※この作品に登場する団体・地名は架空のものであり、現実世界とは全く関係ありません。
また、本作で描写されるあらゆる暴力的で過激な行動は一切真似しないでください。
『マトリックスシステム』起動。
アプリケーションを起動中……
『株式会社ボイド』のサーバー内を検索中……
サーバー内の該当するデータログを読み込み中……
検索完了。『ハッカーズワールド』の世界へようこそ。
作品世界を存分にお楽しみください。
深夜の高速道路。
漆黒の中、赤いテールランプの尾を引きながら一台のバイクが滑走する。
バイクの外装は新幹線のような流線型を描いており、ボディーラインの浮き出るスーツを着た女性のライダーがそれを操っていた。
彼女は前方を走る怪しげなバンを追っていた。
やがてバンから般若の面をした男が、窓から半身を出しサブマシンガンを乱射する。
「しつけーぞ!!お前!!」
雨の如く乱射されるピストル弾は道路のアスファルトを砕く。
しかし、バイクはライダーを含めびくともしなかった。
ライダーが外見に似合わない可愛らしいアニメ声で小さく呟く。
「全く……往生際の悪い人たちですねぇ……」
ライダーはバイクのカウルからレールガンを取り出し、バンを狙撃した。
破裂音。
バンのタイヤはパンクし、ガードレールを飛び越え高速道路から外れた。
「逃しませんよ……」
バイクはガードレールをジャンプし、高速道路の下にある林の中に降りた。
ライダーは今、林の中にいる。
流石に林の中ではこの大型バイクを降りた。
ライダーはヘルメットを外す。
するとシアンの美しい髪と、輝く瞳が顕になる。
頭には特徴的な機械のイヌ耳が生えていた。
ふと彼女が独り言を呟く。
「やっぱり、バイク大きくしすぎましたかねぇ……。
後で小型化を検討してみましょうか……。」
彼女の名前は「冴島デュオ」、日本一のIT企業の「株式会社ボイド」の社長である。
彼女の特徴的な容姿は、彼女自身がサイボーグであることに起因している。
彼女は人より劣等感が強かったので、理想の姿を追い求めた結果、人体改造の道を選んだ。
そして今、彼女は自分がプロデュースした機動隊用の特殊バイクの試験運用のため、麻薬密輸犯を追いかけていた。
彼女はレールガン下部についたタクティカルライトを光らせて犯罪者を追跡していた。
そしてライトの光が銃らしき物体に反射したのを彼女は確認した。
そこには、アサルトライフルを構えた作業用アンドロイドが三体ほど立っていた。
「……ッ!?いつの間に!?」
犯罪者が言う。
「やっちまえ!!」
『オーダーを受信。』
アンドロイドはデュオに向けて一斉射撃をする。
「やばッ」
デュオは人間の体では到底不可能なスピードで木の裏に隠れる。
アンドロイドはその影を追い、ひたすらライフルを連射する。
弾丸は木の表面を砕き、破片が飛び散る。
やがて、弾が切れ静かになる。
アンドロイドは素早くライフルをリロードしようとする。
しかし、そのコンマ00秒の隙にデュオはアンドロイドの頭を撃ち抜いた。
アンドロイドの頭にはきれいな穴が空き、火花を出しながら倒れる。
他のアンドロイドはデュオの場所を探した。
するとデュオは木の上にいた。
「ばん。」
彼女はアンドロイドたちが引き金を引くよりも速く彼らの頭を撃ち抜いた。
それはまるで西部劇のワンシーンのようである。
「くッ……!!」
犯罪者たちは狼狽える。
そして彼女は勝ちを確信したのか、木の上から飛び降り犯罪者たちに詰め寄る。
彼女は銃を向けながら、とろけるような甘いアニメ声で言う。
「さぁ、大人しく投降しなさい。
そうすれば、命だけは助けてやらぬこともないですよ?」
しかし犯罪者は冷や汗を掻きながらも銃を降ろさなかった。
「あんた知ってるよ。
ボイドの社長さんだろ!?」
「ええ。いかにも。
でも、それがどうかしましたか?」
その返答を聞いて犯罪者は悟ったようなことを言った。
「ならよぉ、お前さん人撃ったことあんのかよ?」
「うッ……」
デュオが図星を突かれたように狼狽える。
「なら俺たちを撃つことはできねぇよなぁ!!
これで俺たちの勝ちだぜぇ!!
