偽ポチタ「助けてやるから、女のおっぱいを揉め」士道「ふぁっ!?」   作:鳩胸な鴨

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戦争の悪魔がポンコツで可愛いのは何なのだろうか。


七罪、服を槍にする。

「………誰よアンタ!?」

「お前だよ。ってか、手入れしただけでそんなに驚くか?」

 

七罪が素っ頓狂な声をあげ、鏡を指差す。

いつぞやの自分のようだ、と思いつつ、ウィッグを取った士道は、わなわなと震える七罪にツッコミを入れた。

潤いと張りのある肌に、ぷっくりと艶の乗った唇。

癖はあるものの、整えられた髪に、貧相な体と卑下してきた体を可憐に彩る服。

頭のてっぺんからつま先に至るまで、ありえない変貌を遂げた自身を前に、七罪の脳はキャパシティを超えた。

 

「くくく…。わかるぞ。

自身の未知なる姿を知覚すれば、どんな豪傑であろうとも驚嘆に声をあげるとも。

無論、それは我ら八舞も例外ではない」

「翻訳。初めて化粧をすれば、誰だってびっくりすると言ってます」

「あ、わかりますぅ。オーディションのためにお化粧をしたのが初めてでしたけど、『自分ってこんなに可愛くなれるんだぁ』って思いましたもん。

お化粧は趣味ではなく、女の子共通のライフワークですよねぇ」

 

きゃいきゃいと盛り上がる精霊たちを側に、七罪は震える手で鏡を触る。

もしかしたら、高性能なAIを用いたアニメーションだったりするかもしれない。

あまりにぶっ飛んだ思考で疑うも、自身を覗き込む士道の瞳に、自分の姿が写る。

夢でも、悪質なドッキリでもない。

湧き上がってくる不思議な感情にどうしていいかわからず、七罪は小さく呻いた。

 

「ぅ、ぅあっ…」

「うん。やっぱり、今のお前の方が綺麗だと思うぞ。な、ポチタ」

『あの嘘まみれの姿よりかはマシだな』

「ポチタも『こっちがいい』って」

「………っ、ゔ、ゔぁ、ゔわーーーっ!!」

 

七罪はぐちゃぐちゃになった思考を放り捨てるかのように、声を張り上げる。

ばたばたと暴れ出す七罪に、十香が首を傾げた。

 

「なんで褒められたのに怒ってるのだ?」

「根っこに『自分は醜い』という固定観念があるのだろう。

この世界のことを知っているんだ。

この容姿で苦労して、それがあの嘘まみれの姿で解消したことから捻じ曲がった…と考えるべきだな」

「デリカシーない!最低!!」

 

意識を入れ替えたポチタの分析に、七罪が涙目で拳を放つ。

避けるつもりもなかったのか、ポチタは甘んじてその一撃を受け止め、小さく呻いた。

即座に意識を入れ替えた士道は、ぽふっ、ぽふっ、と弱い力で腹部を執拗に叩く七罪に声をかける。

 

「図星なんだな?」

「うっ…。そ、そうよ!

こんな姿じゃ、誰も相手にしてくれなかったもん!

でも、あの姿だったら皆がチヤホヤしてくれるし、優しくしてくれるし…」

「それで本当の自分を否定し続けじゃダメだろ。取り返しがつかないことになるぞ」

「…だーりん。それ、私にもダメージありますぅ」

「あ、すまん…」

 

美九が「よよよ…」と言わんばかりに、わざとらしく泣き崩れた素振りを見せる。

美九と七罪の持つ歪みはよく似ている。

どちらも本来の自分にコンプレックスがあり、精霊の力でそれを隠していた。

それを受け入れる姿勢を見せなければ、口説く段階にも行かないだろう。

とは言っても、ポチタのように下心全開なのは論外であるが。

士道は捻じ曲がって伝わらないように、言葉を選んで口を開く。

 

「兎に角、自信を持て!お前は可愛い!!」

「か、可愛くない…!可愛くないもん…!」

「いーや、可愛い!

頑張ってお洒落した女の子はすべからく最強に可愛い!!」

「そ、そんなこと言って…!

何か裏があるんでしょ!?

じゃなきゃ、私を可愛いなんて…」

「可愛いもんを可愛いと言って何が悪い!!

自慢じゃないが!俺はポチタに『脳みそがポン菓子で出来てる』とか言われるレベルにバカが極まってるんだよ!

そんな究極のバカが腹に一物抱えるなんざ、できるわけあるか!!

