偽ポチタ「助けてやるから、女のおっぱいを揉め」士道「ふぁっ!?」 作:鳩胸な鴨
放置され、廃墟となった遊園地にて。
士道はASTを弄ぶ精霊を見上げていた。
「…アレが新しい精霊か」
『ガワを霊力で覆って…、いや。作り替えているのだろうな。
そんなことをするくらいだ。ヤツは本来の姿に相当なコンプレックスがある』
飛び交うミサイルをファンシーなニンジンに、ASTが背負う装備を可愛らしい着ぐるみに変貌させていく精霊。
その容姿は、童貞の妄想の中にいる「魔女」がそのまま飛び出したかのようだ。
…否。実際、妄想の中の産物なのだろう。
グラマラスな肢体を見せつけるかのように空を舞う精霊を前に、士道はため息を吐く。
「よくわかるよな…って、似たようなのを殺したことがあるとか言うか、お前は」
『ミクと同じく、幼稚な現実逃避だ。
化けの皮剥がして惚れさせんと、簡単に霊力が逆流するぞ』
「そうしたら面倒なことになるだろ。
出来るだけ波風立てないように…」
『無理に決まってるだろ。
お前のポン菓子よりも小さく、すっからかんな脳みそを回して思い出してみろ。
今までスムーズに行った試しがあったか、バカタレ』
「ないですね、はい」
ポチタの正論に殴り倒され、がっくりと項垂れる士道。
どのみち面倒ごとは確定か、と思いつつ、眼前に降り立つ女性に目を向ける。
「あら?こんな場所に何か用?
警報中にAST以外の人間を見るのは初めてね」
『待ちなさい、士道。選択肢が出たわ。
……今回こそ言うこと聞きなさいよ?駄犬にも釘を刺しときなさい』
すっかり駄犬呼びが定着している。
仮にも愛犬だったのだが、と思いながらも、士道はラタトスクによる指示を待つ。
三つの選択肢の内、票は見事に真っ二つに分かれたらしく、何事か言い合う声がインカムから聞こえた。
『回りくどい。ゲームじゃないんだぞ。
普通に口説くことも出来んのか、あのアホどもは』
(一応は、高性能AIだから…)
『ポンコツの間違いだろ。私でもプログラムが組めそうなくらいにアホだぞ』
(お前、パソコン使えんの?)
『お前が寝てる間にオカズを探しててな。
変なモン踏まないように学んだ。慣れるとなかなかに楽しいぞ』
(…あ!だからか!?アカウントの残高が身に覚えのないAVに使われてたの!!)
『文句を言うな。お前、アレに何回世話になった?言ってみろ』
(数え切れませんけどなにか!?)
『開き直ったな』
選択肢を待っている間、意識の中でギャーギャーと言い争うアホ二人。
歪みそうになる表情筋を全力で抑えていると、インカムから「出来るだけ上目遣いで何もわかってない無垢な少年のふりをしろ」という無茶振りが飛んでくる。
童貞も捨てているのに加え、異常な性欲が渦巻くモンスターである以上、出来る気がしないが、士道はなんとか口を開く。
「あ、あの、俺、何もわかんなくて…」
『精霊と七股してるくせに』
肝臓に正論の一撃が入った。
あまりの威力に表情筋が死にかけるも、士道はなんとか堪え、精霊の出方を探る。
と。作り物のような艶かしい指が、士道の顎に当てられた。
「ふぅん…。ね、僕。名前は?」
「い、五河士道…」
「士道くんね。…ふふ。かわいい名前。
私は七罪。あなたたちには〈ウィッチ〉って呼ばれてるみたいだけど」
「七罪、さん…」
「堅苦しいわね。七罪でいいわよ」
七罪と名乗った精霊は、驚くほどに淡麗な顔で笑みを浮かべる。
これも作り物なのか、と思うと白けてしまう自分もいるが、士道はなんとか波風を立てないように、口を開こうとした。
が。ソレを遮るように、七罪が士道に詰め寄る。
「ねぇ、士道くん。お姉さん、ひとつ聞きたいことがあるんだけど」
「なんだ?お前のその容姿について、感想でも欲しいのか?」
