偽ポチタ「助けてやるから、女のおっぱいを揉め」士道「ふぁっ!?」 作:鳩胸な鴨
「バカかお前」
「聞くだけ聞いておいて第一声がソレって、どんな神経してるんですか!?」
歯に布着せぬ物言いのポチタに、己の過去を話し終えた美九が食ってかかる。
一般人から見てもよくある話として片付けられるように、裏営業を拒んだ故の嫌がらせでスキャンダルをでっち上げられ、挙句にファンに心無い言葉を浴びせられた…という経緯があったらしい。
それにより、心因性の失声症を患い、自殺を考えるほどに追い込まれたと言う。
と。そこへ、琴里や二亜に力を与えた存在…『ファントム』が訪れ、美九に精霊の力を授けたとのことだった。
ポチタは深く呆れを込めたため息を吐き、美九に迫る。
「やっても居ないことをいちいち気にするな。堂々としてればよかったものを、なぜ真に受ける?
お前が免罪符として掲げたスキャンダルを見たが、なんだあのアホらしい記事は。
薬漬け?男漁り?勝手に言わせとけ。
シャブをヤれば、国家権力が介入するような国だぞ?そんな記事を鵜呑みにするなど、頭が弱いにも程がある。
で、罵詈雑言しか吐けんインターネット社会の掃き溜めどもの言うことを真に受けて、『男が嫌い』?
笑わせるのも大概にしろ。
無理矢理輪姦されて誰かもわからん子を孕んだ挙句、尚も続けられて堕胎したとかの方がまだ説得力あるぞ」
「どんな発想してるんですか!?」
「勘違いするな、私も言うだけで胸糞悪いんだ。こういうのは趣味じゃない。
マンネリ防止のために覗いたハード系のエロ本が、まさかあんな特大の地雷だとは…」
「聞いてません!」
美九がギャーギャーと叫ぶのを無視し、ポチタは深まった眉間の皺を伸ばす。
余程、好みに合わないエロ本だったらしい。
険しい顔で睨め付ける美九に、ポチタは諭すように告げる。
「あのな、もう少し考える脳を作れ。
知識は何者にも代え難いアクセサリーだ。
女だろうが男だろうが、知識は平等だ。
己の存在を美しく、気高く彩る。
リアリストを気取る割には幼稚すぎるぞ」
「……っ、あなたになにが…」
「惑わされない人間もいただろう?
少なくとも、最後にやったライブでは観客がいたんだろうが。
心因性の失声症も、事務所の意向を無視して個人で公表すればよかっただけの話だろ。
それで被害者として振る舞い、一定数の味方を得ることも出来たろうに」
「………それでも」
「全人類がお前よりバカだと思うか?
思い上がりもここまでいけば感心する」
「あーもう!うるさいうるさいうるさい!
男は皆、欲望の塊なんです!ソレが満たせないとなると裏切る獣なんです!」
じっくりと追い込むような言葉の数々をかき消すように、美九が喚き散らす。
半目でそれを見下ろしたポチタは、仕方がないとばかりに複雑な表情を浮かべた。
「お前が同じ領域にまで落ちてどうする」
「……………は?」
「何か違うか?今のお前とそっくりだぞ、そのクソ男」
何を言ってるんだ、このバケモノは。
自身の呼吸すらも聞こえるほどに、神経が冴え渡ったような気さえする。
衝撃に、ぐるぐると世界が回る。
自分の人生を狂わせた男と自分が、同じ領域に立っている。
美九にとっては、どんな罵詈雑言よりも認めたくない言葉であった。
否定したかった。だが、否定できなかった。
「権力か霊力かの差異はあれど、相手の意思関係なく、好き勝手に女を侍らせているのは同じだ。
お前は望んで落ちたんだぞ?」
「……………」
「…そんな顔をするんだ。心の中で薄々思ってたんだろ。
『こんなものは違う』と。『夢見た世界、夢見た自分とは程遠い』と。
わかっていて、お前は自分を慰めるためだけにその力を使い、溺れた。シャブをヤるよりも下品な形でな。
……残念だ、誘宵美九。
アイドルとしての矜持があった頃のお前は、口説き甲斐のあるいい女だったろうに」
もっと早く出会えていたらよかった。
そんな後悔を吐き出し、踵を返すポチタ。
と。美九は震える手で、ポチタの手を掴む。
「………なんですか、それ…?
今の私が無価値だと言いたいんですか…?」
「本来の歌声で歌わない限り、お前の価値はどこまでも下がるぞ」
「……は、はは…。…誰も求めていない歌声なのに、随分執着するんですね…」
「俺たちは聞きたいけどな」
と。ポチタと士道の意識が入れ替わる。
どうやら正気を取り戻したらしい。
少しばかりの霊力が噴き出ているあたり、まだ冷静とは言えないが。
「…五河、士道…?」
「おう。迷惑かけたみたいで、ごめんな。
全部聴いてた」
「………なんですか?
