プロローグ的な奴
プロローグ 1963年 パラワン島北部連合軍臨時航空基地
セミたちの鳴き声と肌を焼くような日差し、真夏のような気温。ぽつんとそびえ立つ大木の木陰で、私はパラパラと本をめくる。
時折、風が優しく吹いては枝葉が揺れて葉っぱの奏でる音が聞こえてくる。この緩やかに流れる平穏な時は私が求めていた世界だった。できれば今のこの時が永遠と続いてほしいとそう切に思う。
私には前世があった。その前世はただの大学生。普通の大学に通って講義を受ける毎日で、試験をギリギリで乗り越えてやっと単位を取れる、凡庸の人間だった。
自分自身に誇れるようなことのない私は毎日のほとんどの時間をできる限り勉学に割く日々を送っていた。
前世の最期は当然の結果だったのだろう。学期末の試験に向けて三日連続で徹夜の勉強という無茶をした。身体の限界を感じて息抜きをしよう、そう思い椅子から立ち上がったその瞬間、目の前が突然真っ暗になり、そのまま立つこともできず、ふらふらと床に倒れ伏した。
徐々に薄れる意識の中で私は抗う気力を無くしていた。だって―――私には才能があるわけじゃない、こうして限界まで突き詰めても平凡にも届かない、辛い思いまでして何の為に私はこんなことをしているのだろう、と
ギリギリまで己の限界を超えて努力した結果、身体も心も折れてしまった。そして何もかも諦めて意識を手放した。恐らくその時死んだのだろう、そして気づいたら生まれ変わっていた。
前世の記憶と意識を持ったままこの世界に生まれ、これまで生きてきた。前世から反省して改めた部分もあるが他の部分は変わることはなかった。ただ、私自身の内面以外世界の歴史から常識といったものは大きく変化していた。パンツがズボンだったり、女の子が空を飛んでたり、有名な人物が女性だったり、自身の性別が変わったことよりも慣れる時間がかかった。
ゲームはないが本はある、絵を描く道具も前世と差はない、鉛筆と紙だけであれば別によかった。音楽はそもそも聞くための機材が高くてラジオもそれ程裕福でもない私の家には買えるもではなかった。でも読書やデッサンは前世の趣味、娯楽自体に困ることはなかった。前世の最後もあって子供のうちにできるだけ好きなことをしよう、そう思っていた。
ふと、一際強い風が吹いた、右手で長くて鬱陶しい前髪を抑えたがその拍子に、本の読んでいた所からパラパラとめくれて、少し進んだところまでめくれてしまった。
突然の風の裏切りに眉を顰める。渋々と読んでいた所までめくり直して続きを読もうとした。そのとき―――
ゥ~ウォ~オー――
平穏な時は突然の警報が鳴り響いたことで終わりを告げた。私は本を閉じて警報の発信源の中心に振り向く。飛行場の滑走路に面した白い塔の建物、管制塔呼ばれるそこから鳴り響いていた。
『スクランブル!アンノーンエネミーが接近中、数は3機詳細は...』
見上げるように管制室のある最上階を見つめる。日の反射と角度で中の様子までは見えない。しかし誰かと目が合っているように感じた。
『非常事態のため、諸々は省く、待機中のウィッチは直ちに出撃、特に格納庫横の木の下の暇人は急げ!』
管制官が警報の内容を生真面目に伝えてようとする最中にこの基地の司令官ルティラウフェイ大佐がそれを遮ると指示を出す。
非常時には、マニュアル通りの行動はできるだけ省く。そうでなければ間に合わないことも実戦ではある。根が真面目な管制官のエリートはマニュアル通りに行動しようとするため大抵基地司令が出てきては指示を直接出す。私としては口うるさい基地司令より真面目なエリートの方がゆっくりできるので楽だったりする、でも基地司令の方がいいとかいう輩がこの基地には多くいたりする。私にとってはめんどくさい上司トップではあるが。