『ちょっ、ポチタ!?』
『駄犬!!引っ込んでなさい!!』
唐突に意識を入れ替えたポチタに、士道の困惑と琴里の怒号が向けられる。
しかし、ポチタは一切動じることなく、呆けた七罪に続けた。
「0点だ。そんな妙な力に頼って本来の姿を隠す女のどこを評価しろと言うんだ。
テストで名前を書かんかったら0点だろ。アレと同じだ。
存在をまるっと変えた偽りのお前を私に評価しろなどと、烏滸がましいにも程がある。
下手な芝居はやめろ。
男を口説くなら、自分を必要以上に大きく見せるな、バカタレ」
『ぽ、ポチタぁぁぁああああっ!?!?』
『こンの駄犬ーーーーっ!!!!』
コイツ、やりやがった。
特大の地雷を踏み抜いたのか、七罪を観測するフラクシナスの機械が悉くエラーを吐き、煙を吹き上げる。
ぷるぷると震える七罪を前に、ポチタは首を傾げた。
「怒るくらいなら最初からするな。
ほら、とっととソレを脱げ」
「……どこで知ったの?」
「すまんな、嘘を吐いた。
精霊とは何度も会っていてな。経験上、能力による細工がわかるんだよ」
無論、これも嘘である。
「似たようなのを殺したことがある」などと馬鹿正直に言えば、さらに話が拗れるのは目に見えていた。
ポチタの最低限の気遣いだったのだが、悲しきかな。
怒髪が天を衝く勢いで怒り狂う七罪には、そのお猪口よりも小さい気遣いは全くもって届かなかった。
「殺してやる殺してやる殺してやる!
絶対絶対絶対絶対ぜぇぇぇぇぇえったいに許さないんだから!!
アンタなんか!アンタなんかこの世界で生きられなくしてやるぅうううっ!!」
「その怒りよう、コンプレックスがあるのだろう?なら、余計に偽らん方がいい。
下手な嘘は男女問わず、品位を貶めるぞ」
「むきぃーーーーっ!!」
『ややこしくなるからもう黙れ!!』
『それ以上口出したらシバき回すわよ!!』
地雷原に絨毯爆撃をかましたポチタに、三者三様の怒号が飛ぶ。
その中心にいるポチタは、何故怒鳴られているかわからないのか、首を傾げた。
「何故に怒る?私は女の何たるかをコイツに叩き込んでやろうと…」
『お前前世含めて男だろうが!!』
「今は無性だぞ。欲求が男寄りなだけだ」
『屁理屈捏ねるな!代われバカ!!』
士道が怒鳴るも既に遅く。
七罪は怒りに満ちた表情で飛び上がり、ポチタに告げた。
「覚えておきなさい!アンタの人生、おしまいにしてやるんだから!」
「じゃあ、覚えておけ。
お前のそのくだらん化けの皮剥いでやる」
「はんっ!出来るモンならね!!」
その言葉を最後に、七罪の姿が消えていく。
残されたポチタは、尚も続く士道と琴里の怒号に辟易のため息を吐いた。
「…どうせ遅かれ早かれ踏んでた地雷だろ」
『『うるさい!!』』
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「……右手が取れそうですわ…」
時は少し進み、狂三の弱音が二亜の仕事部屋に響く。
現在、彼女は右手首に襲いかかる腱鞘炎と格闘し、ペンを握っていた。
右手が取れそうな程の痛みに悶絶しながらも手を動かしていると、これまた死にそうな表情の二亜がこれ見よがしに未完成の原稿を見せる。
「もうちょい頑張ってー…。
あと、この見開きで終わるから…」
「心も死にましたわ…」
「一万は殺した精霊のくせに?」
「こんなエグい展開を見せられて心が傷まないほど、人でなしではありませんわ」
何が悲しくて、主人公以外の主要キャラが遺言もなく無惨な死を遂げる展開を、長時間直視しなければならないのだろうか。
どんな発想をしているのだ、と文句を垂れ流しながらも、ヒロインだった肉塊にベタ塗りをしていく狂三。
あまりに救いようがない。
