グングニルと呼ばれたウィッチ   作:夜かな

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第二章 インドシナ攻防戦
第30話 春季攻勢 前編


 

 1964年3月 インドシナ連邦サイゴン

 

 サイゴンはインドシナ一帯の人類最大の拠点であり、この地域で唯一の無傷な港湾設備が存在する。そのためこの都市が一度攻撃の憂き目に遭うことがあればインドシナの前線が崩壊することにもなり得る場所だった。昨年のボルネオ島北部を奪還する作戦もこの都市への海路を確保するために実施された。

 

それだけの要衝は、今危機的な状況に晒されていた。

 

「それで、方面軍司令部はなんと言ってきている」

 

 通信機器が設置された一つの天幕の中で女性士官が通信士に問いかけていた。

 

「ハッ、現有戦力の総力を持って死守せよ、とのことです……」

 

「上は状況が分かって言っているのか」

 

 苛立ちを隠さない女性士官それも大尉という上官に詰め寄られる哀れな伍長。彼は一介の通信士に過ぎず伝えられたことしか答えようがない、上官に逆らうことができない彼は、美人な女性士官に間近まで詰め寄られる幸運と不運。その板挟みに青い顔しながら頬を赤らめるという複雑な表情を披露していた。

 

「全前線で攻勢が起きているということか、航空支援はどうだ」

「インドシナの北部前線すべての支援に出払っているようで、第514戦闘飛行隊が航空支援に当たると……」

「回転翼機だけの部隊か、航空優勢は取れていない現状では役立たず同然だ」

 

 インドシナ全域の連合軍側の航空戦力は制空権を奪われないように維持するだけの航空戦力しか配備されていなかった。

 

「……パラワン島の航空隊はどうだ、すぐ繋いでくれ」

「司令部を無視して支援を要請するのですか!?」

「そうだ、第1にこの都市が落ちてみろ、それだけでインドシナにいる200万近い戦力が消えることになるぞ」

 

 女性士官の鬼気迫る言葉に通信士の伍長は、急ぎパラワン島北部連合軍基地に通信を繋いだ。

 

 

 そのパラワン島基地では、警報音が鳴り響きリオとシアの2人が緊急発進の最中だった。

 

「魔道エンジンの確認よし、すぐ出るよ」

「ん、すぐに出る」

「よしわかった、お前ら格納庫開けろウィッチが出るぞ!」

 

 整備班長が叫ぶと狭い格納庫内のドタバタは更に激しくなり、入口付近が開ける。リオとシアはすぐさまホバリング状態で格納庫を出ると、滑走路に止まらずに進出。管制塔への連絡もせずにそのまま加速して離陸した。

 

「今日は一段と慌ただしいですね班長」

「そりゃお前、100機を超えるネウロイの大群がこっちに来ているのだから当然だろうよ、それよりサボってないでさっさと機材を地下に運べ、すぐさまネウロイがわんさか来るぞ!」

「ひぃい、了解」

 

 整備班長は話しかけてきた部下を叱ると次の作業をさせる。すでにこの基地に向けて迫る空襲に備える為にだ。

 帽子のつばを持って最近薄くなってきた頭部を撫でつつ、帽子を被り直す。自身の気を引き締める行動だった。

 

 

基地の管制塔内では基地司令のルティ・ラウフェイ大佐が地図を眺めて状況の確認をおこなっていた。

 

「敵はパラワン島本島から北西と南西の2カ所から接近中、リオ少尉とシア少尉の2人は指示通り北西の敵への迎撃に向かわせています」

「南西の敵の予想到着時刻はどうだ」

「約30分ほどです、北西2人の接敵が10分後」

 

 部下の手によって地図に2つのマークが刻み込まれていく。

 

「敵の数は北西が40、南西が60です」

「リベリオン第7艦隊と扶桑第2機動艦隊は」

「スールー海から第7艦隊の第5航空団より第21戦闘飛行隊が、第2機動艦隊より第634、632海軍航空隊がそれぞれ援軍を出しています」

 

 第7艦隊はリベリオンの太平洋における主力艦隊であり、扶桑より再編された第2機動艦隊とスールー海で演習をしていた。

扶桑の第2機動艦隊は空母出雲を失い空母三雲だけになった扶桑派遣艦隊を再編、新たに購入したエセックス級空母八雲を加え、三雲、八雲で第4航空戦隊編成、更に新造艦の空母浅間、常磐、近代化改修を施した大鳳の第3航空戦隊を編成し、この2つの航空戦隊で第3艦隊を編成、戦艦2隻を介する第2艦隊を加えた空母5隻戦艦2隻によって編成されたのが第2機動艦隊だ。リベリオンの本格介入に合わせて扶桑もできる限りの戦力を用意した。

 

「呉田大尉達の634空か、大尉達は信用出来るが、632空は新編された部隊と聞くどれだけやれるのやら」

「ですが、扶桑が貴重な新兵を送るとは思えないのですがそれなりに戦えるのでは」

「どうだろうな、扶桑海の戦況は苦戦していると聞いている。ベテランの消耗は激しいはずだ、ウィッチも一線級は引き抜く訳にはいかんだろう。呉田大尉クラスのベテランを1人送るだけで精一杯だったことを考えるとな」

 

 扶桑の艦隊派遣時の裏事情をとある中尉から聞いていたルティ・ラウフェイ大佐。恐らく今回も壮絶に揉めたことは容易に想像できていた。故に新たな航空隊の練度には大した期待していなかった。

 

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