てめぇの体は後で娼婦館にでも売ってやるからよぉ!!」
このとき、デュオの何かがプツンと切れた。
「は?」
彼女は下品な言葉とそれを平気で使う輩が大嫌いである。
もちろん、目の前にいるこいつらも例外ではない。
彼女は表情を変え、木の上に飛び乗った。
「おらあああぁぁぁ!!!!」
犯罪者たちはマシンガンを連射する。
しかし、次から次へと木に飛び移るデュオを撃ち落とすことはできなかった。
やがて彼女の姿を彼らは見失う。
そして沈黙が流れた後、犯罪者の一人が悲鳴を挙げる。
「うわああああぁぁぁ!?!!!」
振り向くと、そこには気絶している犯罪者とデュオがいた。
デュオが鋭い眼光でこちらを睨む。
そこにはもう、アニメ声の美少女の面影はなかった。
その顔はまるで、理性の欠片のない人狼のようだった。
「ガルル……」
デュオは狼そのもののうめき声を歯茎を出しながら発音する。
「ひいいぃ!?」
犯罪者は驚き、銃を落とした。
その一瞬の隙を狙い、デュオは犯罪者に飛び掛かった。
そして彼女の膝蹴りが顔面にクリティカルヒットし、犯罪者は気絶した。
デュオは少しだけ理性を取り戻し捨てセリフを吐く。
「たとえ、撃てなくてもあなたを制圧する方法は幾らでもあるんですよ……。」
彼女は脳に残ったアドレナリンを抑えながら、拳を握る。
しばらく経つと、ネオ東京の治安を守る首都圏警が犯罪者の周りを囲んでいた。
冴島デュオは今、警察から事情聴取を受けている。
警察はやや呆れながら言う。
「全く……この程度の犯罪者なら、我々でも対処できるんですよ?」
デュオは不機嫌そうに頬を膨らませながら反論する。
「で、でもッ犯人たちは戦闘用に改造されたアンドロイドを三体も持っていたのですよッ!?
あなたたちみたいな生身の人間じゃ相手にできないですッ!!」
彼女の場違いなアニメ声にうんざりしながら警察は言う。
「はいはい、そ~ですか……
この犯罪者たちは我々が逮捕するんで社長さんは帰ってくださいよぉ……」
「えっ、ちょっと待って!!」
警察は犯罪者たちと、壊れたアンドロイドを回収してそそくさと去ってしまった。
そして一人残されたデュオが言う。
「これじゃ、全然新型バイクの宣伝にならないですね……」
結局彼女は正義の味方ではなく、ただの自社の利益を求めるビジネスマンだったようだ。
リリリリ……
とあるマンションの一室に、スマホのアラーム音が鳴り響く。
「……ん。」
布団に潜った冴島デュオは、白くて細い腕を伸ばしてアラームを止める。
そして布団を退かして起床した。
「んんー!!」
デュオは可愛らしく伸びをする。
彼女は寝間着代わりの安っぽいTシャツを着ていた。
目を擦りながら彼女は脳内で呟く
(会社行きたくないなぁ……)
彼女の社長としての業務はかなり激務らしく、一週間家に帰らずデスクで5時間寝るような暮らしを続けていたようだ。
しかし、自分の頬を叩き無理やり眠気を覚ます。
(そんなこと考えちゃだめ……!!
今頑張らないと死んだパパに顔向けできない!!
とにかく今日は出社しないと……)
彼女はどうやら精神的に追い込まれているようだ。
フラフラした足取りで、洗面所に向かう。
そして彼女は顔を洗い、歯ブラシを口に突っ込む。
そのとき、急に気分が悪くなってしまう。
「うっ……おえええええぇぇぇぇ!!!」
彼女は歯磨き粉とともに青い血の混じった吐瀉物を洗面台にぶちまける。
彼女が悲しそうに呟く。
「あぁ……やっちゃいました……」
ふと鏡に映る自分を見る。
そこには目の下に隈ができていて、美貌が台無しになっている自分の顔が映っていた。
もはやサイボーグというよりゾンビの類いである。
彼女はため息交じりに言う。
「あとでハカセにクスリ貰おう……」
同じ日の午後、デュオは株式会社ボイドの研究室に居るアララギ博士の部屋に来ていた。
どうやら博士が昨日の事件に関しての話があるらしい。
彼女は研究室のドアを開ける。
そこには猫背で白衣を着た不気味な博士と、髪の短いアンドロイドが一人いた。
アンドロイドが元気に挨拶する。
「こんにちは〜!!デュオちゃん久しぶり〜!!