何度でも言ってやる!可愛くなろうと頑張ってる女の子は、世界最強に可愛いんだよ!!」

「ぅ、うぐっ、ぐぐぐぅ…っ!!」

 

殴り殺さんばかりに飛び出す言葉の数々に、七罪は言葉に詰まる。

歓喜と拒絶が混じり合い、ただでさえぐちゃぐちゃな頭の中が掻き乱されていく。

今すぐにでも逃げ出したい程の感情の渦に飲まれるも、七罪は何故か動くことが出来なかった。

 

「……はぁ!?なんですって!?」

 

と。そんな思考を掻き消すように、琴里の素っ頓狂な声が響く。

皆してそちらを向くと、青い顔をした琴里が「人工衛星が天宮市に落ちてくる」という、危機的事実を口にした。

 

♦︎♦︎♦︎♦︎

 

「…アンタ、私に構ってていいの?

今、外は大変なんでしょ?」

 

衝撃に揺れ動くフラクシナスにて。

ただ一人、部屋に残った二亜に、不貞腐れた七罪が問いかける。

正直、状況は笑えるほどに絶望的だ。

強固な随意領域に守られた人工衛星に、DEMの保有する空中艦。それを守るように漂う使い捨ての雑兵たるバンダースナッチ。

いくらチェンソーマンや精霊たちが居るとて、被害を未然に防ぐのは困難だろう。

そんな中、不貞腐れている七罪に構う暇など、誰にもないはずなのだ。

七罪は二亜の真意がわからず、訝しげに眉を顰め、彼女を睨め付けた。

 

「私が出てみ?ここら更地だからね。

前にやらかしたばっかだし、今回は出るなって琴里ちゃんに止められちったし」

「…アンタ、何やったのよ」

「人工衛星がどーにもなんなかったら、わかるかもね」

 

髄に冷たい針が通ったような気がした。

からからと笑う二亜を睨め付ける目に、少しばかりの怯えが籠る。

しかし、ここで恐怖を見せてはいけない。

七罪は自分を奮い立たせ、二亜に詰め寄った。

 

「何が目的なのよ、アンタ…!

こんな状況になってまでいちいち私に構うなんて、何を求めてるの…!?」

「力を貸してほしいってくらい。

でも、七罪ちゃんまだ自覚がないみたいだし、キッカケくらいにはなろうかなーって思ってさ」

「な、何の話よ…?」

 

話が見えない。ずいっ、と顔を近づける二亜に、七罪は思わずたじろぐ。

必死に言葉を噛み砕こうとするも、恐怖と困惑で脳が掻き乱される。

酩酊したかのように働かない脳みそを呪っていると、二亜が七罪の耳元で囁いた。

 

「いつまで黙ってんの?

チュートリアルはきちんとしてって言ったでしょ?」

『……チッ』

 

その言葉の意味を理解するよりも先に、自分と全く同じ声の誰かが舌を鳴らす。

七罪がその発生源に目を向けると、ずんぐりむっくりとしか形容できない毛玉が、焦点の合っていない瞳でこちらを見つめていた。

 

♦︎♦︎♦︎♦︎

 

「………マジかよ」

「嘘でしょ…!?」

 

その頃。絶望の面持ちを浮かべ、皆が空を見上げる。

先程、グングニルと呼ばれるフラクシナス最大の一撃を叩き込んだことにより、人工衛星は跡形もなく消し飛んだはずだったのだ。

しかし、最大の一撃を放ち、疲労困憊になった琴里の視線の先には、先程破壊したものと瓜二つの人工衛星が映っていた。

そう。天宮市に向かっていた人工衛星は、二つあったのだ。

 

「ポチタ。三機目はないよな?」

『あるぞ。人工衛星ではないが、見たところ同じ威力を持っている爆弾だな。

二機目を潰したところで、対処できんぞ』

「はぁああっ!?」

 

どれだけ殺意が高いのだろうか。

そうまでして殺したい相手でもいるのか、と思いつつ、士道は深いため息を吐いた。

念の為にと精霊たちを控えさせていたが、備えが足りなかったらしい。

一機目と同じなら、爆破術式と呼ばれる魔術までもが展開されていると見ていいだろう。

現在は破壊するための高度を稼ぐべく、八舞姉妹と四糸乃が奮闘している最中である。

しかし、まだ裏には同じ威力を持つ爆弾が迫っている。

正直言って、状況は最悪に近かった。

 

「助けてくれよ、チェンソーマン…」

『私にも出来んことくらいある。

犠牲を覚悟でいいならやるが』

「やっぱ却下で。…正直、やりたかないけど、やるしかないか」

 

士道は諦めたように肩を落とすと、スターターロープに手をかける。

以前よりも力が増している気がする。

隣に佇む十香に目を向け、士道は申し訳なさそうに表情を歪めた。

 

「十香。悪いけど、制御頼めるか?」

「うむっ!任せてくれ、シドー!」

「私も十香さんを手伝いますぅ。暴走を抑えるのって、結構辛いんですよねぇ?

