偽ポチタ「助けてやるから、女のおっぱいを揉め」士道「ふぁっ!?」 作:鳩胸な鴨
筆が乗ったから早めに投下。
「…ふ、ふーん。アンタのチョイスにしては、上出来なんじゃない?」
「童貞の妄想みたいで、ごめんだけどな」
遊園地にて。
夏季限定で開放されているプールをひとしきり楽しんだ琴里が、尊大に振る舞う。
士道が苦笑を浮かべ、童貞の妄想力でプランを立てたことを正直に告白する。
琴里はそれを蔑むことなく、薄く笑った。
「楽しけりゃいいわよ。
デートってそういうものでしょ?」
「…ん。さ、これからどうする?
おにーちゃんとしては、プールで遊ぶだけでもいいけど、遊園地に来てアトラクションに乗らないのも違うだろ?」
「誘い文句が回りくどいわよ。
頑張ってキザっぽく言ってるの見え見え。
まぁ、どーしてもって言うなら行くけど」
「どうしても行きたい」
「…ふふっ。じゃ、行きましょうか」
幸せとは、こういう感情を言うのだろうな。
そんなことを思いつつ、琴里は差し出された士道の手を握る。
何度もチェンソーが肉を裂いた手。
線が細いから分かりにくいが、触ると少しゴツゴツしている。
こうして兄の手を握ったのは、半年は昔のことだっただろうか。
一歩ずつ大人へと近づく兄を見上げることが出来たのは、一生の自慢話だ。
…間違っても、本人には言わないが。
「ポチタは最後まで顔を出さないのね?
こう言う場所だったら、喜んで士道の意識を押し退けそうだったけど」
「邪魔しないように頼んだ。今日は楽しみにしてた琴里とのデートだからな」
「…そ、そう」
顔を赤くし、目を逸らす琴里。
実際は「大人しくしてないと、支配の悪魔とチェンソーマンでエロ同人を描いてやる」と脅したのだが。
創作の中とはいえ、よっぽど支配の悪魔と関係を持つのが嫌なのか、ポチタは士道の意識を奪うことなく、苦虫を噛み潰した顔でプールを楽しむ二人を見つめているだけだった。
殺される勢いで愚痴を吐かれるだろうな、と思いつつ、士道は琴里と一旦別れ、更衣室に入った。
『…コトリのヤツ、注射の痕があったな』
「流石に気づいてるよ」
開口一番に飛び出たのは、意外にも琴里への心配だった。
相変わらず、悪魔らしからぬ優しさを見せるポチタに、士道が微笑んでいると。
ポチタの辟易のため息が、数秒続いた。
『薬が必要なほどに深刻な状態なんだろう?
何故、今すぐに封印しない?』
「琴里はこういう口実がなきゃ、デートに誘えない年頃なんだよ」
『…その気遣いはいいが、いざとなったら無理矢理に封印しろよ。
鳶一折紙という爆弾がいるんだ。
ああいうのは最悪、装備を持ち出して襲撃とかやらかすぞ』
「…悪魔にも復讐鬼とかいたのな」
『戦争を殺した直後、姉妹関係にあった飢餓が怒り狂って殺しにきた。
よくも妹をーとかピーピーうるさかったから、殺して首を並べてやった』
前言撤回。優しさのカケラもなかった。
しかし、そんな猟奇的な体験談に救われているのも事実。
士道は複雑な表情を浮かべ、ロッカーを開けた。
「あ」
『どうした?』
「パンツ忘れた」
ポチタの深いため息が、士道のものと重なった。
♦︎♦︎♦︎♦︎
「勃起隠蔽のファールカップは持ってきたくせして…」
「か、可愛いドジってことで…」
「その年で可愛いはキツイわよ」
妹の呆れた一言が深く突き刺さった。
自宅から水着を着ていたのが、完全に裏目に出たのである。
結局、ファールカップのみ装着したノーパンという、あり得ない痴態を晒すことになった士道。
しかし、ノーパンであれど、デートに支障が生じることはない。
士道は笑って誤魔化し、「まったく」と尚も呆れる琴里と共に、手元のパンフレットを覗き込んだ。
「…お、コレ。昔、琴里が身長制限で乗れなくて、めちゃくちゃ泣いてたヤツだよな」
「ばか!そんなこと思い出さなくても…。
し、士道だって!『今はこの平穏に浸っていようではないかー』とか、痛々しいこと散々言ってたくせに!」
「ホント、懐かしいよな。二人きりなのは初めてだけどさ」
ぼふんっ、と湯気を立てそうな勢いで顔を真っ赤にする琴里。
兄が強い。勝てない。
なんとも言えない敗北感と歓喜に、感情が入り乱れた表情を浮かべる。
一方で、士道は琴里に見えないよう、羞恥に打ちひしがれていた。
(うごぐぁぁぁああああっ!?)