元気してた?」
「あ……はい、こんにちは。」
デュオは疲労感が張り付いた顔で挨拶を返す。
このアンドロイドは「シオン」という名前であり、感情を持ったコミュニケーションロボット『マキナロイド』の試作機の第一号である。
彼女はデュオの顔を見て察したのか、心配そうに声をかける。
「大丈夫?だいぶ具合悪そうだけど……」
デュオは気だるそうに回答した。
「ちょっと、仕事のスケジュールが詰まっているだけです……
問題ないですよ……」
「そ、そう……」
そして博士のほうを見て言う。
「ハカセ、話が終わったらあとでクスリ渡してくれませんか?」
「お、おう……」
博士は多少困惑しつつも応答する。
一応彼女のメンタルの管理もこの博士の仕事である。
クスリを渡すのは今回が初めてではない。
しかしシオンが口を挟む。
「ちょっと、そうやってなんでもかんでもクスリに頼らないでよ……!
私でよければ話を聞くよ……?」
それに対してデュオは逆上する。
「うるさいですねぇ!!
アンドロイドの貴方に何が解るって言うんですかッ?!」
それを聞いてさすがのシオンも堪忍袋の緒が切れたのか、怒りの顔を浮かべる。
「そのセリフは流石にないんじゃない……
いくらボイドの社長でも言っていいことと悪いことがあるでしょ……!!」
怒る姿はまさに人間そのものである。
一触触発の空気の中、アララギ博士は二人を鎮める。
「落ち着け、二人とも!!
今日は君たちの喧嘩を見にきたわけじゃないんだ!!
分かってくれ!!」
それを聞いて二人は我に返った。
先に謝ったのはデュオのほうだった。
「……すみません、最近頭に血が上りやすくなってしまって。
本当にごめんなさい。」
「ううん、大丈夫。
ただ私はデュオちゃんの力になりたかっただけだから……」
二人は仲直りのハグをする。
そしてようやく話は本題に入った。
アララギ博士は昨日の事件についての話を始める。
「デュオ、昨日の事件のことだが、奴らギャンググループが運んでいたドラッグは『虚空錠』というものだったらしい。」
「虚空錠……?」
デュオが首を傾げる。
完全に聞き覚えのないワードが出てきた。
博士が詳しい説明を加える。
「私が独自の情報網で調べたが、このドラッグはどうやらただのクスリではないらしい。」
「……つまりどういうことですか?」
「このドラッグには奇妙な噂があってね、なんでも人間の意識を拡張する効果があるっていう噂があるらしい。」
「つまり、ドラッグの効果で思考スピードが向上する……ってカンジですか?」
「……まぁ、だいたいそんな感じだ。」
根も葉もない噂だが、もしそれが本当なら喉から手が出るほど欲しくなるドラッグだろう。
博士はさらに話を続ける。
「その噂が実に厄介でね、噂は『ブラック・ウィドウ』の耳にまで届いているらしい。
実際、とあるギャンググループがドラッグの輸送中に彼らの襲撃を受けたという話がある。」
「ブラック・ウィドウって……あのクラッカー集団の!?」
ブラック・ウィドウとは主にサイボーグとアンドロイドで構成されているテロリスト集団だ。
一部の知識層だけを生存させようとする選民思想を持った組織で、サイボーグ手術などで人間の強化して新たな新人類を生み出すことを目標としている危険な集団だ。
もし噂が本当なら、ブラック・ウィドウは強奪してでも独占したいはずだ。
冴島デュオは頭を抱える。
「これまた厄介な奴らが絡んできましたねぇ……」
それを見て博士は提案する。
「そんな奴らが相手だと、警察だけでは力不足だろう。
だからデュオ、あんたがブラック・ウィドウの連中が来る前に、ここのギャングのアジトを潰して欲しい。」
「えぇ……」
博士の指さしたタッチパネルには、衛星写真の廃工場のような場所が写っている。
デュオがサイボーグだからと言って、いくらなんでも無茶ぶりである。
しかし、彼女が行かないと勝算は低い上、ブラック・ウィドウが横槍を入れたらかなり面倒くさいことになる。
冴島デュオは渋々承諾した。
「いいですよ……
ボクが行けば万事解決ですからね……はい……」
「ちょっとまってよ!!」
シオンが横槍を入れる。
「デュオちゃん今調子悪いんでしょ!?
