モブトレーナーの再スタート   作:夢の中の妄想2

11 / 19
第十一話 連絡先交換

「どう、でしたか?」

「……悪くない走りだった……が、悪い部分もある」

 

走り終えたジュエルトパーズが近づいてくると、俺は思っていたことを正直に述べた。

 

「例えば?」

「コーナーの時、必要以上に体が傾いている。体が外に逃げないようにするために多少傾くことはあるけど、君の場合は無駄に傾けすぎて立ち上がりが遅れているし、体のバランスを崩している。あの体勢で転倒しないのが不思議なぐらいだ。すぐに立て直してはいるのは流石だがスタミナの無駄遣いにも繋がる。公道レースをする子に多い特徴だけど、レース場ではオススメはしないな」

「なるほど……他には?」

「今の時点では分からない。誰かと並走したり、実際にレースに出て初めてわかるかもしれないな。本格化はまだなのか?」

「まだですけど」

 

本格化。ウマ娘界隈では急速な成長のことをこう呼んでいる。突然タイムが良くなったり、食欲が今まで以上に出たり、体が急激に成長したりする。成長の幅には大小がある上に本格化のタイミングは個々によって違う。ただし本格化の特徴は皆ほぼ同じなため、ある程度は分かる。ちなみに選抜レース以外の公式レースに出走するには本格化していることが絶対条件。つまり今のジュエルトパーズはトレーナーがいようがいまいが、選抜レース以外の出走ができない。

 

ジュエルトパーズの今回出したタイムは、本格的なレースコースで計測したわけではないから信じすぎるのは良くない。とは思うものの、本格化前にしては素晴らしいタイムだった。これなら今でも十分に園田で通用する。地方重賞でも入着、条件や運が重なれば勝てる。今は無理でも、鍛えれば中央重賞勝利も夢ではない。

 

「一応、今のままでも通用はする。癖さえ直せば兵庫シリーズの重賞レースは全部とは言えないけど掲示板には入るだろう。でも、君の目指す場所は中央だろ」

「はい」

「……なら、今のままではまだダメだ」

 

この子が真剣に中央を目指すなら、俺もトレーナー探しの協力は惜しまない。生徒の本気の夢を後押しするのが、教育者だろう。

 

「君、適性表は手元にある?」

「え、ええ」

 

そう言うとジュエルトパーズはポケットから4つ折りにした紙を見せる。

 

(芝寄り……距離適性は短距離から中距離。走りの適性は先行か追込か差し)

 

芝のレースが多い中央に行くとなると芝に適性があるのは好都合だが、そのためにはダートレースの多い園田で勝たねばならないから、何処までダートの適性を上げられるかが鍵になりそうだ。走りの適性が多いのは、様々な作戦を練りやすいという観点から見れば素晴らしいが、本人を混乱させかねない。できれば1つの走りに特化させてやりたい。

 

「伊丹トレーナー」

「何だい?」

「私は中央に行けますか?」

「……それは君の努力次第だ」

 

正直に言えば、俺は無理だと言うつもりだった。園田で無双して中央に行ったブリッジコンプの妹とは言え、レースに出たことも無い子が何を言うんだ。中央はそんなに甘くはないぞ、と。でも、どういう訳か走りを見てからはそれを言う気になれなかった。心の何処かでもしかしたら……と思ってしまっているのかもしれない。

 

「では、私の担当トレーナーになってくれますか?」

「……すまないが、今は無理だ。俺は今在宅ワーク。理由はわかるだろ?」

「……」

 

俺が学校で倒れたことは耳に位はしているだろう。病状が落ち着くまでは俺は園田トレセンでの勤務は実質不可だ。またウマ娘達に囲まれてパニックになったら今度こそいられないだろう。願わくば、このまま完治してくれれば……と祈るばかりだ。

 

「……なら、ここでトレーニングに付き合ってください。放課後から門限までの間……短時間でも構いません」

「え?」

「ここなら人目もないですし、私以外に来るとしても友人数人だけなので」

「おい、何勝手に……」

 

余りに急な提案に流石に注意しようと思ったその時、突然俺とジュエルトパーズが来た道から物凄いスピードでオフロードバイクが現れた。バイクは見事なテールスライドをすると俺の前に急停車した。

 

「お兄。やっと見つけた」

「結。何してるんだ」

 

乗っていたのは結だった。結はバイクの後部座席に括り付けていたヘルメットを俺に渡すと、ムスッとした顔をした。

 

「お父さんから(勝手に)借りてきた。途中から見失って探すのに苦労した」

「バカ。怪我したらどうするんだ」

「心配だったから」

「……」

「……はい」

 

黙っていると、結は俺のスマホを渡してきた。訳が分からず立っていると、結に肘で脇をつつかれた。

 

「その子、お兄が担当するんでしょ?連絡先交換しないの?」

「いや、まだそうと決まった訳じゃ……あっ」

 

俺が否定しようとすると、ジュエルトパーズは素早く俺からスマホを掻っ攫い素早く何か操作して、すぐに返してきた。

 

「じゃ、私はそろそろ帰りますね。またよろしくお願いします」

 

ジュエルトパーズは俺と結に頭を下げると、そのまま走り去って行った。ジュエルトパーズの姿が見えなくなるまで見送り、スマホを開くと、ラインに通知が入っていた。

 

『ジュエルトパーズです。よろしくお願いします』

 

どうやらあの一瞬で連絡先を登録したらしい。さすがは女子中学生。スマホ操作はお手の物らしい。

 

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。