でしたら、お役に立てるかと」

「ありがとう。心強い」

 

ヴゥン、とエンジン音が夜空に響く。

血飛沫と共に、『精霊の悪魔:プリンセス』となった士道は、身体中に迸る霊力をありったけ両腕に集中させていく。

注ぎ込む霊力が多ければ多いほど、抑える十香に襲いかかる負荷は大きくなる。

十香もそれはわかっていたが、以前とは比べ物にならない程の力の奔流を前に、思わず弱音を吐いてしまった。

 

「ぐ、ぐぐぅ…!し、シドー…!

前より、辛いぞ…っ!!」

「《破軍歌姫》、【行進曲】!」

 

と。美九が光の鍵盤を叩くと共に、十香の体を襲う倦怠感が薄れる。

しかし、それも応急処置でしかない。

意識ごと擦り潰されそうな感覚に、十香は酷く汗を滲ませながら叫ぶ。

 

「シドー、早く!あと1分も保たん!!」

「15秒で完成する!堪えてくれ!」

「だ、ダメです、だーりん!

耶倶矢さんたち、押し返せてません!!」

「なっ…!?」

 

美九の言葉に、精霊の悪魔は落下する衛星と耶倶矢たちを見上げる。

落下を防ぐことは出来ているが、バンダースナッチによる妨害のせいか、はたまた細工されているのか、押し返すには至っていない。

被害は覚悟するしかないか。

剥き出しの牙が砕けんばかりに歯を食いしばり、苦渋の決断を下す。

 

「二亜!銃の悪魔:レプリカを…」

「あ、あのっ!」

 

上擦った声が鼓膜を震わせる。

精霊の悪魔らがそちらを向くと、霊装を纏った七罪が立っていた。

 

「な、七罪!?大丈夫なのか…!?」

「私のことはいいわよ。アレ、もっと上にあげたら良いの?」

「出来るのか…?」

「軽くするくらいなら…ね!」

 

七罪が箒を振るうと共に、ぽんっ、と音を立てて人工衛星が煙に包まれる。

軈て煙が晴れて現れたのは、女児が落書きで書きそうな、ファンシーなブタだった。

大きいことには大きいが、見た目通りというべきか、先ほどよりも軽いらしく、耶倶矢らの巻き起こす風によって天高く舞い上がった。

 

「シドー、今だ!!」

「ヴガァァァァァァアアッ!!」

 

精霊の悪魔が雄叫びと共に、紫電迸る両腕の刃を横薙ぎに振るう。

十香の顕現する【最後の剣】と同等か、それ以上の威力を持つ一撃が、ファンシーな豚を切り裂く。

数秒の沈黙の後、切られたことを今更知覚したかのように、ファンシーな豚が爆発した。

と。熱風が肌を撫ぜる感覚にすら参ってしまうほどに疲弊した十香の体が、その場に崩れ落ちる。

元の姿に戻った士道は、十香が倒れ伏す寸前にその体を支えた。

 

「十香、大丈夫か?」

「う、うむ…。まだ、来るのだろう…?

もう一度…!」

「それなんだけど、ちょっといい?」

 

人工衛星は防げたが、まだ爆弾がある。

無理をして立ち上がろうとする十香を宥めようとすると、七罪がふと声を上げた。

その手には、先ほどまで着ていたであろう、可愛らしい服が鎮座している。

七罪は申し訳なさそうな面持ちを浮かべ、士道に問うた。

 

「これ、私のよね?」

「は、はぁ…?今はそんな場合じゃ…」

「いいから!答えて!」

「……七罪のだ…」

 

質問の意図が分からなかったが、七罪の剣幕に負け、軽く頷く。

七罪は胸を撫で下ろすと、ぎゅっ、とシワができる程に服を強く握る。

 

「これは私の…。これは私の…。よし」

 

────『お洒落服ランス』。

 

センスのカケラもない名前を呟くと、それに呼応するように服が作り変わっていく。

2秒も経たないうちに七罪の手には、なんとも気の抜けるデザインの槍が鎮座していた。

七罪が瞬きすると、エメラルドのような瞳から一転、猛禽類のように金に煌めく眼光へと変化した。

 

「な、七罪…?」

「『可愛くなろうとする女は最強』…だったな、『我が父』よ。

なら、この槍も『最強』というわけだ!!」

 

すっかり様子の変わった七罪が、槍を逆手に持ち変える。

と。小さな足でアスファルトを踏み砕き、向かってくる弾頭目掛け、槍を投げた。

ミサイルでも発射されたのか、と思うほどの轟音と突風が巻き起こる中、士道らは風に遮られた視界で放たれた槍を見やる。

槍はブレることなく真っ直ぐに爆弾へと迫り、内部から裏返るほどの威力で貫いてみせた。

 

「おぉ…。確かに最強だな」

『絶対に意味違うわよ…』

 

爆炎が再び空を照らす中、七罪は金色に光る瞳を士道へと向ける。

何か言いたいことでもあるのだろうか。

暫しの沈黙が続く。

それを破ったのは、金色の瞳を伏せた七罪の深いため息だった。

 

「…おい、いつまでヘタレてる?