だったら、デュオちゃんだけじゃ行かせられないよ!!」
「……ッ!!だったら誰が行くと言うんですかッ!?」
つい逆上してしまう。
そしてハッとして謝る。
「……すみません、ついカッとなってしまって。」
「……いいよ。
それより私の話を聞いて。」
改めて話は本題に入る。
「ハカセ、デュオちゃんが行くなら私も行かせて。」
「シオン、お前がか?」
博士は驚く。
確かにシオンはアンドロイドで人間よりは強いかもしれないが、そもそも戦闘用ではない。
しかし、シオンにも案があるらしい。
「災害救助用の義体があったでしょ?
アレを使わせて。」
「シオンちゃん……」
デュオが心配そうにシオンを見つめる。
シオンには、試作の災害救助用のボディ『デモリッション』があるのだ。
かなり頑丈なので、戦闘にも応用できないわけではない。
引き止めても無駄だと悟ったのか、博士は承諾する。
「……わかった、デモリッションの準備もしよう。
ミッション開始は明日の午前1時だ。
わかったね?」
「はい、了解しました博士。」
デュオは研究室を退室した。
ミッション開始の前夜、シオンとデュオはとあるお好み焼き店に来ていた。
デュオはいくらサイボーグと言っても、死の概念は存在する。
最悪、これが最後の晩餐になるかもしれないからだ。
暖簾をくぐり、空いている席に座る。
中は伽藍としていて、年老いた男性客が2名ほど居るくらいだ。
デュオがシオンに聞く。
「シオンちゃんは何がいいですか?」
「私、四ツ谷サイダーがいいな。」
シオンは元々バッテリーで動くアンドロイドで、消化器官は持たないが最近は改良されて飲み物だけなら接種できるようになった。
そして冴島デュオが注文する。
「すみません、明太もんじゃ一つと飲み物のサイダーとジンジャーエールお願いします。」
「はい、かしこまりました。」
オーダーを聞いた店員が去る。
そしてしばらくすると飲み物二つと明太もんじゃの種が運ばれてきた。
デュオは慣れた手つきで鉄板に種を放り込んで、もんじゃ焼きをつくった。
一方シオンはサイダーの瓶を素手で開けてコップに注いで飲んだ。
「ぷはー!!おいしい!!」
彼女らは人間みたいなリアクションを見せた。
そしてもんじゃは焼き上がり、コテで切りながら掬って、デュオが口に運ぶ。
「んー、美味しい〜!!」
今までのローテンションが嘘みたいに彼女は笑顔を見せる。
そしてジンジャーエールで喉を潤した後、デュオは話始める。
「いいんですか?シオンちゃん任務に来て。」
「私はデュオちゃんと一緒に仕事したいの!!」
シオンが頬を膨らませて子どものような仕草を見せる。
「なんですか、それ!!
ちっちゃい子みたい!!」
冴島デュオが笑う。
「あっ、デュオちゃんやっと笑った!!」
シオンも笑顔になった。
デュオはひとしきり笑った後、話を続けた。
「ボクね、本当に嬉しいんですよ。
シオンちゃんに必要とされて……」
「だって、私と社長は仲間だもん。」
「仲間ですか……いいですね、それ!!」
デュオは完全にいつもの元気を取り戻したようだ。
そしてしばらく話した後、もんじゃも完食しお会計の時間になる。
デュオは財布を取り出す。
「じゃあ、割り勘で。」
「私、お金持ってないよぉ!?」
当たり前だ、アンドロイドがお金など持っているハズが無い。
これは社長のジョークである。
「冗談ですよ。お金は全部ボクが払います。」
デュオは無邪気に舌を出した。
深夜一時、二人は変装して廃工場の中に潜入していた。
二人は今、危ないバイトに来た女子大生という設定である。
ひょっとこの面を被った男に場所を案内される。
廃工場の中はギャングの手により、即席の化学工場と化しており、ガスマスクを着けた人たちが作業をしていた。
そして、狐の面の男に出会い、錠剤を渡される。
男は秘密の地図を見せながら言う。
「いいか、これを隠し持ってこの星の目印のあるところまで行け。
そこにはオレたちの仲間の売人がいる。
いいな?」
女子大生に扮したデュオが質問する。
「あの、どこに隠し持てばバレないですかね……」
「そんなの、パンツにでも突っ込んでおけばバレねぇよ。」
「えぇ……」
突然のセクハラにデュオは羞恥を通り越して困惑する。
さらに男は彼女のスカートを掴んだ。
「やり方が分からなぇならオレがやってやる。
こうやってスカートを下ろして……」
男はなんの躊躇いもなく、女子大生のデュオのスカートのホックを外し、ジッパーを下ろす。
「やぁ……やめてぇ……!!」
デュオは恐怖のあまり硬直してしまい、目に涙を浮かべる。
そしてジッパーの隙間から、ストッキング越しの水色と白のショーツがちらりと見えていた。