とにもかくにも今は非常事態、急いで格納庫の愛機に所まで向かわねばならない。読んでいた本は、地面に広げたレジャーシートに読んでいたページにしおりを挟んで閉じて置いておき、早歩きで格納庫に入っていく。
ちなみにだが格納庫は第二次世界大戦の防空壕のようだがガチガチのコンクリートと鋼鉄で覆った作りであり、2000㍀の直撃に耐えられるようにできている。しかしその代わり、中の広さはとてつもなく狭く、さらには整備作業要員が急いで作業を終わらせているため、走るともれなく大事故が起きることがある。なので早歩きなのだ。決して面倒だからではない。
格納庫内には既にスクランブルの待機シフトについていたウィッチが二人、各々のストライカーユニットと呼ばれる物を足に履いている。
ストライカーユニットは魔道エンジンと呼ばれるものを搭載しており、これによって空を自由にらくーに飛ぶことができる。彼女たちの履いているストライカーユニットからは、薄くこれまた不可思議な青色に見えるエーテルが噴射されており、彼女たちは浮かんでホバリングのような状態を維持している。
ちなみに噴射事態は、ストライカーユニット面倒なので、ユニットの側面にある小さなノズルで、行われていてこれは補助的なものだが、ホバリング等によく使われるものだ。しかしホバリング自体は補助ノズルを使わずともできる。
通常は新米ウィッチが主体ノズルのエーテル操作の加減になれるまでの間に使われる。分かりやすく言うとユニット版の補助輪のようなものだ。
私は滑走路に移動を始めた彼女たちを尻目に固定されている自らの愛機であるユニット、グロスタージャベリンを履く。魔導エンジンが起動するのと同時に先端が薄く褐色の羽が頭部に、そして魔法陣が囲むように円を描きながら表れる。そして魔道エンジンは音を静かに響かせそして徐々に高くなり、ある一定のところで維持する。
私は愛機の気持ちのいい魔道エンジンの音を聞きながら調子を確かめると出る準備を整える。ユニットを固定している装置の側面から25mmの大口径の対物ライフル受け取り弾薬装填、異常がないことを確認して整備班の人から渡されたチェックリストにチェックを入れて返すと準備完了する。
「準備よーし、でるよ」
「私も準備できた」
「おっ!お〜さすが、というかいつの間に」
「リオが来たときから」
隣には最初からいることにすぐ気付けなかった、バディであるルシア・リンドンが同じように準備を整えていた。
シアとはそれなりに長く付き合ってきたが、使い魔の影響なのか存在に気付けないことが多々ある。一度、お風呂に一緒に入っていたことに入浴後に着替えるまで気付かないことがあった。
さすがに長い付き合いなので驚くことはないが、いるなら声をかけてほしい。
「そうなんだ。まあいいや今日のジャベリンは、すっごく調子がいいから作戦は、ガンガンいこうぜ、でいくよ」
「リオは時々、変わってる。でもそれがいい」
「……おやおや~、シアは私に惚れちゃったのかな」
「うん、昔からリオは好きだよ」
“えっマジで、りありー、本当、というかそうなん、うそだろ…”
周囲から何かを期待するような雰囲気を感じるが、……うん、これはあれだ、ガチの奴なのだろう。シアの顔が本気の真顔でいっている。格納庫の雰囲気が慌ただしい感じから静かな感じに、周りが見事に固まっている。視線は私がどう答えるのかどうするのか注目している。
「……そ、そうだね、うん、とりあえず、は、はやくでようっか、基地司令に怒られちゃうかもだし」
「……」
私がとった行動ははぐらかしてその場から逃げることだった。
「……いくじなし」
私の背後からは答えなかったわたしへのシアの言葉と複数の嫉妬の目線である。シアは白金の髪と真っ白な綺麗な肌が合わさった美少女なので基地でも一番の人気がある。私はベージュがかった金髪で普通の見た目なのでそこまで人気ではない、と思われる。