父が惚けているじゃないか」

『へ、ヘタレてないわよ…っ!

ただ、その、心の準備というか、何というか…』

「ああもう、面倒くさい女だな!

言いたいことはまとめてきたんだろうが!」

『なら、アンタが代わりに言ってよ!

私だと「今更何をー」とか、「どの面下げてー」とかなるし!』

「私が知るか!自分で言え!!」

 

既視感のある光景である。

士道からすれば独り言を言っているような光景だが、七罪しか認識できない誰かと会話していることは理解できた。

と。七罪が瞬きすると共に、瞳がエメラルドを彷彿とさせる翡翠へと戻る。

七罪は気まずそうに天使を握り、顔を隠した。

 

「そ、その…。いろいろ、ごめん…」

「……いや、こっちもデリカシー無かったし、お前をたくさん怒らせたろ?

それでお互いチャラにしとこうぜ?」

「あ、ぅあ…。そうじゃなくて…。

ぁ、あー…。ぅうう…」

 

上手く言葉が出ないのか、七罪の口からは、「あー」や「うぅ」などといった呻き声しか出ない。

しかし、士道は急かすことなく、七罪の言葉を待った。

 

「…いっぱい、迷惑かけた」

「気にしてないぞ。なーんにも起きてないんだから、結果オーライだ」

「……助けてもらったくせに、ムカつくことたくさん言った」

「ポチタで慣れてる。気にすんな」

「………『可愛い』って言ってくれた服、台無しにしちゃった」

「おかげで助かった。ありがとな」

 

互いに言葉を重ねるたび、七罪の目に涙が溜まっていく。

ボロボロと涙で化粧を崩しながら、七罪は辿々しいながらも続けた。

 

「…ぅぐっ…。ひっ、ひゔっ…。

私のために選んでくれたのに…!

頑張って、可愛くしてくれたのに…!

ありがとうも、言えてなかったのに…!

ごめんなさい…、ごめんなさぁああい…!」

 

懺悔し、その場で崩れる七罪。

ああする他なかったとは言え、罪悪感が拭いきれなかったのだろう。

泣き顔を隠すように帽子の鍔を握る七罪に、士道は屈んで目線を合わせた。

 

「じゃあさ。また今度、お洒落してくれよ。

俺、欲張りだからさ。七罪の『可愛い』をたくさん見たい」

「……ぅ…」

 

士道の口説き文句を前に、軽く呻く七罪。

七罪はぐしぐしと裾で涙を拭うと、死地に向かう戦士のような表情を浮かべる。

 

「わ、わかった…。

頑張る…。たくさん、可愛くなる…!」

「……おう。契約な」

 

やはりというべきか、自信を持つには至っていないらしい。

士道が苦笑を浮かべていると、七罪がその頬を両手で捉える。

何をするつもりか、と思った矢先。

涙の味と共に、七罪の唇が士道の唇に押し当てられた。

 

「お礼…になるかは、わかんないけ…ど…」

 

七罪が恥じらいながら言うと共に、霊装がゆっくりと解ける。

肌が外気に触れると共に、尻窄みに声が消え、体が熱くなっていく。

羞恥に悶えた七罪は、流れるような動きで士道の顎を穿った。

 

「ぎゃぁあああああーーーー!!!!」

「ぐふぉおっ!?」

 

それはそれは、見事なアッパーカットだった。




七罪…戦争の悪魔:レプリカの心臓を移植された。「お洒落服ランス」は「初めて可愛いと褒めてもらえた服」というのに加え、「好きな人からのプレゼント」だったので、制服強強剣に匹敵する強さを誇る。

戦争の悪魔:レプリカ…二亜に心臓だけにされたけど、強すぎて自我が残った。士道のことは好き。しかし、ポチタのことは大嫌い。オリジナルがチェンソーマンに散々負けているのが気に食わないらしい。性格はまんまヨル。七罪のことをめちゃくちゃナメてる。

五河士道/精霊の悪魔…顎が腫れ上がったため、しばらくの間、軟膏を塗りたくったガーゼを貼る羽目になった。

鳶一折紙…待機してたけど、無駄に終わった。最悪の未来はすぐそこ。
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