このままだと社長のおパンツが完全に開示されてしまう。
そのときである。
シオンが虚空を指さして叫ぶ。
「……ッ!!あれは!!」
「なにィ!?」
犯罪者たちは、シオンの迫真の演技に騙された。
そして、シオンは狐の面の男を凄まじい勢いでぶん殴った。
「おらあああああああぁぁぁぁぁぁ!!!!」
「ぐはぁ!?」
男は数十メートル吹き飛び、コンクリートの柱に叩きつけられる。
「きさまら〜!!!」
ギャングたちは、一斉に銃火器を向けるが、突然の出来事だったので照準が定まらなかった。
そのうちにデュオは隠し持っていた拳銃を抜き、ギャングたちを撃ち抜く。
「ぐはあぁぁ!??」
ギャングはボイドの開発した非殺傷弾で感電しながら次々と倒れる。
「あんにゃろぉ〜!!」
軽機関銃を持った強そうなギャングが撃ち返してくる。
デュオとシオンは素早くコンクリートの柱に隠れる。
デュオはシオンに指示を送る。
「ボクがあいつを引き付けてる間に、シオンちゃんは近づいて!!」
「りょーかい!!」
デュオは適度に物陰から銃で応戦し、シオンは男のほうに詰め寄った。
そしてある程度の距離まで来ると、彼女は拳を構えてこう叫んだ。
「ロケットパァァァァァァァァンチィィィ!!!!」
彼女の右手はジェットの力で飛び、男の頬に直撃した。
「ぐはああああああぁぁ!!?」
男は脳の理解が追いつかないままふっ飛ばされた。
そして、残ったギャングたちは退散した。
もぬけの殻となった廃工場で、デュオは言う。
「とりあえず、敵は片付きましたね……」
「うん。」
あとはブラック・ウィドウが来るまで虚空錠を回収して撤退するだけである。
するとシオンは何かに気づいたのか、赤面しながらデュオに呟く。
「デュオちゃん、言いづらいんだけど、おパンツ丸見えだよ……」
「へ?」
デュオは硬直する。
気がつくと、スカートが完全に脱げストッキング越しの縞々ショーツが丸見えになっていた。
ワンポイントの赤いリボンまで見えてしまっている。
「いやあああぁぁぁ!!!」
デュオは我に返り、セーターの裾を引っ張って必死に隠そうとした。
シオンは脳内で思う。
(この人、こんな感じで恥ずかしがるんだ……)
彼女の乙女な一面を見てしまい、少々困惑する。
デュオは悔しくて泣く。
「うぅ……大人になって初めてですよぉ……
こんなの……」
彼女が置き去りにしたスカートを探すと、窓ガラスが割れ何者かが侵入する。
「誰ですかッ!!」
デュオは完全に戦闘モードに戻った。
近づく影に銃口を向ける。
窓には六本の腕を持つ、異形のアンドロイドが居た。
アンドロイドが煙管を吸いながら言う。
そのアンドロイドは着物を着ていて、胸ははだけさらしが見えており、いかにも「姐さん」のような見た目をしていた。
「あら、奇遇だねぇボイドの美人社長さん。
ちょうど一ヶ月ぶりじゃないかい?」
「やはり、来ましたか……」
彼女の名前は「ツチグモ」。ブラック・ウィドウの実質的なリーダーである。
その正体は人間がリモートで操っている説と自律可能な軍用AIという説の両方があるが、真相は定かではない。
ツチグモはデュオの珍妙な格好に言及する。
「ところでお前さん、ずいぶんふしだらな格好をしているねぇ……
社長にそんなご趣味があったとは……」
「うるさいですねぇ……
今、その話は関係ないじゃないですかッ!!」
ツチグモが話を逸らしたことで集中力が切れてしまう。
デュオは手でパンツを隠したがる気持ちを必死で抑える。
「まあお前さんの趣味はどうでもいいさ。
あたしの目的は錠剤を回収することだからねぇ。」
ツチグモは煙管でデュオを指しながら言う。
「さぁ、大人しく虚空錠を渡して貰おうか!!」
デュオは怒りの表情を浮かべる。
「渡しませんッ!!!」
「なら、力づくでも奪うまでさッ!!」
ツチグモが指を弾くと、大量の蜘蛛型ドローンが押し寄せてきた。
「うわあぁぁぁぁ!!!!」
デュオは実弾に切り替えてドローンを次々と撃ち抜く。
一方、シオンは腕のレーザーカッターでドローンを焼き切った。
「オラオラオラオラァ!!!」
やがてドローンに囲まれるも、彼女は剛力でドローンを粉砕した。
しかし、デュオはあっけなくドローンに群がられてしまった。
大量のドローンがデュオの身体にくっつく。
「やめてぇ!!離して!!」
そしてドローンの内一体が、デュオの背中に噛み付いた。
「あああああぁぁ!!!!」
傷口からコンピューターウイルスが流し込まれる。
そしてデュオは昏睡状態となり、倒れてしまった。
「あ……あぁ……」
群がっていたドローンが一斉に立ち去る。
ツチグモは倒れたデュオを担ぎ上げる。
「お前さん、本当にボイドの社長かい?