一端とはいえ、責任の所在が主人公にもあるため、主人公が仲間の死を悼むことすら許されない境遇なのが、もうどうしようもない。
「…当てつけじゃありませんわよね?」
「何が?」
自身のトラウマとも呼べる記憶が掘り起こされ、思わず二亜に問いかける狂三。
二亜は「知らんし…」と力無く呟き、最後の見開きに着手し始めた。
「…本来のチェンソーマン、どうだった?」
狂三の作業が終わると共に、腕が止まる。
想起するのは、先日の死闘。
反転した精霊と戦ってなお、底を見せなかったチェンソーマンに、狂三は複雑な表情を浮かべた。
「能力こそ見れませんでしたが、その圧倒的な強さはよく分かりましたわ。
私、相当手加減されてたんですのね」
「いや、加減されてないよ。
今回は少年の仇が相手だったからね。
ポチタはあの体が大嫌いだから、そんくらいの理由がないと変身しないんよ」
性に脳を支配された怪物を、発散する術のない体に押し込めることは、拷問を意味する。
快楽主義が極まった悪魔が自ら欲を捨てるなど、余程のことが無ければありえないのだ。
最強の悪魔たるチェンソーマンが現世に顕現することがそうそう無いと知ると、狂三は安堵のため息を吐く。
「柄にもなく安心しましたわ。
…それ程までに恐ろしい強さですもの」
「そりゃ、バケモン揃いの地獄で一回も死なずに数万年生きてるからね。
あんなに強い銃の悪魔も、チェンソーマンの前では赤子同然だったらしいよ。
始原の精霊を殺すんなら、彼をけしかけるだけでいいかもね」
二亜は言うと、ガリガリと凄まじい勢いでペンを走らせる。
チェンソーマンや士道の話題となると、心なしかペンの速度が速い気がする。
そんなことを思いつつ、狂三はある疑問を投げかける。
「……質問ですが。あなたの天使には、チェンソーマンのことは一切書かれていないんですのよね?」
「うん。悪魔に関しては、私が把握してる情報も書かれてないよ。
例え書き足してもすぐ消えるし。
レプリカ作るのだって、結構大変で…」
「では、何故『本来のチェンソーマン』のことを知っていたんですの?」
聞いてもいない苦労話を展開しようとした二亜を遮り、問いかける狂三。
二亜はソレに一瞬だけペンを止めた。
「……五年前に助けてもらったんだよ」
「…詳しく」
二亜のペンの音が少し荒くなる。
触れられたくない領域だったのだろうか。
それとも、毛嫌いするエレンが関わる話だから苛立っているのか。
恐らくは後者だろうな、と思いつつ、狂三は二亜に詳細を求めた。
「大したことじゃにゃーよ。クソアマに殺されかけて、市民病院に緊急搬送されて。
その前にちょっち特殊な処置したから、一命は取り留めたわけ。
でも、それで諦めてくれたかって言われると、そんなわけなくってさ。
古今東西いろーんな刺客に狙われるって知ってヤケんなっちゃって、『アンタに都合のいい女になるから、私を助けてくれ』ってポチタと契約したの。
どう足掻いても捕まるとか言われたら、そっちに賭けたくなる気持ちもわかるっしょ?」
要するに、自分の純潔を大安売りしてチェンソーマンの庇護下に入ったらしい。
しかし、狂三が知りたいのはそこではない。
それは二亜もわかってるのか、「急かさないでよ、前提条件話してるだけ」と呟き、トーンを貼り始めた。
「少年とポチタに都合のいい女になって、『きっと私、死ぬほど抱き潰されんだろーなー』とか思いながら胸揉まれてたわけよ。
でもさ、胸揉む以外なんもしないの。
ソレどころか、頻繁に見舞いに来て、果物とか剥いてくれんのよ。
私の能力を知っても、『ポチタよりデタラメか?』って腹立つ返ししてくるし…。
『アレ?お手伝いさん雇ったっけ?』とか思ってたわけ」