『だから言ったろ。早く治せと。
…まぁ、コトリの前で取り乱さなかったのは褒めてやる。慣れてきたな、シドー』
(え?そ、そりゃ、特訓は続けてるしな)
『なら気絶するな、ヘタレ大魔神。
次もやらかしたら、お前とトノマチでエロ同人を描いて、学校中にばら撒いてやる。
童貞よりも先にケツの処女をコミック同人で奪ってやる』
(………が、頑張り、マス…)
相当根に持っていたらしい。
洒落にならない脅しに冷や汗をかくも、悟られないように努めた。
殿町の名誉と尻の処女は守れないかもしれない。そんな情けない不安を抱えながら。
♦︎♦︎♦︎♦︎
「っはー…。遊んだなー」
「年甲斐もなくはしゃがないでよ。
こっちが恥ずかしいじゃない」
数時間後。
一頻り目ぼしいアトラクションを堪能した士道は、息を切らし、力無く笑う。
遊びによる疲労など、いつ以来だったか。
そんなことを思いながらも、琴里はぷいっ、と不機嫌を装った。
「はしゃぐだろ。水入らずなんだし」
「ゔっ…。く、口が上手くなったわね…」
「お前がやったんだろ?」
「……そうね。そうだったわ」
まさか、あの受け身な兄に振り回される日が来るとは思わなかった。
自分が仕込んだとは言え、さりげない褒め言葉が心地よく感じる。
ふわふわとした気分に浸っていた、その時のことだった。
「ぐぁあっ!?」
悲鳴と共に、眼前に人影が墜落したのは。
二人して目をひん剥いていると、琴里の携帯から着信音が響く。
一方、士道は慌てて土煙に包まれたシルエットに駆け寄り、息を詰まらせた。
「と、十香…!?」
「す、すまん…。止めはしたのだが…」
煤と傷に塗れた姿の彼女に心配を向ける。
と。弾丸の嵐が、驚愕のあまり棒立ちになっていた琴里へと襲いかかった。
「っ、させるか!!」
士道は咄嗟に胸元のスターターを引き、腕から突き出たチェンソーで弾幕を受け止める。
無論、チェンソーにも痛覚はある。
弾丸が肉を貫通する痛みに、士道は歯を食いしばった。
「士道!」
「狂三で慣れた!!」
何気なく発した言葉に、琴里の表情に陰りが生まれる。
こういう性格であるというのは知っている。
しかし、それで納得してしまうほど、琴里はめでたい頭をしていない。
取り返しのつかない深みに落ちてしまいそうな危うさを孕んだその姿に、不安が止まらなかった。
「俺の琴里に、何をしている…!!」
怒気を放ち、牙を剥き出しにする士道。
その瞳の先には、憎悪を燃やす折紙が佇んでいる。
その背には、砲身二つが前に突き出た、なんとも前衛的なデザインの装備があった。
「…取引を忘れたの?」
「『〈イフリート〉を殺すために力を貸せ』とは言われたが、『敵対するな』とは言われてない。
言葉足らずだった自分を呪えよ」
とんだ屁理屈である。
ふざけるな、と叫びかけるも、伸びたチェンソーのチェーンが装備に巻き付いた。
『お前も悪魔らしくなってきたな』
「誰かさんのフリ見て、な!!」
士道が思いっきりチェーンを引くと、折紙の体がシェイクされる。
しかし、折紙は軌道に球状の結界を置くことで無理矢理にそれを止め、琴里に向けてミサイルを放った。
「琴里!!」
ミサイルが琴里の体に触れる直前に、士道がその軌道上に立ちはだかる。
着弾したミサイルは、士道の肉を最も容易く吹き飛ばし、臓物をその場にばら撒いた。
「おにーちゃんっ!!」
「…ってェェェええ…!!」
痛いで済むような傷ではない。
グロテスクな音を立てて患部を治すと、殺到する弾幕から背を向け、仮面を解いた。
「琴里。こんな形でごめんな」
士道は謝ると共に、血に濡れた唇を、琴里のものに押し当てる。
瞬間。琴里の脳裏に、ぼんやりとした情景が流れた。
────勝手に唇を奪って気絶しおって!一体全体何がしたかったんだお前の妹は!!