情けないねぇ……」
「デュオちゃんを返して!!」
シオンはレーザーの発射口をツチグモに向ける。
「まぁ、こいつが回収できれば虚空錠などどうでもいいさ。」
ツチグモはデュオを担いで、煙のように消えていった。
シオンが絶望して、呟く。
「デュオちゃんが……誘拐されちゃった!!」
シオンは研究室に戻った。
そして今まで起こったことを全て話した。
そのとき、シオンは終始泣いていた。
「ぐすっ……本当は私があのとき止めればよかったんだ……
なのに……」
博士が慰める。
「お前は悪くないさ。
悪いのは全てブラック・ウィドウの連中だよ……」
博士がシオンの頭を撫でる。
そして博士はデュオを取り戻す作戦を考える。
彼は言う。
「お前は『タイプメディック』を知っているか?」
「ああ、あったねそんな感じの名前の義体が……」
タイプメディックとはサイバーテロが起きたときの義体で、マルウェアを解析しワクチンを精製する特殊な力を持っている。
さらに博士は説明をつけ加える。
「あれは一旦お前の身体の中にウイルスを入れる必要があるが、それでもお前はやるか?」
「うん。デュオちゃんのためだもん。わがままは言わないよ。」
彼女は固い意思を見せた。
「そのときが来たらお前だけでは力不足だろう。
お前の妹のサクラとヒマリも呼ぶ。」
「うん。わかった。」
サクラとヒマリはシオンの後につくられたアンドロイドであり、今は他の研究所で人間との相互コミュニケーションに関する訓練を受けている。
しかし、ここである問題に直面する。
「問題は、奴らがどこにいるのかわからないこと何だよなぁ。」
「居場所がわからないとどうしようもないよねぇ……」
二人は頭を抱えた。
「とりあえず、奴らのアジトは公安と連携して探し出すとして、シオンはメディックの準備をしようか。」
「うん。」
シオンは彼女にとっての更衣室であるメンテナンスルームに入った。
メンテナンスルームの中、ハンガーには彼女がさっきまで着ていたパーカーが掛けられていた。
メディックは体ごと取り替えるタイプではなく、コスト削減のために主に内部パーツを変更する方式をとっていた。
「よし、とりあえず内部メカはこれで完成だ。」
博士がシオンの腹のハッチを閉じる。
そして彼女が起き上がった。
「ありがとう、ハカセ。
でも……」
シオンはモジモジして恥じらう。
「このパンツ、穿く必要あるの?」
シオンは今Tバック同然の白い下着と、ガーターベルトというマニアックな格好になっていた。
博士が冷静に言う。
「これは排熱に最適なデザインにしただけだ。
ノーパンよりはマシだろ。」
「うぅ……でも恥ずかしいよぉ……」
シオンは手で下着を隠し、恥ずかしがる。
さらに文句を付け足す。
「それと、なんか私おっぱいおっきくなってない!?