全部を否定された惨めな私を笑いにきましたか?」
「ちょっといろいろ言いたくなっただけだ。
余計な世話かもしれないけど」
「早くここから出ていってください…。あなたの言葉なんて、聞きたくありません…」
美九が拒絶の意を示すも、士道は不敵な笑みを浮かべ、跳ね除ける。
「いーや、聞いてもらうね!
お前がこれ以上力に縋って、自分の価値を無くさなくてもいいように!
俺がお前を助けてやる!!」
「そんなの、今更いらないです!!」
美九が吠えると共に、破壊力を持つ音が士道の右腕の骨を砕く。
士道はそれに眉ひとつ動かさず、炎を噴き出すことで治癒してみせた。
精霊の悪魔として暴れ出しそうになるのを堪えつつ、士道は言葉を紡ぐ。
「だったら、なんでそんな顔をする?」
「……っ、そ、それは…」
「本当はずっと、誰かに助けて欲しかったんじゃないのか?
自分のことすら見えないくらいに力に溺れたのは、『助けてほしい』って言葉を飲み込むためだったんじゃないのか?
誰にも救われなかった自分を、お前自身が救いたかった結果なんじゃないのか?」
「違う!違う違う違う違う違う!!」
歩み寄ってくる士道を拒絶し、世界を殺す牙を向ける美九。
が、しかし。精霊の悪魔としての能力か、はたまた琴里の霊力によるものか。
全身を治癒の炎で包みながら、士道はただ、美九に問いかける。
「私のこと、何にも知らないくせに…!」
「知ってる!お前はツラがいい!精霊の力が篭ってない声も、いつまでも聞いていたいくらいに可愛い!!」
「そ、そんなこと…!ファンだった男どもが何度も言いました!」
「それだけじゃない!男嫌いさえなければ、本当は優しいことも知ってる!
じゃなきゃ、初対面の奴にハンカチなんて渡すわけねぇ!!」
「そ、それは私が、あなたのことを女だと思い込んだからで…」
「逆に言えば、お前はソレができるくらいに優しい心もあるんだよ!
気づけよ!精霊じゃないお前だって、絶対に無価値なんかじゃない!」
「わ、私を殺そうとしたくせに!」
「ああそうだ!俺の大事なものを奪って、更に十香を奪われるキッカケになったんだ!
今だって殺したいくらいムカついてる!
だけどな!それ以上に本当の声で歌って、本当の声で皆に謝ってほしいんだ!
だから、お前を助けたくなったんだよ!!」
めちゃくちゃにも程がある理論を展開し、美九に詰め寄っていく士道。
こうも真っ直ぐに自分の意見をぶつけてくる人間が、ファンの中にも居たのだろうか。
そんなことを思いつつ、美九はふくれっ面で士道から顔を逸らす。
「ふ、ふんっ…。
そんなこと言って、どうせ裏があるに決まってます…」
「じゃあ契約だ…!
『俺がお前を助けてやる!できなかったら、その場で首を切って死んでやる』!!」
「は…!?」
契約は決して破れないものである。
破れば最後、死ぬよりも酷い目に遭う。
精霊たちからそう聞かされていた美九からすれば、バカにも程がある契約である。
パチクリと目を丸くする美九に、士道は牙を剥き出しにして吠えた。
「どうした、不満か!?
だったら、お前が俺を殺せ!!」
「……なんで、私にそこまで…」
「精霊じゃない誘宵美九を好きになりたくなったからだ!!」
「………っ」
嫌いな女を「好きになりたい」と宣い、自分の命を賭ける、バカが極まった男。
その愚直さに当てられてか、築き上げてきた歪な価値観が、少しだけ揺らいだような気がした。
「…ここまで馬鹿な人、初めて見ました」
「おう。折り紙つきの大バカだぞ、俺は」
「……失望、させないでくださいね」
美九は言うと、黙ってことの成り行きを見ていた鮫の悪魔:レプリカの背に乗る。
士道が目を丸くしていると、「勘違いしないで欲しいんですが」と美九が声を張った。
「私は見たいだけです。
私に無駄な期待を抱かせた男の死に様を。
勝手についてくので、勝手に守ってくださいね。ナイト気取りの悪魔さん」
「わかった、よ!」
「…捨て身すぎる説得でしたわね」
悪態を吐く美九に答え、士道と狂三は鮫の悪魔:レプリカの背に飛び乗る。
と。鮫の悪魔:レプリカが、雰囲気を霧散させるかの如く、爆弾を投下した。
「父様!コイツら重い!」
「はぁあああ!?なんですかコイツ!?