完全に惚気話の入りである。
二亜は狂三の冷たい視線を無視し、話を続けた。
「傷も塞がって、とうとう退院かーってなった時。
また、あの女が私を捕まえに来たわけ」
「……エレン・M・メイザースですか?」
「その名前言わないで。聞きたくない」
名前すらも許せないらしい。
二亜は険しい表情を浮かべ、インクの滴るペン先を狂三に向ける。
同時に違和感が走った首筋に手を当てると、黒のインクがベッタリと手についた。
「声帯とか手足とかぜーんぶぐちゃぐちゃにされちゃうんだろうなー、って全部諦めかけた時に、退院祝い持ってきてくれた少年がやってきてさ。
まだ小さいのに、あんなかっこいい顔できるんだなぁって思ったね」
にへら、といつになく締まりなく笑うも、手元は休まることなく作業を続ける。
惚気話を聞きたいわけではない。
狂三が抗議の意味を込めて睨め付けると、二亜は「ごめんごめん」と戯けた。
「……ま、でも、めちゃくちゃバンダースナッチとかいう人形連れててさ。
人間版チェンソーマンだとキツいってなって、少年が『本気でやらないと自殺する』ってめちゃくちゃ渋ってたポチタを説得したのよ。
その時に初めて、ポチタ…、チェンソーマンの本当の姿と能力を知ったわけ。
惚れた経緯としては、ほぼ美九ちゃんと一緒なんじゃにゃーの?知らんけど」
「私も知りませんわよ」
からからと笑う二亜に、狂三は呆れを込めたため息を吐き出す。
予想以上にくだらない話だった。
無意に時間を過ごしたことを悔いていると、二亜がふと声を張り上げる。
「さて、問題です。ここに伏線が隠れてるよん。狂三ちゃんはどこだと思う?」
「……は?」
唐突な発言を前に、呆けた声が出る。
伏線という単語がわからないわけではない。
今ここで、そんな発言をする意図自体が理解不能なのだ。
訝しげに顔を顰める狂三に、二亜は悪魔のような笑みを貼り付け、続ける。
「いや、別に『この世界がフィクションと仮定して、第四の壁を破ったメタ発言をした』ってなわけじゃないよ。
手伝ってくれた狂三ちゃんへのお礼として、私のヒミツを教えてあげてるの。
言い方は職業病ってことで、許してちょ」
言うと、二亜は胸元をはだけさせ、鼓動する心臓あたりを撫でる。
重くなる場の重圧を前に、狂三は唾を飲み込んだ。
「私は少年のことが大好きだからね。
大好きな人とお揃いのマグカップとか、女の子としては憧れるじゃん?
だからね、私はここをお揃いにしてるんだ」
「チェンソーマンではないけどね」と付け足し、笑みをこぼす二亜。
可憐な表情のはずなのだ。
だというのに、狂三はソレが『悪魔の笑顔』にしか見えなかった。
本条二亜/■■の悪魔…心臓貫かれて即治るわけねーだろ。心臓だけは生み出した悪魔のもの。精霊の力が十全に使えるのもこの心臓のおかげ。ポチタの血を飲むことでパワーアップすることも自分で試して知った。マグカップ感覚で心臓もお揃いで嬉しいとか言う狂人。サバサバしてるように見えて愛が重い。チェンソーマン作者に負けず劣らずの鬼畜展開を描いて、読者を阿鼻叫喚の渦に叩き落とした。
七罪…悉く偽ポチタに地雷を踏み抜かれた女。お前はキレていい。
五河琴里…ちょっと霊力が逆流した。たくさんおにーちゃんに甘えたいものの、同時にクソ悪魔に弱味も見せてしまうので葛藤中。
五河士道/精霊の悪魔…珍しく原因にならなかった。事態をややこしくする天才だったが、今回に関しては無罪。偽ポチタが買ったAVのシチュエーションが好みすぎて削除できない。
偽ポチタ…戦犯。「どうせ相手の地雷を踏むんだから」と余計な気遣いが今回の事態を招いた。え?コイツが何もしなかったらどうなってたって?応対するのがヘタレスケコマシドスケベである時点でお察しである。