの、折紙を避けているポチタが嫌がったのである。
しかし、見舞いに来ないと言うのも、苦労をかけた折紙に悪い。
結果。士道はポチタの反対意見を殆ど無視するような形で病院に来たのだ。
病室を前にしてもウジウジと文句を垂れるポチタに辟易しながら、士道は病室の扉を叩いた。
「どうぞ」
「お邪魔しまー…」
折紙の声と共に扉を開いた士道が固まる。
そこに居たのは、確かに折紙ではあった。
ただし、ほぼ全裸の痴女という点を除けば、であるが。
今までの言動を鑑みれば、ここに訪れるのが士道であることを、なんらかの方法で見抜いていたのだろう。
単純に着替えの途中だった可能性も頭をよぎるが、目の前にいるのは肉食系パーフェクトウーマン、鳶一折紙。がっつり招き入れてる時点でクロである。
折紙は秘部を最低限隠すと、冷や汗で顔を濡らした士道を手招きした。
「少し着替えに手間取ってる。
士道に手伝って欲しい」
『ほら見ろ。迫り方までもがイカれポンチそっくりだ』
いけしゃあしゃあと嘘を並べる折紙に、ポチタが深いため息を吐く。
見舞いに来た以上、帰るわけにもいかない士道は、恐る恐る折紙へと近づいた。
瞬間。ひんやりとした感触が手首を覆ったかと思うと、体が一気に持っていかれる。
「わわっ…!?」
「きゃー」
棒読みにも程があるだろ。
そんなツッコミすら出ないほどに、折紙の胸元に密着した士道。
しかし、ポチタが心臓を務める故か、鼓動の音は緊張に反比例して静かだった。
「ご、ごめ…」
士道が離れようとすると、折紙がその腰に、秘部を隠すために使っていた手を回す。
抵抗する暇もなく、あっさりと拘束された士道に、ポチタが叫んだ。
『おいっ!早く抵抗しろ!!
後戻り出来なくなるぞ!?
絶対に碌なことにならん!!はやく!!』
(お前、折紙に失礼すぎるだろ…)
『じゃあ否定できるか!?コイツを相手にこのまま流されて面倒に遭わんと、絶対の自信を持って言えるか!?』
(言えませんごめんなさい)
悲しきかな。
折紙の凄まじさを知っている以上、彼女の名誉を守ることは出来なかった。
なんとか逃れようとするも、折紙は華奢な腕からは想像もできない怪力を発揮し、それを許さない。
折紙は士道の耳元に唇を近づけ、囁く。
「ここ、防音」
「………」
全力で殺しにきている。
二亜といい折紙といい、なぜ自分の周りにはこうも押しの強い女性ばかりなのだろうか。
どうしたものか、と言葉を選んでいると、意識が唐突に入れ替わった。
「病み上がりだろ。退院した後の方が、お互いに満足できるんじゃないか?」
「…わかった」
『なんでそれで退く!?』
ポチタの断りに、折紙の拘束が解ける。
予測できない折紙の言動に複雑な感情を抱きつつ、ポチタと意識を入れ替えた士道。
折紙の秘部を見ないように目線を逸らし、ゆっくりとベッドから降りた。
「取り敢えず、りんご剥いてやるから。
そんなに肌出してちゃ、風邪引くだろ」
「…残念」
「残念って、なんですかね…?」
「既成事実…」
「すみません言わなくていいです」
本当に入院が必要になった人間だろうか。
士道はそんな呆れを隠し、見舞い品を入れた紙袋から、カット果物類が盛られ、ラップされた皿を取り出す。
こちらで剥くことも考えたが、「お前は病院で殺人でも犯すのか」とポチタにツッコまれたため、予め切ってきたのだ。
「食べさせて」と、恋人らしく甘える折紙に従いながら、士道は話を切り出す。
「…《チェンソーマン》のことなんだけど」
瞬間。折紙の目が据わった。
折紙は差し出されたリンゴを食べ終えると、暫し目を伏せた。
「崇宮真那から全て聞いてる。
だから、言わなくていい。士道にとっても辛い記憶のはず」
「いや、そんなことないんだが…」
「……士道は自分のことに無関心すぎる。好ましいことではあるけど、過ぎれば毒」
「そうか?」
『自覚が薄すぎるだけだ。
お前、そこら辺の雑魚悪魔よりもイカれてるぞ』
少なくとも、心臓を貫かれた挙句、人間から乖離しつつあるという状態の少年から出る言葉ではない。
自覚のない狂気に、ポチタが辟易のため息を漏らした。
「安心して。誰にも言わない」
「あ、ありがたいけど…、なんで?」
「取引がしたい」
折紙は言うと、顔を憎悪に染め上げた。
「黙っている代わりに、力を貸して」
────精霊〈イフリート〉を殺すために。
♦︎♦︎♦︎♦︎
「は?私を、鳶一折紙が?」
「ああ。お前が両親を殺したと主張している。五年前の火災の日だ」
ポチタの言葉に、有頂天だった琴里の気分は一気に叩き落とされた。
折紙への返事を保留し、帰宅した直後。
迷っている矢先に投下された爆弾に、意識の奥にいる士道がぱくぱくと口を動かす。
『ぽ、ポチタ、おまっ…!?』
「まぁ、お前が殺せんことも知ってる。
そもそもの話、シドーとコトリは火災の中心部から動いてないのだからな」
「……私、覚えてないんだけど」
不安げに告げた琴里に、意外と言わんばかりに目を丸くするポチタ。
普通、忘れられない体験のはずなのだが、と思い、ポチタは五年前の記憶を探った。
暫く海馬を弄っていると、その中に思い当たる節があることに気づく。
「…成る程。あの時の記憶操作に抗えなかったのか。
私がいて良かったな、シドー。話が余計に拗れるところだったぞ」
『お前、大概何でもありだよな…』
「イカれポンチで慣れた」
あの手この手で迫るイカれポンチの顔が頭をよぎるだけで、悪寒が走る。
ポチタとしては感謝を述べたくはないが、士道を取り巻く厄介ごとの一つが早々に解決したことだけは、礼を言ってもいい気がした。
…無論、絶対に口にしないが。
しかし、話を聞いても思い出せないようで、琴里の表情が沈む。
「……だめ。思い出せない」
「ふむ…。封印すればどうにかなるやもしれんが、どうする?
