パラワン島では11月に入っても、気温は変わらず夏のような暑さが続いている。私はいつもの木の下の日陰で、ユニットに被せるシートを地面に敷いて扶桑から取り寄せた文学本を読んでいた。久方ぶりの休日という名の待機シフトの日だ。
あのバラバク島の戦いから1ヶ月がたち戦況は日に増して悪化する一方だけど、先日扶桑から新たに空母二隻を中核とした東南アジア支援艦隊が到着したことで、面倒くさい哨戒任務や航空支援といった多忙な日々からは解放された。
鬼みたいな基地司令の容赦のない采配で休む時間は殆どなかったから、こうして本を読むこと自体、ひさしぶりだった。
普段はシアの淹れる紅茶を飲みながら有意義に過ごすのだけど、今日に限っては、シアは島の中央の港までエラ准尉と届いたユニットを受領するために基地にはいなかった。シアの紅茶を楽しみながら、読書に勤しむことができないのが本当に残念でならない。
受け取る中身は噂だと、本国の余剰となった旧式のジャベリンでらしい。管制官の中尉がそう言っていた。一応基地司令の副官も兼任してるんだよね。
ともかく、せめてレーダーを内蔵している機種であればいいけれど、本国から来るものは最新の装置が取り外されているものしか送られてこないし。
今日は晴天で太陽の日の光が茂った木の葉の隙間から差し込み、小鳥のさえずりが生み出す平和なひとときになっている。本来私が望んでいる平穏そのもの。だからこそやはりシアの紅茶がのみたいと感じる。今日に合うような紅茶をシアなら用意してくれるだろう。
ただし例外ひとつ。仰向きに寝転がった体勢から上半身だけ傾けると視界に入った相手を見て小さなため息を吐く。
「どうしたリオ少尉、暇そうだったからわざわざ私が休暇とやらをともにしてやっているというのに、ため息をつくとは」
「そ・れ・は聞かずともおわかりでしょう?休む暇無く任務を指示する上官が、常に近くにいてはおちおち休んではいられませんよ」
ワザとため息を吐いた理由はこの方、私の上官にして後見人でもある、この基地とその周辺の部隊を統括している基地司令官ルティ・ラウフェイ大佐である。
「だいたい、司令官殿は重要な役職故、休む暇がないくらい沢山の仕事があるのではないのですか」
「ふっ、やらなければいけない必要なことは既に終えている。私も久方ぶりの休暇だ」
「へえ、部下には休暇は与えないで常〜に待機シフトに加えているお方が休暇ですか」
嫌みを言ったつもりであった。しかし一切効いた様子はない。
「まぁア、せっかくの休暇を用意してやるたびに生活習慣が乱れに乱れてしまう、不健康児童には常に何かをさせている方が安定するのでからなぁ?そうでなければわざわざ、こちらで予定を組み立ててやる必要も無いのだが」
「(ああ言えばこう言う、これだからこの人は苦手なんだ)」
口で言い合ってもなかなか決着がつかない相手である以上、こういう時は無視するに限る。口で決して勝てないからじゃないがな!
体勢を変えて読書の続きを読む。時たま聞こえてくる、私以外の本をめくる音を聞こえないふりをしながら過ごした。
~シア少尉~
シアは中央の港に来るのは久方ぶりで先月からのこともあり、街の活気はほとんど無いと思っていた。しかし予想より街の活気は変わってないようで、市場では多くの人々が和気藹々と買い物をしていた。
「あまり、活気がかわってない」
「ええ、確かにでも私が前に来たときよりは賑わいは小さいようにかんじますね」
「そう」
目的地の港は市場を抜けた先にある。そこではブリタニア本土や他国から送られてきた物資が荷揚げされ置かれていて一時的な集積所のような役目をしている。シアは目的の物を受け取るため、近くにいる荷揚げを管理担当している若い准尉に尋ねてみた。
「ストライカーユニットですね、確か第4集積場に輸送用の車両と運転手がセットでいるはずですよ」
「ん、ありがと」
若い准尉は頬を赤くしながら照れる。
「い、いえ、少尉のお役に立てて光栄です、あのもしよければこの後」
「申し訳ないのですが、この後シア少尉には、急ぎユニットを基地まで運ぶ仕事がありますので」
「ああ、いえ、これは失礼を、そ、それでは失礼します」
若い准尉が何かを言い終わる前にエラ准尉が割り込んできたことで彼は慌てて離れていった。
「?特にこの後は急ぐ必要は無いけど」
「いえ、少尉、いいですか、世の中男性はみな飢えた狼のようなものです、そう気軽にホイホイ誘いを受けてしまわれると、襲われてしまいますよ」
「そう?わかった、気をつける」
第4集積場に向かう道中、小さな白猫を拾ったり、転けて泣いている男の子を励ましたり、白猫の母猫を捕らえて連れて行こうとした密輸業者を壊滅させたり、様々なことに巻き込まれながら片道10分も掛からない距離を実に3時間かけて到着した。
「……シアさんって、巻き込まれ体質だったんですね」
「巻き込まれ体質?」
「いえ、気にしないでください」
「???」
第4集積場には准尉の言った通り、ストライカーユニットをのせたトラックと運転手がセットでいた。
「お待ちしておりました、シア少尉、エヴィ准尉」
「ん」
「ごめんなさい、少し遅くなってしましました」
「いえ、お気になさらず、基地までは私が運転いたしますので、少し手狭ではありますが、荷台に席を用意してありますのでどうぞ」
「ええ、ありがとうございます。基地までよろしくお願いしますね」
「よろしく」
「はい、こちらこそよろしくお願いします」
その後は特に何もなく基地まで着きストライカーユニットはそのままハンガーに運ばれていった。
「ところで、あのストライカーユニット、ジャベリンより縦に大きかったようですが」
「ん、たぶんいい物、でも期待は禁物」
「そうですか、いい物であるといいですね」
~深夜 第2格納庫~
ストライカーユニットやキャンベラの整備を担う班長とルティラウフェイ大佐がユニットの前で話していた。
「基地司令、新しく届いたユニットの開封とメンテが終わりましたので見ていただけると」
「ほう、これはなかなか良さそうな機体だな、今度の作戦のためにリベリオン海軍から取り寄せた戦闘脚は」
開かれた格納庫に鎮座する四人分の戦闘脚。形状はエアインテークが中央に配置されており翼はジャベリンのデルタ翼とは違い、高翼配置の後退翼、さらにユニットの側面にはハードポイントが設けられていて赤外線誘導によってネウロイのコアに向かっていくAIM-9Bを運用できる。戦闘中のミサイルの有無によって起きる不利が減る。
「F-8 クルセイダーか......リベリオンの現行機だ。きっと初期型の壊れかけのジャベリンよりはマシなはずだ」
新たな翼に基地司令は期待感と若干ユニットを破壊する癖がある部下たちに不安を抱いていた。
「......最近も無茶苦茶させてやらかしてやがるんで、また壊しそうですがね」
「......注意しておく」
整備班長がちらっと横目に見た隅でガラクタに成り下がったジャベリンの群れ。目の前の新品の未来が見えてため息が漏れたルティだった。
もともと、クルセイダーじゃなくて、バッカ二アだったけど、武装の関係で、諦めた。あとジャベリンくんは後期型になるまで、出番はない模様。