あとで起きることに戦々恐々としつつも、滑走路に入る。少し斜めのところにシアがつくと、耳につける無線機に基地司令殿から通信が入る。
『リオ少尉、ネウロイの数は3、大型が1小型2だ、先行した新米ウィッチでは対応できないだろう、貴様とシア少尉が頼りだ、やれるか』
「基地司令殿、赤ん坊の面倒を見ながらでも余裕ですね、なので精々椅子でも磨いて待っていてくださいよ」
軽く冗談を言ったら通信機の電源を切る。
ユニットの出力を最大まで上げると、体の重心を少し前に倒す。徐々に加速度的に滑走路を進む速度上がり、ある速度で、高度を上げていき、それに合わせてシアが続く。
高度が2万フィートに達したあたりで、無線機の電源入れる。
「ねえ、シアネウロイの方角と高度ってどっち」
「方角は大体あってる、高度は2万7000フィートあたりだからもう少し高度をあげる必要がある」
「了解、3万フィートあたりから仕掛けよう」
「ん、でも距離的に会敵まで時間はそんなにない」
「どれくらい」
「2分ぐらい」
その言葉を聞いた瞬間上方から雲を引き裂き赤色のビームがすぐそばをかすらない程度に通りすぎる。すぐさま散開し、回避機動を取りながら左旋回しつつ降下、続くようにビームが背後より数発再び通り抜けていく。
「シア、もっとはやくいってよ。こいつ、というかしつこい、そんなんじゃもてないよ」
「リオ、ずっと無線切ってた、つまり自業自得」
「ぐっ、たしかに……というか、大型のネウロイだけ?小型は先行した子たちが相手をしてる?」
「多分そう、攻撃してきたのは大型だけ」
回避しつつも会話する程の余裕がある。今戦っている大型ネウロイは、この世界で第二次ネウロイ大戦と呼ばれる大戦で後期に出てきたネウロイで取り込んだ爆撃機B29と同じ形状をしている。大型ネウロイの中でも高機動高速の部類にあたる。
しかし、ジェットストライカーが主流になり、音速を超えるようになったいまではビームの発射パネルの多さ以外に取り柄はなく、いまのようにある程度高度差がない限りは、ただの的でしかない。
「ということは、一番厄介な方を新米ウィッチたちが相手してるわけだ」
「そうなる」
「……めっちゃやばいじゃんそれ」
第二次ネウロイ大戦時、大型ネウロイは脅威とされてきた。しかしそれは速度がこちら側より優位な状態でもあったからで、後半になれば攻撃力の高さや手数以外に厄介なところはなくなり、通常の戦闘機の高性能化も合わさっていまでは撃墜しやすくなっていた。
しかし逆に小型のネウロイは脅威度を増していた。いままでより大きくなり、武装を増やした小型ネウロイは高速高機動も合わさって、都市への奇襲攻撃を許すことも多くまた、既に多数のウィッチが犠牲になっていた。
「シア、さっさと片付けて、新米ウィッチたちの援護にいくよ!」
「お~、がんばる」
会話の最中も、ネウロイから繰り出される激しいビームの嵐を避けながらループを描き上昇と旋回を繰り返していた。相手にしている大型ネウロイの手数はすさまじいものだが、後方下部のパネルをシアが、L7汎用機関銃の弾幕で一時的に破壊することで反撃を受けない空間をつくりだす。破壊された部分がすぐさま再生が始まるが、その一瞬で十分
「雑魚にかまっている時間はないから、仕留めさせてもらうよ!」
私の手に持つ25mm対物ライフルの砲身を大型ネウロイの中心を貫くように、向けて引き金を引いた。
放たれた弾丸は、大型ネウロイの中心を貫き、弾丸がそのままコアを貫いた。そしてネウロイは白い破片になり消滅した。
「あっけないね」
「うん、でも少し時間が掛かってしまったから、急ごうシア」
「…リオ、わかった」
大型ネウロイを撃破した私とシアは魔道エンジンの出力を最大まで上げて、新人ウィッチのほうへと急ぎ向かうのだった。