ハカセの下品な意図を感じるんだけど!?」
「バストには冷却水が入っているんだ。
外すわけにはいかない。」
シオンの無駄にデカくされたバストがふるふる揺れる。
しかし博士はなんとも思ってないようだ。
シオンが胸とパンツを手で隠して、博士を睨みつけて言う。
「ハカセのえっち……」
シオンは博士から目を逸し、専用のコスチューム(というかただのナース服)を着た。
同じ日の夜23時、無人機関連の兵器工場が襲撃された。
シオンたちは直ちに現場に向かった。
深夜、博士はシオンたちを乗せバンを走らせた。
バンは工場の付近で止まり、博士はアンドロイドたちを下ろす。
博士が言う。
「俺はここに残る。
何かあったら連絡しろ。」
「うん。わかった。」
アンドロイド三人は工場に向かった。
三人は工場の裏から周り、警察の機動隊とでテロリストを挟み撃ちにすることにした。
道中、背の低い生意気そうなアンドロイド「ヒマリ」が言う。
「あたちら三人なら余裕でしょ。」
一方背の高い大人びたアンドロイド「サクラ」も喋る。
「お姉さん、とても心配だわ。
二人とも、怪我だけには気をつけてね。」
「サクラは私達よりも自分の心配をしてよね……」
そんなやりとりをしながら、三人は工場の裏口に着いた。
裏口のドアを開けるとそこには、もうすでにテロリストたちが待機していた。
腕章にはブラック・ウィドウを表す蜘蛛の巣のロゴが描いてある。
テロリストが驚いて言う。
「何だ貴様らぁ!?」
シオンは鬼気迫る表情で叫んだ。
「うるせええぇぇぇぇぇ!!!!
どけえええぇぇぇぇ!!!!」
「ひぃッ!?」
シオンたちは拳銃を発砲し、テロリストたちは感電して倒れた。
やがて入口付近にいたテロリストたちは全員気絶し、シオンたちはそれぞれ別の道を進んだ。
別れる前シオンが二人に言う。
「勝手に死なないでよね。」
「あたちが死ぬわけないじゃん。」
「シオンちゃんこそ気をつけるのよ〜!!」
シオンは奥の部屋に進んで行った。
やがて彼女は何やらモニターがたくさんある部屋についた。
彼女は辺りを見渡す。
部屋は不自然なほど静寂に包まれていた。
すると突然、全てのモニターが起動し画面のノイズ越しにブラック・ウィドウのロゴが写し出された。
「誰かいるのッ、出てきなさい!!」
シオンが拳銃を構える。
出てきたのは意外な人物だった。
メカのイヌ耳を持つサイボーグ、冴島デュオである。
しかし、様子がおかしい。
目は赤く輝き、服装はビキニみたいな扇情的で挑発的な格好に変わっている。
体にはボディーハーネスがつけられている。
彼女はニヤリと笑いながらノイズの入った声で言う。
『誰かと思えば、シオンちゃんじゃないですか?
元気にしてましたか?』
「……」
こんなの、いつもの社長じゃない。
シオンが言う。
「デュオちゃんこそ、その格好どうしたの?
社長がそんなえっちな格好しちゃだめだよ……!!
それに全然似合ってないよ……」
それを聞いてデュオは、わざとらしくセクシーポーズをして言う。
『これはですねぇ、ツチグモ様が仕立ててくれた特別な衣装なんですよ。
まぁ、頭がおこちゃまなシオンにはこの衣装の良さはわからないと思いますがね♥』
「ツチグモ……様……?」
彼女の発言が明らかにおかしい。
完全にウイルスにやられている証拠なのか。
そしてデュオは背中に背負っていた大鎌をシオンには向けて言う。
『と、言うより。シオンちゃんこそその格好どうしたんですか?
ハカセって女の子にそういうコスプレさせる趣味があったんですね。
最低です……』
「は?」
見た目はともかく、これは博士が考えてくれたコスチュームである。
それをバカにされたので、シオンの堪忍袋の緒が切れた。
「黙ってよッ!!!
本物のデュオちゃんはそんなこと言わない!!!
早く目を覚ましてッ!!!!」
そしてついにデュオは逆ギレした。
『うるせぇわ!!!このクソガキッ!!!
