偽ポチタ「助けてやるから、女のおっぱいを揉め」士道「ふぁっ!?」 作:鳩胸な鴨
視界一面に銀世界が広がる。
そんな中、よしのんをなんとか回収した士道は、何度か呼吸を繰り返していた。
冬はとっくに終わったというのに、吐く息すら白い。
士道は空気に消えていく吐息の先に、白い巨影が暴れ狂うのを見据える。
「遅かったか…」
『ヨシノが混乱する前にASTを全て無力化する…というのがそもそもの話無理だ。
私たちは跳ぶことは出来ても、飛ぶことはできないからな』
「……お前べらぼうに強いし、いけるかなーって…」
『殺してもいいんならな』
「やっぱこの案ナシで…」
流石に人殺しにはなりたくない。
士道ががっくりと項垂れた、その時。
白の巨影がこちらへと近づいてくるのが見えた。
『さっさと渡しちゃいなさい。
それで四糸乃の暴走は止まるはずよ』
「わかってる。おーーーい!!」
ウサギの形をした白い巨体…四糸乃の操る天使《氷結傀儡》の背に向けて、士道は声を張り上げる。
こちらの声は届いていたのだろう、四糸乃が横目でこちらを見やる。
が、しかし。ASTの一撃が《氷結傀儡》の巨躯を揺らしたことにより、四糸乃はパニックに陥り、彼らの前を通り過ぎてしまった。
「そこの男の子!
早くシェルターに逃げなさい!」
妙齢のASTの一人が叫ぶと共に、四糸乃の背を追って消える。
士道は小さくなっていくウサギの背を見やり、胸のスターターに指をかけた。
『待ちなさい、シドー。
十香の時と違って、ASTの戦力は一切削れていないのよ?』
『コトリの言う通りだ。
加えて、ヨシノがお前を恐れて、攻略がさらに面倒になる可能性すらある』
「じゃあ、あそこまでどうやって行けば…」
『お前の足は飾りか?走れ』
パルクールでも習っておけばよかったか。
そんなことを思いつつ、士道はシャツからスターターを伸ばしたまま、慌てて坂道を駆け降りる。
その足がふと、止まった。
「……十香」
その目の前に、不機嫌真っ只中だったはずの十香が姿を現した。
どう説明したものか、と考えるも、冷気の咆哮が「そんな暇などない」と無情な現実を叩きつける。
だがしかし、士道はその場からどう力を入れても、動くことができなかった。
どんな思惑があるかはわからないが、ポチタが足を止めているらしい。
肌を刺す冷たさが強くなる中、十香が白い吐息と共に口を開く。
「ここで何をして…」
「トーカ、力を貸せ」
『ポチタ!?』
十香の質問を遮るように表面に出たポチタに、士道は素っ頓狂な声を上げる。
その真意を問おうとするも、即座に意識を入れ替えられてしまった。
十香の瞳が真っ直ぐ自分を捉えるのに対し、士道はなんとか言葉を探す。
「……その。俺、四糸乃を助けたいんだ」
「………続けろ」
「十香みたいに、アイツが生きていい理由はたくさんあるんだ…!
お前にはひどいこと言ったけどさ…。その、ホントはすごく優しいヤツなんだ…!
今暴れてるのだって、よしのんが離れて、不安でたまらなくって、どうしたらいいかわからないだけなんだよ!
だから、頼む!力を貸してほしい!」
士道が深々と頭を下げる。
ソレを見た十香は納得したのか、ふっ、と笑みを浮かべ、手を差し伸べた。
「代わりに契約だ。
『助けてやるから、今度のデェトでキスしてくれ』」
士道がその腕を握る。
と。白の竜巻が視界の隅で立ち上るのが見えた。
「シドー。私は何をすればいい?」
「出来たらでいい。ASTの気をひいてくれ」
ヴゥン、とエンジン音が響く。
血飛沫と共に刃が突き出ると共に、士道の口から蒸気が漏れた。
白煙が顔を包み込み、シルエットが歪なものへと変化する。
その額から噴き出した血液に、十香は目を剥いた。
「し、シドー!?大丈夫なのか!?」
「めっちゃ痛い」
「痛いのか!?引っ込めろ、早く!」
「大丈夫だから、言った通りにしてくれ。
今度のデートに支障はないからさ」
「……信じるぞ?」
チェンソーマンへと変身した士道は助走をつけ、その場から飛び上がる。
ASTが士道へと殺到するのを見やり、十香はかつてのように、踵を床に叩きつけた。
♦︎♦︎♦︎♦︎
『何やってんのよ!?