失礼にも程がありません!?」
「このサメ、何発ブチ込めば死にます?」
「……鮫。重いは禁句な」
「わかった!」
♦︎♦︎♦︎♦︎
「あのバカ兄…!性懲りも無く自分の命を勝手に天秤にかけて…!」
その頃、フラクシナスにて。
令音の活躍で、美九による洗脳が解けた琴里が、モニターに映る士道を呆れた目で睨め付ける。
ああいう兄だとは知っている。
妹のために自ら首を切り落とす、などといった発想に至るような男だ。
しかし、だからと言って、「士道らしい」の一言で終わらせていいわけがない。
多くの電話番号が並ぶ画面から「おにーちゃん」と書かれたものを選び、通話ボタンを潰す勢いで押す。
数回のコールの後、猛スピードで移動しているのか、凄まじい風切り音とともに士道が通話に出た。
『どうした、琴里!?』
「まず、一言言ってやろうと思ってね。
こンのバカ!!アンタは自分の命がどれだけ重いか、一回きちんと考えなさい!!」
『女の子を相手するんだ!
自分の命くらい賭けないでどうする!!』
「限度があるって言ってんの!!」
最初から言うことを聞くとは微塵も思っていなかったが、琴里としても引き下がるわけにはいかない。
洗脳されている間だったら、喜んで死ねと罵っていたのだろうな、と嫌な想像が頭をよぎるも、琴里は士道を叱咤しようと息を吸い込む。
『だったら、お前が俺を守ってくれ!!』
「……は?」
『偉そうなこと言うだけ言って「出来ない」とか言わないよな!?』
「…上等じゃない!
死にたくなっても死ねないくらいに守り通してやるわ!!」
「……なんて口喧嘩だ…」
クルーたちがヒクヒクと表情を引き攣らせるも、琴里は気にせず艦橋に吠えた。
「碌な活躍できなかったぶん、こっから巻き返すわよ!!」
♦︎♦︎♦︎♦︎
「おっ、とぉー?世界一大っ嫌いな女を前にしちゃったぞぉー?」
空間震警報が響く中、聳える摩天楼を前に、二亜が締まりのない笑みを浮かべる。
その眼前には、スーツ姿のエレンが軍隊を引き連れ、不敵な笑みを浮かべていた。
「〈シスター〉…。何があったかはわかりませんが、半端とはいえ、素晴らしい反転体になってくれました。
その霊結晶、我々に捧げなさい」
「はーん?戯言しか吐けないのかなー?
まずは額を地面につけて『生まれてきてごめんなさい』でしょうが」
その顔面を見るだけで、身体中を駆け巡る血管全てが千切れそうだ。
ぐつぐつとはらわたが煮えくり返る音すらも聞こえてくる。
エレンのそばに控える兵士らの銃口が、刃が、敵意が、一斉に二亜に向けられる。
しかし、二亜は取り乱すことなく、《囁告篇帙》を手元に顕現した。
「言っとくけど。謝るなら今のうちだよ。
この後は声すら出せないだろうから」
「はっ。戯言を!」
エレンが忠告を一蹴すると共に、一瞬にして装備を顕現する。
限定的に力を解放した精霊はおろか、完全な力を発揮した精霊ですらも受け流すことは困難な斬撃が、二亜の柔肌に迫る。
対する二亜は、回避する素振りすら見せず、天使を開いた。
「『銃の悪魔:レプリカ』」
刹那。世界が捲れた。
誘宵美九…あのキッカケさえなかったら優しいと思うんだ。公式で頭が残念らしいし、良くも悪くも精神が幼めだから捻じ曲がりやすいだけだと思うんだ。チェンソーマン世界に来たら、間違いなく真っ先に目が死ぬ女。勘違いのないように言わせてもらうと、しっかり体型維持しているので、体重は平均よりもちょっと下。
偽ポチタ…実は性癖はめちゃくちゃノーマル。寝取られとか見ると気の毒すぎて抜けないタイプ。二亜が「夏の祭典で貰った」というエロ本を漁ったところ、とんでもない地雷を踏んでしまって一週間拗ねた。
五河士道/精霊の悪魔…ちょっと暴れたことで落ち着いた。しかし、ほんの少しのキッカケで暴走するくらい危険な状態には変わりない。こちらも性癖はノーマル。ハード系を読んで心が痛くなった。
本条二亜…世界一嫌いな女と対面。顔を見るだけでガチギレした。銃の悪魔:レプリカは強化済み。やったね。