……あーあ、ボク完全にキレちゃいましたよ。
これはあんたをスクラップにするしかないですねぇッ!!!』
デュオは大鎌を思いっきり振り回した。
周りにあった機器は豆腐のように切断される。
シオンは高い動体視力で鎌の動きを見て回避した。
しかし、反撃するタイミングはほとんどなかった。
デュオはウイルスの効果で運動能力のリミッターが外れている。
そしてシオンは腹に鎌の一撃を受けてしまった。
「あぁッ!!」
シオンはその場で倒れる。
腹からは青い人工血液が流れ出ている。
デュオはシオンが抵抗できないのを見て、彼女を爪で突き刺した。
「……ッ!!うぐッ!!」
シオンの身体にウイルスが周る。
しかし、これは彼女が計算していたことだった。
シオンの身体は入ってきたウイルスを解析し、ワクチンプログラムを造り始めた。
一方、偽物デュオは勝利を革新したのかシオンに背を向けていた。
(あとは適当に無人機を強奪してトンズラするだけですねぇ。
簡単な仕事です♪)
そしてデュオが油断しているスキにワクチンは完成した。
シオンは起き上がり、注射器型デバイスを構える。
そして彼女はデュオの背中に注射器をぶっ刺した。
「チェストォォォ!!!!」
『ぬわっ!?何をするッ!?
うわあぁぁぁぁ!!!!』
デュオは昏睡して倒れた。
そして身体は発熱し、しばらくしたあと意識を取り戻す。
「あれ?ここは?」
「よかった、目を覚ましたんだ!!」
困惑するデュオにシオンは抱きつく。
するとデュオは自分の格好に違和感を覚えた。
「……て、うわああぁぁ!?なんでボクこんなハレンチな格好になってるんですか!?」
「あっ、今気づいたんだそれ……」
デュオは赤面して胸を隠した。
そして二人はとりあえずこの部屋を出ようとする。
しかし、デュオの異変に気づいたのか誰かが部屋に乱入してきた。
「デュオどのぉぉぉ!?
何事でござるか!?」
そいつは忍者装束を着たサイボーグの女性だった。
両手には鎖鎌を携えている。
「誰この人。」
「知りませんよ……」
二人は呆れる。
忍者サイボーグ女は慌てる。
「拙者ですよ!!ブラック・ウィドウの幹部『蟷螂』です!!
なんで忘れるんでござるか!?」
「はぁ?」
この時代錯誤も甚だしい格好の女はカマキリと言うらしい。
そして彼女はとうとう異変に気づいたのか、デュオを警戒する。
「……お主のその瞳の色……
もしや、正気に戻ってしまったでござるか!?」
「そうだよ(正論)。」
「今更かよ……」
それを聞くとカマキリは戦闘体制に入り二人を威嚇する。
「せっかく友達ができるチャンスだったのに……
ええい!!二人とも切り捨ててくれるわ!!」
「やるのか!?」
「来い!!」
二人も戦闘モードに突入した。
デュオはさっきまで使っていた大鎌を構える。
先に仕掛けたのはカマキリのほうだった。
「喰らえぇぇ!!!
風魔流奥義!!旋風斬!!!」
彼女は回転して竜巻を起こしながらデュオに突撃する。
「させませんッ!!」
デュオは鎌の柄でガードした。
しかし、それが命取りだった。
気がつくと鎌の柄には鎖鎌が巻き付けられていて、カマキリはそれを利用して大鎌を奪ってしまった。
「ハッハー!!かかったな間抜けめー!!!」
「なにィ!?」
デュオは丸腰になってしまう。
しかし、シオンがデュオの盾になり、銃を発砲した。
「私がいることを忘れんなあぁぁぁ!!!」
「ぐぼあぁぁぁ!??」
弾は実弾で、カマキリは運動エネルギーで後方に吹っ飛ぶ。
そして倒れた彼女にデュオは再度拾った大鎌を向ける。
「お覚悟を。」
「ひいいぃ!!?」
デュオは大鎌の斬撃を繰り出し、カマキリの衣服を細切れにした。
彼女の素肌と下に着ていたふんどしとさらしが露わになった。
彼女はわりとナイスバディだった。
「いやあああぁぁぁんでござるぅぅぅぅ!!!!」
彼女はめちゃくちゃな日本語で恥ずかしがり、手で体を隠す。
彼女は戦意喪失し、半泣きになって言う。
「ぐすっ……今回はこのくらいで許してやるでござる……
お主ら!!覚えてろよ……!!」
カマキリはそそくさと去ってしまった。
シオンが呟く。
「なんなのあの人……」
「さぁ……」
その後、博士からブラック・ウィドウが撤退したことを告げられる。
二人は帰る準備をした。
デュオは大鎌を担ぎながら言う。
「お家に……帰ろう……」
「うん。」
二人は工場をあとにした……