そんな愚痴と共に、炎の中を突っ切る士道…否、チェンソーマンの背から見える景色。
琴里が愕然とする前で、士道は炎を纏いながら、ポチタに問いかけた。
「なぁ。俺にも『悪魔としての姿』はあるんだよな?」
『…勧めはせんぞ。後悔する』
「今やらなきゃ、その後悔は一生だ…!!」
啖呵を切った士道は、深く息を吐く。
瞬間。その脳天を、機械的なラインが走る斧が裂いた。
「おにーちゃん…?」
両腕が嫌な音を立てて、砲身と斧が一体となった武器…琴里の天使である《灼爛殲鬼》に変わる。
人間というには、あまりに悍ましい。
悪魔と呼ぶべき存在が、そこに居た。
「『精霊の悪魔:イフリート』って言ったところか?
なんか、気分がいいや」
「し、士道…?」
「あー…。そんな場合じゃなかったな。契約を果たさないと」
肉を裂き、焦げるような音が響く。
士道…いや、精霊の悪魔が、己の首に右手の斧を突き立てているのだ。
ぼたぼたと溢れ出す血液を前に、琴里と十香は愚か、折紙でさえも絶句した。
「な、なにしてるの!?
や、やめ、やめてっ…!やめてってば!」
「シドー!やめろ、やめてくれ!!」
「しど…」
「〈イフリート〉を殺すんだろ?
だったら、黙って見てろ…!!」
骨に刃が突き刺さる。
折紙たちの言葉を制し、精霊の悪魔は〈イフリート〉を殺しにかかった。
「や、やだっ!やめて!やめてよ!!」
「シドー!頼む、シドー…っ!」
「士道!私はこんなこと望んで…」
「お前が言ったんだ!
〈イフリート〉を殺せって!!
それなら、〈イフリート〉である俺が死ねば全部解決だろ!?天才の発想すぎてノーベル賞貰えちまうなァ〜!!」
ギャハハハハ、と士道のものとは思えない笑い声を上げ、骨を砕く。
その刃が振り切れた瞬間。
精霊の悪魔の生首が、折紙の足元に転がった。
「はい、一回死んだ」
絶望する暇もなく、そんな軽い声が生首から響く。
狂ってる。それも、『頭のネジが外れてる』などという表現で済まされないほどに。
精霊の悪魔の体は生首を掴むと、そのまま切断面に押し当てる。
と。ぶわっ、と炎が噴き出ると共に、何事もなかったかのように断面がくっ付いた。
「これで契約は達成した。俺は〈イフリート〉を一回殺したぞ」
「………な、なにを、言って…?」
「見ただろ?俺が〈イフリート〉なんだ。
お前が殺そうとしている精霊は俺なんだよ。
だからお前の復讐お終い!
俺が俺を殺しちゃったんだからなァ!!
なぁ、なんか違うか!?
〈イフリート〉を殺せって言われたから殺してやったぞ!?」
「や、や…っ。やだっ…」
「『やだ』じゃない。お前がやりたかったのは、こういうことだ」
崩れ落ちる折紙に、精霊の悪魔は冷ややかな視線を向けた。
これが、最愛の兄の行き着く先。
恐ろしく、悍ましい姿を前に、琴里はカタカタと震え、不安を吐き漏らす。
「……おにー、ちゃん…?」
「…っ、ちょ、ちょっと待って。
今、抑える…」
ふー、ふー、と深呼吸を繰り返すと共に、噴き出す炎が収まっていく。
軈て、全ての変化が戻ると、いつもの五河士道が立っていた。
「…ごめんな。なにやってんだよ、俺…」
『わかったか?悪魔になるというのは、こういうことだ』
優しい声音に、琴里はひどく安堵した。
生首があった血溜まりにしゃがみ込み、士道は呆れと後悔を漏らした。
「…取り敢えず、いろいろ話したい。
ちょっと着いてきてくれるか?出来れば、ラタトスクの干渉もナシで」
五河士道/精霊の悪魔…悪魔形態だと途端にイカれる。形態は現在のところ五つが解放されている。尚、ポチタとの契約における死亡カウントには入ってない模様。よかったね。
偽ポチタ…ドン引きした。まさか、ここまで悪魔らしくなると思ってなかった。自分が原因の一端を担ってるので気まずい。
五河琴里…ドン引きした。幸せな気分が吹き飛ぶくらい引いた。こういうことするやつだとは思ってたけど、ここまで悪辣になるとは思ってなかった。悪魔だから仕方ないね。
鳶一折紙…ドン引きした。復讐心はまだ満々だけど、取り敢えず話を聞こうと思うくらいには頭が冷えた。〈ホワイト・リコリス〉の負担?知らない子ですね…?