狙われてるのに包囲網に突っ込むなんて、頭イカれてんじゃないの!?』
「こんな真似してるんだ!今更だろ!!」
両腕から伸びたチェンソーで弾幕を弾きながら、白の竜巻を目指す士道。
途中、竜巻に向けて建造物をくり抜いた瓦礫が飛んでくるが、士道はそれすらも粉々に切り刻んだ。
どうやら、白の竜巻に阻まれ、普通の弾丸では意味がないと判断したらしい。
士道は飛び交う瓦礫と弾幕を対処するので精一杯で、思わず舌打ちを漏らす。
『変に機嫌を直したのがいけなかったな。
トーカの霊力が逆流していない』
「どうにかならないのか!?」
『…この状況で焦らないほど、お前が救った女は愚かなのか?』
「違う!!」
『そう思うなら続けろ。
余計な心配を抱くな。動きが鈍る』
一際大きな瓦礫が、眼前に迫る。
士道はチェンソーを激しく唸らせると、咆哮と共にソレを切り裂いた。
『ふむ。トーカを封印したことで、悪魔としての力が強くなったみたいだな』
「あ…?どういうことだ!?」
士道が叫び、飛んできた弾丸を噛み潰す。
ポチタはそれに呆れたため息を吐き、士道に告げた。
『まさか、気づいていないのか?
お前、精霊の匂いが濃くなっているぞ』
「は……!?」
『思い返してみろ。
お前、3人の精霊を…、世界を殺すとまで言われた災厄の力を取り込んでいるんだぞ?
ソレでお前に「なんら影響がない」とでも思っているのか?』
本来ならば、動揺してどうしても動きが鈍ってしまうだろう。
しかし、流石はイカれたクソ童貞に気に入られたヘタレスケコマシ。
士道は仮面の下で笑みを浮かべた。
「今はありがたい!!」
『100点だ』
ギャハハハハ、とポチタの下品な笑い声が、ガンガンと頭を揺らす。
血が抜けていく感覚と、炎が抜けていった血を舐めていく感覚が、脳を麻薬に漬け込んだような高揚感と変化するような気すらした。
が。士道は暴走しそうになる衝動を、無敵の精神力で抑え込み、ただひたすらに四糸乃がいる竜巻を守る。
と。その竜巻の中から、見覚えのある斬撃が飛んできた。
「遅くなった!あとは任せろ!」
「頼んだ!!」
現れた十香がASTの注意を引きつけた一瞬に、士道は踵を返す。
聳える白銀の柱を見上げた後、士道はふと、胸ポケットに佇むよしのんに目を向けた。
「…ポチタ。手、出すなよ?」
『口説くのはお前の仕事だ。
いい加減に覚えろ』
「はいはい」
士道が苦笑を浮かべ、吹き荒ぶ白の中へと歩み寄った、その時だった。
彼の鼓膜を琴里の怒号がつんざいたのは。
『士道あんた、何を考えてんのよ!?
その中には霊力を自動追尾してくる氷の散弾が舞ってるのよ!?
アンタの再生だって追い付かないの!!
こっちでアプローチの方法を考えるから、大人しく待ってなさい!!』
「日が暮れるだろ。俺はせっかちなんだよ」
『何バカなこと言ってんのよ!?
戻りなさい!!戻りなさいってば!!
……っ!戻って、お兄ちゃん!!』
愛しい妹の制止を断腸の思いで振り切り、士道は死が渦巻く白を引き裂いた。
♦︎♦︎♦︎♦︎
「よしのん…。よしのん…っ!」
四糸乃の泣き声だけが響く空間にて。
自分以外の全てを拒絶した四糸乃の耳に、静寂を掻き乱すエンジン音が響く。
四糸乃がそちらを見ると、オレンジ色の仮面を半分崩した士道が姿を現した。
「は、ぁ、い…。よしのんですよ〜…っと」
ふら、とその体が崩れる。
どうやら、相当無茶をしたらしい。
士道は力無く、右腕にはめたよしのんを動かし、駆け寄る四糸乃に笑みを浮かべた。
「は、はぁ…っ。あのお茶、効いたな…」
『想定した用途とは絶対に違うがな』
士道は言うと、四糸乃によしのんを返す。
四糸乃は傷一つないソレを受け取ると、ぼろ、と涙をこぼした。
「うぉっ…!?どっか傷ついてたか!?」
「ち、ちがっ…。嬉しくて…」
「……そっか。なら、よかった…」
体に熱が駆け巡っていく。
どうやら、抜けた血の補填のために精霊の力が働いているらしい。
本来であれば、貧血必至な変身らしいが、精霊を封印しているおかげで、あまりリスクがないのは有り難かった。
士道は動くようになってきた体を起こし、四糸乃の顔を覗き込む。
「よしのんは助けた。あとは君の番だ」
「えっ…?」
士道は困惑する四糸乃の唇に、自らの唇を押し当てる。
と。閉ざされた世界が開け、四糸乃の柔肌が露わになった。
「契約だ、四糸乃。
『ピンチの時は俺が助けてやる。
だから、幸せに生きてくれ』」
四糸乃がその小さな手で、士道の手を握る。
陽の光に照らされた顔が、朗らかな笑みを浮かべた。
五河士道…割と頭のネジが飛び始めてる。悪魔化が進んでいるからなのか、それともクソ童貞の影響なのか…。何度か殺されてるせいか、痛みに無頓着になりつつある。デンジみたいに「お前痛覚機能してんの?」タイプの人間。原作でも再生能力が判明したら割と無茶してたし、別にいいと思う。
偽ポチタ…士道が自分とは違う悪魔になり初めていることに気づく。何の悪魔かは大体検討がついてる。
四糸乃…チェンソーマンシドーのスプラッタシーンを見てたら確実に攻略難度爆上がりしてた。