兄にべったりなお前のことだ。今すぐキスしても封印はできるだろ」
「や、やだっ!デートする!!」
「……だと。シドー、あとは任せた」
焦って失言をかました琴里にあくどい笑みを浮かべ、ポチタの意識が引っ込む。
琴里が絶句するのも束の間、意識の表面に出てきた士道は、生暖かい視線を向けた。
「そんなに俺とデートしたいのか。その、おにーちゃん、嬉しいぞ」
「ぅ、うがぁぁぁああああああっ!?」
♦︎♦︎♦︎♦︎
「琴里が精霊で、鳶一折紙の両親の…」
「はい…。その…、偶然、聞いちゃって…。どう、したら…いいか…」
辿々しく状況を語る四糸乃を前に、十香は悶々と唸る。
ポチタの件といい、考えることが多すぎて、頭がぶっつりと切れてしまいそうになる。
虫が心臓を這っているかもしれない。
そう思ってしまうほどに、十香の胸中は穏やかなものではなかった。
「……シドーのことは、聞いたか?」
「い、いえ…。でも、シドーさんの様子が、なにか…、おかしいというか…」
『別人になった感じがしたんだよね』
果たして、四糸乃に言うべきか。
フィクションならばスプラッタホラーですら微動だにしないが、それがノンフィクションになった途端に取り乱すような少女だ。
最愛の人が一度死んでいる…などという残酷な事実を口にするのは、気が引ける。
しかし、言わなければならない。
十香は稚拙ながらもゆっくりと情報を噛み砕き、口にした。
「…シドーの中には、『ポチタ』がいる」
そう切り出し、十香は士道から聞かされた話を自身の注釈を添えて話し始める。
数十分はかかったものの、全てを聞き終えた四糸乃は、不安げな表情を浮かべた。
「…大丈夫、なんですか?」
「……わからん」
十香の脳裏には、千切れ飛び、転がってきた士道の腕が過っていた。
いくら回復するからと言って、ああも捨て身な戦いを繰り返せば、いつかは取り返しがつかなくなる。
言葉にすれば現実になってしまいそうで、そんな不安を吐き出すことは出来なかった。
『…それもだけど、折紙ちゃんのことが先決じゃない?
士道くんの力を使って、琴里ちゃんを殺そうとしてるんでしょ?』
「そうだった!シドーに妹を殺せなどと、奴はどんな神経をして言っているのだ!?」
「と、十香さん…。折紙さんは…、知らない、んです…、から…」
ばんっ、と机を叩いて立ち上がる十香を、四糸乃がなんとか宥める。
炎を操る精霊〈イフリート〉。それが五河琴里のことを指していることなど、折紙が知っているはずもない。
しかし、それを差し引いても、士道に妹殺しを強要した事実は、十香の怒りに火をつけるには十分だった。
「…しかし、折紙の憎悪が強いのも事実だ。
もしイフリートとやらが琴里で、奴の親を殺したのが違う存在だと知ったとしても、それで止まるとは思えん。
四糸乃も知っているだろう?」
「……はい」
鳶一折紙という少女は、理性的な性格を装ってはいるが、その実は良くも悪くも直情的である。
犬猿の仲である十香だからこそ、折紙の性格は手に取るように分かった。
『…前者だけ知ったら最悪じゃない?』
「……祈るしかないのは歯がゆいな」
ふと、よしのんが挙げた可能性に、十香が縋るように吐き出す。
残念ながら、その祈りは届かなかったのだが。
五河士道/精霊の悪魔…原作では精霊たちの地雷を一回は踏んでるので、ここでも二亜の地雷を踏んだ。攻略済みでよかったな、クソ童貞オブザワールド。近いうちに捨てることになるけど。自分の出生については知らないけど、ポチタと融合した後の記憶操作とかは耐性がついて無効化されてる。
本条二亜…初体験の予約、入りまーす。サバサバしてるけど、窒息するほどドロドロした愛情を抱いてる。五年間の付き合いがあるし、正ヒロインムーブが強すぎる。
鳶一折紙…見舞いに来た真那から士道の体のことを聞いた。そこで、ポチタと契約を結ぶことを企む。知らんうちに妹殺しを強要しているが、この後、イフリートの正体を知ることになる。尚、見ても一切の後悔なく、「それでも殺す」と憎悪を煮やしている。この人、チェンソーマン世界でもやっていけそうだと思うの、私だけかな?
五河琴里…記憶も取り戻したいし、再封印もしなきゃいけないけど、それよりも「おにーちゃんとデートしたい」という欲が強過ぎて二つとも後回しにした。偽ポチタにブラコンを完全に見抜かれた上で手玉に取られ、めちゃくちゃ悶絶した。
偽ポチタ…イカれポンチに慣れたせいで精神操作系スキルが無効。